33 / 74
クザン村
第32話 祟りの正体
しおりを挟む
~クザン村 クザン湖~
ラルバが担い手大堂に連れ込まれた翌日の朝――――
「あー……ラデック」
「なんだ、ハピネス」
「何で釣りなんかしている?」
やることが無くなったラデックはクザン湖に来ていた。興味本位でついてきたハピネスは、予想外の行動に首を傾げている。
「釣りは嫌いか?あ、やったことないか」
「いや、そうではなくて、何故釣りなんだ?こんな汚い湖で。その岩鯨をどうするつもりだ?」
ハピネスはラデックが釣り上げた数匹の岩鯨を指差して不快な顔をする。岩鯨はバケツからはみ出して逃げ出そうと身を捻らせてのたうち回っている。
「いや、昨日ハピネスが”岩鯨は雑食で土でも毒でも食べる“って言うから、本当に石や木の枝でも釣れるか試してる。ちゃんと後で湖に帰す――――ん、もう一匹かかったな」
ラデックはしなった釣竿……よく見れば物干し竿の先に糸を括り付けただけのオモチャを後方へ倒し、釣り上げた岩鯨を陸に叩きつける。
「トンタラッタトンタラッタトンタラッタラー……トンタトンタラッタラッタ……」
針を外しながら呟くように突然歌い始めたラデック。陽気とは程遠いラデックのイメージに驚いたハピネスは思わず尋ねる。
「ラ、ラデック君……歌なんか歌うようなキャラだっけ?」
「……?最近の人間は鼻歌とかしないのか?」
「いや、そうじゃないんだが……意外でな……何の歌なんだ?」
「んー……半分俺が作った。“トンタラッタの大冒険”という本を知って……るわけないか。200年以上前の本だしな」
「どんな本なんだ?」
ラデックは再び釣り針を湖面に投げつけタバコをふかす。
「俺が5、6歳の頃に読んだ児童向けの絵本だ。主人公のトンタラッタという少年が苦難を乗り越える内容の。さっきの歌はそれに出てくる」
「ラデック君は今26だっけ?今でも覚えてるなんて、相当お気に入りだったんだな」
「相当お気に入りどころか、俺の生きる理由でもある」
ハピネスはギョッとして目を見開き、眉一つ動かさず煙を吐き出すラデックを見つめる。
「そ、そんなに良い内容なのか?」
「恐らく一般的には駄作と表現されるものだろう」
「え?じゃあ何故……どんな内容なんだ?」
「トンタラッタの兄が勇者に選ばれ魔王退治に行くが返り討ちに遭い命を落とす。それで今度はトンタラッタが兄の仇を討ちに旅に出るんだ」
「随分ダークなスタートだな」
「スタートだけじゃない。道中トンタラッタは商人にぼったくられ、宿に泊まれず野宿をしていると追い剥ぎに襲われる。命からがら逃げ延びたところで兄の元仲間たちに出会うんだが、“お前の兄が弱っちいせいで俺たちは大怪我をした”と半殺しにされる」
「それ本当に児童向け絵本か?」
「恐らく苦難を乗り越えるトンタラッタを見習ってほしいと思ったのかもしれないな……降り掛かる火の粉が多すぎて前世の罪を精算させられているように見えるが」
ラデックは遠い目をしてタバコの煙を湯気のように吐き出す。
「トンタラッタは辛いことがあると歌を歌うんだ。“トンタラッタ叩かれた。お前のせいだと叩かれた。だけどそんなの大丈夫。引きずる右足壊れた左手。暫く寝てれば大丈夫。トンタラッタトンタラッタトンタラッタラー”と。そこに俺が音程をつけたのがあの歌だ」
「聞いているだけで辛いストーリーだな……もしかして最後死んじゃったりする?」
「もしかして最後死んじゃったりする」
「報われない……」
「いや、そうでもない。結局後編でトンタラッタは魔王の手下に殺されて死んでしまうんだが、それでもトンタラッタの幸せは侵されない。暗闇で一人ぼっちで死んでいくが、トンタラッタは自分の信じた幸せを疑わなかった。兄を無能と貶すこともなく、自分を嵌めた人間を恨むこともなく、自分を受け入れない世界を憎むこともなく、理想を信じて守り抜いた。俺はそこに惹かれたんだ」
「惹かれ……惹かれる部分あったか?幸せ?」
