朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】

桜月真澄

文字の大きさ
97 / 179
六 私今ものすごくドキドキしてます。

side流夜2

しおりを挟む



「こ、こんばんは」


「………」


来訪者の音で自宅のドアを開けて、本日二度目の硬直をした。目の前の、そこにいるのは華取。


「……華取?」


「すみません、いきなり」


「や、いいんだけど……どうした?」


「遙音先輩に、先生が風邪ひいたみたいって聞いて来ました」


「……え?」


なんとも間の抜けた声を出してしまった。玄関先で話しているのも難だと思い、華取を部屋に入れた。


が、正直自室に華取を招き入れるなんてとんだ自殺行為だ。


既に在義さんの後ろに魔王が見えている気がする。


次在義さんに逢ったとき、俺は生きて帰ることが出来るだろうか。……なので、早く帰さないと、という思いもあり玄関で問答する。


「別に風邪なんてないけど――」


「あるでしょう、ほら」


すっと、額に華取の手が触れた。


外の空気に触れていた手は、ひんやりしていて気持ちがいい。


突然の行動にまた驚いてしまったが、華取は呆れたようにため息をつく。


「やっぱり熱、ありますよ。先輩が言っていたんです。先生って自分に無頓着だから、熱あろうが調子悪かろうが私事優先で現場とか警察署とか行っちゃうから、今日くらいは止めてやってって」



「……通常でそれなんだから、心配する必要もないだろ」


何故その程度で行動を制限される? 俺は首を傾げる。


俺の体調が、私事――学者立場の方――には影響させたことはない。放っておいて治っているんだからいいだろう。


そう言うと、華取に呆れた顔をされた。


「そうかもですが、病人を仕事に行かせるわけにはいきません」


……どうやら華取の正義感の琴線に触れてしまったようだ。靴を脱いであがってくる。そのまま俺の背中を押してきた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
田舎の古民家を改装し、カフェを開いたマキノの奮闘記。 やさしい旦那様と綴る幸せな結婚生活。 試行錯誤しながら少しずつ充実していくお店。 カフェスタッフ達の喜怒哀楽の出来事。 自分自身も迷ったり戸惑ったりいろんなことがあるけれど、 ごはんをおいしく食べることが幸せの原点だとマキノは信じています。 お店の名前は 『Cafe Le Repos』 “Repos”るぽ とは フランス語で『ひとやすみ』という意味。 ここに訪れた人が、ホッと一息ついて、小さな元気の芽が出るように。 それがマキノの願いなのです。 - - - - - - - - - - - - このお話は、『Café Le Repos ~マキノのカフェ開業奮闘記~』の続きのお話です。 <なろうに投稿したものを、こちらでリライトしています。>

現在の政略結婚

詩織
恋愛
断れない政略結婚!?なんで私なの?そういう疑問も虚しくあっという間に結婚! 愛も何もないのに、こんな結婚生活続くんだろうか?

僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 新卒でセクハラ被害に遭い、職場を去った久遠(くおん)。 再起をかけた派遣先で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。

好きになったあなたは誰? 25通と25分から始まる恋

たたら
恋愛
大失恋の傷を癒したのは、見知らぬ相手からのメッセージでした……。 主人公の美咲(25歳)は明るく、元気な女性だったが、高校生の頃から付き合っていた恋人・大輔に「おまえはただの金づるだった」と大学の卒業前に手ひどくフラれてしまう。 大輔に大失恋をした日の深夜、0時25分に美咲を励ます1通のメールが届いた。 誰から届いたのかもわからない。 間違いメールかもしれない。 でも美咲はそのメールに励まされ、カフェをオープンするという夢を叶えた。 そんな美咲のカフェには毎朝8時35分〜9時ちょうどの25分間だけ現れる謎の男性客がいた。 美咲は彼を心の中で「25分の君」と呼び、興味を持つようになる。 夢に向かって頑張る美咲の背中を押してくれるメッセージは誰が送ってくれたのか。 「25分の君」は誰なのか。 ようやく前を向き、新しい恋に目を向き始めた時、高校の同窓会が開かれた。 乱暴に復縁を迫る大輔。 そこに、美咲を見守っていた彼が助けに来る。 この話は恋に臆病になった美咲が、愛する人と出会い、幸せになる物語です。 *** 25周年カップを意識して書いた恋愛小説です。 プロローグ+33話 毎日17時に、1話づつ投稿します。 完結済です。 ** 異世界が絡まず、BLでもない小説は、アルファポリスでは初投稿! 初めての現代恋愛小説ですが、内容はすべてフィクションです。 「こんな恋愛をしてみたい」という乙女の夢が詰まってます^^;

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒
恋愛
ある日礼奈は、社長令嬢で友人の芹香から「お見合いを断って欲しい」と頼まれる。 引き受ける礼奈だが、お見合いの相手は、優しくて素敵な人。 そして礼奈は、芹香だと偽りお見合いを受けるのだが……

冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い

森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。 14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。 やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。 女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー ★短編ですが長編に変更可能です。

財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。 専務は御曹司の元上司。 その専務が社内政争に巻き込まれ退任。 菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。 居場所がなくなった彼女は退職を希望したが 支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。 ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に 海外にいたはずの御曹司が現れて?!

処理中です...