シドの国

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笑顔による文明保安教会

第17話 笑葬の儀!

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~笑顔の巨塔 中層~

「お、目が覚めたか」
 ラデックが朦朧もうろうとした意識の狂信者に話しかける。
「こ、ここは……」
笑葬しょうそうの儀の部屋だ」
 ハッとして周囲を確認する狂信者。数十人の仲間達と尽く柱に縛りつけられ、自分たちがいつも殺してきた国民達と同じ格好にされていることに気付いた。
「きっ貴様がやったのか!!」
「とても疲れた」
 鬼の形相の狂信者に、ラデックは気怠そうに肩を回して答える。
 狂信者は魔法を使い脱出しようと試みるが、思うように発動できず手をもぞもぞと動かす。
「魔法は使えないぞ。まあ使えるは使えるんだが……やり方は教えない。まだ死にたくないからな」
 ラデックはタバコに火をつけ、深く煙を吸う。
「貴様……こんなことしてどうなるかわかっているのか?お前の想像しうる地獄程度では到底済まされないと思え!!」
「そうなのか」
 そこへ部屋の扉を勢いよく蹴り開けて、血まみれのラルバがぎこちない大股で入ってきた。
「ラデックー!治してくれー!」
「ラルバ……どうしたその怪我は」
「太ったブサイク部隊長に斬り刻まれてしまった。顔とか腹は平気なんだが、吹っ飛ばされた脚と腕がいまいちうまく繋がっていなくてな。とても歩きづらい」
「……そりゃそうだろうな。脚が90度近くズレてるし、腕も角度がかなり……これはどうなってるんだ?」
「分からん。くっ付けたら付いたし動かせば動く」
「……何度でも言うが、使奴シドは丈夫なだけで不死身じゃあない。使奴の物理的な死亡報告が無いから、詳しい耐久性に関してはなんとも言えんが……あんまり無茶なことはするな」
「あんま難しいこと言うな。私はまだ0歳だぞ」
「シマウマみたいな痣を付けて来るな」
「可愛いじゃんシマウマ」
「あと服。使奴細胞の技術を応用してるからそう簡単に傷付きはしないはずなんだがな……破ける度に俺が毎回繊維の一本一本を編み込んでいるという事を忘れないでくれ。とてもしんどい」
「ブサイク部隊長が悪い」
「他の部隊長はどうした?」
「残念ながらみんな死んでしまったよ。可哀想になぁ……」
「そうだな。……痣も酷いな。ついでだから額の痣も消しておくか?」
「あ、コレはいい。無いと変だろう」
「ある方が変なんだがな……まあラルバがそう言うなら残しておこう」
 一通りラルバの治療を終えたラデックは少しストレッチをして肩の力を抜く。そして狂信者達の方に振り向くと、みな目を覚ましているにも拘らず蒼ざめた表情のまま茫然としていた。ラルバが少し跳ねたり踊ったりしながら身体の調子を確かめ、狂信者達へ向き直る。
「さてさて!お待たせしました皆様方!!……なんだか元気がないね?もっと罵詈雑言の嵐かと思ったのに」
 1人の狂信者が震えた声で尋ねる。
「そ、その……部隊長……達が……死んだと、いう……のは?」
 ラルバが答える前に別の狂信者が同じく震えた声で遮る。
「ばっ馬鹿を言うなっ!!笑顔の七人衆がこんな使奴1人に殺されるものかっ!!」
「だ、だって」
 ラルバは何かを閃いたように口角を上げて指を鳴らす。
「ラデック!ちょいちょい!」
「なんだ。労働なら軽めのを頼むぞ」
 面倒臭そうなラデックにラルバが笑いを堪えながら耳打ちをする。
「……労働なら軽めのものをだな」
「走れラデック!!時間がないぞ!!」
「これ時間制限あるのか……?」
 ラデックは言われるがままに出口の方へ走っていった。ラルバは手を振って見送ると、再び狂信者達へ向き直る。
「えーオホン!いやあさすがに部隊長を全員殺したと言うのは嘘だ!ちょっと調子に乗ってしまってなぁ申し訳ない。君らをボコした後必死で逃げて撒いて来たんだ……てなわけで?部隊長が戻ってくるまで君らとゲームをしようと思う!!」
「ふざけるのも大概にしろ脱獄者!!」
「大概にしまーす」
 ラルバは空間に模様を描くようにクルクルと指先を回す。すると狂信者の真上の天井にヒビが入り、数滴の溶岩が垂れ落ちた。
「あっ熱っ!!熱ちちちっ!!」
「燃え、燃えるっ!!」
 狂信者達を縛る柱を固定している木製の台座は、溶岩が触れた部分からブスブスと黒い煙を上げて燃え始める。天井の隙間からは赤く煌く溶岩が、亡者の涎のように少しずつ滴り落ちている。
「んひひひひ……実は私は昨日ある予言を……失礼。神から神託をたまわってなぁ。『隕石が降り注ぎ、不躾な信者もどきは業火の中やけ死ぬであろう』とな。んひひひっ」
 幼い少女のように、あざとく口元を両手で隠しながら笑うラルバ。狂信者達は半狂乱になりながら必死にもがき脱出を試みている。
「だが!お前らの信仰心が本物なら……笑え!笑顔でないものはナンチャラにナントカカントカ?笑っている間は溶岩を止めてやろう……その間に部隊長が帰ってくれば私の負けだ!!」
 ラルバがそう高らかに宣言をすると、狂信者達は間髪入れずに大笑いを始めた。
「はっはっはっは!!馬鹿者めが!!我々の信仰心が貴様如きに穢されるものか!!」
「あーっはっはっはっは!悪しき脱獄者に天罰を!!笑福の罰をーっ!!あーっはっはっはっは!!」
「…………案外笑えるものなんだな。こんな状態でも」
 耳をつんざく大爆笑に、ラルバは背を向けて立ち尽くす。
「脱獄者に罰をーっ!!奈落へ誘い給えーっ!!ははははははーっ!!」
 狂信者達は次第に火の勢いが強まる台座にも怯まず、高らかに笑い声を上げ続ける。
「脱獄者に裁きを!!あはははははっ!!災いを呼ぶ忌面いみづらに裁きを!!あはははははっ!!」
 爪先が焦げようとも、煙を吸い込もうとも、彼等は狂ったように笑い続ける。
「あーっはっはっは!!」
 狂ったように。
「裁きをーっ!ははははーっ!!」
 信じながら。
「脱獄者に罰を!あはははっ!!」
 勝利を。未来を。
「あはははははっ!!!」
 希望を。確信しながら。
「んひひひ……」
 怪物がどんな顔で笑っているかも知らずに。

