悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな

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イアンの執務室にて Sideイアン&ナガレ

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「ギルドに登録?」

 イアンは城の執務室にてエミリアに関する定期報告を受けていた。婚約が決まった時からエミリアには内緒で王家から護衛を付けていた。なのでエミリアの毎日の行動はイアンには筒抜けだった。

「はい。アスナダイト侯爵家のパトリック・アスナダイトと共にギルド登録をし、スライム狩りに勤しんでいるご様子です」

 少し苦笑いを浮かべながら護衛からの報告書を読み上げる従者のナガレ。

「スライム狩り……?」

 エミリアの突拍子の無さには慣れているイアンだが、今回も驚きの展開だ。

「自由にして良い……とは言ったけど、スライム狩りとはまた面白い事を。相変わらず面白い婚約者殿だ」

 思わず頬を緩めてしまったイアンにナガレが軽く咳払いをして諌める。

「放置して宜しいのですか? 殿下」
「ん、良いんじゃないかな。勿論、子供二人きりではないのだろう?」
「はい、アスナダイト侯爵家から腕の立つ魔導士と剣士が一名ずつ護衛として一緒に同行しています」
「賢明な判断だな。何がどうなってギルド登録をしたかは分からないがパトリックも馬鹿じゃない。彼が手配したのだろう」

 イアンはそう言って手元にある少し冷えた紅茶を口へと運んだ。

「……スライム狩りか。私も参加したいものだな」
「殿下!?」
「冒険服を着たリアはさぞかし可愛いのだろうな、見てみたい」
「……目的はそちらですか」
「ナガレ、こっそりリアの冒険服姿を描いて来る様に絵師を手配しろ」
「……本気で言ってます?」
「無論だ」

 誰もが歓声を上げる程に爽やかな笑顔でイアンは答える。それを見たナガレは大きな溜息をつきながら「分かりました、早速手配しておきます」と諦めるしかなかった。我が君主は婚約者殿の事になると時々こうやってポンコツになる様だ。

「殿下は本当にエミリア嬢がお好きですね」
「当たり前だ。彼女ほど可愛くて面白くて興味をそそられる女性は他には居ない。天使なんだ」

 こうやって饒舌にエミリアの事を話すイアンを見ながら、ナガレは遠い昔を思い出していた。それはイアンがまだエミリアと出逢う前の頃だ。

 元々聡明で頭の良いイアンはすぐに何でも覚える事が出来、全てを完璧にこなしてみせるまさに次期国王として申し分の無い才能を持って生まれてきた。その為かあまり子供らしくなくいつも冷めた表情で、つまらなそうに毎日を送っていた。

 そんな中、将来の側近候補兼友人としてレナード公爵家のエドワードがイアンの話し相手として城へやって来る様になった。すぐに打ち解けた二人は仲良くなり、エドワードから度々エミリアの話を聞く様になった。

 イアンにも妹であるイリシャ王女が居るがエドワード程妹を可愛いと思った事は無かった為、エミリアがどれ程可愛いのかを興味本位で確かめにレナード公爵家を訪ねてみたのが始まりだ。

 エミリアの姿を見て全身に雷が走ったかの様な衝撃を受けたらしいイアンは、生まれて初めて瞳をキラキラとさせて城へ戻って来たのだった。

「天使が居た……」

 そう呟きながら寝台の上で転がりまくるイアンを見た時は驚いたものだ。すっかり恋に落ちたらしいイアンは今までの退屈そうな表情は何処へいったのやら、別人の様に毎日を楽しむ様になったのだ。

「しかしパトリックが羨ましいな。可愛いリアと過ごせるなんて」
「いけませんよ、殿下」
「分かっている、我慢するよ」

 ナガレはイアンがエミリアとスライム狩りに出向く気かと思い慌てて注意をしたが、どうやらさすがにそれは考えすぎだった様でほっと胸を撫で下ろした。

「リアの冒険服は婚姻後の楽しみに取っておくよ」
「は?」
「夫婦で一度くらいはスライム狩りしても構わないだろう」
「いや、そんな普通にキジ狩りみたいに言われましても……」
「楽しみがまた一つ増えたな……」
「……殿下」

 再び紅茶を口に運びながら何処か遠い所を見つめて微笑むイアンにナガレはガックリと肩を落とした。

 ――やはり我が君主は婚約者殿のお陰で今日もポンコツらしい。
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