上 下
16 / 93
2 御門の朝

11

しおりを挟む

「は、白桜様が謝られることではありません! というか、そういうことだったのですね? 何も言われないから白桜様を手に入れるために俺から落としにきたのかと思いました」

「どんな状態だよ。なんで普通に礼言わねえんだあいつは」

「白桜様! 言葉遣い!」

あ、やべ。

華樹に注意されて我に返る白桜。

白桜も人間なので、それなりに荒い言葉遣いをすることがある。

ただ、当主という立場上あまりよろしくないので、別邸にいる人には言葉が悪くなったら注意してくれ、と頼んである。

「若君が申し訳ありません、月御門先輩」

一緒に来た架が、華樹に頭を下げる。

真紅は四阿の端っこで小さくなって頭を抱えていた。

ごめんな、真紅、架……。

「いや、小路の若君の個人的な問題だから、架が謝ることでもないよ」

「黒のことだ。華樹がここにいることはわかるだろうから、そのうち来るだろ」

「華樹―――――!」

早いよ。ぶんぶん手を振りながら来たよ。

「華樹! どこ行ったかと思って探したよ」

「お前から逃げてきたんだよ」

「は、白桜様!」

黒藤が華樹に抱き着きそうな勢いだったので、白桜は華樹をかばうように前に立った。

華樹は慌てたけど、腕を横に出して出るなと伝える。

白桜の前で急停止した黒藤。

「え?」

「え、じゃない。うちの奴困らせるな」

「困らせ? てた? 俺?」

「存分にな。涙雨殿、証言あるか?」

『む? うむ。確かに主様は気持ち悪い勢いで月御門の華樹殿にまとわりついておったなあ』

気持ち悪い勢いって式に言われているんだが。

「え……」

そしてそんな今気づきました、みたいな顔をされても。

黒藤がサラサラと砂になっていくのが見えるようだ。

しおりを挟む

処理中です...