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強欲な金色鴉と寂しがりな黒猫
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強欲な金色鴉と寂しがりな黒猫
この世界は生き辛い。呼吸すら上手く出来なくて、キラキラした世界の外側でひっそりと生きている。
色とりどりのライトに彩られた眼下の繁華街を通り過ぎていく人々を眺めながらぼんやりと紫煙を吐き出せば、すぐに風が煙を攫っていく。どうせ俺なんてこの煙のような存在だ。
吹けばすぐに空気に紛れてしまうような存在に目を止める人なんていない。ひゅうと駆け抜けていく風に髪を乱されて溜め息をつく。
「さむ……」
思わず零れ落ちた言葉も拾ってくれる人なんていなくてなんだか虚しくなる。
煙草を揉み消し、もたれていた柵から体を離して建物の中に戻ろうと振り返った先、屋上に出入りする唯一のドアの前に誰か立っていた。誰もいないと思っていたから思わずびくりと体が跳ねてしまって少し気まずい。
良くよく見ると、立っていたのは男だった。暗くても鮮やかに煌めく金色の髪に着崩しているものの派手なスーツ。ホストだろうか?
このビルはいくつかホストクラブが入っているからどれかの従業員だろう。サボったり煙草を吸いにくる人が何人かいるのは知っているが、見覚えがないので新人かもしれない。
「……見つけた」
「ん?」
ぽつりと落ちた呟きに困惑しているうちに金髪の男がずんずんとこちらに近付いてきた。困惑しているうちに先程いた柵のところまで追い詰められる。
男は俺の体の横の柵に手をつく。モタモタしているうちに逃げられないように腕で囲われ、狼狽えている俺に対して男はずいと顔を近付けてきた。
顔立ちも整っていてまるでモデルのようだが、何よりも俺の目を奪ったのは彼の瞳だ。カラコンなのだろうか。街の灯りを反射して輝く瞳は深い紫色。まるでアメジストのようだった。
「アンタがこのビルのオーナー?」
思わず見入っていれば、柔らかく訊ねられて我に帰る。恐る恐る頷けば、男は「やっと見つけた!」と嬉しそうに破顔した。何の事だろうと固まっていると、男はペラペラと話し始める。
なんでも「このビルのオーナーを見掛けると良い事がある」という噂が入っているテナントの従業員達の間で流行っているらしい。いつの間にかUMA扱いされている事もショックだったが、それよりも今の体勢があまりにも心臓に悪くて俺は相手の胸をそっと押す。
「あの、話は良くわかんないけど、とにかく少し離れてもらえますか」
「え、やだ」
やだとは。まさか拒否されるとは思わなかったのでポカンとしていると、紫色の瞳がじっと俺を見つめる。
「オーナーさんの眼は真っ黒で綺麗だね。髪も真っ黒だし、まるで黒猫みたいだ。俺の祖母の国では黒猫は幸運の象徴なんだよ」
にこにこしながら俺の事もお構いなしにペラペラ喋る相手にどうすればいいのかわからない。ただ、こんなにカッコいい人に地味な髪や瞳を褒められたのは少しだけ嬉しくて思わず顔が熱くなる。
「……可愛い」
「へ……?」
不意に落ちた言葉に、頬に触れる少し冷たい手にドキリとする。同時に唇に触れた柔らかな感触。
「オーナーさんの事、欲しくなっちゃった」
悪戯っぽく笑うと、男は再び俺の頬を撫でた。
この世界は生き辛い。呼吸すら上手く出来なくて、キラキラした世界の外側でひっそりと生きている。
色とりどりのライトに彩られた眼下の繁華街を通り過ぎていく人々を眺めながらぼんやりと紫煙を吐き出せば、すぐに風が煙を攫っていく。どうせ俺なんてこの煙のような存在だ。
吹けばすぐに空気に紛れてしまうような存在に目を止める人なんていない。ひゅうと駆け抜けていく風に髪を乱されて溜め息をつく。
「さむ……」
思わず零れ落ちた言葉も拾ってくれる人なんていなくてなんだか虚しくなる。
煙草を揉み消し、もたれていた柵から体を離して建物の中に戻ろうと振り返った先、屋上に出入りする唯一のドアの前に誰か立っていた。誰もいないと思っていたから思わずびくりと体が跳ねてしまって少し気まずい。
良くよく見ると、立っていたのは男だった。暗くても鮮やかに煌めく金色の髪に着崩しているものの派手なスーツ。ホストだろうか?
このビルはいくつかホストクラブが入っているからどれかの従業員だろう。サボったり煙草を吸いにくる人が何人かいるのは知っているが、見覚えがないので新人かもしれない。
「……見つけた」
「ん?」
ぽつりと落ちた呟きに困惑しているうちに金髪の男がずんずんとこちらに近付いてきた。困惑しているうちに先程いた柵のところまで追い詰められる。
男は俺の体の横の柵に手をつく。モタモタしているうちに逃げられないように腕で囲われ、狼狽えている俺に対して男はずいと顔を近付けてきた。
顔立ちも整っていてまるでモデルのようだが、何よりも俺の目を奪ったのは彼の瞳だ。カラコンなのだろうか。街の灯りを反射して輝く瞳は深い紫色。まるでアメジストのようだった。
「アンタがこのビルのオーナー?」
思わず見入っていれば、柔らかく訊ねられて我に帰る。恐る恐る頷けば、男は「やっと見つけた!」と嬉しそうに破顔した。何の事だろうと固まっていると、男はペラペラと話し始める。
なんでも「このビルのオーナーを見掛けると良い事がある」という噂が入っているテナントの従業員達の間で流行っているらしい。いつの間にかUMA扱いされている事もショックだったが、それよりも今の体勢があまりにも心臓に悪くて俺は相手の胸をそっと押す。
「あの、話は良くわかんないけど、とにかく少し離れてもらえますか」
「え、やだ」
やだとは。まさか拒否されるとは思わなかったのでポカンとしていると、紫色の瞳がじっと俺を見つめる。
「オーナーさんの眼は真っ黒で綺麗だね。髪も真っ黒だし、まるで黒猫みたいだ。俺の祖母の国では黒猫は幸運の象徴なんだよ」
にこにこしながら俺の事もお構いなしにペラペラ喋る相手にどうすればいいのかわからない。ただ、こんなにカッコいい人に地味な髪や瞳を褒められたのは少しだけ嬉しくて思わず顔が熱くなる。
「……可愛い」
「へ……?」
不意に落ちた言葉に、頬に触れる少し冷たい手にドキリとする。同時に唇に触れた柔らかな感触。
「オーナーさんの事、欲しくなっちゃった」
悪戯っぽく笑うと、男は再び俺の頬を撫でた。
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