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42 散歩の終わり
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42 散歩の終わり
小一時間ほど夜空の散歩を楽しんだ俺は滑るように徐々に下降していく光景を見ながら興奮も冷めやらぬ状態だった。
だって、ドラゴンに乗って空を飛ぶなんて絶対に出来ない体験だ。魔物が存在するこの世界だって竜と友好的に接する事ができるのはラソワの者達くらいだろう。そんな彼等が許してくれたからこそ叶った事だ。改めてお礼を言わなくては。
地面が近くなってくるとカルは翼を開いたままにして滑空していく。緩やかにカーブを描きながら目指すのはオルテガやシュアンが待つ湖畔の庭だ。どうやら二人とも外で待っていたらしい。
ふわりと音もなく大地に着地すると、カルは乗った時と同じように身を伏せる。どうやら楽しかった散歩も終わりのようだ。
「リア」
降りようと思ったが、思ったより高さがあってどう降りようかと戸惑っていると、すかさず俺の所に来てオルテガが手を差し伸べてくれる。こういう所は本当に甘いと思う。
カルの体に半ばしがみ付きながら手が届く所までゆっくり降りてからオルテガの手を取れば、いつもより冷たかった。どうやら待たせているうちに冷えてしまったらしい。
「……中で待っていれば良かったのに」
「色々心配だったからな」
オルテガの台詞に苦笑しながらも手に支えてもらってカルの背から降りてオルテガに受け止めてもらう。それにしても、楽しかったな。まだ心臓がドキドキと弾んでいた。
「ありがとう、カル。とても楽しかった」
お礼と共に艶やかな鱗を撫でれば、カルが機嫌良さそうに喉を鳴らして俺の方に頭を擦り寄せてくる。あー、可愛い!やっぱり欲しいかもしれないマイドラゴン。
「可愛い……」
「気に入ったのなら今度うちの国に来い。色々な種類を見せてやろう」
続いて降りてきたグラシアールが俺の肩を抱きながら魅力的な提案をしてくる。空を飛びながら竜の種類について少し話をしたが、本当に様々な種類がいるらしい。中には番犬代わりに人が飼い慣らすようになって長い歴史の中で愛玩用になっている竜や他の魔物もいるそうで、非常に羨ましい。
生活のどこにでも魔物がいる世界というのは「俺」にとっても「私」にとっても衝撃的なものだ。グラシアールの話を聞いていると自分の価値観に疑問を持つばかりだった。
害悪だと排除する事は簡単だ。相手の何もかもを頭から否定し、拒絶してしまえばいい。
だが、自分達とは全く違うするものを理解して受け入れる事は時間が掛かるし難しい事だ。嫌悪感や戸惑いを覚える事も多いだろう。それでも、歩み寄らなければ分からない事だって沢山ある。思考を停止して頭ごなしに決め付けていては見えない解決策だってあるだろう。
……なんて真面目な事を考えていたら横から手を掴まれてぐいと引っ張られた。引き寄せられて収まるのは例の香水の匂いがするオルテガの腕の中だ。途端に融ける思考にくらりと眩暈がする。
「そんなに狭量ではそのうち愛想を尽かされるぞ」
「……うるさい」
揶揄うグラシアールに対して頭上でオルテガが唸る。ぎゅうと抱き締められるままに身を任せながら見上げれば、オルテガが小さく笑みを浮かべた。
「竜が欲しいなら俺が捕まえてきてやる。シュアンから色々聞いておいた」
オルテガはオルテガで待っている間にシュアンから竜の事を聞いていたらしい。空中散歩に行く前だったら「何を馬鹿な事を」と言って止めたかもしれないが、あの空を翔ける爽快感と高揚感、そして何より竜の可愛さを覚えた俺にとっては非常に魅力的な話だ。
天秤の腕は既に大きく傾いているんだが、正直今はそんな事をしている場合ではない。しかし、諸々が片付いたなら、ちょっと本気で考えたいところだ。
まずは伝書用に使役されているという小型の竜からスタートしたい。初心者がいきなり大物なんかに手を出したらトラブルしか起きないだろうし。あと、中央から謀反でも企てているんじゃないかと勘繰られるのも困る。
そんな俺の思惑とは裏腹に、オルテガが残念そうな顔をしていた。無言を拒否ととらえたようだ。それにどうやらグラシアールに妬いているらしい。
「……今のゴタゴタが片付いたら強請らせてくれ」
頬に手を伸ばして撫でながら告げれば、やっと機嫌をなおしてくれたようでオルテガが掌に擦り寄ってきた。カルの甘え方になんだか既視感があったんだが、そうかオルテガにちょっと似ているんだ。大きい体でそっと擦り寄ってくる感じはそっくりだ。そして、俺はこうやって甘えられるのに弱い。
「任せておけ。一番強くて速い奴をお前の為に従えてみせよう」
俺の手を取り、その甲に口付けながら告げるオルテガの言葉にそこまではいらない、とはもう言えなかった。グラシアールから聞いたが、竜との絆を、特に知能の高い大型種との絆を築くのは容易な事ではないのだという。
互いに命を賭けて戦い、竜が生きる長い生涯の短いひとときとはいえ己が生涯を預けても良いと思った時、初めて契約が成されるのだ。人も竜も無傷では済まされない。時には死闘の末に命を落とす事もあるという。オルテガもシュアンからその話は聞いている筈だ。
その上で、彼は一番の強者を俺の為に従えると言っているのだ。俺の為に、自らの命を賭して竜に挑む、と。
そんなのときめかない訳がないだろう……!
