完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな

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第二章

ザッカリーの行く末

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「なんでオレだけこんな目に遭うんだよ! 不公平だ!!」

 炭鉱の町『シーア』にある酒場の隣り。そこに隣接するこの店は、あるマニア層には大変人気の高い店だ。小さな店ながらも毎日大盛況で時には予約も取れない程だ。客層は観光客を中心に貴族達の姿もチラホラ。

「ザッカリー、またお前に貴族様からご指名だぞ」

 控室に居たザッカリーは嫌そうに顔を歪めるが、どんなに文句を垂れようが抵抗しようが有無を言わさず客の元へと連れていかれるので今では諦めて従う事にした。一見、普通のボーイの様に見えるが実の正体はオレの監視として付けられている近衛兵なのだ。

 渋々椅子から立ち上がり、足元に広がるドレスの裾を直す。そう、オレはドレスを着ているのだ。それも身体にピッチリとしたタイトなロングドレス。髪もオシャレに結い上げてジャラジャラとした安物のヘアアクセサリーを付けてパンプスを履いている。勿論化粧だってバッチリだ。

「……今度は誰だよ」

 ここはいわゆるゲイバーだ。オレはてっきり親父と共に炭鉱で働かされると思っていたのだが、同じ炭鉱の町には居るものの何故かオレだけこのゲイバーへと放り込まれた。嫌がるオレを無視し、こうして毎日女装させられ客の相手をさせる。これがオレへ下された処分だった。

 連日の様に訪ねて来るのは親父と一緒に馬鹿にしていた格下の貴族連中ばかり。オレの姿を見て笑いものにしては楽しそうに帰って行く。くっそ、毎日毎日マジでムカつく! なんでオレがこんな目に遭わなきゃいけないんだ。

 先日は王太子を引き連れたタクトが訪ねて来たが、アイツはオレを笑う事は無かった。というか、可哀想なモノでも見る様な憐れんだ目で見やがって、帰り際には「ま、頑張れ?」という一言を残して去って行きやがった。最高にムカつく奴だ!!

「いらっしゃいま、せ…………」

 案内されたボックス席へ着くとそこには漆黒色の癖のない髪に眼鏡を掛けた男が足を組んで座っていた。

「……げ」

 思わず漏れたオレの声に顔を上げたジョエル・ネリネは冷たい表情のままオレの姿を上から下まで一瞥して「ふ~ん」と呟いた。タクトの事も相当気に入らないが、このジョエルはオレよりも格下の癖に昔から生意気で一番会いたくない相手だった。しかも格下の癖にアーサー殿下の側近の座におさまっているのが尚更気に入らない。

「何しに来たんだよ、さっさと帰れ」
「……あ、店員さーん。この従業員さん暴言吐くんですけど~」
「なっ!? ち、ちげーよ、ちゃんとやってるよ!! あ、お客さん何か飲みますか?」

 慌てて取り繕って笑顔を向けたオレに「……きもっ」と嫌そうに返してくるジョエルを殴りたくなる。オレだって好きでやってる訳じゃない。ちゃんと接客しないと食事を抜かれるんだよ! 美味くもない飯だが腹が減るのだけは耐えられない。

「いや、ただからかいに来ただけだから。顔も見た事だしもう帰るよ」

 からかいに来ただけだと!!

「あ……二度と社交界に戻れるなんて事はないから。というより、この町から君達は出れる事なんてないから。一生自由のない生活を楽しむといい」

「っ!?」
「それじゃあ、ね。もう会う事もないだろう」

 自分の言いたい事だけ言ったジョエルは大量の金貨を支払って店を出て行った。その金貨の山を見ながら、どれだけ沢山オレが稼いだとしてもその金は手元には入らないのだと思い知る。オレに与えられるのは粗末な雑魚寝するだけの部屋と美味くもない食事だけ。貴族だった頃の様に好き勝手に物を買う権利すらない。

 オレはそれだけの事をしたって事なのか……? 初めて自分達のしでかした事の大きさを感じた。
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