悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな

文字の大きさ
26 / 36

公爵令嬢フォスティーナ・サモン

しおりを挟む
 エミリアが学園に入学して数週間が経過した。この頃になるとクラスの中でもある程度グループが出来ていた。

 エミリアが居るクラスは主に高位貴族や成績上位者で構成されている。その中でも一際目を引くのは筆頭公爵家令嬢のフォスティーナ・サモンを中心とした貴族グループだ。

 フォスティーナとは同じ公爵家ではあるもののエミリアはあまり関わりは無い。互いに顔見知りではあるが挨拶を交わす程度の仲だ。

 フォスティーナは特別美人というわけでは無いが亜麻色の長い髪に薄茶の大きく美しい瞳がキリッとしていて、どこか華がある女性だ。人当たりも良いのでクラスの中心人物となっている。

 なのでフォスティーナの周りには自然に人が集まっており、その中には聖女であるサルビアも居た。どうやら二人は入学前から親交があるらしく、仲が良さそうだ。

 エミリアは自分が周りから嫌われていると思っているので、そんなフォスティーナ達へ話し掛ける勇気はなく一人で読書をして過ごしている。

 ある日の放課後、帰りの支度をしているとフォスティーナから突然声を掛けられた。

「エミリア様、少しお時間宜しいでしょうか?」

 驚きつつもフォスティーナに誘導されるまま教室を離れ、人気の少ない裏庭へと辿り着いた。そこに幾つか設置されているベンチの一つへと二人で腰を下ろす。

 何の話をされるのか全く見当も付かないので内心冷や汗をかきながらフォスティーナが口を開くのを待った。

「率直に申し上げますわ……イアン殿下との婚約を辞退して下さいませんか?」
「…………は?」

 唐突な話に思わず素で声が出た。 

「聖女が現れたのに婚約者が貴方のままだなんておかしな話じゃありません? 未来の王妃には聖女のサルビアさんがなるべきですわ」
「あ……はぁ……」

(んー……聖女派とかなのかしら)

 確かに聖女のサルビアが現れてから聖女派なる派閥が出来、サルビアをイアンの婚約者にという訴えが王家にも届いているという話は聞く。

 エミリアも聖女を王太子妃に迎えたいという気持ちは分からなくもないし、もしも王家側がそう望むのなら従うつもりではある。

(そりゃ、イアンと離れるのは寂しいけど……)

 いつの間にかイアンへ好意を寄せてしまっているがきっと今ならまだその気持ちも蓋をする事が出来る筈だ。これ以上好きになってしまう前の今なら……。

「……それが出来れば苦労致しませんわ」
「どういう意味です? 貴方がイアン殿下を縛り付けているんですよね?」
「違います」
「なら何故自ら婚約を辞退されないんですの? 貴方が辞退を申し出ればきっとすぐにサルビアさんとの婚約が決まる筈ですわ」

 フォスティーナはそう言うが、エミリアの事情やこれ迄のイアンとのやり取りを知らないから簡単にそんな風に思えるのだろう。

(人の苦労も知らないくせに)

 心の中でエミリアはゲンナリして呟く。

「そもそも本当なら私が婚約者に選ばれる筈でしたのよ? それが何故貴方なんかが選ばれたんだか……」
「え?」
「あら、ご存知なかったかしら。私とイアン殿下は幼馴染みですのよ。私が生まれた時、互いの両親が私とイアン殿下を婚約させたがっていたんですの」

 そう言えば王妃とサモン公爵夫人は親しいという話はお母様から聞いた事があった。それもあってかイアンがエミリアを婚約者として連れて来たあの茶会の場はかなりざわついていた様な気がする。

「そう、なんですか。それは知りませんでした」
「もし私がイアン殿下の婚約者でしたら、聖女が現れたらすぐにでも婚約を辞退致しますわ。だって聖女は王太子と結ばれる運命ですもの」
「……はぁ」

