11 / 74
世界ギルド 境界の門
第10話 新たな世界
しおりを挟む
~質素な宿屋~
「朝だっっっ!!!」
薄暗かった部屋を、縫針の様に鋭く尖った朝日が微睡を突き刺した。まだ僅かに蠢くだけの2つの毛布の塊は、太陽を嫌って低い呻き声を漏らす。
「朝だぞ2人ともっ! 起きろっ!!」
ただ1人元気なラルバが布の塊を鷲掴み持ち上げる。無理やり掘り起こされた幼虫の様に体を縮こまらせたバリアとラデックは、太陽に照らされ目を強く瞑る。
「……おはようラルバ」
ラデックは一言だけ挨拶を返してのそのそと洗面所へ歩き出すが、バリアは取り上げられた毛布をつかんで抗議する様に引っ張る。
「眠い……」
「バリア! 起きろ! 朝だぞ朝朝~っ!!」
再び毛布を剥ぎ取られ、ラルバに不満げな視線を送る。
「昨日も散々寝てたじゃないの! 寝過ぎは体に毒!」
「……昨晩寝れなかった」
「……ごめん」
毛布が優しくバリアに被せられた。
「ラデック!ラプー!支度をしろ!」
勢いよく上着に袖を通して足を鳴らし玄関へ向かう。
「イチルギを迎えに行くぞ」
洗面所から出てきたラデックがラルバの腕を引く。
「ラルバ。あまり期待はするな」
「……わかっている」
ゆっくりと掴まれた腕をほどき、玄関の扉に手をかける。
「お邪魔しま~す」
ラルバが扉を開けた瞬間に、イチルギがすれ違うように部屋に入ってきた。目を丸くしているラルバとラデックを他所に、イチルギは眠っているバリアの横へ腰掛ける。
「……いいのか?」
最初に口を開いたのはラデックだった。イチルギは少し困った様な顔で足を組み直す。
「仕方ないもの。まさか本当に負けるとは思ってなかったし……。でも条件付き」
「条件? ゲームそのものが条件だったろう」
むすっとした顔でラルバが抗議する。
「わかってるわよ。それは悪かったわ。でもね、アナタ達についていく上でどうしても必要なことなのよ」
不機嫌なラルバを「聞くだけ聞こう」とラデックが制止する。
「……私が抜けた後はライドル中将に私の権限を譲渡しようと思ってるんだけど、その露払いを手伝って欲しいの」
「中将が後釜とは、なんというか……」
「他はみんな歳を食っただけのお飾りだから」
イチルギが窓を開けて身を乗り出す。
「あっちに塔が建ってるの見える?」
ラルバとラデックがイチルギと入れ替わり身を乗り出す。地平線と雲が混じる霞の奥に、微かに建造物らしき影が揺らいでいた。
「見えない」
「むぅ……あれか。先が膨らんでるやつ」
「アレが気がかりなのよ」
イチルギが持ってきた地図を机に広げる。
「今この国は二つの勢力に分かれているの。一つが“保守派“。もう一つが”改革派“。二勢力合わせても国民の2割程度だけどね。」
ラデックが地図を覗き込む。
「……どこの国もそんなもんだろう」
「問題なのは改革派のうちの過激派。彼らは差別や問題意識を事あるごとに煽って、派閥に属さない人間を焚きつけて暴動を起こしてるの」
「……どこの国もそんなもんだろう」
「その過激派の大多数、それと改革派の半分があの塔の建っていた国の移民なの」
「どこの国も……」
「だから困ってるんじゃないの!!」
遮ってイチルギが若干苛ついた声を荒げる。
「それに! 一番問題なのはココが世界ギルドってこと! あの国は世界ギルド以外の殆どの国と同盟を結んでるの! 世界の秩序を保つ筈の世界ギルドが一方的な統治なんてしたら他の国からの信用がなくなるの!!」
「そうか」
依然として淡白な反応をするラデックに、イチルギは呆れたように脱力して項垂れる。
「ライドル中将がノイジーマイノリティを上手く操れるとは思えないし……私はこの国でやれることは全部やるから、アナタ達にはあの国へ行って無力化してきて欲しいのよ。筋書きは世界ギルドを巻き込まなきゃなんでもいいわ」
力なくベッドに座り込むイチルギに、ラデックがコーヒーを差し出す。無力化という単語に反応したラルバは、窓から頭を引っ込めて興奮気味にイチルギに詰め寄る。
