悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな

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ミルクは温かい方が落ち着く

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「あー、疲れましたわ!!」

 自宅である公爵家の自室に戻り、ソファーでビバリーの淹れてくれた温かいミルクを堪能しながらようやくホッとひと息ついていた。

 あの後エミリア達は城で軽く湯浴みで泥汚れを落としてから、イアンが用意してくれた真新しい服に着替えた。そして事件担当者からの事情聴取を受け、ご丁寧に王家の馬車でイアン自ら公爵家まで送り届けられるという――なんとも疲れる一日を送った。

 イアンとの婚約からまだ数ヶ月だが既に王宮にはエミリアの為に部屋も用意されており、クローゼット部屋には普段着からドレスまで着替えが幾つもハンガーにかかっていた。これらは王太子の婚約者用に組まれた予算で用意された物だと言う。

 まだ成長期なのを考慮して数こそ少ないが、そうそう王宮で着替えが必要になる事は無いだろうに。勿体無いな、と思うもののサイズアウトした物などはちゃんと他で二次使用されているらしい。

(この勿体無い精神は前世の記憶の影響ですわね、普通の一般市民でしたもの)

 貴族の中には一度袖を通しただけで捨ててしまう方々も居るらしい。エミリアは公爵家の令嬢なので真似する事も容易いが、しようとは思わない。さすがに貴族なので、ヨレヨレになる程着たおす訳にはいかないが気に入った服は大切に何度も着ている。

(今日着ていたロングワンピースもお気に入りだったのに、騒動のせいで汚れが酷かったし少し破れちゃったから着れなくなっちゃったのよね……)

 残念に思う気持ちはありつつ、王宮で貰った新しいワンピースはそれはそれで可愛くて気に入ったのでまぁ良しとするかと妥協した。

(それにしても……)

 まさかのフランシスが男の子だった事に今でも驚きを隠せない。言われなかったら絶対女の子だって思う程の顔立ちだ。

「……ん?」

 フランシスが男の子だと分かって、改めてある事に気が付いた。

 この世界に居るであろう攻略対象者達。その一人が多分だけど、で物凄い魔力持ちで更にイケメンという噂の少年。

 そして今日出会ったフランシスはフラッフィーのイケメン。――――気付かない振りをしたいけどそういう訳にもいかない。

「きっと攻略対象者の魔術師ってフランシスの事ですわ!」

 まさしくガーン! という効果音がピッタリで、思わず座っていたソファーに突っ伏した。

「お嬢様!?」

 驚いたビバリーが駆け寄って来るが、エミリアは突っ伏したまま落ち込む。

「大丈夫、気にしなくて良いから……」
「ですが……」
「いいの、ちょっと自分のお馬鹿さん加減に凹んでるだけですの」
「はぁ……?」

 今日の事で出会わなくて良い筈の攻略対象者とわざわざフラグ立ててしまったのだろうか? いやいや、感触としては悪役令嬢というよりヒロイン的な出会い方に近い様な……。

 現にフランシスからは少々面倒な事にはなっているが、嫌われている感じは見受けられなかった。

(うーむ…………)

 取り敢えず嫌われるのは将来的に考えて断罪劇があるにせよ無いにせよ、あまり良くない筈。仲良くなり過ぎるのも良くはないが……。

(出会ってしまったものは仕方ないですわ)

 エミリアはモゾモゾとソファーから身体を起こして、背もたれにもたれ掛かる様に座る。

(王太子のイアン、騎士のエドワードお兄様、宰相候補のパトリック、魔術師のフランシス。あとは大商会の息子かしら……或いは学園の先生?)

 どちらにしても出会いたくないので新しい出会いには慎重にならなくちゃいけない。フランシスはイアンとの仲を考えれば今回の出会いがなかったとしても、いずれ何処かで出会う事になっていたかもしれない。

「貴族の令嬢って大変ですわぁ……」
「……今日は大変でしたものね」

 ビバリーからは的外れな同調の言葉を受け取ったが、そのまま受け取っておくことにした。色々と話せない事情もエミリアにはあるからだ。

「……ビバリー、おかわり貰えるかしら」
「はい、ホットで宜しいですか?」
「ええ、お願いするわ」

 今日はもう、温かいミルクを飲んでサッサと寝てしまおう。難しい事はまた明日考えよう。エミリアはちょっぴり今だけ現実逃避する事に決めた。
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