実際、ゲーム制作の段階でラソワと竜の関係が分かっていたら間違いなくシナリオに組み込まれていただろうってくらい美味しいわ! 殺し文句にも程がある!!
危ないことはしないで欲しいと思いながらもそうやって言われるのはやっぱり嬉しい。内心で悶絶しながら何とか表情を取り繕っているが、誰も居なかったら確実に叫んでいる。最近妙に俺のツボをついてくるからやめて欲しい。ただでさえこの香水に翻弄されているというのに……!
「チョロいな」
「案外分かりやすい方だったんですね」
ラソワ主従に言われている辺り隠し切れていないらしい。ぐぬぅ、人前でオルテガが絡むと恥しか晒していない気がする。
頼むからによによしながらこっちを見ないでくれ。オルテガに弱いと自覚しているからこそ指摘されると尚更恥ずかしいんだよ。
そして、そんな俺を見て嬉しそうにするオルテガが小憎らしい。今に見てろよ、そのうちやり返してやるんだからな!お前も人前で羞恥に悶えると良い!
小一時間ほど夜空の散歩を楽しんだ俺は滑るように徐々に下降していく光景を見ながら興奮も冷めやらぬ状態だった。
だって、ドラゴンに乗って空を飛ぶなんて絶対に出来ない体験だ。魔物が存在するこの世界だって竜と友好的に接する事ができるのはラソワの者達くらいだろう。そんな彼等が許してくれたからこそ叶った事だ。改めてお礼を言わなくては。
地面が近くなってくるとカルは翼を開いたままにして滑空していく。緩やかにカーブを描きながら目指すのはオルテガやシュアンが待つ湖畔の庭だ。どうやら二人とも外で待っていたらしい。
ふわりと音もなく大地に着地すると、カルは乗った時と同じように身を伏せる。どうやら楽しかった散歩も終わりのようだ。
「リア」
降りようと思ったが、思ったより高さがあってどう降りようかと戸惑っていると、すかさず俺の所に来てオルテガが手を差し伸べてくれる。こういう所は本当に甘いと思う。
カルの体に半ばしがみ付きながら手が届く所までゆっくり降りてからオルテガの手を取れば、いつもより冷たかった。どうやら待たせているうちに冷えてしまったらしい。
「……中で待っていれば良かったのに」
「色々心配だったからな」
オルテガの台詞に苦笑しながらも手に支えてもらってカルの背から降りてオルテガに受け止めてもらう。それにしても、楽しかったな。まだ心臓がドキドキと弾んでいた。
「ありがとう、カル。とても楽しかった」
お礼と共に艶やかな鱗を撫でれば、カルが機嫌良さそうに喉を鳴らして俺の方に頭を擦り寄せてくる。あー、可愛い!やっぱり欲しいかもしれないマイドラゴン。
「可愛い……」
「気に入ったのなら今度うちの国に来い。色々な種類を見せてやろう」
続いて降りてきたグラシアールが俺の肩を抱きながら魅力的な提案をしてくる。空を飛びながら竜の種類について少し話をしたが、本当に様々な種類がいるらしい。中には番犬代わりに人が飼い慣らすようになって長い歴史の中で愛玩用になっている竜や他の魔物もいるそうで、非常に羨ましい。
生活のどこにでも魔物がいる世界というのは「俺」にとっても「私」にとっても衝撃的なものだ。グラシアールの話を聞いていると自分の価値観に疑問を持つばかりだった。
害悪だと排除する事は簡単だ。相手の何もかもを頭から否定し、拒絶してしまえばいい。
だが、自分達とは全く違うするものを理解して受け入れる事は時間が掛かるし難しい事だ。嫌悪感や戸惑いを覚える事も多いだろう。それでも、歩み寄らなければ分からない事だって沢山ある。思考を停止して頭ごなしに決め付けていては見えない解決策だってあるだろう。
