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王都編38 ガーランド邸にて
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王都編38 ガーランド邸にて
実に有意義な話し合いができた俺はウッハウハのニッコニコである。
口が軽い奴が相手だと助かるな。あの後、ロールレーヴ劇場に来た奴だとか役者の間で噂になっているゴシップを何件か教えてもらったのでこれもネタに出来そうだ。
「ご機嫌だな」
「最高に有意義な時間だったからな」
オルテガの肩に寄り掛かりながら機嫌良く答える。いやー、本当に弱味の掴み取り状態だ。本命の情報もカートの協力も得られたし、それ以外の情報も沢山手に入った。これでいろんな人を脅し放題だ。
「遅くまで付き合わせて悪かったな」
「構わない。お前が楽しそうで何よりだ」
頬を撫でてくれる大きな手に擦り寄りながら高揚感に突き動かされるままオルテガに身を預ける。真新しい服だからかいつもよりオルテガの匂いが薄いのがちょっと残念だ。
「うちで少し飲んでいかないか? 腹も減っているだろう」
おっと、これは予想外のお誘いだ。飲むだけで済むんだろうかと一瞬思ったが、それよりももう少し一緒にいたい欲の方が勝った。…爪切りの事もあるしな。
「いいぞ。ついでにあの風呂にも入りたいな」
「そう言うと思って、ちゃんと支度してある」
流石、出来る男だ。今日は観劇だけだと思っていたから楽しみが続くことに心が浮つく。
嗚呼、どうしよう。幸せだ。
いつまでもこの時間が続けば良いのに。…なんて「俺」の我儘だな。
オルテガの腕に自分の腕を絡ませて手を握る。硬くて熱い掌の熱が心地良くて堪らない。黙って握り返してくれた指先を嬉しく思いながら、馬車が屋敷に着くまでの僅かな時間を「俺」は独り占めにするのだった。
暫しして優しく揺り起こされて目を覚ます。
「リア、屋敷に着いたぞ」
どうやら眠ってしまっていたようだ。軽く頭を振って目を覚ましているとオルテガの手が頬を撫でる。
「疲れているんだろう。少し我慢してくれ」
何を我慢するのかと尋ねる前に器用に抱き上げられて馬車から降ろされる。急に体が浮いてびっくりした俺は慌ててオルテガの服にしがみついたが、しまったと思う。
ここはガーランド家だ。こんな状況を見られたらどうなる事か。
微笑ましそうな顔をした御者がご丁寧に玄関のドアを開けてくれる。余計な事をと思う間も無くオルテガは俺を横抱きにしたまま屋敷の中に入ってしまう。
「マイラはいるか?」
大きな声で呼ぶオルテガの口を塞ごうとするが、それより早く床に降ろされてホッと息をつく。これ以上ガーランド家の者に見られたら恥ずかしくて死ぬところだった。
「こちらに」
「リアの着替えを頼む」
オルテガの声に直ぐやってきたのはガーランド家の侍女、マイラだ。うちの侍女長マーサと同年代で同じく地方男爵家出身の女性という事で仲の良い者だった。
マイラに俺を押し付けると、オルテガはさっさと何処かに行ってしまう。置いて行かれた事にムッとしかけるが、「セイアッド様はこちらに」とマイラに促されて場所を移動する事になった。
あれよあれよという間に連れて行かれたのは客室の一つだ。そこには既に数人の侍女が待ち構えており、着替えまで用意されている。しかも、その着替えが明らかに俺のものである。わざわざ隣から持ってきたらしい。どれだけ用意周到なんだ。
慣れた服に着替えて靴もヒールのないものに履き替えたところでホッと息をつく。やっぱり動き易くて楽な服装が一番だ。
そして、ちょうど俺が着替え終わったタイミングでオルテガがやってきた。彼もいつも家で着ているラフな服装になっていたのでどうやら着替えに行っていたらしい。それにしては変な感じもしたが…。
「軽食を用意してるから食べよう」
訊ねようと思ったが、額にキスを落としながら始まった甘やかしに口を閉じる。まあ、何かあるならそのうち話してくれるだろう。
そして、言われて空腹を思い出した俺は疑問より食い気の方に天秤が傾いている。ガーランド家の食事は美味いんだ。
オルテガに連れられてやってきたのは彼の自室だった。テーブルには既にバゲットにオムレツやチーズが挟んであるサンドイッチとスープがセッティングされている。これを用意していたんだろうか?