「昔から物語を読むのが好きだったが、ハッピーエンドには必ず何かが必要だ。友人であったり、恋人であったり、才能であったり、境遇であったり。生きていれば必ず良いことがあると言いつつも、幸せになれるのは皆ハッピーエンドの条件を満たした者だけだった。けどトンタラッタは違う。どんなに惨めで弱小で報われなくても、信じる心一つで幸せになった」
「……ラデック。それは盲目というものだ」
「盲目でいい。見えないのと見ないのは別だ。トンタラッタがいたからこそ、俺は生きていれば必ずある“良いこと”を探すことに踏み出せる」
ハピネスは一通り話を聞くと、珍しく眉間に皺を寄せて目を閉じ唸り声を漏らす。
「なーんだラデック。そんな理由で私の脅しに従ってたのか」
突然割り込んできた陽気な声に2人が振り向くと、いつもと変わらぬ堂々とした姿勢でラルバがこちらを見下ろしていた。しかし、その後ろには小動物のように怯えているクアンタが無理やり手を引かれている。
「ラルバ。バビィ達はどうした」
「今から虐める。クアンタちゃんには特等席で見てもらおうと思ってなぁ」
「け、結構です……!!」
「ラルバ、よせ。トラウマになる」
「えー……めちゃんこ面白いのに……」
ラルバが手を離すと、クアンタは小走りでラデックに駆け寄った。
「ふーんだ。いいもんねー勝手にやっちゃうモン」
しゃがんだラルバが湖面に手をつけると、水中から氷の桟橋が浮かび上がる。それを合図に、村の方からバリアとラプーが簀巻きにされた村人達を引きずって歩いてきた。
村人達は皆顔を腫れ上がらせて血を流しており、誰一人として文句を言うことなく死体のようにじっとしている。
「いやーご苦労様!じゃあこれからクザン様のご機嫌を取るために生贄でも捧げましょうかねー」
ラルバの殺害予告に村人達は身体をビクッと震わせ、1人の男が命乞いを漏らす。
「たっ頼む……許してくれ……!」
しかしラルバは返事の代わりに男の腹を力一杯踏み潰す。
「がああああっ!!!」
「勝手に喋るなっつーに。罰として最初はお前からだ」
「…………!!!」
ラルバは息ができず悶える男を担いで、氷の桟橋を渡って端まで移動する。
「無駄だ……!」
そう呟いたのはバビィであった。地面に倒れ込み同じく顔をボコボコに腫れ上がらせて今にも泣きそうな顔はしているが、その中のは隠しきれない憤怒が見え隠れしている。
「無駄ぁ?何がぁー?」
ラルバが振り向いてバビィに返事を返すと、バビィは首だけをラルバの方へ振り向いて声を張り上げる。
「クザン様は女しか供物として認めん!!男では贄として認められんのだ!!祟りは防げん!!」
ラデックの陰に隠れていたクアンタも、目に涙を浮かべながら補足し始める。
「バビィの言う通りなんです……!結局……私が死なない限りは……!クザン様はお許しにならない……!」
「クザン様なんていないよ?」
ラルバのあまりに確信を持った物言いに、村の人間達は狂人を見るような目でラルバの方を見た。
「馬鹿者め……!クザン様を愚弄するとは……!」
「今すぐ謝れ他所者!!クザン様の怒りを買ったらどうする!!」
「んーそれはないよ絶対。だってクザン様なんていないモン」
ラルバは踵を返して氷の桟橋から陸へ戻る。
「まあ強いて言うなら……」
担いでいた男を足元へ転がし、ラデックが釣りに使っていたバケツに手を突っ込む――――
「これが“クザン様”だ」
一匹の岩鯨を村人達に掲げて見せた。
ラデックですらその言葉に首を捻り、理解できず沈黙する。
「祟りの正体?なんてことない。ただの毒ガスだ」
周囲の沈黙をいいことに、ラルバは岩鯨を指揮棒代わりにクルクルと振り回しながら解説を始める。
