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第2章
8話―懐かしい顔と新しい出会いに乾杯したい気分です。
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翌日、アルクさんは朝早く城へと向かった。恐らく今日で結果が出るのだろう。
ハワード様は一度言い出した事をほぼほぼ実現させる人のようだから、私の遠征参加は決まったようなものだ。
まぁ、でもその方が良いのかもしれない。下手に王都に残って監視されるよりかは、アルクさんやシャルくんと一緒にあちこち回る方が気は楽だ。ソラにもワサビちゃんにもご飯作ってあげられるし。危険度は比べものにならないだろうけども。
となれば、今の私に必要なのは、やはり新しいメニューの開発だろう!
どうにか交渉してここでも厨房を自由に使わせて貰えるようにしなければ……。
そんな事を考えていた時だった。
部屋の扉がノックされたのだ。
「はぁい」
すっかり私の専属メイドになりきったワサビちゃんが、パタパタと扉へ走って行く。
二言三言会話するような声が聞こえたかと思うと、パタパタ戻って来る。
「えみ様。お客様です」
「お客様?」
「お客様ではなく、専属のメイドです」
そう言いながら入ってきたのはオレンジがかったブロンドの髪にアメジスト色の瞳をしたメイド姿のナイスバディ。
「メアリ!?」
そう。アルカン領のお屋敷で一緒に過ごしたメアリ……に見えたのだけど。
「いいえ。えみ様。私は…——」
「メアリはこっちよ!」
その後から入ってきた元気な少女こそ、懐かしい顔その人だ。
「メアリ!!」
「えみ!!」
実際は久しぶりという程でも無かったのだが、軟禁生活が長かったから久々に思える。
見知った顔との再会が嬉し過ぎて、思いっきり抱き合った。
「ビックリした!! どうしてここに?」
「えみ様に寂しい思いをさせたくないとのアルク様の命により、私がお連れしたのです」
入り口には銀縁メガネがよく似合う、ハインヘルトさんが立っている。
相変わらずの忍者っぷりですね。
「じゃぁまた一緒に?」
「そういうこと!」
メアリとまた一緒に過ごせるなんて、本当に嬉しい。
心細い日々が続いていたせいか、なんだか涙が出て来そうだ。
「待って。そちらの方は?」
そう。メアリに瓜二つのこっちの少女は、もしかして……
「メリッサと申します。メアリの双子の妹です。私もえみ様のお世話をさせて頂きますので、よろしくお願いいたします」
双子!? メアリって双子だったんだ!!
どうりでよく似てると思った。
元気なイメージのメアリとは正反対の、清楚で大人しそうなイメージだ。
「メリッサさん。これからよろしくお願いします」
「はい」
「では、私はこれで」
「ハインヘルトさん、ありがとうございました!!」
「礼ならアルク様に」
そういうとふっと表情を崩し、一礼してから部屋を出ていった。
その後をメリッサさんが追っていく。多分見送りだろう。
私も行こうとすると、メアリに止められた。
「えみは行かなくていいよ。目に毒だから」
え? 見送りが目の毒って……どういう意味?
「にしても、この子がワサビとはね! また色々やらかしてるみたいね~」
カラカラと笑いながらワサビちゃんをなでなでするメアリ。
ワサビちゃんは嬉しそうにニコニコしている。
やらかしたくてやってる訳では決してないんだけど。何故かそうなってしまうのだ。
そこのところ、間違えないで頂きたい。
「それに、とうとう婚約したって?」
「ちがっ…——! それは!」
もう! 分かってるくせに!!
ニヤニヤしながら肘でつつくな!
「わかってるわかってる! ハインヘルト様から事情は聞いてるし。でもそのつもりで過ごしていた方がいいのよね?」
「そりゃまぁ……そうなんだけど……」
「奥様って言われる練習しておく?」
「やっ、やめてよ!! ……もう!」
思わず狼狽えてしまう……。
本当にプロポーズされたなんてバレた日には、領地からナシュリーさんがすっ飛んで来そうだ。
絶対メアリにもバレないようにしなくては!!
「でも、それならあの二人を見習ったらいいわ」
「あの二人って?」
「メリッサとハインヘルト様に決まってるでしょ?」
え? どういう事?
