悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな

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生徒会

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 次の日からエミリアはフォスティーナの事を警戒していたが特に目立った動きはなく日々は過ぎていった。

 そんな中、新しい生徒会役員が決まった。生徒会長は引き続きイアン、副会長にパトリックが新たに就任した。

(パトリックは順調に未来の宰相への道を歩んでますわね……)

 そして他にも続投組のエドワードお兄様に加えて新たにサルビアとフォスティーナが生徒会入りした。そのお陰か最近は時折、休み時間や放課後に生徒会メンバーで集まって何やら話している姿を見掛ける様になった。

 フォスティーナが言っていた通りイアンとは幼馴染みらしく、二人は気軽に会話を交わしている様だった。今までイアンがフォスティーナと話している姿なんて見た事が無かったのはたまたまだったのだろう。エミリアの知らない所では二人は普通に交流をしていたのかもしれない。

 サルビアも以前に比べるとイアンともフレンドリーに接する様になっていた。生徒会の仕事が二人の距離を縮めたのだろうか。

 気にはしない様にしていてもイアンがサルビアと談笑している姿を見掛けると、何だか胸の奥がモヤっとしてしまう。

(嫉妬はみっともないですわ。二人はただ生徒会の仕事をしているだけですのに)

 深く深呼吸をしてそんな風に自分の心を落ち着かせるが、自分が自らこうやって実際に体験してみると世の悪役令嬢がヒロインに冷たく当たってしまう気持ちもチョッピリわかる気もする。

 ましてやヒロイン側が自分の婚約者に好意を寄せていたり、自分と婚約者との仲が良好でなかったりしたら気が気じゃないだろう。

 悪役令嬢はただ単純に婚約者にちゃんと自分を見て欲しくて構って欲しいだけ。それもこれも婚約者がきちんとした対応をしてくれていれば起こらない問題で本当は可愛らしい令嬢だったりするのだ。

 幸いにもイアンはエミリアの事をちゃんと見てくれて今の所、心変わりはしてなさそうだけど……。

(それでも不安になるのは悪役令嬢だから? ううん、自分に自信がないからですわね)

 イアンが何故エミリアを好きでいてくれているのかよく分からない。自分で言うのも何だが見た目だけは美少女だしこの容姿を好きなんだろうな、ってのは分かってはいるけど……だけ?

(だとしたら少し悲しいですわね)

 ギュッと胸を締め付けられた様に苦しくなって、泣きそうになった。

(悪役令嬢になんて生まれ変わりたくなかったし、最近はなんだか辛いな)

 もし次に生まれ変われるなら平凡なモブを希望したい。物語に振り回される人生なんて嫌だもの。

◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆

 ――ある日、エミリアが中庭を通り掛かった時。ベンチで隣り合って座り、持っている書類を二人して覗き込みながら何やら話しているイアンとサルビアを偶然にも見つけてしまった。

 二人の姿から視線が外せなくて、エミリアはその場に立ちすくんでしまった。穏やかな笑みを見せながらイアンに話しかけてはコロコロと笑うサルビア。イアンの方は俯いている為表情は見えないが、はたから見るとなかなか良い雰囲気に見える。

「……っ」

 その場から離れようとするも足がいう事を聞かない。そんなエミリアの気配に気づいたのか、ふとイアンが顔を上げた。

「……リア?」

 いつもの様に微笑みながらエミリアに声を掛けてきたイアンに、いたたまれない気持ちになってサッと視線を逸らしてしまった。

「どうかした……」

 イアンが話し掛けてくれている最中にも関わらずエミリアは逃げる様にしてその場から早足に離れる。王族が話している途中でして良い態度ではないと分かっていながら、今度は歩く足を止められない。

(ヤダ……わたくし最低ですわ)

 頭の中はグルグルと思考がまとまらないし、涙が出そうになっていてグチャグチャだ。きっと今、酷い顔をしているだろう。そんな姿を誰にも見せたくなくて近くにあった空き教室へと思わず飛び込んだ。

 そこは授業で使う魔道具などをしまってある準備室兼倉庫だった。窓辺に椅子を見つけたのでそこへ腰掛けて溜息をつく。

「……何してるんだか。馬鹿みたい」

 ガックリと項垂れてそう呟けば、それに呼応して返事が返って来た。

「うん、お馬鹿さんだね」
「えっ!?」

 驚いて顔を上げればいつの間に入って来たのか目の前にはイアンが立っていた。

「……イ……アン」
「……」

 唇をギュッと噛み締めて込み上げて来そうになる涙を我慢する。そして謝罪の為に頭を下げた。

「あのっ、先程はお話の途中で申し訳ありませんでした。必要でしたら罰は受け入れます」
「……ふうん、何でも受け入れるの?」
「は、はい。大変失礼な態度を取ってしまいました。どうかお許し下さい」

 いくら婚約者だとは言えイアンは王太子だ。一介の公爵令嬢が取って良い態度ではない。たまたま他にはサルビアしか居なかったが、侮辱罪と取られても仕方がない。

「……じゃあ、はい」

 そう言ってイアンは両腕を左右に広げて見せる。

「え、っと?」

 その意図が汲み取れずエミリアは戸惑う。

「リアに目を逸らされて、更に逃げられてショック受けたからさ」
「も、申し訳ありません」
「だから抱きしめさせて」
「は!?」

 それのどこが罰だというのか。いや、ある意味罰かもしれないがニコニコしながら両腕を広げたまま、「早く」と催促される。

「っ、うぅっ」

 エミリアからあの腕の中に飛び込めというのか。恥ずかし過ぎて違う意味で泣きたくなった。こういう所はイアンは本当に昔から変わらない。

「む、無理です」
「罰なんでしょ? 自分から受けるって言ったのに守らないんだ?」
「……ふうっ。…………お、お邪魔……し、ます」

 痛いところを突かれたエミリアは仕方なく深く深呼吸をしてから覚悟を決めてイアンの元へと近寄った。心臓が酷く脈打つし、顔は火照るし、泣きそうだし……とにかく大変だ。

 近付いたエミリアをぎゅむっと腕の中へと包み込んだイアンは「初めて嫉妬してくれたね。そんなに私の事が好き?」と満足そうに問い掛けてきた。

「……べ、別にそんなんじゃありませんわ」
「じゃあ何で逃げたのさ」
「それは、急いでいただけで」
「こんな所に来る事が?」
「うぐっ……」

 返答に困ったエミリアの髪を優しく指ですきながら「素直じゃないなぁ」と笑うイアン。悔しくて更に熱を持った顔をイアンの胸へと押し付ける。

(こんな風に甘やかすから困るんですわ。いざとなった時にわたくしは、この人を手放す事が出来るんですの?)

 もしもイアンが敵に回ってしまったら――。そんな未来を考えると恐ろしくなる。イアンを好きになってしまった自分が一番お馬鹿さんだわ、とエミリアは自分に呆れるしかなかった。
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