「このクザン湖だが、部分循環湖と呼ばれるものだ。普通は汽水湖なんかが当てはまるのだが……クザン湖は何らかの理由で水の一部が変質、比重が変わってしまったんだろう。そのため季節による水の温度差が起こっても一部しか循環しない。最下層では毒素が溜まり続け、上層部を侵食。毒素は広がっていく。しかし、本来はそうならない。何故ならこの湖は地下水脈と繋がっているからだ。山から流れてきた水が地下水脈を通って湖に流入し、また湖底の水脈を通って川や海へ流出していく。元々はそうやって循環していたんだ。では何故部分循環湖になったのか?その原因がコイツだ」
ラルバは振り回していた岩鯨を村人達の方へ放り投げる。地面に叩きつけられた岩鯨は、全身からドロドロとした半透明の粘液を分泌して硬直している。
「コイツらは危険を感じると、こうやって粘液を纏って仮死状態になるらしい。そうして自分たちが活動できる条件が揃うまで休眠し続ける――――世間では通称“トコネムリ“と言うそうだ。湖の腐敗は、コイツらが粘液で湖底にある下流を堰き止めてしまったのが原因だ。毒で休眠状態になったトコネムリは湖底の穴を塞ぐ。そしてまた毒素が増えて、余計にトコネムリは穴から出られなくなってしまう。湖が広がっていないと言うことは、恐らくどこかの地下水面と水位が同じなのかもしれんが、排水はもはや蒸発くらいでしか出来なくなってしまったのだ。溜まりに溜まった毒はいずれ毒ガスとなり、祟りとなって村を脅かした。クザン村の先住民は困っただろうなぁ。そこで発明されたのが“生贄でクザン湖を綺麗にしちゃおう作戦”だ!」
ラルバはラデックの使っていた釣竿を手に取り、釣り針にきのみを一粒刺して湖に投げ入れる。
「クザン様クザン様どうか村をお救いください~ってな。腐った湖にキレイなお肉をたらせば~この通り!」
ラルバが釣竿のを引くと、僅か数秒で岩鯨が釣り針に顎を貫かれていた。
「水を堰き止めていたトコネムリは、新鮮キレイなご馳走に目を覚ます。穴は一時的に解放され排水が始まる。そして一番濃い毒が取り除かれ、毒ガス噴出のタイムリミットは延長される。食事を終えたトコネムリは再び毒に当てられ、休眠しに穴に潜って水を堰きとめる……これが、お前らが代々信じてきた祟りの正体だ」
ラルバが担い手大堂に連れ込まれた翌日の朝――――
「あー……ラデック」
「なんだ、ハピネス」
「何で釣りなんかしている?」
やることが無くなったラデックはクザン湖に来ていた。興味本位でついてきたハピネスは、予想外の行動に首を傾げている。
「釣りは嫌いか?あ、やったことないか」
「いや、そうではなくて、何故釣りなんだ?こんな汚い湖で。その岩鯨をどうするつもりだ?」
ハピネスはラデックが釣り上げた数匹の岩鯨を指差して不快な顔をする。岩鯨はバケツからはみ出して逃げ出そうと身を捻らせてのたうち回っている。
「いや、昨日ハピネスが”岩鯨は雑食で土でも毒でも食べる“って言うから、本当に石や木の枝でも釣れるか試してる。ちゃんと後で湖に帰す――――ん、もう一匹かかったな」
ラデックはしなった釣竿……よく見れば物干し竿の先に糸を括り付けただけのオモチャを後方へ倒し、釣り上げた岩鯨を陸に叩きつける。
「トンタラッタトンタラッタトンタラッタラー……トンタトンタラッタラッタ……」
針を外しながら呟くように突然歌い始めたラデック。陽気とは程遠いラデックのイメージに驚いたハピネスは思わず尋ねる。
「ラ、ラデック君……歌なんか歌うようなキャラだっけ?」
「……?最近の人間は鼻歌とかしないのか?」
「いや、そうじゃないんだが……意外でな……何の歌なんだ?」
「んー……半分俺が作った。“トンタラッタの大冒険”という本を知って……るわけないか。200年以上前の本だしな」
「どんな本なんだ?」
ラデックは再び釣り針を湖面に投げつけタバコをふかす。
「俺が5、6歳の頃に読んだ児童向けの絵本だ。主人公のトンタラッタという少年が苦難を乗り越える内容の。さっきの歌はそれに出てくる」
「ラデック君は今26だっけ?今でも覚えてるなんて、相当お気に入りだったんだな」
「相当お気に入りどころか、俺の生きる理由でもある」
ハピネスはギョッとして目を見開き、眉一つ動かさず煙を吐き出すラデックを見つめる。