「聞いた限りでは相当な悪だろうな! 弱者を騙ったお涙頂戴の姑息な籠絡! 気に入った!!」
「そこまでは言ってないけど……いや、そうかな……」
「無力化はどこまでが“無力化”だ? 相手の規模は? 大逆無道の数々! その詳細が知りたい!」
爛々と目を輝かせて詰め寄るラルバに、イチルギが鬱陶しそうに顔を歪ませる。
「行けばわかるわよ。というより私もそこまで把握してない」
「もう一つ! お前……本当に私たちの仲間になるつもりはあるのか?」
「ん?」
「私たちがやるだけやった後にとんずらでもしたら……そのライネル中将とやらがミートパイになって国民に振る舞われることになるやも知れんぞ」
「逃げないわよ。っていうかもう退陣するって届出ちゃったし、街へ出ればその話で持ちきりよ」
イチルギは鞄をラデックに放り投げて「後よろしく」と手を振り立ち去ってしまった。
「むむむ……。いかんせん信用ならんな……ラデックが必要以上に不安を煽るからだぞ!」
「今は警戒するに越したことはない……ん、これはあの国の書類か……それとラルバの身分証明書?」
「ああ、昨日イチルギに頼んだやつだな。ラデックのも作るか?」
「いや、俺は昨日作ってきた……氏名“ラルバ・クアッドホッパー”? このクアッドホッパーってのはどっから出てきたんだ」
「え、名前欄の後半って埋めなくて良かったのか?わからなかったから近くにいた奴のを書き写したんだが」
「……黙っておいた方がいいかもな」
~賑やかな城下町~
壁の至る所にイチルギの写真が一面にプリントアウトされた記事が貼られており、どの記事にも”イチルギ総裁、電撃退陣”と大見出しで書かれている。街行くものは皆その話題を口にしており、やれ陰謀だのなんだのと好き勝手な憶測を飛ばしている。
「これだけ話題になっていれば”実は嘘でした”なんてことはできないだろうな」
ラデックが数社の号外新聞を見ながら呟く。
「さて、どうだか。油断は禁物だ」
ラルバは露店で買ったケバブを頬張りながら不満そうに咀嚼する。
「寝袋、水筒、調理器具……」
「飯なんか街で食えばいいだろう」
「何日かかると思ってるんだ。使奴は平気でも俺とラプーが餓死する」
一行は塔のある国への準備に勤しんでいた。ラデックの買う必需品にラルバが尽くダメだしをしながら商店街を右往左往する。
「結構買ったな……魔袋を新調した方がいいな。もういくらも入らない」
「中身を出せばいい。無駄遣いするな」
「無茶を言うな……それに金の心配ならいらない。宝が思いの外高く売れたからな。贅沢しなければ4人で一生暮らせるほどある」
「だぁから言っているんだ!全部現金に変えよって……!金銀財宝は悪党の垂涎の的!釣り人が餌を食べてどうする!」
「無駄遣いはしない」
2人の会話を耳にしていたゴロツキ数人が目尻を下げて忍び寄る。1人がゆっくりとラデックの腰の魔袋に手を伸ばす。が、一瞬で粉々に粉砕され後ろに回ったラルバに羽交い締められる。
「私が求めているのは世界を滅ぼす悪の大魔王であって、お前のような人も殺せんようなチンケなコソ泥に興味はない。治療代やるからどっか行け」
口の中に金貨を突っ込まれた男は泣きながら人混みを駆け抜けていった。
「それこそ無駄遣いじゃないのか」
「ん?………………しまった」
「治療代どころか、アレで魔袋もテントも新調できたと言うのに……」
「よしラデック!買い物の続きだ!バリアおいでーアイス買ったげようねぇ」
ラデックはアイスの屋台に向かう2人を見つめ、少し考え事をする。程なくしてアイスを手に持ったラルバが戻ってきた。
「どうしたラデック。指名手配の快楽殺人鬼でもいたか?」
「いや……ラルバ。そのアイス買うとき、なにか言われたか?」
「ん?「オマケするから今晩どうか」って聞かれた」
「変だ」
「お前冗談も分からんのか……?本当にアイスのオマケ如きで体を売る奴がいるか……」
「違う。周囲の反応だ」
ラデックは早足で人混みを抜け出して物陰に身を移す。
「なんだ。なにがだ」
「普通使奴の白い肌は異端だ。人造人間なんぞ到底世に出せない非人道的な代物。一般社会にとっては怪物そのもの」
