悪役令嬢に転生かと思ったら違ったので定食屋開いたら第一王子が常連に名乗りを上げてきた

咲桜りおな

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本編

ロブ殿下の想い

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「ご馳走さま。アリーの料理はいつも美味しいね」
「ありがとう御座います」

 ロブ殿下とブラッドも食事が終わり、厨房に居たわたしに声を掛けて来た。

「今日はもう終わりかい? 帰るのなら家まで送らせてくれないか」
「あ……でも、まだ片づけとかあるので……」

 それに買い物に出ているロマノとケイトの帰りもまだだ。

「送って頂いたらどうですか、お嬢様。後の事はわたしがしておきますので」
「え、でも……」
「ロビウムシス殿下、お嬢様の事お願い致します」

 会計をしていたベッキーがわたしにそっと耳打ちをする。

「殿下は何か大事なお話があるみたいですよ」
「え……」

 ベッキーに促されて、ロブ殿下のお言葉に甘える形で用意された馬車へと向かうと既にブラッドが扉を開けて待っていた。わたしと殿下が乗り込むと、ブラッドは扉を閉めて御者台へと向かった。その様子にわたしが戸惑っているとロブ殿下がわたしの手を取った。

「ブラッドには席を外して貰ったんだ。少し二人きりで話がしたかったから」
「そうなんですか……」

 何のお話だろう。朝の雰囲気と違って、ロブ殿下の表情が少し硬い様に感じる。昼間になにかあったのだろうか。

「……アリー。今日、陛下から私に命令が下された」
「はい……」
「長らく不在だった私の婚約者を正式に決める様にと言われた」
「っ!」
「今日、隣国からリップル王女が一年間の留学をしに我が国へとやって来たのは知っているかな?」
「噂は聞いております……」

 リップル王女の名前が出て背筋が冷える気がした。いよいよ、ゲームのシナリオが動き始めたという事だろうか。

「リップル王女は私の婚約者候補となった」
「……そうですか」

 こうしてわざわざ話をするという事は、わたしへの求婚を取り消されるのだろうか。胸の奥がツンと痛み始める。自然と視線は下へと落されていく。

「期限はリップル王女の留学期間が終わる迄の一年間。この間に正式に婚約者を決めなければならない」
「…………」
「私はゆっくり時間をかけて、アリーを口説こうと思っていたのだがそうもいかなくなった。だからアリーにも急かして悪いが本気で私との事を考えて貰いたい」
「え……?」

 予想していた言葉とは違ったので驚いてロブ殿下の顔を見つめた。

「わたしの事は無かった事にされるのでは無いのですか?」
「何故そうなる……私のアリーへの想いに嘘偽りはないよ」
「ですが陛下がお決めになられたのはリップル王女さまですよね」
「現時点でリップル王女は候補の一人にすぎない。陛下は私がアリーを愛している事を昔から知っている。クリスとの婚約が解消されて、私がアリーに求婚した事から今回の話が浮上したんだ」
「えっと……いまいちお話が分からないのですが……」

 何故このタイミングでこんなにも一気に話が動いているのかよく分からない。

「あぁ、そうだよな。説明不足だったな……そもそも、クリスがアリーと婚約をしたのはクリスの我儘から始まった事だ」
「どういう事ですか?」

 ずっとクリス殿下がわたしとの婚約を希望した理由が分からなかったけど、ロブ殿下はそれを知っているって事なのかしら。

「本当は私がアリーに婚約を申し込む筈だった」
「……え」
「私は十歳になっていたので、そろそろ婚約者を……という話が持ち上がってね。そこで私はアリーを婚約者に迎えたいと両陛下に申し出たんだ」
「ええっ!?」
「それを聞いたクリスが兄上は王太子の座も何でも持っているのだから、アリーくらい譲れと駄々をこねて聞かなくて。王妃陛下からも“お兄ちゃんなんだから、弟に譲ってあげなさい”って言われたよ。あの人はクリスには甘いからね」

 出来の悪い子ほど可愛いとはよく言うもので、王妃陛下もやんちゃで困ったちゃんのクリス殿下に甘い事はわたしも知っている。ロブ殿下は幼い頃から大人びた方だったから、無茶な要求も受け入れるしかなかったのだろう。

「私はクリスにアリーを幸せにすると約束をさせたのだが……現状はどうだ。結局アイツはアリーを大切にはしなかった。アリーの事は友人として好いてはいる様だが、ただ自分の幼馴染が私に取られるのが嫌だっただけだ」
「そうだったんですか……」

 クリス殿下の性格を知ってるだけに、苦笑いするしかなかった。そんな理由でわたしを手元に置いたけどココレシア嬢と出会って恋をしてしまい、結局はわたしとロブ殿下は振り回される形となってしまったのね。

「クリスには、自分が招いた過ちについて後程責任を取らせる」
「は、はい……」
「ただ、私にも落ち度はある。今まで婚約者を置かなかったのも、私がアリーを諦めきれなくて我が儘を通して貰っていたのだからな。どちらにしてもアリーが学園を卒業したら、婚約者を決める事になっていたんだ」

 やけに王女の留学がタイミング良いと思っていたら、このタイミングでの王女の留学は既に決まっていたという事なのね。わたしは学園を卒業したらすぐにクリス殿下と婚姻を結ぶ事になっていたから、そうなればロブ殿下はわたしの事を諦めるしか無くなり、リップル王女と婚約をする事になっていたのだろう。だけど、わたしはクリス殿下と婚約を解消した。かなりギリギリなタイミングであったけど。

「アリー、私は君に恋焦がれている。自分でも情けない程に必死だ。王家の力を使えば無理矢理婚約を結ぶ事は出来るが、そうはしたくない。君にはもう二度と、望まない婚約を強いたくないんだ」
「ロブ殿下……」
「今アリーが自分のやりたい事に挑戦していて、頑張っているのも分かってはいるんだ。それを応援したい気持ちも本当だ。だけど、私の手を取って欲しいと願う気持ちも消す事が出来ない。かっこ悪くあがいてる自分に呆れてしまうよ……」
「そんな……ロブ殿下はいつだってカッコいいです」

 わたしの言葉にふっ、と悲しそうに微笑まれる。そんな顔されると、わたしまで悲しくなってきてしまう。

「わたし、ちゃんとロブ殿下のお気持ちに向き合って考えます。すぐにお返事は出来ないと思いますが、お待ち頂けますか?」
「うん、期限はまだ一年あるからその間に答えを出してくれたら良いよ」
「はい……」
「ごめんね、本当は凄く困っているんだろう?」
「それは……だって……嫌いじゃないから…………求婚して下さったのは凄く嬉しく思っています」

 嫌いだったらこんなに困ったりしない。恋愛感情かどうかは分からないけど、わたしは昔からロブ殿下の事は好きだ。だからこそ、こうしてアプローチされるとどうして良いのか分からなくなってしまう。クリス殿下相手だとこんな風にはならないのにな……。

 わたしの手を握るロブ殿下の手が、ぎゅっと力が込められた。

「少しは、私の事……好きだったりする? ほんの少しだけでも、一人の男性として見てくれてる?」
「っ…………は……い」

 消え入りそうな程の小さな声でしか答える事が出来なかった。胸が苦しすぎて、息が詰まりそうだ。ロブ殿下はわたしの手に愛おしそうにキスを落し、優しく瞳を細めて微笑まれた。

「今はそれだけでも凄く嬉しいよ、私を意識してくれてありがとうアリー」
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