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本編
道は分かれても続いていくという事
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舞踏会も終わり、また今日から忙しい仕事の始まりだ。リップル王女が我が国へとやって来てから、ロブ殿下の朝のお迎えは無かった。店の方には食事には来られていたけど、それも時折公務で来られない日もあった。今日は久々に朝からロブ殿下が迎えに来られた。
「おはよう、アリー」
「ロブ殿下……おはよう御座います」
昨日の今日で、顔を合わせるのが何だか照れ臭い。ロブ殿下はいつもの様に手を差し伸べてくれる。胸がぎゅっと苦しくなりながら、わたしはその手に自分の手を乗せる。
「っ……」
ロブ殿下の手に触れた途端、心臓が激しく鼓動する。真っ赤になりながら殿下にエスコートされて馬車へと乗り込むわたし。わたし達は隣同士に座って、ただ黙って手を繋いでいた。チラッと殿下の横顔を覗き見すると、殿下の耳がとても赤かった。……殿下も緊張されてる? そう思うと何だか嬉しくなって、自然と頬が緩んでしまう。
馬車が店の前に着くと、ロブ殿下は名残惜しそうに目を細めてわたしの事を見つめる。あぁ、この瞳をわたしは知っている。昔から殿下はわたしの事をこんな表情で見ておられた。なんで今までロブ殿下のお気持ちに気付かなかったのだろう……ずっと殿下はわたしの事を大切に想って下さってたのだわ。
「じゃあ、また後で来るからね」
「はいっ」
殿下を乗せた馬車を見送っていると、店の中からグレン様が姿を見せられた。
「おはよう、アリエッタ」
「グレン様!?」
ヴァイオレットお姉様の婚約者であり、この定食屋の経営者の一人であるグレン様が店に顔を出されるのはリニューアルオープン以来だ。
「開店準備の前に少し話があるんだ、二階へ来てくれるかい?」
「はい」
グレン様に続いて店の二階にある店主専用の部屋へと入った。質素だけど、小さな応接テーブルもある。そのソファーへ促されて、グレン様と向かい合う形で座る。
「昨夜、正式にアリエッタがロブの婚約者候補と発表された事により、君には王家から護衛を付ける事になった」
「あ……だから今朝はウチの護衛が居なかったんですね」
普段から姿を消す様にわたしにはネリネ侯爵家の護衛騎士が付いてはいたのだが、今朝はいつも感じる筈の護衛の魔力気配が感じられなかった。
「今朝からは暗部の者が数名、君に張り付いている。アリエッタは魔力の気配を察知出来るらしいが、どうだ分かるか?」
グレン様に言われて魔力の気配を探ってはみるが、見知らぬ気配は感じられない。
「いいえ……分かりません」
「だろうな。だが、片時も離れずに君の傍に居るので、何か危険を感じた時は遠慮せず呼ぶ様に」
「わかりました」
「まぁ、君が危険を察知する前にその危険因子を取り除くのが彼らの仕事だから実際は呼ぶ様な事態には陥る事はないと思う。安心するといい」
暗部って何だか凄い人達なんだろうな……わたしには想像すら出来ない感じだ。それにしても、婚約者候補になっただけでこれ程の待遇を受けるとは……。
「それから、この店での仕事の事だが……」
「……」
もしかしたら……と懸念していた事に触れられて、身体に緊張が走る。
「正直言うと王太子妃候補となった人物が、この仕事を続けていくのは無理だと思う」
「…………は……い」
「これから王太子妃候補として王宮へ行く用事も増えるだろうし、遅かれ早かれこの店での仕事を辞めなければならない筈だ」
グレン様の言葉に何も反論は出来ない。どれも当たり前の事を言われているからだ。元々はそんなつもりで始めた訳じゃないけど、それでもロブ殿下の手を取ってしまったわたしは何も文句は言えない。自分が選んだ道だ。
「だが…………アリエッタの料理は確かにどれも美味しく、素晴らしいものだと思う。だから君のその腕をロマノに叩き込んでやってくれないか?」
「え……?」
「いわゆる“引き継ぎ”だ。店を辞めた後も、思いついた料理があればレシピをロマノへ届けてやってくれ。アドバイザーとしてこれからは携わってくれたら、と思っているがどうだ?」
思ってもいなかった提案にわたしは驚いた。そして、わたしの事を思って下さった配慮に感謝しかない。
「わたしの為に優しい配慮をして頂いてありがとう御座います……誠心誠意心を込めて引き継ぎをさせて頂きます!」
わたしはグレン様に頭を下げた。グレン様は厳しいお方ではあるけど、その分お優しい。素敵なお義兄様を持てて、わたしは幸せ者だ。
その日からわたしとロマノの特訓の日々が暫く続いた。思いつく限りのメニューを紙に書いてロマノへと手渡す。これからもこの店に、そして料理に携わる事が多少でも出来る事が幸せでならなかった。そして、あと一つ……前から気になっていたけど、店に取り入れられてない事があったので、わたしは最後にそれに取り掛かる事にした。
「おはよう、アリー」
「ロブ殿下……おはよう御座います」
昨日の今日で、顔を合わせるのが何だか照れ臭い。ロブ殿下はいつもの様に手を差し伸べてくれる。胸がぎゅっと苦しくなりながら、わたしはその手に自分の手を乗せる。
「っ……」
ロブ殿下の手に触れた途端、心臓が激しく鼓動する。真っ赤になりながら殿下にエスコートされて馬車へと乗り込むわたし。わたし達は隣同士に座って、ただ黙って手を繋いでいた。チラッと殿下の横顔を覗き見すると、殿下の耳がとても赤かった。……殿下も緊張されてる? そう思うと何だか嬉しくなって、自然と頬が緩んでしまう。
馬車が店の前に着くと、ロブ殿下は名残惜しそうに目を細めてわたしの事を見つめる。あぁ、この瞳をわたしは知っている。昔から殿下はわたしの事をこんな表情で見ておられた。なんで今までロブ殿下のお気持ちに気付かなかったのだろう……ずっと殿下はわたしの事を大切に想って下さってたのだわ。
「じゃあ、また後で来るからね」
「はいっ」
殿下を乗せた馬車を見送っていると、店の中からグレン様が姿を見せられた。
「おはよう、アリエッタ」
「グレン様!?」
ヴァイオレットお姉様の婚約者であり、この定食屋の経営者の一人であるグレン様が店に顔を出されるのはリニューアルオープン以来だ。
「開店準備の前に少し話があるんだ、二階へ来てくれるかい?」
「はい」
グレン様に続いて店の二階にある店主専用の部屋へと入った。質素だけど、小さな応接テーブルもある。そのソファーへ促されて、グレン様と向かい合う形で座る。
「昨夜、正式にアリエッタがロブの婚約者候補と発表された事により、君には王家から護衛を付ける事になった」
「あ……だから今朝はウチの護衛が居なかったんですね」
普段から姿を消す様にわたしにはネリネ侯爵家の護衛騎士が付いてはいたのだが、今朝はいつも感じる筈の護衛の魔力気配が感じられなかった。
「今朝からは暗部の者が数名、君に張り付いている。アリエッタは魔力の気配を察知出来るらしいが、どうだ分かるか?」
グレン様に言われて魔力の気配を探ってはみるが、見知らぬ気配は感じられない。
「いいえ……分かりません」
「だろうな。だが、片時も離れずに君の傍に居るので、何か危険を感じた時は遠慮せず呼ぶ様に」
「わかりました」
「まぁ、君が危険を察知する前にその危険因子を取り除くのが彼らの仕事だから実際は呼ぶ様な事態には陥る事はないと思う。安心するといい」
暗部って何だか凄い人達なんだろうな……わたしには想像すら出来ない感じだ。それにしても、婚約者候補になっただけでこれ程の待遇を受けるとは……。
「それから、この店での仕事の事だが……」
「……」
もしかしたら……と懸念していた事に触れられて、身体に緊張が走る。
「正直言うと王太子妃候補となった人物が、この仕事を続けていくのは無理だと思う」
「…………は……い」
「これから王太子妃候補として王宮へ行く用事も増えるだろうし、遅かれ早かれこの店での仕事を辞めなければならない筈だ」
グレン様の言葉に何も反論は出来ない。どれも当たり前の事を言われているからだ。元々はそんなつもりで始めた訳じゃないけど、それでもロブ殿下の手を取ってしまったわたしは何も文句は言えない。自分が選んだ道だ。
「だが…………アリエッタの料理は確かにどれも美味しく、素晴らしいものだと思う。だから君のその腕をロマノに叩き込んでやってくれないか?」
「え……?」
「いわゆる“引き継ぎ”だ。店を辞めた後も、思いついた料理があればレシピをロマノへ届けてやってくれ。アドバイザーとしてこれからは携わってくれたら、と思っているがどうだ?」
思ってもいなかった提案にわたしは驚いた。そして、わたしの事を思って下さった配慮に感謝しかない。
「わたしの為に優しい配慮をして頂いてありがとう御座います……誠心誠意心を込めて引き継ぎをさせて頂きます!」
わたしはグレン様に頭を下げた。グレン様は厳しいお方ではあるけど、その分お優しい。素敵なお義兄様を持てて、わたしは幸せ者だ。
その日からわたしとロマノの特訓の日々が暫く続いた。思いつく限りのメニューを紙に書いてロマノへと手渡す。これからもこの店に、そして料理に携わる事が多少でも出来る事が幸せでならなかった。そして、あと一つ……前から気になっていたけど、店に取り入れられてない事があったので、わたしは最後にそれに取り掛かる事にした。
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