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五 じゃあ、もらおうか。

side流夜2

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「……なんで知ってる」


俺が睨むが、降渡は愉快そうだ。愛子が仕組んだこと、どこまで承知しているんだか……。


「俺の情報網だもん。相手が在義さんの娘ってトコまでは知ってんだけどさー」


ほぼ総てじゃねえか。


「仮婚約、らしいぞ。詳しいことは愛子に訊け」


「仮婚約ね。もう聞いてるよ」


「………」


愛子。


心のうちで呪いを吐く。あの野郎、口が軽いのはお前かよ。


愛子が降渡の常連客なのは知ってはいるけど。


降渡が、何故か俺の分もコーヒーを持って来てローテーブルについた。


「娘ちゃん――咲桜ちゃんと在義さんを政敵から護るための策ねぇ、わかるわかる。お前愛子も在義さん大すきだかんな」


「お前だってそうだろ」


「そうだけどさ。俺は立場的に龍さんの後継ってことになってるし。ふゆは一応警察入ったけど、あいつ一年で飛ばされたじゃん? 在義さんの後継がふゆっつーのも、微妙なラインだよなー」


アホなことを言いながらカップを傾けてやがる。


今日はこのまま吹雪のいる上総署へ行くつもりなので、一応着替え。


スーツのジャケットを脱いでハンガーにかけた。


降渡の来訪がなければ適当に投げ出されていたそれは、安心したように壁の絵になる。


「咲桜ちゃんはいいの? 高一つったらこれから彼氏とか出来て楽しい時期じゃん」


「本人も了承の上だ。婚約の件は公にはしないから、華取に彼氏出来ても問題ない。むしろ出来れば解消する理由にもなってちょうどいいだろ」


「ふーん?」


そうなんだー、と、カップの淵からこっちを見てくる。


「で、今日はなんだ。また案件持って来たのか? 昨日、お前の遣いだって遙音が来たばっかだぞ」


胡坐を掻いて、降渡の淹れたコーヒーを取る。


「たまには龍さんが来いよって言ってたから、お前も行くかなーって思って来た」

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