 台座の炎の勢いも弱まり、火力不足で殆どが燃えずに残った台座の上で、狂信者達は喜びと嘲笑に満ちていた。
 すぐにあの馬鹿は殺される。七人衆に何をしたのかは知らないが、我々が力尽きるまで七人衆がココへ辿り着けないと思い込んでいる。七人衆は常に各部隊員から魔力を供給しており、大方の方角・体力と魔力の変化を把握している。襲撃直後に、笑葬の儀の部屋という普段は立ち入り禁止の場所で、減らない魔力に減り続ける体力。七人衆はとっくに異変に気付いているに違いない。問題は誰が一番最初に来るかだ。
 エンファかドンマかシュガルバなら最高だ。特等席で解体ショーが見れる。グドラかポポロだと流れ弾が厄介だ。ボルカニクかファムファールなら何事もなく一瞬で終わるだろう。
 そんな考えを巡らせていると、予定よりもずっと早く部隊長“達”は帰ってきた。予想外の方向から。
 石の天井が生クリームのように”溶け出し、垂れ下がって“来たかと思うと、張り裂けた隙間から6人の人影が落下してきた。
「あーっはっはっはっは……は?」
 狂信者達は思わず笑いを止めて人影に目を向ける。
「おっと!お待ちかね部隊長様のお帰りだぞ!はい国歌斉唱!!」
 ラルバが手を叩いて狂信者達を煽る。
 天井から落下してきたのは、部隊長達の見るも無残な焼死体。そして、ドンマの死体だけが人間の仕業とは思えぬ程に残忍な傷を負っていた。
「ド、ドンマ様……!!」
「ああっ……あああっ……や、やっぱり……殺したってのは、本当だったんだ……!!」
「そんな馬鹿な……!!」
 大爆笑の渦が一転して恐怖と悲哀の波に飲まれる。
「いやぁーまいった!部隊長達のお帰りってことは?私の負けかーっ!くぅーっ!悔しいなぁ!!」
 ラルバは大きくおどけて天を仰ぐ。天井の穴から目があった汗だくのラデックに親指を立てて「ナイスタイミング」とジェスチャーを送った。
「それじゃあ敗北者は尻尾を巻いて逃げるとしますか……」
「待っ待てっ!!我々の勝ちなら縄を解け!!」
「そっそうだ!縄を解け!!」
「んー?」
 背を向けて歩き出そうとしたラルバを狂信者達が引き止める。
「別に負けたら解放するとも何とも言ってないが……」
 ラルバは嘲笑するようにニヤリと笑うと、指先をパチンと鳴らす。それを合図に天井のひび割れが広がり、再び溶岩がポタポタとしたたり始める。
「おっお前っ何のつもりだっ!!」
「いやだってまだ6人しか帰って来てないからなぁ……部隊長は七人衆なんだろう?」
「お前さっき“私の負け”だと……!ゲームは終了だ!!」
「違う違う。“私の負けかー”って勘違いしたんだ。ただの感想。でも実際は人数足りて無いし、まだまだゲームは終わらないぞ?」
「お前は“部隊長が帰ってくれば私の負け”と説明しただろう!!全員とは言っていない!!」
「え?…………あ、ホントだ」
 ラルバはポンと手を叩き頷く。すると天井のひび割れは塞がり、溶岩の供給は止まった。
「なんだーつまんないの。はいはーい。私の負けでーす」
 両手をひらひらと頭上で振り降参するラルバ。狂信者達はホッと安堵の溜息をつく。
「じゃ、じゃあ我々を解放しろっ……!このままでは焼け死ぬ!」
 狂信者達との押し問答の最中も滴り落ちた溶岩は、再び台座を真っ赤な炎となって走り回っている。
「え?やだよ?」
「なっ……!この期に及んでまた負けを撤回するのか……!?」
「いや負けは負けだけどさ。さっきも言ったけど、負けたら解放するなんて言ってない」
「こっ……この……!!!」
「じゃあバイバイ」
 そう言ってラルバはきびすを返して出口へ歩き出す。
「まっ待て!!このままじゃ火が……!!」
 出口の手前でラルバは立ち止まって振り返る。
「遊んでくれてありがとう。そのまま焼け死ね」
「っ――――――――!!!」
 狂信者達の声を掻き消すように扉が閉じられた。