「酷い言われようだ……」
「でもこの街で白い肌や角にも黒い白目にも言及されたことはない。周りの人間は皆「それが当たり前」って顔で素通りする」
「イチルギの政策かなんかじゃないのか?じゃなきゃ使奴があの地位にはいないだろう」
「人間の常識は数年で変わるものじゃない。例えイチルギが俺たちが脱走する10年前に自由の身になっていたとしても異常だ。それと……」
人混みの中を白い肌の女性が歩いているのが見えた。
「……私以外の使奴もいるな」
「盗賊の国でも見かけた。見間違いだと思っていたが……アレは使奴じゃない」
ラデックが自分の鎖骨を突いてから白い肌の女性を指す。ラルバが目を細めると、白い肌の女性の鎖骨に縫い痕が赤黒くついているのが見えた。
「使奴は傷が治るとき真っ黒に変色する。正確には傷がある程度まで達した場合だが……縫い痕は間違いなく変色する。でも彼女は普通の傷痕のように赤くなっている」
「それがなんだというんだ」
「それに、女性が多いと思っていたがそれだけじゃない。皆ラルバとバリアの格好に驚かないどころか、過剰な肌の露出を厭わない」
「私の格好変だったのか……?普通の黒スーツだと思っていたのに……」
ラルバが困惑した表情で自分の上着を捲る。
「普通スーツは自分の体に合わせて作るだろう。胸で上着のボタンが留められないなんて非常識にも程がある。バリアのスカートもスーツにしては短すぎる」
「何故もっと早く言わないのだ……」
「都会へ来たらまず2人の服を買おうと思っていたんだが……必要はなさそうだな」
街ゆく女性たちの多くは肌を過剰に曝け出し、下着や局部のシルエットが見えることに特別な意識を持っているようではなかった。男達もその過激な扇状的姿に特別な感情を抱いている様子はなかった。あまりに常識外れた光景を見て、ラデックは少し考えた後に重たく口を開く。
「この世界は……俺が思っていた以上に普通じゃないのかもしれない」
「朝だっっっ!!!」
薄暗かった部屋を、縫針の様に鋭く尖った朝日が微睡を突き刺した。まだ僅かに蠢くだけの2つの毛布の塊は、太陽を嫌って低い呻き声を漏らす。
「朝だぞ2人ともっ! 起きろっ!!」
ただ1人元気なラルバが布の塊を鷲掴み持ち上げる。無理やり掘り起こされた幼虫の様に体を縮こまらせたバリアとラデックは、太陽に照らされ目を強く瞑る。
「……おはようラルバ」
ラデックは一言だけ挨拶を返してのそのそと洗面所へ歩き出すが、バリアは取り上げられた毛布をつかんで抗議する様に引っ張る。
「眠い……」
「バリア! 起きろ! 朝だぞ朝朝~っ!!」
再び毛布を剥ぎ取られ、ラルバに不満げな視線を送る。
「昨日も散々寝てたじゃないの! 寝過ぎは体に毒!」
「……昨晩寝れなかった」
「……ごめん」
毛布が優しくバリアに被せられた。
「ラデック!ラプー!支度をしろ!」
勢いよく上着に袖を通して足を鳴らし玄関へ向かう。
「イチルギを迎えに行くぞ」
洗面所から出てきたラデックがラルバの腕を引く。
「ラルバ。あまり期待はするな」
「……わかっている」
ゆっくりと掴まれた腕をほどき、玄関の扉に手をかける。
「お邪魔しま~す」
ラルバが扉を開けた瞬間に、イチルギがすれ違うように部屋に入ってきた。目を丸くしているラルバとラデックを他所に、イチルギは眠っているバリアの横へ腰掛ける。
「……いいのか?」
最初に口を開いたのはラデックだった。イチルギは少し困った様な顔で足を組み直す。
「仕方ないもの。まさか本当に負けるとは思ってなかったし……。でも条件付き」
「条件? ゲームそのものが条件だったろう」
むすっとした顔でラルバが抗議する。
「わかってるわよ。それは悪かったわ。でもね、アナタ達についていく上でどうしても必要なことなのよ」
不機嫌なラルバを「聞くだけ聞こう」とラデックが制止する。
「……私が抜けた後はライドル中将に私の権限を譲渡しようと思ってるんだけど、その露払いを手伝って欲しいの」