「……懐かしいな」
ガーランドではボカディージョと呼んでいるサンドイッチで、遊びに来ると昼食や夜食によく出されたものだ。特にオムレツとチーズが挟まったものが好きでよく作ってもらっていた。
勧められるままに椅子に座り、食事を始める。二人きりの空間は心地が良くて、安心出来るものだ。忙しく走り回るのも悪くないが、今はこうして過ごす事が一番幸せに思う。
程なくして食べ終わるとカウチに連れて行かれて添い寝するような形で横にさせられる。食べた後で直ぐ寝るとか自堕落の極みだな。
「風呂は少し休んでからだぞ」
耳元で優しく囁きながら髪を撫でる手の感触が気持ち良い。オルテガは良くこうやって頭を撫でてくれるが、俺はこの手が好きだ。
差し出された腕に頭を乗せて腕枕してもらいながら抱き締められる。無償で与えられるこの熱は泣きたくなるくらい温かくて優しいのだ。
思わず甘えたくなって擦り寄っていれば、とろとろと忍び寄ってくるのは睡魔。
…今日は慣れない事をして疲れたな。誰かを斬り捨てるのは「俺」にも荷が重い。
「リア」
嗚呼、それでも。愛おしそうにこちらを見つめる黄昏色の瞳。精悍な顔立ち。少しだけ甘い匂い。優しく触れるこの温かな手。彼を手に入れる為なら手段なんて構っていられない。
「今日は疲れたんだろう?」
「……うん」
オルテガにはお見通しだったらしい。逞しい胸に頬を寄せて擦り寄る。
独りだったら、きっと出来なかった。こうやって分かってくれる人が、支えてくれる人がいるから戦える。
「もう少し休んでから風呂に入ろう。今夜は泊まっていけ」
オルテガの誘惑に躊躇するも、それも一瞬だった。散々見せ付けて来たんだから今更だろう。
半ば諦めながら頷けば、オルテガに強く抱き締められた。
実に有意義な話し合いができた俺はウッハウハのニッコニコである。
口が軽い奴が相手だと助かるな。あの後、ロールレーヴ劇場に来た奴だとか役者の間で噂になっているゴシップを何件か教えてもらったのでこれもネタに出来そうだ。
「ご機嫌だな」
「最高に有意義な時間だったからな」
オルテガの肩に寄り掛かりながら機嫌良く答える。いやー、本当に弱味の掴み取り状態だ。本命の情報もカートの協力も得られたし、それ以外の情報も沢山手に入った。これでいろんな人を脅し放題だ。
「遅くまで付き合わせて悪かったな」
「構わない。お前が楽しそうで何よりだ」
頬を撫でてくれる大きな手に擦り寄りながら高揚感に突き動かされるままオルテガに身を預ける。真新しい服だからかいつもよりオルテガの匂いが薄いのがちょっと残念だ。
「うちで少し飲んでいかないか? 腹も減っているだろう」
おっと、これは予想外のお誘いだ。飲むだけで済むんだろうかと一瞬思ったが、それよりももう少し一緒にいたい欲の方が勝った。…爪切りの事もあるしな。
「いいぞ。ついでにあの風呂にも入りたいな」
「そう言うと思って、ちゃんと支度してある」
流石、出来る男だ。今日は観劇だけだと思っていたから楽しみが続くことに心が浮つく。
嗚呼、どうしよう。幸せだ。
いつまでもこの時間が続けば良いのに。…なんて「俺」の我儘だな。
オルテガの腕に自分の腕を絡ませて手を握る。硬くて熱い掌の熱が心地良くて堪らない。黙って握り返してくれた指先を嬉しく思いながら、馬車が屋敷に着くまでの僅かな時間を「俺」は独り占めにするのだった。
暫しして優しく揺り起こされて目を覚ます。
「リア、屋敷に着いたぞ」
どうやら眠ってしまっていたようだ。軽く頭を振って目を覚ましているとオルテガの手が頬を撫でる。
「疲れているんだろう。少し我慢してくれ」
何を我慢するのかと尋ねる前に器用に抱き上げられて馬車から降ろされる。急に体が浮いてびっくりした俺は慌ててオルテガの服にしがみついたが、しまったと思う。
ここはガーランド家だ。こんな状況を見られたらどうなる事か。
