桜の鬼【完】

桜月真澄

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六 桜の命の終わり

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「湖雪は初めて逢うかな。惣一郎くんの兄の、悟くんだ」

客間で、悟は改めて紹介された。兄――惣一郎の。……以前、桃花が旭日だった頃、惣一郎の話をしていた。正妻の長男。しかし、ある理由により家を継ぐことは叶わなかったと。

……ある理由。湖雪はあるだろう可能性を必死に考えた。

「悟くんは虹琳寺の跡取りだから、湖雪とも早めに逢わせておかねばならないと思っていたのだけど、惣一郎くんとの婚約が先に立ってしまってね」

幹人は、ははっと笑った。

「幹人様、そのことなのですが」

悟はそう言ってから、座った場所から半歩分下がり頭を下げた。

「惣一郎を虹琳寺にお返しください」

指を揃え、畳に額を押しつける悟に誰もがすぐには一言も発せなかった。

「私ではなく、惣一郎こそ虹琳寺の嫡子。跡継ぎに相応しいのは惣一郎です。湖雪様との婚約も成立したとうかがっておりますが、何卒惣一郎を虹琳寺の当主にお返しくださいますようお願い申しあげます」

真っ直ぐな口調で言い切った悟。湖雪はいろんなことを考えていた頭が真っ白になっていた。

惣一郎、を……虹琳寺の……跡継ぎに……?

その言葉だけが反芻(はんすう)される。湖雪は目を見開き微動だに出来ない。

「……悟くん。それは誰の意思だ?」

「私……の、勝手な判断です」

悟は顔を上げない。

「叔父上の考えか……」

「いえ。私が勝手に、お願いにあがりました」

「………」

動かない悟に、幹人も問いただすことはせずに腕を組んだ。

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