悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな

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幼馴染みな二人

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「エミリア」

 新入生達でざわつくホールで聴き慣れた声で名前を呼ばれ、エミリアはその声の主の方へと振り向いた。人を掻き分けながら目の前に現れたのは、幼馴染みのパトリックだ。

「イアンはもう一緒じゃないのか? さっき会った時はエミリアを出迎えると意気込んでいたけど」
「ええ、丁度今見送った所よ」
「ふーん……あぁ、予想通りオレ達はAクラスだよ」

 ホール内にクラス分けが貼り出されているらしく、パトリックがそう教えてくれた。

「同じクラスですのね、安心致しましたわ」

 見知った相手が一人でもクラスメイトと分かって、エミリアはホッと胸を撫で下ろす。その後パトリックに連れられて改めてクラス分けを見に行ってみたが、やはりというかこれも予想通りというかサルビアの名前もしっかりと同じAクラスに載っていた。

(そうだろうとは思ってたけど、正直へこみますわ)

 暫くして入学式が始まり、パトリックの隣の席で長い長い学園長からの入学祝いの言葉やら教師の紹介に続いて生徒会長の挨拶もあった。まだ二年生ではあるがイアンが生徒会長、役員にはお兄様とフランシスの姿があった。

(恐らく次の生徒会選挙では隣に居るパトリックも生徒会入りするんでしょうね……)

 これからはパトリックも色々と多忙になるだろう事が予想出来る。今までの様にエミリアの為に時間を作ってくれる事もなくなるだろう。

(……子供だった頃が懐かしいですわ)

 ふと、エミリアの思考は約一年半前へと遡る。

◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆

「……寂しいですわ」
「……」

「……はぁ。このお菓子もイアンと一緒ならもっと美味しく感じますのに」
「…………あ?(怒りモード)」

「なんで目の前に居るのはパトリックなのかしら」
「嫌なら帰れよ! 人ん家来て文句ばっかり言うな」
「まぁ! 大事な幼馴染みが落ち込んでるのに冷たいですわ!」

 毎週恒例のアスナダイト侯爵家訪問は十三歳になった今でも続いていた。相変わらず互いに勝手に読書して過ごすだけだったが、なんだかんだで居心地も悪くは無いのでエミリアは毎週パトリックの部屋に押しかけていた。

 今日もいつもの様にソファーに座ってお茶菓子を頂きながら読書にいそしむ……も、エミリアは読書というよりテーブルに並べられたスイーツと紅茶をつつきながら溜息を溢す。

「そんなに寂しいんならイアンに会いに行けば良いだろ」

 もっともな意見にエミリアはプクッと頬を膨らませた。

「そんな事出来ませんわ! わたくし、イアンに呆れられたくありませんもの」
「別に呆れられたりしないだろ。むしろ会いに来てくれたって喜ぶと思うぞ」
「そうかもしれませんけどぉ……」

 テーブルの上に人差し指でクルクルとのの字を書いて困った表情を見せるエミリア。

「わたくし、イアンに弱い所見せたくありませんの。ただでさえ、不釣り合いだと思われてますのに……」
「不釣り合いって誰が?」
「わたくしですわ! あんなキラキラ素敵すぎるイアンに憧れる令嬢は山の様に居ますのよ! なのに、わたくしは同性のお友達の一人も出来ない嫌われ者ですもの」
「そうか? そんな嫌われてるなんて話は聞いた事ないが……」
「そうですわ! いざとなったら冒険者にもなれる様に魔法を鍛えておくのも良いですわね!」
「は? いきなりどういう展開だ」

 エミリアは目を輝かせて立ち上がると本棚へと走った。突拍子もない言動に眉をしかめるパトリック。

「確かこの辺に魔法の本が……あ、ありましたわ」

 本棚から一冊の本を取り出してパラパラとめくってみるが、あまりにも初歩的な内容しか載っていなかった。ガッカリしながら本を閉じて元あった場所へと戻す。

「他には魔法の本はないんですの? 魔導書とか」
「オレは魔法は苦手なんだよ」
「こんなに読書好きで頭良いのに!?」
「それとこれとは分野が違うんだって。魔法ならフランクに習えば良いだろ?」

 パトリックの言う通りフランシスは魔法に長けているので教えを乞うなら彼より優秀な魔導士は居ない。

「フランシスと会うのはイアンが嫌がるから無理ですわ」
「あー……まぁ、確かに」

 フランシスは悪い人じゃないけど、本気なのか冗談なのかいつもエミリアを口説いてくるので少々苦手だったりする。最近はイアンにも負けぬ色気が漏れ出てるのでドギマギさせられて大変なのだ。

 その点パトリックは美少年ではあるが気心が知れていて一緒に居てもドキドキする事なんてなく、安心していられるから楽だ。

「パトリックは実験は好きよね?」
「え、実験?」
「一緒にギルドに登録して、魔法は実戦で鍛えちゃうとかどうかしら」
「は? いやいや、だから魔法は苦手だって……」
「苦手なんて言ってたらダメですわ~一人でやるより二人の方が楽しいですし、スライムくらいなら負けない筈ですわ」
「ちょっと待て、話を勝手に進めるな」
「大丈夫大丈夫!使う魔法は事前に本で覚えて、その後は実戦でちゅどーん! ですわ」

 楽しそうに身振り手振りで魔法をぶっ放すポーズを決めてみせるエミリアにパトリックは焦る。

「人を巻き込むなっての! オレはやらないぞ」
「あら、パトリックは魔法も覚えられないんですの? 記憶力が悪いのかしら」
「あん? そんなもの、本気を出せば覚えられるに決まってるだろ。舐めんなよ」
「では、どちらが先に魔法を沢山覚えられるか競争ですわ! さぁ、魔導書を買いに行きますわよ!」
「おう! 負けて泣くのはエミリアだろうけどな」

 パトリックはすぐさま馬車の手配をさせ、エミリアと乗り込むと街まで魔導書を買いに走った。その後、冒険ギルドにもエントリーを済ませて邸に帰宅してからエミリアに上手く乗せられた事に気がついた。

「オレとした事が、やられた……」

 テーブルには初歩から上級までの一般的な魔法が載った魔導書が数冊積み上げられている。それを見つめながら溜息を落とすパトリックだった。
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