微笑ましそうな顔をした御者がご丁寧に玄関のドアを開けてくれる。余計な事をと思う間も無くオルテガは俺を横抱きにしたまま屋敷の中に入ってしまう。
「マイラはいるか?」
大きな声で呼ぶオルテガの口を塞ごうとするが、それより早く床に降ろされてホッと息をつく。これ以上ガーランド家の者に見られたら恥ずかしくて死ぬところだった。
「こちらに」
「リアの着替えを頼む」
オルテガの声に直ぐやってきたのはガーランド家の侍女、マイラだ。うちの侍女長マーサと同年代で同じく地方男爵家出身の女性という事で仲の良い者だった。
マイラに俺を押し付けると、オルテガはさっさと何処かに行ってしまう。置いて行かれた事にムッとしかけるが、「セイアッド様はこちらに」とマイラに促されて場所を移動する事になった。
あれよあれよという間に連れて行かれたのは客室の一つだ。そこには既に数人の侍女が待ち構えており、着替えまで用意されている。しかも、その着替えが明らかに俺のものである。わざわざ隣から持ってきたらしい。どれだけ用意周到なんだ。
慣れた服に着替えて靴もヒールのないものに履き替えたところでホッと息をつく。やっぱり動き易くて楽な服装が一番だ。
そして、ちょうど俺が着替え終わったタイミングでオルテガがやってきた。彼もいつも家で着ているラフな服装になっていたのでどうやら着替えに行っていたらしい。それにしては変な感じもしたが…。
「軽食を用意してるから食べよう」
訊ねようと思ったが、額にキスを落としながら始まった甘やかしに口を閉じる。まあ、何かあるならそのうち話してくれるだろう。
そして、言われて空腹を思い出した俺は疑問より食い気の方に天秤が傾いている。ガーランド家の食事は美味いんだ。
オルテガに連れられてやってきたのは彼の自室だった。テーブルには既にバゲットにオムレツやチーズが挟んであるサンドイッチとスープがセッティングされている。これを用意していたんだろうか?
「……懐かしいな」
ガーランドではボカディージョと呼んでいるサンドイッチで、遊びに来ると昼食や夜食によく出されたものだ。特にオムレツとチーズが挟まったものが好きでよく作ってもらっていた。
勧められるままに椅子に座り、食事を始める。二人きりの空間は心地が良くて、安心出来るものだ。忙しく走り回るのも悪くないが、今はこうして過ごす事が一番幸せに思う。
程なくして食べ終わるとカウチに連れて行かれて添い寝するような形で横にさせられる。食べた後で直ぐ寝るとか自堕落の極みだな。
「風呂は少し休んでからだぞ」
耳元で優しく囁きながら髪を撫でる手の感触が気持ち良い。オルテガは良くこうやって頭を撫でてくれるが、俺はこの手が好きだ。
差し出された腕に頭を乗せて腕枕してもらいながら抱き締められる。無償で与えられるこの熱は泣きたくなるくらい温かくて優しいのだ。
思わず甘えたくなって擦り寄っていれば、とろとろと忍び寄ってくるのは睡魔。
…今日は慣れない事をして疲れたな。誰かを斬り捨てるのは「俺」にも荷が重い。
「リア」
嗚呼、それでも。愛おしそうにこちらを見つめる黄昏色の瞳。精悍な顔立ち。少しだけ甘い匂い。優しく触れるこの温かな手。彼を手に入れる為なら手段なんて構っていられない。
「今日は疲れたんだろう?」
「……うん」
オルテガにはお見通しだったらしい。逞しい胸に頬を寄せて擦り寄る。
独りだったら、きっと出来なかった。こうやって分かってくれる人が、支えてくれる人がいるから戦える。
「もう少し休んでから風呂に入ろう。今夜は泊まっていけ」
オルテガの誘惑に躊躇するも、それも一瞬だった。散々見せ付けて来たんだから今更だろう。
半ば諦めながら頷けば、オルテガに強く抱き締められた。
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