不可解な顔をしていた私と人の悪い笑みを浮かべたメアリの視線が交わる。
「あの二人、夫婦なのよ」
「へ……?」
ええええええええええええっっ~~~
思いもよらない事実に、私の叫びが屋敷中にこだまするのだった。
結婚して三年経つのに未だにラブラブなのよ。見送りの時なんか周りが目に入らないくらい二人の世界で、逆にこっちが居たたまれなくなるくらいよ。
そんなメアリの話を聞いて半信半疑になるのも無理はない。
普段のハインヘルトさんからは想像もつかないもの。全然。全く。
想像がつかないから見てみたくもなるが、俄かには信じられない。
興味半分、怖さ半分と言ったところだ。
メリッサさんが戻るのを待って、二人に今の私の状況を説明した。
近々調査隊が編成される事、その遠征部隊に私も加わるであろう事、アルクさんが猛反対してくれている事、ツェヴァンニ大臣が天敵である事、レシピノートの事など諸々。
「という訳だから色々試作品を作りたいんだけど……このお屋敷の厨房は借りられるかな」
先日のアルクさんの上司の方々をおもてなしした時は、皆んなソラを怖がって近づきもしなかったけど。
おまけに今の私は仮とはいえ、アルクさんの婚約者だ。貴族のお嬢様は自ら厨房に立ったりはしないだろう。
「それなら、まずここの人達の胃袋をがっちりつかんじゃいましょ」
そういってウィンクするメアリ。
なんとなく不安に思いつつ、早速皆んなで厨房へと向かった。
奥様に料理などさせられませんと、やはり料理長から断られてしまった。
まだ奥様じゃありません!! と反論し損ねた私に代わって、これは私のお役目の為でもあるのだと、メアリとメリッサさんが説得してくれて、なんとか使わせてもらえる事になったはいいけど……。
「すっごい見られててやりにくい!」
私たちをぐるりと取り囲むようにシェフの皆さんに周りを囲まれ畏縮してしまう。
監視カメラより監視されてるな。こりゃ。
「気にしない気にしない! で? 何作る?」
久々で嬉しいのか、瞳をキラキラと輝かせたメアリが張り切っている。
そんな彼女に苦笑しながら私は小麦粉を取り出した。
「まずはおやつを定着させるわ。甘いものがない世界なんてありえないもの!!」
歓喜の声をあげるメアリと、ハテナが浮かんだメリッサさんの対比が面白くて思わず笑ってしまう。
「賛成!! 小麦粉大好き!!」
勝手知ったるメアリは頼もしい。何も言わずとも必要な道具を揃えだす。
ワサビちゃんも卵やバターを準備してくれている。うん! 流石私の右腕だね!!
「今日はパウンドケーキを作りたいと思います!」
「きゃー! 名前だけでも美味しそう!」
「えみ様のケーキ大好きです!」
メアリとワサビちゃんは二人で盛り上がっている。
困惑顔のメリッサさんにフルーツやナッツなど揃えてもらう。
監視カメラの如く周りを囲んでいたシェフの皆さんの円が少しずつ狭まってくる。
見たことのないであろうバターやボウル、泡立て器なんかの器具がきっと気になっている事でしょう。
が、禁甘を強いられていた私としては一刻も早くおやつにありつきたいので、その視線は今はまるっと無視します。
こうして久しぶりのクッキングは超監視下のもと始まったのでした。
ハワード様は一度言い出した事をほぼほぼ実現させる人のようだから、私の遠征参加は決まったようなものだ。
まぁ、でもその方が良いのかもしれない。下手に王都に残って監視されるよりかは、アルクさんやシャルくんと一緒にあちこち回る方が気は楽だ。ソラにもワサビちゃんにもご飯作ってあげられるし。危険度は比べものにならないだろうけども。
となれば、今の私に必要なのは、やはり新しいメニューの開発だろう!
どうにか交渉してここでも厨房を自由に使わせて貰えるようにしなければ……。
そんな事を考えていた時だった。
部屋の扉がノックされたのだ。
「はぁい」
すっかり私の専属メイドになりきったワサビちゃんが、パタパタと扉へ走って行く。
二言三言会話するような声が聞こえたかと思うと、パタパタ戻って来る。
「えみ様。お客様です」
「お客様?」
「お客様ではなく、専属のメイドです」
そう言いながら入ってきたのはオレンジがかったブロンドの髪にアメジスト色の瞳をしたメイド姿のナイスバディ。
「メアリ!?」
そう。アルカン領のお屋敷で一緒に過ごしたメアリ……に見えたのだけど。
「いいえ。えみ様。私は…——」
「メアリはこっちよ!」
その後から入ってきた元気な少女こそ、懐かしい顔その人だ。
「メアリ!!」
「えみ!!」
実際は久しぶりという程でも無かったのだが、軟禁生活が長かったから久々に思える。
見知った顔との再会が嬉し過ぎて、思いっきり抱き合った。
「ビックリした!! どうしてここに?」
「えみ様に寂しい思いをさせたくないとのアルク様の命により、私がお連れしたのです」
入り口には銀縁メガネがよく似合う、ハインヘルトさんが立っている。
相変わらずの忍者っぷりですね。
「じゃぁまた一緒に?」
「そういうこと!」
メアリとまた一緒に過ごせるなんて、本当に嬉しい。
心細い日々が続いていたせいか、なんだか涙が出て来そうだ。
「待って。そちらの方は?」
そう。メアリに瓜二つのこっちの少女は、もしかして……
「メリッサと申します。メアリの双子の妹です。私もえみ様のお世話をさせて頂きますので、よろしくお願いいたします」
双子!? メアリって双子だったんだ!!