……なんて真面目な事を考えていたら横から手を掴まれてぐいと引っ張られた。引き寄せられて収まるのは例の香水の匂いがするオルテガの腕の中だ。途端に融ける思考にくらりと眩暈がする。
「そんなに狭量ではそのうち愛想を尽かされるぞ」
「……うるさい」
揶揄うグラシアールに対して頭上でオルテガが唸る。ぎゅうと抱き締められるままに身を任せながら見上げれば、オルテガが小さく笑みを浮かべた。
「竜が欲しいなら俺が捕まえてきてやる。シュアンから色々聞いておいた」
オルテガはオルテガで待っている間にシュアンから竜の事を聞いていたらしい。空中散歩に行く前だったら「何を馬鹿な事を」と言って止めたかもしれないが、あの空を翔ける爽快感と高揚感、そして何より竜の可愛さを覚えた俺にとっては非常に魅力的な話だ。
天秤の腕は既に大きく傾いているんだが、正直今はそんな事をしている場合ではない。しかし、諸々が片付いたなら、ちょっと本気で考えたいところだ。
まずは伝書用に使役されているという小型の竜からスタートしたい。初心者がいきなり大物なんかに手を出したらトラブルしか起きないだろうし。あと、中央から謀反でも企てているんじゃないかと勘繰られるのも困る。
そんな俺の思惑とは裏腹に、オルテガが残念そうな顔をしていた。無言を拒否ととらえたようだ。それにどうやらグラシアールに妬いているらしい。
「……今のゴタゴタが片付いたら強請らせてくれ」
頬に手を伸ばして撫でながら告げれば、やっと機嫌をなおしてくれたようでオルテガが掌に擦り寄ってきた。カルの甘え方になんだか既視感があったんだが、そうかオルテガにちょっと似ているんだ。大きい体でそっと擦り寄ってくる感じはそっくりだ。そして、俺はこうやって甘えられるのに弱い。
「任せておけ。一番強くて速い奴をお前の為に従えてみせよう」
俺の手を取り、その甲に口付けながら告げるオルテガの言葉にそこまではいらない、とはもう言えなかった。グラシアールから聞いたが、竜との絆を、特に知能の高い大型種との絆を築くのは容易な事ではないのだという。
互いに命を賭けて戦い、竜が生きる長い生涯の短いひとときとはいえ己が生涯を預けても良いと思った時、初めて契約が成されるのだ。人も竜も無傷では済まされない。時には死闘の末に命を落とす事もあるという。オルテガもシュアンからその話は聞いている筈だ。
その上で、彼は一番の強者を俺の為に従えると言っているのだ。俺の為に、自らの命を賭して竜に挑む、と。
そんなのときめかない訳がないだろう……!
実際、ゲーム制作の段階でラソワと竜の関係が分かっていたら間違いなくシナリオに組み込まれていただろうってくらい美味しいわ! 殺し文句にも程がある!!
危ないことはしないで欲しいと思いながらもそうやって言われるのはやっぱり嬉しい。内心で悶絶しながら何とか表情を取り繕っているが、誰も居なかったら確実に叫んでいる。最近妙に俺のツボをついてくるからやめて欲しい。ただでさえこの香水に翻弄されているというのに……!
「チョロいな」
「案外分かりやすい方だったんですね」
ラソワ主従に言われている辺り隠し切れていないらしい。ぐぬぅ、人前でオルテガが絡むと恥しか晒していない気がする。
頼むからによによしながらこっちを見ないでくれ。オルテガに弱いと自覚しているからこそ指摘されると尚更恥ずかしいんだよ。
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