 ゲーム上はきっとそれが正解なのだろう。だからこそエミリアはこれまでイアンから離れようとして来たのだ。

「まぁ、貴方が婚約者になってしまったのは仕方ないとして。それなら婚約者なら婚約者らしく、もっと聖女を虐めたりしなさいよ! でないと聖女がイアン殿下と結ばれないじゃない!!」
「…………は?」

 フォスティーナの言葉に再び素で声が漏れ出た。なんだか話の内容がおかしい様な気がするのは気のせいだろうか。

「あの、どうして私がサルビアさんを虐めないといけないんですの?」
「王太子の婚約者は聖女を虐めるのがセオリーな事くらいご存知でしょ? 虐められても負けずに頑張る健気な聖女を王太子は好きになっていくのが王道ですわ。私はそんな二人を近くで見守るのが楽しみで入学して来たというのに……」

(もしかして……この人……)

「……ひょっとして貴方、転生者?」

 エミリアの言葉にフォスティーナが目をパチクリさせる。

「そうですけど? エミリア様もそうでしょ?」
「えええっ!?」

 さも当たり前の様に答えるフォスティーナに驚愕する。

(いやいやいや、何普通にアッサリ認めてるの!? てか何で私が転生者だって知ってるの!)

「え、何をそんなに驚いてますの? 考えたら分かるじゃないですか。エミリア様って元々バリバリの縦ロールでしたわよね? それが急にイメチェンするし、
婚約者に選ばれるしで悪役令嬢はエミリア様なんだなって」
「う……」
「しかも攻略対象者らしき人物と片っ端から仲良しになってるし、これは転生者だなーって丸分かりですわよ」
「あはは……」

 ぐうの音も出ない回答にカラ笑いするしかなかった。はたから見たらそんなに分かりやすい行動だったのか……。

「それは良いとして、ちゃんと悪役令嬢の役目やって下さいよ」
「……嫌です」
「何で!? あ、もしかしてイアン殿下ルート目指してるんですか? やめて下さいよー私の楽しみを奪わないで下さい」
「楽しみって……私は悪役令嬢なんてなりたくないんです! だから必死に頑張って来たんだから」
「そんなの困ります。エミリア様にはちゃんとやって貰わなくてはサルビアさんが可哀想じゃないですか」
「……うぅ」

 痛いところを突かれ口籠る。確かにこのまま行けば恐らくサルビアとイアンが結ばれる事はないだろう。もっともイアンが心変わりをしなければの話だが。

「エミリア様が嫌であろうが私がちゃんと悪役令嬢としての役目が果たせる様に手を貸しますから。これまでもエミリア様が他の令嬢から孤立する様に色々手を回して来ましたのよ。上手くいったでしょう?」
「え……」

 エミリアに同性の友人が出来なかったのはフォスティーナのせいだった事に驚いた。

「今後も上手くやってあげますから安心して悪役令嬢になって下さいね」
「嫌よ、やめて。余計な事しないで」
「大丈夫、私に任せておいて下さいね。ふふっ、それでは私は失礼致しますわ。ご機嫌よう」
「ちょっと!」

 エミリアの制止する言葉なんてフォスティーナの耳には届いていない様だ。軽くステップを踏みながら楽しそうに校舎の方へと駆けていく。

「嘘……なんでこんな」

 エミリア絶望感に打ちひしがれる様に暫くその場から動く事が出来ずに居た。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!

水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。 ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。 しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。 ★ファンタジー小説大賞エントリー中です。 ※完結しました!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】前世の記憶があっても役に立たないんですが!

kana
恋愛
前世を思い出したのは階段からの落下中。 絶体絶命のピンチも自力で乗り切ったアリシア。 ここはゲームの世界なのか、ただの転生なのかも分からない。 前世を思い出したことで変わったのは性格だけ。 チートともないけど前向きな性格で我が道を行くアリシア。 そんな時ヒロイン?登場でピンチに・・・ ユルい設定になっています。 作者の力不足はお許しください。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

処理中です...