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2 御門の朝
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しおりを挟む「……白?」
意外な答えに、黒藤も一瞬呆気にとられた。
「はい。俺の白桜様との初対面は、白桜様が十三で当主を襲名されてからです。それ以前の白桜様がどんなお方だったのか、逢ってみたいと思ったことはあります」
「ふむ? そうなると過去に戻る必要もあるのか……?」
「あ、難しく考えないでくださいね? 黒藤様。興味があるというだけで、叶うはずがないこととはわかっていますから。それに、黒藤様の式殿を助けたのもたまたまというかほぼ白桜様ですし、この話はもう終わりにしていただけると……」
「いや、こっちこそ悩ませて悪かったな。もうひとつだけ訊いておきたいんだけど、涙雨を見つけたのは百合姫って聞いてるんだけど、おかしな様子はなかったか?」
陰陽師の館に妖異が入ることは出来ないように、御門別邸の敷地全体に白桜の結界がある。
「おかしな様子、ですか?」
「辺りに何かあったりはしなかったか? 争ったように涙雨の羽が散らばっていたとか」
「いえ――俺が百合緋様に呼ばれて出たときは、ただ、道路に式殿が転がっていただけです。争った形跡もなかったですね……」
転がっていただけ。黒藤は頭の中で華樹の言葉を繰り返す。
昨日、黒藤と白桜は涙雨が霊力枯渇で倒れたと断じていた。
だが、何者かに襲われた可能性も考えておくべきだった。
涙雨が霊力が高く更に強いため何かに負けたとは考えていなかったが、涙雨がこの世界の最強というわけではない。
「そっか。ありがとな」
「いえ……式殿、大丈夫でしたか?」
「縁と無月にめちゃ説教されてた」
「え、こわ」
「なー。怖―よな」
「黒藤様が怒らないほうも怖いですが……」
また華樹がびくびくしてしまった。
世の中には怒らせると怖い人間もいるし、怒らないから怖い人間もいる。
黒藤は、前者が白桜で後者が真紅だと思っている。
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