「そ、そんなに良い内容なのか?」
「恐らく一般的には駄作と表現されるものだろう」
「え?じゃあ何故……どんな内容なんだ?」
「トンタラッタの兄が勇者に選ばれ魔王退治に行くが返り討ちに遭い命を落とす。それで今度はトンタラッタが兄の仇を討ちに旅に出るんだ」
「随分ダークなスタートだな」
「スタートだけじゃない。道中トンタラッタは商人にぼったくられ、宿に泊まれず野宿をしていると追い剥ぎに襲われる。命からがら逃げ延びたところで兄の元仲間たちに出会うんだが、“お前の兄が弱っちいせいで俺たちは大怪我をした”と半殺しにされる」
「それ本当に児童向け絵本か?」
「恐らく苦難を乗り越えるトンタラッタを見習ってほしいと思ったのかもしれないな……降り掛かる火の粉が多すぎて前世の罪を精算させられているように見えるが」
ラデックは遠い目をしてタバコの煙を湯気のように吐き出す。
「トンタラッタは辛いことがあると歌を歌うんだ。“トンタラッタ叩かれた。お前のせいだと叩かれた。だけどそんなの大丈夫。引きずる右足壊れた左手。暫く寝てれば大丈夫。トンタラッタトンタラッタトンタラッタラー”と。そこに俺が音程をつけたのがあの歌だ」
「聞いているだけで辛いストーリーだな……もしかして最後死んじゃったりする?」
「もしかして最後死んじゃったりする」
「報われない……」
「いや、そうでもない。結局後編でトンタラッタは魔王の手下に殺されて死んでしまうんだが、それでもトンタラッタの幸せは侵されない。暗闇で一人ぼっちで死んでいくが、トンタラッタは自分の信じた幸せを疑わなかった。兄を無能と貶すこともなく、自分を嵌めた人間を恨むこともなく、自分を受け入れない世界を憎むこともなく、理想を信じて守り抜いた。俺はそこに惹かれたんだ」
「惹かれ……惹かれる部分あったか?幸せ?」
「昔から物語を読むのが好きだったが、ハッピーエンドには必ず何かが必要だ。友人であったり、恋人であったり、才能であったり、境遇であったり。生きていれば必ず良いことがあると言いつつも、幸せになれるのは皆ハッピーエンドの条件を満たした者だけだった。けどトンタラッタは違う。どんなに惨めで弱小で報われなくても、信じる心一つで幸せになった」
「……ラデック。それは盲目というものだ」
「盲目でいい。見えないのと見ないのは別だ。トンタラッタがいたからこそ、俺は生きていれば必ずある“良いこと”を探すことに踏み出せる」
ハピネスは一通り話を聞くと、珍しく眉間に皺を寄せて目を閉じ唸り声を漏らす。
「なーんだラデック。そんな理由で私の脅しに従ってたのか」
突然割り込んできた陽気な声に2人が振り向くと、いつもと変わらぬ堂々とした姿勢でラルバがこちらを見下ろしていた。しかし、その後ろには小動物のように怯えているクアンタが無理やり手を引かれている。
「ラルバ。バビィ達はどうした」
「今から虐める。クアンタちゃんには特等席で見てもらおうと思ってなぁ」
「け、結構です……!!」
「ラルバ、よせ。トラウマになる」
「えー……めちゃんこ面白いのに……」
ラルバが手を離すと、クアンタは小走りでラデックに駆け寄った。
「ふーんだ。いいもんねー勝手にやっちゃうモン」
しゃがんだラルバが湖面に手をつけると、水中から氷の桟橋が浮かび上がる。それを合図に、村の方からバリアとラプーが簀巻きにされた村人達を引きずって歩いてきた。
村人達は皆顔を腫れ上がらせて血を流しており、誰一人として文句を言うことなく死体のようにじっとしている。
「いやーご苦労様!じゃあこれからクザン様のご機嫌を取るために生贄でも捧げましょうかねー」
ラルバの殺害予告に村人達は身体をビクッと震わせ、1人の男が命乞いを漏らす。
「たっ頼む……許してくれ……!」
しかしラルバは返事の代わりに男の腹を力一杯踏み潰す。
「がああああっ!!!」
「勝手に喋るなっつーに。罰として最初はお前からだ」
「…………!!!」
