異世界で料理を振る舞ったら、何故か巫女認定されましたけども——只今人生最大のモテ期到来中ですが!?——(改)

九日

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第2章

5話―やっぱり男飯はガッツリ系に限ります。

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「うーん……どうしようか……」

 ここは王都にあるアルクさんの住まいの厨房である。
 彼とソラ、あとはハワード様の計らいで、私達はようやく王城の一室での軟禁生活から解放された。
 までは良かったのだが……。

 今の悩みの種はもちろん昼食だ。
 どうしてこうなったのか、ハワード様とアルクさんの上司三名に手料理を振る舞う事になったのだ。

「確かに料理得意って言ったけどさ! いつでもご馳走するって言ったけどさぁ!!」

 こんないきなりありますか??
 王族に出せる料理なんて知らないよ!!

「えみ様困ってます……ホルケウ様、どうしましょう」

 頭を抱えウロウロと厨房内を歩き回る私を見て、ワサビちゃんが心配そうにソラへ助けを求めている。
 そんな主と配下に小さく溜め息を吐き出しながら、ソラはやれやれと言わんばかりに口を開いた。

「そんなに難しく考える事はなかろう。あやつらはえみの国の料理を欲しているのであろう? えみが普段から食しているような物で良いのではないか?」
「え?」
「あやつらには何が特別でどれが庶民の味かなどわかるまい。ならば、えみが知っている得意な物でかまわぬのではないか?」
「……なるへそ」

 言われてみればその通りだ。特別なものを作れだなんて一言も言われて無い!!
 勝手に凄いもの出さなきゃって頭になってたよ。

「そうだね! ソラ、ありがとう!! それなら良いのがある!」

 ソラの助言のお陰で閃いた。
 私はともかく、騎士の皆さんは午後からもお仕事があるだろうし、男子飯と言えばお肉たっぷりのガッツリ系でしょう!
 という訳で、今回は牛丼にします。
 これなら掻き込めるし、調理にそれ程時間も掛からない。忙しいアルクさん達にピッタリでしょう。

「ワサビもお手伝いします!」
「うん!   お願いね」

 ソラが怖いのか、一向に厨房へ入ってこないシェフやメイドさんから調理器具の場所や使い方を簡単に教わり、早速調理を開始する。
 時間が惜しいので、材料はポーチから出す事にした。
 お米をといでいる間に、玉ねぎの処理をワサビちゃんにお願いする。何個もある玉ねぎの皮を剥いて貰ったのだが、一つずつするのかと思いきや、なんと風魔法で小さな竜巻を起こして一度に綺麗に剥いてしまったのだ。

「ワサビちゃん凄い!! いつの間にそんな事出来るようになったの!?」

 えっへんとばかりに小さな胸を張るワサビちゃんに、思わず頬が緩んだ。
 土鍋に米をセットしたところで今度は玉ねぎを切ろうとすると、ソラが見えないナイフを振り回すかのように風の刃で見事な薄切りにしてくれた。スライサーでカットしたみたいに薄くて均等で、しかも一瞬。流石、精霊と聖獣はレベチだ。
 なんか力の使い方間違ってる気がするけども。

「二人ともありがとう! 風の魔法って凄いね!!」

 二人ともよっぽど我慢してたんだね。確かに城での生活は窮屈で退屈だったもんね。
 これからは美味しいもの沢山作ってあげよう。

 大きな鍋を二つ借りて薄切り肉を炒めていく。火を使うのでここからは私の仕事だ。
 とは言え、このサイズの大鍋を二ついっぺんにはさすがに無理だな。そう思い諦めかけた時、入り口から声が掛かった。

「手伝おうか?」

 驚いて振り返ると、なんとそこにはレンくんの姿があるではありませんか!

「レンくん!!」

 久しぶりの再会が嬉しくて、思わず駆け寄ってしまった。

「どうしてここに!?」
「アルクさんはオレの身元引受人だからな。まだ見習いだから城の宿舎にも入れないし、ここで世話になってるんだ」
「そうなんだ! 作る量が多くて困ってたから、手伝ってくれるなら助かるよ!」

 レンくんが手伝ってくれたら百人力だ。
 何よりも見知ってる人が来てくれて、安堵感が半端ない。
 片方の鍋を彼に託し、やる事は一緒なのでとにかく真似して貰う。

 並んで調理をしながら、このお屋敷が大騒ぎになっていた事を知った。
 いくら幼馴染とは言え、いきなりこの国の皇子がやって来たのだ。しかも騎士団のトップオブトップを引き連れて。
 聞けば十個隊ある騎士団の中で、第一師団長のウォルフェンさん(爽やかマッチョ)、第二師団長のルーベルさん(スレンダーなメガネ男子)、そして、第三師団長のアルクさんは、団長の中でも別格なんだそう。
 さらに、それら十ある隊の全てを監督するのが総隊長のローガンさんなのだそうだ。
 聞いてるだけで頭がこんがらがってしまいそうだが、とにかく騎士団の中でも特に強くて凄い人達が、皇子と一緒になんの先触れもなくやって来たのだ。
 それは大騒ぎにもなるか。
 おまけに異世界人に進化した精霊と四聖獣付きときたもんだ。
 ……それは大騒ぎにもなるよねぇ……。
 大変申し訳なく思いながら、目の前の大鍋を見つめる。
 そんな人達に日本のファーストフードである牛丼なんて出していいものかどうか、今更ながら不安になって来た。