「トドメは刺さないんだな」
 部屋の外へ出ると、タバコをふかしているラデックが階段に座って待っていた。
「んー?ああ……実を言うとな……」
「罪悪感が芽生えたのか?」
「ちょっと飽きた……」
「……そうか」
「帰るか……」
「ならバリアを迎えに行こう」
「ああ、下にいるんだっけか」
 ラルバは螺旋階段の通路まで行くと、塔の一階に繋がる吹き抜けに飛び降りた。
「まさか俺も飛び降りろと言うんじゃないだろうな……」
 着地の術を持たないラデックは急いで螺旋階段を降り始めた。


~笑顔の巨塔 下層~

「ぬぅぅぅぁぁぁぁあああああああっっっ!!!」
 ファムファールの固く握られた両拳が、雄叫びと共にバリアを両サイドから挟み込む。その破壊力は鉄の塊すらも一瞬で消し飛ばすほどの威力を持っているが、挟まれたバリアは無傷どころか、夜通し動いていたせいで感じていた眠気を、今になって欠伸に表した。
「ぜぇっ……ぜぇっ……バ、バリアちゃぁん…………アナタァ……ホントに丈夫ねぇぇえ!?」
 汗だくになりながら大きく肩で息をするファムファールに、バリアがやる気のないVサインで反応を返す。
「捕獲……捕獲って言ったっテ……フゥーッ……フゥーッ……」
 通常の戦闘であれば、ファムファールはバリアを放り投げて終いであった。しかし、今回は脱獄者と幇助者ほうじょしゃの捕獲が目的であり、バリアを弱らせる必要があったファムファールは、塔を壊してはならないという状況も相まって酷く難儀していた。
魔封鎖まふうさはダメ……毒もダメ……トリモチが充満したカプセルなんテ魔法使える子誰かいたカシラぁん……?エンファちゃんナラ出来るカシラ………………ん?」
 ファムファールは何者かの気配を感じて飛び退く。すると上空から落下して来たソレは、少しの土煙を上げて着地しファムファールとバリアの方を向く。
「バリアー帰るぞー!うおっ、なんだこのジャガイモの魔人は」
 ラルバはファムファールに「どうも」とお辞儀をすると、そそくさとその場を立ち去ってしまった。
「……バリアちゃん。お仲間?」
「うん。帰るね。ファムちゃんバイバイ」
「…………バイバイ」
 唖然としながらファムファールはバリアに手を振って見送る。
「……まさかとは思っていたケド、あの子もしかシテ本当に部隊長全員倒しちゃっタノ……!?」
 思わずその場で見上げるファムファール。見えはしないものの、いつもなら不気味なほどに禍々しく満ちている魔力も一切感じられず、ただただ真夜中の静けさだけが降ってきている。
「なんだこの巨人は……」
 茫然と真上に顔を向け続けるファムファールの横を、遅れてきたラデックは見つからぬように抜けていった。
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