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62 盤上に在るもの
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62 盤上に在るもの
ルファスからの手紙に目を通し終わったのはすっかり夜も更けた頃だ。時計を見遣ればまもなく日付けが変わろうとしている。
この世界は外に街灯なんかがないせいか夜が早い。灯りといえば外で使うには頼りない魔石ランプだけだ。そのせいか、暗くなれば皆家から出る事は少ないし、早くに眠ってしまうから家の者もすっかり夢の中にいるようだ。
やっと目を通し終わった俺がデスクで大きく伸びをしていると、すかさずカップが置かれた。ふんわりと香るのはセイアッドが好む紅茶の香りと微かな蜂蜜の匂いだ。
「ありがとう」
礼を言えば、紅茶を置いたオルテガが柔らかく微笑む。こうして起きて付き合ってくれた上に紅茶まで用意してくれる辺り、本当に甲斐甲斐しい男だと思う。
温かいカップを手に取って一口飲めば、優しい甘さが嬉しかった。
「どうだった、手紙の中身は」
「あー」
……言えない。あの分厚さの三分の一がセイアッドに宛てたメッセージだった、なんて。
シガウスはルファスがセイアッドに傾倒していると話していたが、どうやら事実だったらしい。後半は長々とセイアッドがいない事に対する悲痛なメッセージだった。更にそのうちの半分くらいは仕事を押し付けて来る王太子や宰相代理など周りに対する愚痴だったが……。ルファスには本当に苦労を掛けて申し訳ないとは思っている。
一刻も早いお戻りを心よりお待ちしております、と結ばれた最後の一文の筆圧の強さに無言の圧を感じたが、見なかった事にしておこう。俺はまだ帰りたくない。実家でオルテガとのんびりぬくぬくしたいんだ。
それ以外は政治を取り巻く貴族の話が多かったが、どうやら流れはこちらに向いているようだ。
元々セイアッドは若手の貴族や父であるセオドアが引き込んだ新興勢力からの支持が厚く、断罪され俺があの場を去った直ぐ後から擁護する声が上がっていたのだという。決して少なくないその声を無視する事が出来ず、セイアッドを追い詰め切る事が出来なかったのはミナルチーク達には手痛いだろう。
そうして手を拱いているうちにステラの横暴や失言が市井にまで拡がるようになり、今現在ミナルチーク達は火消しの方に必死になっているようだ。そりゃそうだろうな。一番要のステラが王太子妃になれなかったら宰相セイアッドと王太子の婚約者だったレインを追い出した意味がない。
この領地に戻ってからひたすら手紙を出して、兼ねてから協力してくれていた貴族達に擁護をお願いした甲斐があったな。レヴォネ領から送り続けた手紙は確実に効果を示してくれている。予想外に積極的に動いてくれる者が多かったのも僥倖だ。
旗色が悪いと見たミナルチーク派がパラパラとだが、その傘下を離れてはセイアッド派の者達と交流を持とうと必死になっているようだし、瓦解が始まっていると言っても良いんじゃないだろうか。
ついでに、ロアール商会が撤退した事で貴族達が嗜好品を手に入れられなくなっている状況も、「王太子がセイアッドを追い出したせいだ」と追い風になっている。特に美容品や化粧品、茶葉などが手に入りにくいから御婦人達がお怒りだそうだ。
ステラは相変わらずまともに王妃教育も受けずに我儘放題をしているようだが、そんな彼女の取り巻き達にも変化があったらしい。
まずは財務大臣の息子であるダグラス・カイ・ノーシェルトが自発的にステラとは距離を置くようになり、まるで憑き物が落ちたかのように真面目に励んでいるのだと言う。直接ルファスに対して協力を申し出て来たようで、彼に対してどう対応するべきか指示を仰がれた。
ダグラスの婚約者はセイアッドの部下であり、腹心であるヘドヴィカ・イシェル・クルハーネク侯爵令嬢だ。彼女は非常に優秀でとても頼りになる女性で、今回の件でも色々動いてもらっている。
恐らく、ヘドヴィカがダグラスに対して喝を入れたのだろう。彼女も怒らせるとなかなかに怖いから。それに、ヘドヴィカの話を聞く限りでは彼等の関係は良好だったようなので『恋風の雫』による洗脳効果も薄かったのかもしれない。
王太子ライドハルトはステラの横暴を止められず、ダグラスが離れた事でマーティンともギクシャクしているようだ。セイアッドを断罪した事で上昇していた求心力も落ちて、今では遠巻きにされているらしい。
ついでにロビンは実家が大変な事になっていてそれどころじゃないだろう。俺にとってもそこは予想外だったが……。
断罪されたとはいえ、その罪は殆どがでっち上げられたものだ。王都の者達もやっとその事に気が付き始めたようだ。
悪辣宰相だと嘯いて追い出した男がいなくなった事で民の生活は悪くなり、王都に落ちるのは不穏の影。
そして、優秀な婚約者を捨て、新たに婚約を結ぼうとしている女が繰り広げる失態と醜態の数々。
不満と不穏の連鎖はまだまだ止まらないだろう。
そして、そんな状況を招いたのは誰なのか。考えなくとも向かう矛先は決まっている。
例え、傀儡だったとはいえど、決断し行動したのはライドハルト自身である事に変わりはないのだから。
「……大方は憂鬱な内容だが、今は高笑いしたい気分だ」
「お前の思う通りに事は進んでいるのか?」
俺の髪を掬いながら口付けるオルテガの問いに頷いて見せる。むしろ、順調過ぎて怖いくらいだ。何かしら落とし穴がありそうで。
「愚かな事だ。誰が国を支えていたとも知らないで私利私欲に走った上にみだりに国を乱すとは」
魔石ランプの仄かな灯りの中、オルテガが妖しく微笑む。嗚呼、堪らないな。そんな凶暴な表情にすらゾクゾクしてしまう。
「内乱罪は全員死罪だったな。刑を執行する時は処刑人ではなく、俺が直々に首を落としてやろう」
獰猛なオルテガも良いなと思っていたら不穏な事を言い出した。
何でこの世界の連中は直ぐに血を見たがるんだ。原作のゲームはもっとこうふわふわしたファンタジーだったろうが。
「そこまでしなくて良いから……」
「何故? お前を貶めた者など生かしておく価値もないだろう」
当たり前だと言わんばかりに笑って宣う姿に少々戦慄する。
ダーランからは散々聞かされているが、オルテガの口から相手勢力に対する感情を聞いたのは初めてかもしれない。もしかしなくても結構怒っているんだろうか。
甘いと言われるかもしれないが、出来たら血は見ずに終わりたい。生きて反省してほしいものだ。
その方が己のしでかした罪もその罪が齎す罰もゆっくり味わえるだろう?
「殺さなくて良い。出来るだけ長く生かしてやりたい。政治からも権力からも遠く離れたところで」
俺が言いたい事がわかったのか、オルテガが苦笑する。オルテガといいダーランといい、何でか知らないが「俺」や「私」より周りの方が報復に積極的なんだよな……。
ダーランには散々「リアは甘い」と叱られているし、オルテガも笑ってはいるものの若干不満そうだ。
死で贖うのは簡単だ。痛みも恐怖も一瞬で済む。だが、長い人生の中を過去の栄光に縋りながら惨めに過ごす方がミナルチークみたいなタイプの人間にはダメージになるだろう。それに、自分の行い次第では更生出来なくもない。そうやって逃げ道を作ってやった方が、恩も売り易い。
その上でまだ噛み付いてくるというのならば、その時は容赦無く踏み潰してやればいい。毒蟲だって使いようだ。せいぜい俺の役に立ってもらうとしよう。
祝夏の宴まであと一月半程。それまでの間に盤面をひっくり返されないよう足場をしっかりと固めなければ。
俺の手元にあるのは「私」が持つ宰相とレヴォネ侯爵という地位に人脈。この国でも筆頭と言ってもいい権力を持つスレシンジャー家と強大国である隣国ラソワの王太子グラシアールの後ろ盾。それから若手貴族を中心とした勢力に、王国中に販路を持つロアール商会。そして、騎士団長であるオルテガ。
ゲームの知識を持つ「俺」はステラが使っている『恋風の雫』を押さえ、正反対の効果を齎す『夜離れの露』も確保する見通しが出来た。ステラが聖女として認められる為の試練にも既に妨害の一手を打っている。……これに関しては心配しなくても自滅しそうだが。