「えみ? どうかした?」
「え? ううん! 何でもないの!! そろそろ調味料入れようかなぁって」

 玉ねぎがしんなりしたところで水と白だし、万能調味料のめんつゆを加える。これでご飯が炊けるまで煮込めば良い。
 あとは味噌汁と葉物で和え物を作れば簡単な昼食の完成だ。
 お米が炊けて厨房内に良い匂いが充満してくると、ソラの尻尾が大暴れしている。ここで尻尾を振り回さないようにお願いしたところで、入り口からシェフの皆さんやメイドさん達がチラチラとこちらを伺っているのに気が付いた。
 良い匂いがして来たから、何が出来上がるのか気になって仕方ないんだろう。
 ポーチから紅しょうがを取り出しスタンバイすると、私は思い切ってそちらへ声を掛けた。

「あの、盛り付けを手伝ってもらえませんか?   あと私、偉い方々に給仕をしたことがないのでお願い出来ませんか?」

 そう言うと流石皆さんプロですね! 瞬時に盛り付けの担当と給仕係に別れ、あっという間に配膳されていった。
 ソラとワサビちゃんの分を盛り付けて二人に渡し、私も慌てて後を追った。



 結果的には皆さんとても喜んでくれました。
 こちらの世界にはやっぱり丼ものが無いそうで、見た事も聞いた事も無い料理に、感心したり唸ったりしながら美味しそうに完食してくれたのだ。
 とりあえず「こんなもん食えるか!!」って言われなくて良かった。

「お口にあって良かったです!」

 よほど満足したのか、ハワード様からは城の料理人に調理指導してくれないかと言われたが、丁重にお断りした。
 出来ればもうお城に近づきたくなかったのと、アルクさんから黒いオーラをひしひしと感じたからだ。

「不思議なものですね。なんだか身体中から力が漲ってくるようです」

 ルーベルさんが自分の両手をまじまじと見つめている。

「それがえみの魔力です。彼女の魔力には人の中に眠る力を呼び覚ます効力があるようなのです。そのおかげで、勇者になりうる少年の存在を知ることが出来、更にレンや私の魔力も覚醒しました」

 え?   アルクさんも??   うそ!!

「稀にみる精霊の進化をもうんだ訳か。……確かに底が知れんな」

 ウォルフェンさんが難しい表情を浮かべている。

「ですが、えみ自身魔法を使える訳ではないのです。彼女の料理を食べた者だけに影響を与えるようで」

 会話の邪魔をしてはいけない気がして、空になった食器を下げながら聞き耳を立てる。

「そこだ。オレが引っ掛かったのはそこなんだ」

 ハワード様が引き受ける。

「その力を利用すれば、特に魔力の高い者を見つけ出す事が出来ると思わないか?」

 全員の視線がハワード様へと向けられた。突拍子もない事に私も含めて皆唖然としている。

「えみ殿の力でアルクのような覚醒者を出す……と言う事ですかな」

 ローガンさんの鋭い視線がハワード様へ突き刺さっている。私ならとても耐えられないが、ハワード様はその睨みを受けてニヤリと口元を歪めている。マゾなんかな?

「それは……難しいのでは?   対象がこの国の人間全てになってしまいます」
「確かにそうですが、それこそ勇者殿の案件を艦みれば、場所はある程度特定されるのでは?」

 ウォルフェンさんとルーベルさんが議論を重ねていく。
 魔物が魔力の高い人間を狙うというのを逆に利用するという事か。
 確かにシャルくんのような人がいる可能性は高いと思うけど……。

「直近で襲撃を受けた街や村を中心に、調査を行うための派遣部隊を組織する。そのメンバーにえみも加わってもらいたい」

 ハワード様の真っ直ぐな視線がこちらへと向けられた。

「私、ですか……」

 やっぱりそうなりますよねー。

「上手くいくでしょうか?   遠征先で炊き出しをすると言う事ですよね?   対象の人が来てくれなければ意味が無いですし、皆さん私の料理を食べてくれるとは限らないと思いますが」
「確かにそうですね。その辺は検証の余地があります。ですが、魔力の高い人間の側に精霊がいると仮定するのであれば、ある程度対象を絞る事は出来るかもしれません。……仮定の域は出ませんが」

 ルーベルさんも腕を組みながら考えてる様子。
 というか、私が行く事はもう決まっているかのようですね。

 とその時、今まで静観していたアルクさんが椅子を鳴らして立ち上がった。

「待ってください!! えみに最前線へ行けと言うのですか!?   確かに『黒の巫女』だが、一般市民だぞ!! 危険すぎる!!」

 アルクさんとハワード様の視線が交わった。
 一気にその場に緊張が走る。

「今君の個人的な意見はいらない。団長としての意見は?」

 少しの間、にらみ合いが続いてアルクさんが重い口を開く。

「……第三が出ます。ただし、人を厳選し少人数で。調査が目的なら大人数よりも少人数の方が動きやすい。巫女殿の護衛にも戦力を集中出来ます。まず最優先にすべき地域を絞り、派遣は交代制に。兵の疲弊と戦意の低下を防ぎます。私の部隊ならすぐにその編成が可能です」
「いいだろう」

 ハワード王子が満足そうに頷いた。

「人選は私にお任せ頂きましょう」

 ローガンさんがどことなく嬉しそうにしている。
 アルクさんは全身から力が抜けてしまったかのように椅子にどっかりと腰を落とした。表情は見えない。

「明日の会議でこの案を通す。正式な発表がされたのち、改めてえみに通達する。心の準備をしておいて欲しい」

 結局そのままハワード様が締め、作戦会議はお開きになった。
 三人の団長さんはそれぞれ愛馬で、ハワード様は乗ってきた馬車で城へと帰って行った。
 アルクさんも自分の馬で団長さんたちと一緒に行ってしまったので、結局話は出来なかった。

 こうして戦いの為の準備が着々と進んでいくのだった。
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