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馬車の中のエミリア
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「リア、ちょっと目を閉じて」
「んんっ……」
馬車が走り出してすぐにイアンはエミリアの隣に座って、いつの間に用意していたのか濡らしたハンカチでエミリアの顔を拭き始めた。少し前まで牢に転がされたせいで顔にも泥が付いてしまっていたらしい。
言われるがまま大人しく顔を拭かれてはいるが、エミリアの心臓はバクバクな上に何とも言えない恥ずかしさで顔を赤く染める。
(いくら婚約者だからって、王太子が! わたくしの顔を拭いて……)
「うん、綺麗になったよ。あとは城に戻ってから湯浴みで落として貰おうね」
「あ、ありがとう御座います、殿下」
甲斐甲斐しくエミリアの世話を焼くイアンの姿に、向かい側に座るフランシスが生温かい視線を向けながら口を開く。
「本当にエミリア嬢の事が大好きなんだねーイアンは」
「当たり前だ、リアは私の宝だからな」
「ちょっ、大袈裟です。殿下」
イアンから何故か物凄く好かれているのは実感していたが、宝物扱いされてる事に焦る。いまだに婚約破棄は諦めていないから複雑な気持ちだ。
「大袈裟なんかじゃない、私は本気でそう思っているよ」
「うぐ……」
「あはは、イアンは至って本気だから諦めるしかないね」
そんな会話を交わしている間も、イアンはエミリアの髪を撫でながら少し乱れた髪を整えてくれている。
(うう……イアンと居るのって心地良すぎて困るんですの。こうやって甘やかすからですわ)
頭も心もグルグルと目眩を起こしそうな感覚に襲われながら、エミリアは気を取り直す為に話題を変える事にした。
「そっ、それはそうとこの誘拐事件の目的は結局何だったんですの? フランシス様が目当てだったのは分かりましたけど……」
「叔父上はね、私に家庭用魔道具を作らせて自分の商会で売りたかったんですよ」
フランシスの魔道具は現在フラッフィー魔道具店でしか販売しておらず新作が出るといつも飛ぶ様に売れる為、前々からあの叔父からは商会で売る為の専売契約を頼まれていたらしい。
「それだけならまだ検討の余地もありますけど、叔父上は私が発明した魔道具を安価な材料で作り変えて量産しようとしたんです。そんな粗悪品許せる訳ない。魔道具は一つ一つ魔石に魔力を込めて大切に作り上げる芸術品なんですよ」
この世界の魔道具の原動力は魔石と呼ばれる特殊な石に緻密に組み立てた魔法陣を使って魔力を込め、その魔石を魔道具の内部に組み込む事によって出来上がっている。魔石のパワーが無くなれば新しい魔石に交換が必要で、エミリアの前世でいう乾電池みたいな物だ。
勿論、量産型の魔道具が無い訳ではない。魔力をほぼ持たない一般市民が使う様な冷蔵庫みたいな魔道具や部屋の灯り程度の物は、むしろ量産する為にコストカットされている。だが、決して粗悪品ではない。
「それに私が作る物は貴族層がそれなりな金額を出して購入する作品ですからね、そもそも叔父上と趣旨が違うんですよ」
「確かにそうですわね」
エミリアの買った栞も市井の市民が買うには高級過ぎて手が出せない代物だし、芸術品と言ってもおかしくない作品だ。
「なのに言う事を聞かない私を攫って無理矢理作らせようとしたのが今回の事件です。親族間で済んだかもしれない事件でしたが、そこに偶然エミリア嬢が居合わせた為叔父上には予定以上に重い刑罰が下されるでしょうね。ふふっ、運のない人だ」
自身の叔父に下されるであろうこれからの処遇を鼻で笑うフランシス。
(こんなに美しくて儚げなのに結構毒舌キャラですわね、フランシスって)
「あと、殿下はどうしてこんなにも早くわたくし達を見つける事が出来ましたの?」
いくら護衛達の目の前で攫われたとは言えあの突風では何も見えなかったであろうし、捜すにしてもいくら何でも到着が早過ぎる。正確には分からないがエミリアが攫われてから数時間も経過していない筈だ。
「これのお陰かな」