対する相手方は駒のうち、幾つかは既に使えないだろう。ウィリアムズ商会はロアール商会子飼いの傘下となり、政を中心に協力していたであろうダグラスは王太子の元を離れた。要である筈のステラは愚かにも権力に溺れて好き放題に振る舞って国を乱し、宰相代理は職務が追い付かず、そんな状況が不利と見た者達の離反。
だが、まだ油断は出来ない。相手方がどんな切り札を持っているか分からないから。
「リア、悪い顔だな」
熱い掌で頬を撫でられて思考の海から引き戻される。誘われるように視線を向ければ、オルテガもまた獰猛な笑みを浮かべていた。
「人の事言えない顔をしているぞ」
「実際楽しいからな」
親指の腹で俺の目元をなぞるとオルテガが楽しそうに言う。まあ、気持ちは分からんでもない。俺も当事者じゃなかったら喜んで観戦しているだろう。
「……そろそろ寝よう。流石に疲れた」
そう声を掛けて椅子から立ち上がる。手紙を書くのはもう明日にしよう。いい加減腰も体力も限界だ。それに眠い。
デスクの上に置いていた竜の卵の入った箱を抱き上げようとするとそれを見たオルテガが眉を顰めた。
「まさか卵と一緒に寝るのか?」
「ダメか?」
寝相は悪い方ではないので潰したり割ったりはしないと思う。それに、岩場で子育てするから竜の卵は非常に強靭な卵殻に覆われていて、多少落とした程度では傷も付かないとライネも言っていた。
出来たら手元に置いておきたいんだが、と思った矢先にオルテガがデスクを回り込んできて俺の隣にくるとぐいと抱き寄せられた。少々乱暴な行動に驚きつつも、見上げた先にあった夕焼け色の瞳に見える嫉妬の色に歓喜が突き上げる。
「本当に狭量な事だ。今からこんなに妬いたりなんかして。竜が生まれたらどうするんだ」
「……お前が竜に傾倒するあまり、俺を構わなかったら縊り殺してしまうかもしれないな」
「怖いこわい。大事な竜がそうならないようお前の御機嫌取りに勤しむとしよう」
頬に手を添えて少し背伸びをしてオルテガの唇に口付ける。応えるように貪り付かれ、逃げ道を塞ぐように俺の腰に腕が絡み付く。
……卵には申し訳ないが、今夜は共寝をしてやれそうにないな。
ルファスからの手紙に目を通し終わったのはすっかり夜も更けた頃だ。時計を見遣ればまもなく日付けが変わろうとしている。
この世界は外に街灯なんかがないせいか夜が早い。灯りといえば外で使うには頼りない魔石ランプだけだ。そのせいか、暗くなれば皆家から出る事は少ないし、早くに眠ってしまうから家の者もすっかり夢の中にいるようだ。
やっと目を通し終わった俺がデスクで大きく伸びをしていると、すかさずカップが置かれた。ふんわりと香るのはセイアッドが好む紅茶の香りと微かな蜂蜜の匂いだ。
「ありがとう」
礼を言えば、紅茶を置いたオルテガが柔らかく微笑む。こうして起きて付き合ってくれた上に紅茶まで用意してくれる辺り、本当に甲斐甲斐しい男だと思う。
温かいカップを手に取って一口飲めば、優しい甘さが嬉しかった。
「どうだった、手紙の中身は」
「あー」
……言えない。あの分厚さの三分の一がセイアッドに宛てたメッセージだった、なんて。
シガウスはルファスがセイアッドに傾倒していると話していたが、どうやら事実だったらしい。後半は長々とセイアッドがいない事に対する悲痛なメッセージだった。更にそのうちの半分くらいは仕事を押し付けて来る王太子や宰相代理など周りに対する愚痴だったが……。ルファスには本当に苦労を掛けて申し訳ないとは思っている。
一刻も早いお戻りを心よりお待ちしております、と結ばれた最後の一文の筆圧の強さに無言の圧を感じたが、見なかった事にしておこう。俺はまだ帰りたくない。実家でオルテガとのんびりぬくぬくしたいんだ。
それ以外は政治を取り巻く貴族の話が多かったが、どうやら流れはこちらに向いているようだ。
元々セイアッドは若手の貴族や父であるセオドアが引き込んだ新興勢力からの支持が厚く、断罪され俺があの場を去った直ぐ後から擁護する声が上がっていたのだという。決して少なくないその声を無視する事が出来ず、セイアッドを追い詰め切る事が出来なかったのはミナルチーク達には手痛いだろう。