どうりでよく似てると思った。
元気なイメージのメアリとは正反対の、清楚で大人しそうなイメージだ。
「メリッサさん。これからよろしくお願いします」
「はい」
「では、私はこれで」
「ハインヘルトさん、ありがとうございました!!」
「礼ならアルク様に」
そういうとふっと表情を崩し、一礼してから部屋を出ていった。
その後をメリッサさんが追っていく。多分見送りだろう。
私も行こうとすると、メアリに止められた。
「えみは行かなくていいよ。目に毒だから」
え? 見送りが目の毒って……どういう意味?
「にしても、この子がワサビとはね! また色々やらかしてるみたいね~」
カラカラと笑いながらワサビちゃんをなでなでするメアリ。
ワサビちゃんは嬉しそうにニコニコしている。
やらかしたくてやってる訳では決してないんだけど。何故かそうなってしまうのだ。
そこのところ、間違えないで頂きたい。
「それに、とうとう婚約したって?」
「ちがっ…——! それは!」
もう! 分かってるくせに!!
ニヤニヤしながら肘でつつくな!
「わかってるわかってる! ハインヘルト様から事情は聞いてるし。でもそのつもりで過ごしていた方がいいのよね?」
「そりゃまぁ……そうなんだけど……」
「奥様って言われる練習しておく?」
「やっ、やめてよ!! ……もう!」
思わず狼狽えてしまう……。
本当にプロポーズされたなんてバレた日には、領地からナシュリーさんがすっ飛んで来そうだ。
絶対メアリにもバレないようにしなくては!!
「でも、それならあの二人を見習ったらいいわ」
「あの二人って?」
「メリッサとハインヘルト様に決まってるでしょ?」
え? どういう事?
不可解な顔をしていた私と人の悪い笑みを浮かべたメアリの視線が交わる。
「あの二人、夫婦なのよ」
「へ……?」
ええええええええええええっっ~~~
思いもよらない事実に、私の叫びが屋敷中にこだまするのだった。
結婚して三年経つのに未だにラブラブなのよ。見送りの時なんか周りが目に入らないくらい二人の世界で、逆にこっちが居たたまれなくなるくらいよ。
そんなメアリの話を聞いて半信半疑になるのも無理はない。
普段のハインヘルトさんからは想像もつかないもの。全然。全く。
想像がつかないから見てみたくもなるが、俄かには信じられない。
興味半分、怖さ半分と言ったところだ。
メリッサさんが戻るのを待って、二人に今の私の状況を説明した。
近々調査隊が編成される事、その遠征部隊に私も加わるであろう事、アルクさんが猛反対してくれている事、ツェヴァンニ大臣が天敵である事、レシピノートの事など諸々。
「という訳だから色々試作品を作りたいんだけど……このお屋敷の厨房は借りられるかな」
先日のアルクさんの上司の方々をおもてなしした時は、皆んなソラを怖がって近づきもしなかったけど。
おまけに今の私は仮とはいえ、アルクさんの婚約者だ。貴族のお嬢様は自ら厨房に立ったりはしないだろう。
「それなら、まずここの人達の胃袋をがっちりつかんじゃいましょ」
そういってウィンクするメアリ。
なんとなく不安に思いつつ、早速皆んなで厨房へと向かった。
奥様に料理などさせられませんと、やはり料理長から断られてしまった。
まだ奥様じゃありません!! と反論し損ねた私に代わって、これは私のお役目の為でもあるのだと、メアリとメリッサさんが説得してくれて、なんとか使わせてもらえる事になったはいいけど……。
「すっごい見られててやりにくい!」
私たちをぐるりと取り囲むようにシェフの皆さんに周りを囲まれ畏縮してしまう。
監視カメラより監視されてるな。こりゃ。
「気にしない気にしない! で? 何作る?」
久々で嬉しいのか、瞳をキラキラと輝かせたメアリが張り切っている。
そんな彼女に苦笑しながら私は小麦粉を取り出した。
「まずはおやつを定着させるわ。甘いものがない世界なんてありえないもの!!」
歓喜の声をあげるメアリと、ハテナが浮かんだメリッサさんの対比が面白くて思わず笑ってしまう。
「賛成!! 小麦粉大好き!!」
勝手知ったるメアリは頼もしい。何も言わずとも必要な道具を揃えだす。
ワサビちゃんも卵やバターを準備してくれている。うん! 流石私の右腕だね!!
「今日はパウンドケーキを作りたいと思います!」
「きゃー! 名前だけでも美味しそう!」
「えみ様のケーキ大好きです!」
メアリとワサビちゃんは二人で盛り上がっている。
困惑顔のメリッサさんにフルーツやナッツなど揃えてもらう。
監視カメラの如く周りを囲んでいたシェフの皆さんの円が少しずつ狭まってくる。
見たことのないであろうバターやボウル、泡立て器なんかの器具がきっと気になっている事でしょう。
が、禁甘を強いられていた私としては一刻も早くおやつにありつきたいので、その視線は今はまるっと無視します。
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