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2 御門の朝

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「白桜、まずは辺りを確認しよう」

「はい……」

黒藤に言われて、白桜も辺りを見回す。

植木に季節の花、砂利が敷かれ整えられた御門別邸の庭とは違い、黒藤たちが転がっていたのは芝生の地面で、ここは丘の上のようだ。

黒藤たちがいるところから少し離れて大きな樹が一本ある。桜の樹に見える。

くだる丘の下には、民家や個人商店と思しき見た目の家が立ち並んでいる。街のようだ。

だんだん畑みたく階層をなすようにくだったと思ったら、その先はまた丘のようになっていて、のぼる造りのよう。

「にいさま……あれは、神殿……? でしょうか……」

「神殿?」

白桜はまっすぐ先を見ている。

黒藤もそこへ目をやると、巨大な建物があった。

さっきまで見ていた下の方を見やると、一番低くなっているところは大通りで、その通りから向こう側の丘に何度もカーブしながら巨大な建物まで整えられた道が続いている。

「……まず、日本ではないな」

それが、黒藤がくだした一つ目の判断だった。

日本の総てを回ったわけではないけど、あれほどの建物なら把握できているはずだ。

「にいさま、ねこさんがいません」

「え?」

「みけねこさんです。さっきたしかにだっこしてたのに……」

「………」

きょろきょろとする白桜を見つめながら考える。

閃光は、あの三毛猫に白桜が触れた瞬間のことだ。

まさか三毛猫が誰かの使い魔だったとかいうことはないだろうか。

小路流と御門流の次代である黒藤と白桜を排斥した輩は、妖異だけでなく人間にも多いだろう。

ここはいわゆる異界という場所で、黒藤たちをここへ閉じ込めてしまったとか。

いや、それは白里への挑戦だ。

黒藤も白桜も、確かに御門別邸の中にいた。

しかも逆仁も一緒だ。

現在陰陽師の中で一、二を争う二人。御門邸は、本邸も別邸も白里の結界に守られていて、妖異や害意のあるものを中へは入れさせない。

だから黒藤は三毛猫も、ただの猫で迷い込んだものだと思っていた。

黒藤が触っただけでは何も起こらなかった。

黒藤と白桜が同時に触れることか、もしくは白桜が三毛猫に触れることでなんらかの反応が起こった……?

小路と御門の怒りを買おうとする妖異も人間も少ないだろうが、絶対にいないとはいえない。

とりあえず、ここから脱出する方法を考えるのが一番か――

「姫巫女(ひめみこ)様!」

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