そうして手を拱いているうちにステラの横暴や失言が市井にまで拡がるようになり、今現在ミナルチーク達は火消しの方に必死になっているようだ。そりゃそうだろうな。一番要のステラが王太子妃になれなかったら宰相セイアッドと王太子の婚約者だったレインを追い出した意味がない。
この領地に戻ってからひたすら手紙を出して、兼ねてから協力してくれていた貴族達に擁護をお願いした甲斐があったな。レヴォネ領から送り続けた手紙は確実に効果を示してくれている。予想外に積極的に動いてくれる者が多かったのも僥倖だ。
旗色が悪いと見たミナルチーク派がパラパラとだが、その傘下を離れてはセイアッド派の者達と交流を持とうと必死になっているようだし、瓦解が始まっていると言っても良いんじゃないだろうか。
ついでに、ロアール商会が撤退した事で貴族達が嗜好品を手に入れられなくなっている状況も、「王太子がセイアッドを追い出したせいだ」と追い風になっている。特に美容品や化粧品、茶葉などが手に入りにくいから御婦人達がお怒りだそうだ。
ステラは相変わらずまともに王妃教育も受けずに我儘放題をしているようだが、そんな彼女の取り巻き達にも変化があったらしい。
まずは財務大臣の息子であるダグラス・カイ・ノーシェルトが自発的にステラとは距離を置くようになり、まるで憑き物が落ちたかのように真面目に励んでいるのだと言う。直接ルファスに対して協力を申し出て来たようで、彼に対してどう対応するべきか指示を仰がれた。
ダグラスの婚約者はセイアッドの部下であり、腹心であるヘドヴィカ・イシェル・クルハーネク侯爵令嬢だ。彼女は非常に優秀でとても頼りになる女性で、今回の件でも色々動いてもらっている。
恐らく、ヘドヴィカがダグラスに対して喝を入れたのだろう。彼女も怒らせるとなかなかに怖いから。それに、ヘドヴィカの話を聞く限りでは彼等の関係は良好だったようなので『恋風の雫』による洗脳効果も薄かったのかもしれない。
王太子ライドハルトはステラの横暴を止められず、ダグラスが離れた事でマーティンともギクシャクしているようだ。セイアッドを断罪した事で上昇していた求心力も落ちて、今では遠巻きにされているらしい。
ついでにロビンは実家が大変な事になっていてそれどころじゃないだろう。俺にとってもそこは予想外だったが……。
断罪されたとはいえ、その罪は殆どがでっち上げられたものだ。王都の者達もやっとその事に気が付き始めたようだ。
悪辣宰相だと嘯いて追い出した男がいなくなった事で民の生活は悪くなり、王都に落ちるのは不穏の影。
そして、優秀な婚約者を捨て、新たに婚約を結ぼうとしている女が繰り広げる失態と醜態の数々。
不満と不穏の連鎖はまだまだ止まらないだろう。
そして、そんな状況を招いたのは誰なのか。考えなくとも向かう矛先は決まっている。
例え、傀儡だったとはいえど、決断し行動したのはライドハルト自身である事に変わりはないのだから。
「……大方は憂鬱な内容だが、今は高笑いしたい気分だ」
「お前の思う通りに事は進んでいるのか?」
俺の髪を掬いながら口付けるオルテガの問いに頷いて見せる。むしろ、順調過ぎて怖いくらいだ。何かしら落とし穴がありそうで。
「愚かな事だ。誰が国を支えていたとも知らないで私利私欲に走った上にみだりに国を乱すとは」
魔石ランプの仄かな灯りの中、オルテガが妖しく微笑む。嗚呼、堪らないな。そんな凶暴な表情にすらゾクゾクしてしまう。
「内乱罪は全員死罪だったな。刑を執行する時は処刑人ではなく、俺が直々に首を落としてやろう」
獰猛なオルテガも良いなと思っていたら不穏な事を言い出した。
何でこの世界の連中は直ぐに血を見たがるんだ。原作のゲームはもっとこうふわふわしたファンタジーだったろうが。
「そこまでしなくて良いから……」
「何故? お前を貶めた者など生かしておく価値もないだろう」
当たり前だと言わんばかりに笑って宣う姿に少々戦慄する。
ダーランからは散々聞かされているが、オルテガの口から相手勢力に対する感情を聞いたのは初めてかもしれない。もしかしなくても結構怒っているんだろうか。
甘いと言われるかもしれないが、出来たら血は見ずに終わりたい。生きて反省してほしいものだ。
その方が己のしでかした罪もその罪が齎す罰もゆっくり味わえるだろう?