イアンがエミリアの左手を手に取り、小指にはめられたピンキーリングに軽く口付けた。指に触れたイアンの唇の感触にエミリアの顔が瞬時に爆発した。
「こ、これ、っ、て……このピンキーリング?」
顔を赤くしながらしどろもどろになりつつ、自分の指にはめている小さな指輪とイアンの顔を交互に見る。
左手小指にはめられているこの指輪は、イアンの私室を初めて訪れた日の帰り際に贈られたピンキーリングだ。イアンからは「肌身離さずつけているんだよ?」と言われていたから、それ以来つけたままにしている。
「うん、これのお陰ですぐに居場所は分かったからね」
「もしかして魔道具?」
「それに近いかな。フランクに造らせたんだ、コレがあればいつでも居処を追う事が出来る魔法が込められてある」
いわゆるGPS機能みたいな魔法が掛けられているという事だろう。どうりでイアンが難なく居場所を突き止められた訳だ。
(……なんかイアンて随分と過保護ですわ)
「今後も何があるか分からないから、必ずつけていなきゃダメだよ?」
「は、はい……」
フランシスが目の前に居るのに、そんな事気にもせずにエミリアに構うイアン。
「イアンが言う程拒否されてないし、案外二人はラブラブじゃない。なんだか妬けちゃうなぁ……」
「えっ、ちがっ……」
「変な気起こすなよフランク? リアは渡さんぞ」
「でもエミリア嬢はイアンとの婚約、望んでないんでしょ?」
「え? あ、はぁ、まぁ……」
「リア!?」
「ねぇ、エミリアって呼んで良いよね? 僕とかどう? こう見えて将来有望株だし、贅沢させてあげられるよ」
急にフランシスがアピールしてきた。
「ダメだよリア、惑わされちゃ」
「惑わすだなんて酷いなぁ。純粋に口説いてるだけだよ」
「私の婚約者を口説くな!」
「だってエミリアがこんなに可愛いだなんて、僕聞いてなかったよ」
「こら、勝手に手を握るな。離れろ」
「え、えっ、えっ……(誰か助けて~)」
美少年二人に詰め寄られてアタフタとなるエミリア。
(視界が全部美少年……つ、辛すぎる)
いや、イケメンは大好物だがそれは遠くから眺めるのが醍醐味であって、自分がこうして体験するのは非常に精神力を削られる。
こうして馬車が城へ到着するまでエミリアはイアンとフランシスから挟まれて、誘拐事件そのものよりグッタリとしたのだった。
「んんっ……」
馬車が走り出してすぐにイアンはエミリアの隣に座って、いつの間に用意していたのか濡らしたハンカチでエミリアの顔を拭き始めた。少し前まで牢に転がされたせいで顔にも泥が付いてしまっていたらしい。
言われるがまま大人しく顔を拭かれてはいるが、エミリアの心臓はバクバクな上に何とも言えない恥ずかしさで顔を赤く染める。
(いくら婚約者だからって、王太子が! わたくしの顔を拭いて……)
「うん、綺麗になったよ。あとは城に戻ってから湯浴みで落として貰おうね」
「あ、ありがとう御座います、殿下」
甲斐甲斐しくエミリアの世話を焼くイアンの姿に、向かい側に座るフランシスが生温かい視線を向けながら口を開く。
「本当にエミリア嬢の事が大好きなんだねーイアンは」
「当たり前だ、リアは私の宝だからな」
「ちょっ、大袈裟です。殿下」
イアンから何故か物凄く好かれているのは実感していたが、宝物扱いされてる事に焦る。いまだに婚約破棄は諦めていないから複雑な気持ちだ。
「大袈裟なんかじゃない、私は本気でそう思っているよ」
「うぐ……」
「あはは、イアンは至って本気だから諦めるしかないね」
そんな会話を交わしている間も、イアンはエミリアの髪を撫でながら少し乱れた髪を整えてくれている。
(うう……イアンと居るのって心地良すぎて困るんですの。こうやって甘やかすからですわ)
頭も心もグルグルと目眩を起こしそうな感覚に襲われながら、エミリアは気を取り直す為に話題を変える事にした。
「そっ、それはそうとこの誘拐事件の目的は結局何だったんですの? フランシス様が目当てだったのは分かりましたけど……」
「叔父上はね、私に家庭用魔道具を作らせて自分の商会で売りたかったんですよ」
フランシスの魔道具は現在フラッフィー魔道具店でしか販売しておらず新作が出るといつも飛ぶ様に売れる為、前々からあの叔父からは商会で売る為の専売契約を頼まれていたらしい。