ラルバは息ができず悶える男を担いで、氷の桟橋を渡って端まで移動する。
「無駄だ……!」
そう呟いたのはバビィであった。地面に倒れ込み同じく顔をボコボコに腫れ上がらせて今にも泣きそうな顔はしているが、その中のは隠しきれない憤怒が見え隠れしている。
「無駄ぁ?何がぁー?」
ラルバが振り向いてバビィに返事を返すと、バビィは首だけをラルバの方へ振り向いて声を張り上げる。
「クザン様は女しか供物として認めん!!男では贄として認められんのだ!!祟りは防げん!!」
ラデックの陰に隠れていたクアンタも、目に涙を浮かべながら補足し始める。
「バビィの言う通りなんです……!結局……私が死なない限りは……!クザン様はお許しにならない……!」
「クザン様なんていないよ?」
ラルバのあまりに確信を持った物言いに、村の人間達は狂人を見るような目でラルバの方を見た。
「馬鹿者め……!クザン様を愚弄するとは……!」
「今すぐ謝れ他所者!!クザン様の怒りを買ったらどうする!!」
「んーそれはないよ絶対。だってクザン様なんていないモン」
ラルバは踵を返して氷の桟橋から陸へ戻る。
「まあ強いて言うなら……」
担いでいた男を足元へ転がし、ラデックが釣りに使っていたバケツに手を突っ込む――――
「これが“クザン様”だ」
一匹の岩鯨を村人達に掲げて見せた。
ラデックですらその言葉に首を捻り、理解できず沈黙する。
「祟りの正体?なんてことない。ただの毒ガスだ」
周囲の沈黙をいいことに、ラルバは岩鯨を指揮棒代わりにクルクルと振り回しながら解説を始める。
「このクザン湖だが、部分循環湖と呼ばれるものだ。普通は汽水湖なんかが当てはまるのだが……クザン湖は何らかの理由で水の一部が変質、比重が変わってしまったんだろう。そのため季節による水の温度差が起こっても一部しか循環しない。最下層では毒素が溜まり続け、上層部を侵食。毒素は広がっていく。しかし、本来はそうならない。何故ならこの湖は地下水脈と繋がっているからだ。山から流れてきた水が地下水脈を通って湖に流入し、また湖底の水脈を通って川や海へ流出していく。元々はそうやって循環していたんだ。では何故部分循環湖になったのか?その原因がコイツだ」
ラルバは振り回していた岩鯨を村人達の方へ放り投げる。地面に叩きつけられた岩鯨は、全身からドロドロとした半透明の粘液を分泌して硬直している。
「コイツらは危険を感じると、こうやって粘液を纏って仮死状態になるらしい。そうして自分たちが活動できる条件が揃うまで休眠し続ける――――世間では通称“トコネムリ“と言うそうだ。湖の腐敗は、コイツらが粘液で湖底にある下流を堰き止めてしまったのが原因だ。毒で休眠状態になったトコネムリは湖底の穴を塞ぐ。そしてまた毒素が増えて、余計にトコネムリは穴から出られなくなってしまう。湖が広がっていないと言うことは、恐らくどこかの地下水面と水位が同じなのかもしれんが、排水はもはや蒸発くらいでしか出来なくなってしまったのだ。溜まりに溜まった毒はいずれ毒ガスとなり、祟りとなって村を脅かした。クザン村の先住民は困っただろうなぁ。そこで発明されたのが“生贄でクザン湖を綺麗にしちゃおう作戦”だ!」
ラルバはラデックの使っていた釣竿を手に取り、釣り針にきのみを一粒刺して湖に投げ入れる。
「クザン様クザン様どうか村をお救いください~ってな。腐った湖にキレイなお肉をたらせば~この通り!」
ラルバが釣竿のを引くと、僅か数秒で岩鯨が釣り針に顎を貫かれていた。
「水を堰き止めていたトコネムリは、新鮮キレイなご馳走に目を覚ます。穴は一時的に解放され排水が始まる。そして一番濃い毒が取り除かれ、毒ガス噴出のタイムリミットは延長される。食事を終えたトコネムリは再び毒に当てられ、休眠しに穴に潜って水を堰きとめる……これが、お前らが代々信じてきた祟りの正体だ」
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる