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魔女
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「随分と久しぶりじゃの」
エレノアに連れられてエミリアとエドワードはようやく安堵の息を吐いてその場に崩れ落ちた。ここに辿り着くまで散々な目にあった為、既に疲労困憊だったのは言うまでもない。
「ふふ、会えて嬉しいわ。アマンダ」
息も絶え絶えに地べたに座り込む子供達とは対象的にエレノアはいつもと変わらず、のほほんとした雰囲気で魔女との再会を喜んでいる。
「エレノアは相変わらずじゃの。それに反してこっちのはなんじゃ……情けない」
エミリアとエドワードにチラリと視線をやりながら魔女アマンダは呆れた様に溜息を溢す。惑わしの森の魔女というから、さぞ恐ろしい見た目の老婆だと思っていたが実際目の前に居るのは黒ローブに身を包んだ可愛らしい少女だった。
見た感じではエミリア達と歳も変わらなそうで真っ赤な長い艶やかな髪は両サイドの高い位置から編み込まれ、その先端は床に着きそうになるほどの長さで可愛らしいタータンチェック柄のリボンを付けている。
切れ長の鋭い黄金色の瞳はエミリア達からすぐにエレノアへと戻り、旧友との再会に嬉しそうな表情を浮かべているのが分かる。
「ここに来る迄に色々とモンスターと出くわしたから疲れちゃったみたい」
「修行が足りんのぉ」
見た目と話し方が相反している様に思うが、よくよく見るとアマンダの耳は天に向かって長く伸びており、それだけでも普通の人間ではない事を表していた。
「……アマンダさんて、もしかしてエルフですの?」
「……ああ」
隣で一緒にへばっている兄へコッソリと問いかけると頷きながら返答が帰ってきた。その答えにエミリアはなるほどな、と一人納得する。
森に住むエルフは人間とは違い非常に長寿な種族だ。パッと見は人間と変わらない見た目だが特徴的な長い耳が彼女をエルフだと象徴していた。恐らく見た目よりはずっと歳上なのだろう。
「それでね、金色キノコの解毒剤が欲しいのだけど……お願い出来ないかしら?」
「金色キノコとな? あのキノコの毒は一般には流通しておらぬ筈じゃが何があった」
早速本題の話が始まった事に気付き、エミリアは慌ててアマンダへ軽く頭を下げて挨拶をした。
「初めましてアマンダ様。わたくしエレノアの娘、エミリアと申します。ここからは、わたくしが説明させて頂いても宜しいでしょうか?」
「うむ、話してくれ」
アマンダはエミリアの申し出を快く承知してくれた。母にばかり頼ってはいけないとエミリアは精一杯心を込めてアマンダに解毒剤が必要な経緯を説明してみせた。
「わたくしは、どうしても王太子を助けたいのです。必要ならば何でも致します、どうか解毒剤をわたくしに下さいませんか」
「……なるほどのぉ。理由は理解した。解毒剤もくれてやらん事もない」
「本当ですの!?」
「しかし、引っかかるのが誰が王太子に毒矢を向けたかじゃな……」
勿論一国の王太子であるからには命を狙われる可能性は常にあって当然ではある。イアンには歳の離れた弟王子も居るし、他にも王位継承権を持つ王族は幾人も存在している。
その中のいずれかが狙った可能性も無きにあらずだが、現状では王太子派以外に敵対する様な大きな派閥は存在していない筈だ。特に現王の治安する世代になってからは、外交も良好で我が国は戦争も無く平和な時代を送っている。
「実は心当たりが無くもないのだけど……カティは今居るかしら?」
エレノアが見知らぬ誰かの名前を呼ぶや否や、どこからともなく若いエルフの青年が姿を表した。
アマンダと同じく真っ赤な髪が印象的なとても美しい青年で、片耳にはキラリと光るクリスタルのピアスをしている。服装はローブではないがアマンダと同じく全身黒色で纏めたのか、シンプルなシャツとズボン姿だ。
「……ボクはここ。エレノア会いたかった」