「それだけならまだ検討の余地もありますけど、叔父上は私が発明した魔道具を安価な材料で作り変えて量産しようとしたんです。そんな粗悪品許せる訳ない。魔道具は一つ一つ魔石に魔力を込めて大切に作り上げる芸術品なんですよ」
この世界の魔道具の原動力は魔石と呼ばれる特殊な石に緻密に組み立てた魔法陣を使って魔力を込め、その魔石を魔道具の内部に組み込む事によって出来上がっている。魔石のパワーが無くなれば新しい魔石に交換が必要で、エミリアの前世でいう乾電池みたいな物だ。
勿論、量産型の魔道具が無い訳ではない。魔力をほぼ持たない一般市民が使う様な冷蔵庫みたいな魔道具や部屋の灯り程度の物は、むしろ量産する為にコストカットされている。だが、決して粗悪品ではない。
「それに私が作る物は貴族層がそれなりな金額を出して購入する作品ですからね、そもそも叔父上と趣旨が違うんですよ」
「確かにそうですわね」
エミリアの買った栞も市井の市民が買うには高級過ぎて手が出せない代物だし、芸術品と言ってもおかしくない作品だ。
「なのに言う事を聞かない私を攫って無理矢理作らせようとしたのが今回の事件です。親族間で済んだかもしれない事件でしたが、そこに偶然エミリア嬢が居合わせた為叔父上には予定以上に重い刑罰が下されるでしょうね。ふふっ、運のない人だ」
自身の叔父に下されるであろうこれからの処遇を鼻で笑うフランシス。
(こんなに美しくて儚げなのに結構毒舌キャラですわね、フランシスって)
「あと、殿下はどうしてこんなにも早くわたくし達を見つける事が出来ましたの?」
いくら護衛達の目の前で攫われたとは言えあの突風では何も見えなかったであろうし、捜すにしてもいくら何でも到着が早過ぎる。正確には分からないがエミリアが攫われてから数時間も経過していない筈だ。
「これのお陰かな」
イアンがエミリアの左手を手に取り、小指にはめられたピンキーリングに軽く口付けた。指に触れたイアンの唇の感触にエミリアの顔が瞬時に爆発した。
「こ、これ、っ、て……このピンキーリング?」
顔を赤くしながらしどろもどろになりつつ、自分の指にはめている小さな指輪とイアンの顔を交互に見る。
左手小指にはめられているこの指輪は、イアンの私室を初めて訪れた日の帰り際に贈られたピンキーリングだ。イアンからは「肌身離さずつけているんだよ?」と言われていたから、それ以来つけたままにしている。
「うん、これのお陰ですぐに居場所は分かったからね」
「もしかして魔道具?」
「それに近いかな。フランクに造らせたんだ、コレがあればいつでも居処を追う事が出来る魔法が込められてある」
いわゆるGPS機能みたいな魔法が掛けられているという事だろう。どうりでイアンが難なく居場所を突き止められた訳だ。
(……なんかイアンて随分と過保護ですわ)
「今後も何があるか分からないから、必ずつけていなきゃダメだよ?」
「は、はい……」
フランシスが目の前に居るのに、そんな事気にもせずにエミリアに構うイアン。
「イアンが言う程拒否されてないし、案外二人はラブラブじゃない。なんだか妬けちゃうなぁ……」
「えっ、ちがっ……」
「変な気起こすなよフランク? リアは渡さんぞ」
「でもエミリア嬢はイアンとの婚約、望んでないんでしょ?」
「え? あ、はぁ、まぁ……」
「リア!?」
「ねぇ、エミリアって呼んで良いよね? 僕とかどう? こう見えて将来有望株だし、贅沢させてあげられるよ」
急にフランシスがアピールしてきた。
「ダメだよリア、惑わされちゃ」
「惑わすだなんて酷いなぁ。純粋に口説いてるだけだよ」
「私の婚約者を口説くな!」
「だってエミリアがこんなに可愛いだなんて、僕聞いてなかったよ」
「こら、勝手に手を握るな。離れろ」
「え、えっ、えっ……(誰か助けて~)」
美少年二人に詰め寄られてアタフタとなるエミリア。
(視界が全部美少年……つ、辛すぎる)
いや、イケメンは大好物だがそれは遠くから眺めるのが醍醐味であって、自分がこうして体験するのは非常に精神力を削られる。
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