「殺さなくて良い。出来るだけ長く生かしてやりたい。政治からも権力からも遠く離れたところで」
俺が言いたい事がわかったのか、オルテガが苦笑する。オルテガといいダーランといい、何でか知らないが「俺」や「私」より周りの方が報復に積極的なんだよな……。
ダーランには散々「リアは甘い」と叱られているし、オルテガも笑ってはいるものの若干不満そうだ。
死で贖うのは簡単だ。痛みも恐怖も一瞬で済む。だが、長い人生の中を過去の栄光に縋りながら惨めに過ごす方がミナルチークみたいなタイプの人間にはダメージになるだろう。それに、自分の行い次第では更生出来なくもない。そうやって逃げ道を作ってやった方が、恩も売り易い。
その上でまだ噛み付いてくるというのならば、その時は容赦無く踏み潰してやればいい。毒蟲だって使いようだ。せいぜい俺の役に立ってもらうとしよう。
祝夏の宴まであと一月半程。それまでの間に盤面をひっくり返されないよう足場をしっかりと固めなければ。
俺の手元にあるのは「私」が持つ宰相とレヴォネ侯爵という地位に人脈。この国でも筆頭と言ってもいい権力を持つスレシンジャー家と強大国である隣国ラソワの王太子グラシアールの後ろ盾。それから若手貴族を中心とした勢力に、王国中に販路を持つロアール商会。そして、騎士団長であるオルテガ。
ゲームの知識を持つ「俺」はステラが使っている『恋風の雫』を押さえ、正反対の効果を齎す『夜離れの露』も確保する見通しが出来た。ステラが聖女として認められる為の試練にも既に妨害の一手を打っている。……これに関しては心配しなくても自滅しそうだが。
対する相手方は駒のうち、幾つかは既に使えないだろう。ウィリアムズ商会はロアール商会子飼いの傘下となり、政を中心に協力していたであろうダグラスは王太子の元を離れた。要である筈のステラは愚かにも権力に溺れて好き放題に振る舞って国を乱し、宰相代理は職務が追い付かず、そんな状況が不利と見た者達の離反。
だが、まだ油断は出来ない。相手方がどんな切り札を持っているか分からないから。
「リア、悪い顔だな」
熱い掌で頬を撫でられて思考の海から引き戻される。誘われるように視線を向ければ、オルテガもまた獰猛な笑みを浮かべていた。
「人の事言えない顔をしているぞ」
「実際楽しいからな」
親指の腹で俺の目元をなぞるとオルテガが楽しそうに言う。まあ、気持ちは分からんでもない。俺も当事者じゃなかったら喜んで観戦しているだろう。
「……そろそろ寝よう。流石に疲れた」
そう声を掛けて椅子から立ち上がる。手紙を書くのはもう明日にしよう。いい加減腰も体力も限界だ。それに眠い。
デスクの上に置いていた竜の卵の入った箱を抱き上げようとするとそれを見たオルテガが眉を顰めた。
「まさか卵と一緒に寝るのか?」
「ダメか?」
寝相は悪い方ではないので潰したり割ったりはしないと思う。それに、岩場で子育てするから竜の卵は非常に強靭な卵殻に覆われていて、多少落とした程度では傷も付かないとライネも言っていた。
出来たら手元に置いておきたいんだが、と思った矢先にオルテガがデスクを回り込んできて俺の隣にくるとぐいと抱き寄せられた。少々乱暴な行動に驚きつつも、見上げた先にあった夕焼け色の瞳に見える嫉妬の色に歓喜が突き上げる。
「本当に狭量な事だ。今からこんなに妬いたりなんかして。竜が生まれたらどうするんだ」
「……お前が竜に傾倒するあまり、俺を構わなかったら縊り殺してしまうかもしれないな」
「怖いこわい。大事な竜がそうならないようお前の御機嫌取りに勤しむとしよう」
頬に手を添えて少し背伸びをしてオルテガの唇に口付ける。応えるように貪り付かれ、逃げ道を塞ぐように俺の腰に腕が絡み付く。
……卵には申し訳ないが、今夜は共寝をしてやれそうにないな。
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