カティという青年は、エレノアを見つめながら少し寂しげな表情を浮かべて微笑んだ。
エレノアに連れられてエミリアとエドワードはようやく安堵の息を吐いてその場に崩れ落ちた。ここに辿り着くまで散々な目にあった為、既に疲労困憊だったのは言うまでもない。
「ふふ、会えて嬉しいわ。アマンダ」
息も絶え絶えに地べたに座り込む子供達とは対象的にエレノアはいつもと変わらず、のほほんとした雰囲気で魔女との再会を喜んでいる。
「エレノアは相変わらずじゃの。それに反してこっちのはなんじゃ……情けない」
エミリアとエドワードにチラリと視線をやりながら魔女アマンダは呆れた様に溜息を溢す。惑わしの森の魔女というから、さぞ恐ろしい見た目の老婆だと思っていたが実際目の前に居るのは黒ローブに身を包んだ可愛らしい少女だった。
見た感じではエミリア達と歳も変わらなそうで真っ赤な長い艶やかな髪は両サイドの高い位置から編み込まれ、その先端は床に着きそうになるほどの長さで可愛らしいタータンチェック柄のリボンを付けている。
切れ長の鋭い黄金色の瞳はエミリア達からすぐにエレノアへと戻り、旧友との再会に嬉しそうな表情を浮かべているのが分かる。
「ここに来る迄に色々とモンスターと出くわしたから疲れちゃったみたい」
「修行が足りんのぉ」
見た目と話し方が相反している様に思うが、よくよく見るとアマンダの耳は天に向かって長く伸びており、それだけでも普通の人間ではない事を表していた。
「……アマンダさんて、もしかしてエルフですの?」
「……ああ」
隣で一緒にへばっている兄へコッソリと問いかけると頷きながら返答が帰ってきた。その答えにエミリアはなるほどな、と一人納得する。
森に住むエルフは人間とは違い非常に長寿な種族だ。パッと見は人間と変わらない見た目だが特徴的な長い耳が彼女をエルフだと象徴していた。恐らく見た目よりはずっと歳上なのだろう。
「それでね、金色キノコの解毒剤が欲しいのだけど……お願い出来ないかしら?」
「金色キノコとな? あのキノコの毒は一般には流通しておらぬ筈じゃが何があった」
早速本題の話が始まった事に気付き、エミリアは慌ててアマンダへ軽く頭を下げて挨拶をした。
「初めましてアマンダ様。わたくしエレノアの娘、エミリアと申します。ここからは、わたくしが説明させて頂いても宜しいでしょうか?」
「うむ、話してくれ」
アマンダはエミリアの申し出を快く承知してくれた。母にばかり頼ってはいけないとエミリアは精一杯心を込めてアマンダに解毒剤が必要な経緯を説明してみせた。
「わたくしは、どうしても王太子を助けたいのです。必要ならば何でも致します、どうか解毒剤をわたくしに下さいませんか」
「……なるほどのぉ。理由は理解した。解毒剤もくれてやらん事もない」
「本当ですの!?」
「しかし、引っかかるのが誰が王太子に毒矢を向けたかじゃな……」
勿論一国の王太子であるからには命を狙われる可能性は常にあって当然ではある。イアンには歳の離れた弟王子も居るし、他にも王位継承権を持つ王族は幾人も存在している。
その中のいずれかが狙った可能性も無きにあらずだが、現状では王太子派以外に敵対する様な大きな派閥は存在していない筈だ。特に現王の治安する世代になってからは、外交も良好で我が国は戦争も無く平和な時代を送っている。
「実は心当たりが無くもないのだけど……カティは今居るかしら?」
エレノアが見知らぬ誰かの名前を呼ぶや否や、どこからともなく若いエルフの青年が姿を表した。
アマンダと同じく真っ赤な髪が印象的なとても美しい青年で、片耳にはキラリと光るクリスタルのピアスをしている。服装はローブではないがアマンダと同じく全身黒色で纏めたのか、シンプルなシャツとズボン姿だ。
「……ボクはここ。エレノア会いたかった」
カティという青年は、エレノアを見つめながら少し寂しげな表情を浮かべて微笑んだ。
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