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3 動き出す当主
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しおりを挟む冬湖は作夜見が長子でありながら、霊力がない。皆無だ。
作夜見家は次子である長男が継ぐことが決まっている。
だから冬湖には、作夜見家とはかかわりのない家との縁談を用意していた、と。
冬湖が結婚しないままでいては、やがて縁続きのための縁談が持ち出されるだろう。
そうすれば冬湖は、一生作夜見家から逃れられない。
そうなる前に逃がそうとした。
……というのが、秋生の見解らしい。
だが、冬湖はそう受け取らなかった。
「と言うか、高校生の娘がそこまで考え及ばんだろう……」
黒藤が帰った白桜の部屋。
文机(ふづくえ)に向かっていた白桜はため息をつく。
親の心子知らず、だろうか。冬湖には冬湖なりに、自分の結婚に対する考えがあったのだろうか。素直には父の提案を受け入れられなかった。これは、子の心、親知らず、だ。
(好きな奴がいるとか……そもそも、高校生で結婚を承諾する方が少ないだろうしな)
月音と煌は例外なだけだ。
作夜見家も古い家柄であるが、結婚に対する考えなど人それぞれ。
だが白桜としては、秋生の意見もわかってしまう。
白桜自信は結婚という形ではなく、当主襲名という形で生きる道を敷かれた。
それが祖父の愛情だったとは、すぐには気づけなかった。
中途半端な自分に、生きる道をひとつ残してくれた祖父には今でこそ感謝しているが、襲名したばかりの頃はひとりで泣いたし恨み言も思った。
陰陽師ゆえ、決して口にはしなかったが。
それは祖父の引退が年齢的に早すぎるものだったため周囲から色々と言われていたのと、自分に自信がなかったからだ。
自信は今でもない。
黒藤にとっての真紅のように、自分よりもっと御門が当主にふさわしい者が現れてくれないだろうかと思うこともある。投げ出したくなるときもある。
それでも白桜は、自分が白桜だということを知っていた。
自分に自信がなくても、自分が誰だかは知っていた。
黒藤がいつも呼んでくるからだ。『白!』と。
まっすぐに自分を見てくる眼差しに嘘はない。それだけで安心出来た。
ここにいるのは、間違いなく白桜であり、それは自分だと。
だから白桜は、黒藤の変態言動をぶっ飛ばしても、邪険にしたりはしない。
というか、出来ない。黒藤というたったひとりが、自分のことを呼ばなくなることが怖くて。
嫌われたくない、という感情があるのなら、きっとこれだろうと白桜は思う。
黒藤に嫌われる未来だけは断固阻止したい。
そんなことがあっては、白桜は滅びてしまうから。
……冬湖も、そんな想いをいだいているのだろうか。
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