「中将が後釜とは、なんというか……」
「他はみんな歳を食っただけのお飾りだから」
イチルギが窓を開けて身を乗り出す。
「あっちに塔が建ってるの見える?」
ラルバとラデックがイチルギと入れ替わり身を乗り出す。地平線と雲が混じる霞の奥に、微かに建造物らしき影が揺らいでいた。
「見えない」
「むぅ……あれか。先が膨らんでるやつ」
「アレが気がかりなのよ」
イチルギが持ってきた地図を机に広げる。
「今この国は二つの勢力に分かれているの。一つが“保守派“。もう一つが”改革派“。二勢力合わせても国民の2割程度だけどね。」
ラデックが地図を覗き込む。
「……どこの国もそんなもんだろう」
「問題なのは改革派のうちの過激派。彼らは差別や問題意識を事あるごとに煽って、派閥に属さない人間を焚きつけて暴動を起こしてるの」
「……どこの国もそんなもんだろう」
「その過激派の大多数、それと改革派の半分があの塔の建っていた国の移民なの」
「どこの国も……」
「だから困ってるんじゃないの!!」
遮ってイチルギが若干苛ついた声を荒げる。
「それに! 一番問題なのはココが世界ギルドってこと! あの国は世界ギルド以外の殆どの国と同盟を結んでるの! 世界の秩序を保つ筈の世界ギルドが一方的な統治なんてしたら他の国からの信用がなくなるの!!」
「そうか」
依然として淡白な反応をするラデックに、イチルギは呆れたように脱力して項垂れる。
「ライドル中将がノイジーマイノリティを上手く操れるとは思えないし……私はこの国でやれることは全部やるから、アナタ達にはあの国へ行って無力化してきて欲しいのよ。筋書きは世界ギルドを巻き込まなきゃなんでもいいわ」
力なくベッドに座り込むイチルギに、ラデックがコーヒーを差し出す。無力化という単語に反応したラルバは、窓から頭を引っ込めて興奮気味にイチルギに詰め寄る。
「聞いた限りでは相当な悪だろうな! 弱者を騙ったお涙頂戴の姑息な籠絡! 気に入った!!」
「そこまでは言ってないけど……いや、そうかな……」
「無力化はどこまでが“無力化”だ? 相手の規模は? 大逆無道の数々! その詳細が知りたい!」
爛々と目を輝かせて詰め寄るラルバに、イチルギが鬱陶しそうに顔を歪ませる。
「行けばわかるわよ。というより私もそこまで把握してない」
「もう一つ! お前……本当に私たちの仲間になるつもりはあるのか?」
「ん?」
「私たちがやるだけやった後にとんずらでもしたら……そのライネル中将とやらがミートパイになって国民に振る舞われることになるやも知れんぞ」
「逃げないわよ。っていうかもう退陣するって届出ちゃったし、街へ出ればその話で持ちきりよ」
イチルギは鞄をラデックに放り投げて「後よろしく」と手を振り立ち去ってしまった。
「むむむ……。いかんせん信用ならんな……ラデックが必要以上に不安を煽るからだぞ!」
「今は警戒するに越したことはない……ん、これはあの国の書類か……それとラルバの身分証明書?」
「ああ、昨日イチルギに頼んだやつだな。ラデックのも作るか?」
「いや、俺は昨日作ってきた……氏名“ラルバ・クアッドホッパー”? このクアッドホッパーってのはどっから出てきたんだ」
「え、名前欄の後半って埋めなくて良かったのか?わからなかったから近くにいた奴のを書き写したんだが」
「……黙っておいた方がいいかもな」
~賑やかな城下町~
壁の至る所にイチルギの写真が一面にプリントアウトされた記事が貼られており、どの記事にも”イチルギ総裁、電撃退陣”と大見出しで書かれている。街行くものは皆その話題を口にしており、やれ陰謀だのなんだのと好き勝手な憶測を飛ばしている。
「これだけ話題になっていれば”実は嘘でした”なんてことはできないだろうな」
ラデックが数社の号外新聞を見ながら呟く。
「さて、どうだか。油断は禁物だ」
ラルバは露店で買ったケバブを頬張りながら不満そうに咀嚼する。
「寝袋、水筒、調理器具……」
「飯なんか街で食えばいいだろう」
「何日かかると思ってるんだ。使奴は平気でも俺とラプーが餓死する」
一行は塔のある国への準備に勤しんでいた。ラデックの買う必需品にラルバが尽くダメだしをしながら商店街を右往左往する。
「結構買ったな……魔袋を新調した方がいいな。もういくらも入らない」
「中身を出せばいい。無駄遣いするな」
「無茶を言うな……それに金の心配ならいらない。宝が思いの外高く売れたからな。贅沢しなければ4人で一生暮らせるほどある」
「だぁから言っているんだ!全部現金に変えよって……!金銀財宝は悪党の垂涎の的!釣り人が餌を食べてどうする!」
「無駄遣いはしない」
2人の会話を耳にしていたゴロツキ数人が目尻を下げて忍び寄る。1人がゆっくりとラデックの腰の魔袋に手を伸ばす。が、一瞬で粉々に粉砕され後ろに回ったラルバに羽交い締められる。
「私が求めているのは世界を滅ぼす悪の大魔王であって、お前のような人も殺せんようなチンケなコソ泥に興味はない。治療代やるからどっか行け」
口の中に金貨を突っ込まれた男は泣きながら人混みを駆け抜けていった。
「それこそ無駄遣いじゃないのか」
「ん?………………しまった」
「治療代どころか、アレで魔袋もテントも新調できたと言うのに……」
「よしラデック!買い物の続きだ!バリアおいでーアイス買ったげようねぇ」
ラデックはアイスの屋台に向かう2人を見つめ、少し考え事をする。程なくしてアイスを手に持ったラルバが戻ってきた。
「どうしたラデック。指名手配の快楽殺人鬼でもいたか?」
「いや……ラルバ。そのアイス買うとき、なにか言われたか?」
「ん?「オマケするから今晩どうか」って聞かれた」
「変だ」
「お前冗談も分からんのか……?本当にアイスのオマケ如きで体を売る奴がいるか……」
「違う。周囲の反応だ」
ラデックは早足で人混みを抜け出して物陰に身を移す。
「なんだ。なにがだ」
「普通使奴の白い肌は異端だ。人造人間なんぞ到底世に出せない非人道的な代物。一般社会にとっては怪物そのもの」
「酷い言われようだ……」
「でもこの街で白い肌や角にも黒い白目にも言及されたことはない。周りの人間は皆「それが当たり前」って顔で素通りする」
「イチルギの政策かなんかじゃないのか?じゃなきゃ使奴があの地位にはいないだろう」
「人間の常識は数年で変わるものじゃない。例えイチルギが俺たちが脱走する10年前に自由の身になっていたとしても異常だ。それと……」
人混みの中を白い肌の女性が歩いているのが見えた。
「……私以外の使奴もいるな」
「盗賊の国でも見かけた。見間違いだと思っていたが……アレは使奴じゃない」
ラデックが自分の鎖骨を突いてから白い肌の女性を指す。ラルバが目を細めると、白い肌の女性の鎖骨に縫い痕が赤黒くついているのが見えた。
「使奴は傷が治るとき真っ黒に変色する。正確には傷がある程度まで達した場合だが……縫い痕は間違いなく変色する。でも彼女は普通の傷痕のように赤くなっている」
「それがなんだというんだ」
「それに、女性が多いと思っていたがそれだけじゃない。皆ラルバとバリアの格好に驚かないどころか、過剰な肌の露出を厭わない」
「私の格好変だったのか……?普通の黒スーツだと思っていたのに……」
ラルバが困惑した表情で自分の上着を捲る。
「普通スーツは自分の体に合わせて作るだろう。胸で上着のボタンが留められないなんて非常識にも程がある。バリアのスカートもスーツにしては短すぎる」
「何故もっと早く言わないのだ……」
「都会へ来たらまず2人の服を買おうと思っていたんだが……必要はなさそうだな」
街ゆく女性たちの多くは肌を過剰に曝け出し、下着や局部のシルエットが見えることに特別な意識を持っているようではなかった。男達もその過激な扇状的姿に特別な感情を抱いている様子はなかった。あまりに常識外れた光景を見て、ラデックは少し考えた後に重たく口を開く。
「この世界は……俺が思っていた以上に普通じゃないのかもしれない」
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる