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帝国へ
この憲兵隊員は、王都付近でオルターナ公爵令嬢の乗った馬車が、盗賊に襲われた事を聞いていた。
この時点では、既に捜索は打ち切られていたのだが、その知らせを受けていなかったのだ。
王都からかなり離れた場所にあったため、報告にかなりの誤差が生じてしまっていたのである。
この様に、情報が遅れる事は、珍しくはないのだ。
王都から、遠く離れれば離れる程、伝令が遅くなるのは日常の事なのであった。
それを知っていたからこそ、イザベラは警戒していたのだ。
遠くから見守っていた、近衛騎士たちにも緊張が走る。
万が一の時は強硬手段に出て、マリーだけでも帝国へ逃がす事になっていたのだ。
イザベラは、緊張を悟られない様に、憲兵隊員の問いに答えたのだった。
「お勤めご苦労様。私たちは、隣町から辻馬車に乗って来て、今朝着いたばかりなの。日が暮れる前に、お祖母ちゃんのお見舞いに行くから、急いでいるんだよね。何でも畑作業中に腰を痛めたらしくてさ、収穫前の作物が全滅しちゃうって、お爺ちゃんが嘆いているんだよ」
「そうだったのか。そっちの坊主?は、何しに来た」
憲兵隊員は、帽子を深く被って、顔を隠しているマリーに視線を向けた。
マリーはイザベラに言われた通り、何を聞かれても反応をせず、下を向いたまま微動だにしていない。
「こいつは、私の弟なんだ。耳が聞こえないから、話しかけても無駄だよ」
「そうか。そりゃ、悪かったな。弟さんを、大事にな」
「うん。ありがとう」
イザベラは、口が達者である。
マリーは、嘘を吐くのが苦手なので、耳が聞こえないふりをしていたのだった。
心臓が鋼の様に脈打っており、額に汗を掻いているのも、急いでいると言えばそうなのかと信じて貰えた。
嘘も方便である。
イザベラは、マリーの手を引いて、何食わぬ顔で止めてあった馬車に乗り込んだ。
扉を閉めて、馬車が動き出した途端、二人は安堵の表情を浮かべた。
馬車に乗ってしまえば、もう誰にも邪魔はされない。
何故ならば、二人が乗った馬車は、しっかりと紋の入った皇弟妃の所有物なのだ。
皇弟妃の所有物を、改めようとする者はいないのである。
当然だが、国境を越える為の検問も、何もなく通過する事が出来たのだった。
マリーは、処刑という重圧から、一気に解放された瞬間でもあった。
「やった~~~~マリー!!!もう安全だよ、隠れてコソコソする必要もない。あんたは正真正銘の、帝国人になったんだ。よかったね」
イザベラは、喜びのあまり、マリーに抱き付いた。
「本当?本当に、私は、毒杯を飲まなくてもいいの?もう、怯えなくてもいいの?」
マリーは、まだ困惑していた。
「当然だよ。今夜は宿屋を取っている筈だから、久し振りにシャワーを浴びて、ベッドでぐっすり眠ろうね」
「ありがとう、嬉しいよ」
マリーは、張りつめていた緊張が緩み、安心して泣き出してしまうのだった。
帝国に入ってからの旅は順調で、マリーは拙いが、一生懸命帝国語で会話をするようになっていた。
一般的な常識も覚えたが、相変わらずアルフレッドの事を思い出すと、泣いてしまうのは変らなかった。
「本当に、婚約者の事が、大好きだったんだね。暫くは辛いだろうけれど、遠慮しないで泣いていいからね。私の前で、我慢する事は、何もないよ」
「ありがとう、ベラ。私、ずっとこんな風に話せる相手が、欲しかったんだと思う。子供の頃は、アル様が一緒に遊んでくれていたから、寂しいとは思っていなかったけれど…大人になると、女の子の友達がいなくて、ずっと寂しかったのかもしれない」
「そっか。うちは大家族だったから、一人っ子に憧れていたよ」
イザベラと他愛のない会話をし、各領地で観光を楽しみながら、馬車は進んで行く。
長い旅も終わりに近付き、帝都の街中に入ると、人通りが一気に賑やかになった。
遠目に大きな時計塔が見えて来ると、一際厳かな建物を囲う塀が姿を現し始める。
「マリー、もう直ぐ皇宮だよ。凄く広いから、迷子にならない様、慣れるまで一人で歩いては駄目だからね」
「うん…」
マリーは、広大な土地を囲う高い塀を見て、呆気にとられるのだった。
馬車は、静かに皇宮の門を通り抜け、皇弟妃が暮らす宮で止まった。
マリーは、緊張で顔が強張っている。
「どうしよう、緊張してきたわ」
「大丈夫だよ。キャサリン様は凄く優しい方だし、マリーの事を歓迎してくれるから、安心して」
「うん」
マリーは、王宮へは何度も足を運んでいたのだが、皇宮は別格だと思うのだった。
皇弟妃が住んでいる宮は、王宮よりも遥かに大きく、廊下も倍以上の広さがあった。
いったい、いつになったら辿り着けるのかと思う程長い廊下を歩いていると、イザベラはある扉の前で止まったのだった。
「ここからはね、キャサリン様ではなく、妃殿下って呼ぶのよ」
マリーは、馬車の中で練習したように、先輩であるイザベラには敬語を使う事にした。
「はい、イザベラさん」
「よし。では、この扉の模様を、しっかりと覚えてね。ここは、妃殿下に仕える専属執事たちの、執務室なの。私たちみたいな使用人は、ここから先には許可なく入れないから、気を付けてね」
「ええ~………ここが、妃殿下のお部屋ではないのね?こんなに、豪華な扉なのに?執事の執務室なの?」
マリーは、信じられないといわんばかりに、首を左右に振っていた。
『アル様の、お部屋の扉よりも、豪華じゃないの。帝国って、本当に凄い国だったのね…エレインは、こんなに凄い国の皇女様だったんだ…』
口をぽかんと開けて呆けているマリーの背中を、イザベラはトントンと、優しくたたくのだった。
「あ、すみません。驚き過ぎて…」
「大丈夫よ、落ち着いた?」
「はい。頑張ります」
イザベラが重厚な扉を叩くと、中から執事の一人が出て来た。
「イザベラ・ベラルーシーです。妃殿下の命を遂行し、ただいま戻りました」
「お疲れ様です。疲れてはいませんか」
「はい。昨夜しっかりと休みましたので、妃殿下にご報告をお願いしたく、マリーを連れて参りました」
「そうですか。イザベラの後ろにいる女性が、マリーなのですね。二人共、そこのソファーに座って、少し待っていてください」
執事は、執務室の中にある豪華なソファーを指し示すと、二人を中へと誘導したのだった。
そして、報告をする為に、キャサリンの元へと歩いて行ったのである。
待っている間にメイドがお茶を淹れてくれたので、緊張で喉が渇いていたマリーは、礼をいって飲み始めた。
随分と待たされており、紅茶がなくなる頃に、漸く執事は戻って来た。
「イザベラ、マリー。妃殿下が、直々にお会いくださるそうです。私に、付いて来てください」
二人は緊張しながら、執事の後ろを付いて行った。
廊下の両端には、各国の有名な巨匠が丹精込めて作り上げた芸術品が並んでいるのだが、マリーはそれらを眺めている余裕すらなくしていた。
長い廊下を、どれ程歩いたのだろうか?
いい加減疲れたと思う頃、漸く目の前に一際目立つ大きな扉が見えてきた。
この扉一枚で、どれだけの平民が遊んで暮らせるのかと思う程に、美しい彫刻と装飾が施されている。
思わず喉がゴクンと音を鳴らしてしまい、慌てて手で口を覆ったが、しっかりと聞かれてしまった様だ。
執事はこほんとひとつ咳払いをすると、マリーをじっと見つめている。
「宜しいですかな?」
この執事は、キャサリンに仕える執事の中でも中堅の一人に過ぎないのに、威圧感がとても凄かった。
まるで、蛇に睨まれたネズミの様に委縮してしまい、頭の中が真っ白になる。
国王陛下と面会した時でさえ、この様に緊張した事はなかったのだ。
あの頃のマリーが、常識外れだったといえばそれまでなのだが…
最低限の常識を身に着けた今のマリーには、一人の執事の前でも、嫌という程身分差を感じてしまうのであった。
「大丈夫よ、マリー。ずっとお勉強してきたじゃない。練習の通りにやればいいの、落ち着いてね」
「ありがとうございます、イザベラさん。私、頑張ります」
執事は、ゆっくりと頷くと、扉を叩いて使用人が来た事を告げるのだった。
この時点では、既に捜索は打ち切られていたのだが、その知らせを受けていなかったのだ。
王都からかなり離れた場所にあったため、報告にかなりの誤差が生じてしまっていたのである。
この様に、情報が遅れる事は、珍しくはないのだ。
王都から、遠く離れれば離れる程、伝令が遅くなるのは日常の事なのであった。
それを知っていたからこそ、イザベラは警戒していたのだ。
遠くから見守っていた、近衛騎士たちにも緊張が走る。
万が一の時は強硬手段に出て、マリーだけでも帝国へ逃がす事になっていたのだ。
イザベラは、緊張を悟られない様に、憲兵隊員の問いに答えたのだった。
「お勤めご苦労様。私たちは、隣町から辻馬車に乗って来て、今朝着いたばかりなの。日が暮れる前に、お祖母ちゃんのお見舞いに行くから、急いでいるんだよね。何でも畑作業中に腰を痛めたらしくてさ、収穫前の作物が全滅しちゃうって、お爺ちゃんが嘆いているんだよ」
「そうだったのか。そっちの坊主?は、何しに来た」
憲兵隊員は、帽子を深く被って、顔を隠しているマリーに視線を向けた。
マリーはイザベラに言われた通り、何を聞かれても反応をせず、下を向いたまま微動だにしていない。
「こいつは、私の弟なんだ。耳が聞こえないから、話しかけても無駄だよ」
「そうか。そりゃ、悪かったな。弟さんを、大事にな」
「うん。ありがとう」
イザベラは、口が達者である。
マリーは、嘘を吐くのが苦手なので、耳が聞こえないふりをしていたのだった。
心臓が鋼の様に脈打っており、額に汗を掻いているのも、急いでいると言えばそうなのかと信じて貰えた。
嘘も方便である。
イザベラは、マリーの手を引いて、何食わぬ顔で止めてあった馬車に乗り込んだ。
扉を閉めて、馬車が動き出した途端、二人は安堵の表情を浮かべた。
馬車に乗ってしまえば、もう誰にも邪魔はされない。
何故ならば、二人が乗った馬車は、しっかりと紋の入った皇弟妃の所有物なのだ。
皇弟妃の所有物を、改めようとする者はいないのである。
当然だが、国境を越える為の検問も、何もなく通過する事が出来たのだった。
マリーは、処刑という重圧から、一気に解放された瞬間でもあった。
「やった~~~~マリー!!!もう安全だよ、隠れてコソコソする必要もない。あんたは正真正銘の、帝国人になったんだ。よかったね」
イザベラは、喜びのあまり、マリーに抱き付いた。
「本当?本当に、私は、毒杯を飲まなくてもいいの?もう、怯えなくてもいいの?」
マリーは、まだ困惑していた。
「当然だよ。今夜は宿屋を取っている筈だから、久し振りにシャワーを浴びて、ベッドでぐっすり眠ろうね」
「ありがとう、嬉しいよ」
マリーは、張りつめていた緊張が緩み、安心して泣き出してしまうのだった。
帝国に入ってからの旅は順調で、マリーは拙いが、一生懸命帝国語で会話をするようになっていた。
一般的な常識も覚えたが、相変わらずアルフレッドの事を思い出すと、泣いてしまうのは変らなかった。
「本当に、婚約者の事が、大好きだったんだね。暫くは辛いだろうけれど、遠慮しないで泣いていいからね。私の前で、我慢する事は、何もないよ」
「ありがとう、ベラ。私、ずっとこんな風に話せる相手が、欲しかったんだと思う。子供の頃は、アル様が一緒に遊んでくれていたから、寂しいとは思っていなかったけれど…大人になると、女の子の友達がいなくて、ずっと寂しかったのかもしれない」
「そっか。うちは大家族だったから、一人っ子に憧れていたよ」
イザベラと他愛のない会話をし、各領地で観光を楽しみながら、馬車は進んで行く。
長い旅も終わりに近付き、帝都の街中に入ると、人通りが一気に賑やかになった。
遠目に大きな時計塔が見えて来ると、一際厳かな建物を囲う塀が姿を現し始める。
「マリー、もう直ぐ皇宮だよ。凄く広いから、迷子にならない様、慣れるまで一人で歩いては駄目だからね」
「うん…」
マリーは、広大な土地を囲う高い塀を見て、呆気にとられるのだった。
馬車は、静かに皇宮の門を通り抜け、皇弟妃が暮らす宮で止まった。
マリーは、緊張で顔が強張っている。
「どうしよう、緊張してきたわ」
「大丈夫だよ。キャサリン様は凄く優しい方だし、マリーの事を歓迎してくれるから、安心して」
「うん」
マリーは、王宮へは何度も足を運んでいたのだが、皇宮は別格だと思うのだった。
皇弟妃が住んでいる宮は、王宮よりも遥かに大きく、廊下も倍以上の広さがあった。
いったい、いつになったら辿り着けるのかと思う程長い廊下を歩いていると、イザベラはある扉の前で止まったのだった。
「ここからはね、キャサリン様ではなく、妃殿下って呼ぶのよ」
マリーは、馬車の中で練習したように、先輩であるイザベラには敬語を使う事にした。
「はい、イザベラさん」
「よし。では、この扉の模様を、しっかりと覚えてね。ここは、妃殿下に仕える専属執事たちの、執務室なの。私たちみたいな使用人は、ここから先には許可なく入れないから、気を付けてね」
「ええ~………ここが、妃殿下のお部屋ではないのね?こんなに、豪華な扉なのに?執事の執務室なの?」
マリーは、信じられないといわんばかりに、首を左右に振っていた。
『アル様の、お部屋の扉よりも、豪華じゃないの。帝国って、本当に凄い国だったのね…エレインは、こんなに凄い国の皇女様だったんだ…』
口をぽかんと開けて呆けているマリーの背中を、イザベラはトントンと、優しくたたくのだった。
「あ、すみません。驚き過ぎて…」
「大丈夫よ、落ち着いた?」
「はい。頑張ります」
イザベラが重厚な扉を叩くと、中から執事の一人が出て来た。
「イザベラ・ベラルーシーです。妃殿下の命を遂行し、ただいま戻りました」
「お疲れ様です。疲れてはいませんか」
「はい。昨夜しっかりと休みましたので、妃殿下にご報告をお願いしたく、マリーを連れて参りました」
「そうですか。イザベラの後ろにいる女性が、マリーなのですね。二人共、そこのソファーに座って、少し待っていてください」
執事は、執務室の中にある豪華なソファーを指し示すと、二人を中へと誘導したのだった。
そして、報告をする為に、キャサリンの元へと歩いて行ったのである。
待っている間にメイドがお茶を淹れてくれたので、緊張で喉が渇いていたマリーは、礼をいって飲み始めた。
随分と待たされており、紅茶がなくなる頃に、漸く執事は戻って来た。
「イザベラ、マリー。妃殿下が、直々にお会いくださるそうです。私に、付いて来てください」
二人は緊張しながら、執事の後ろを付いて行った。
廊下の両端には、各国の有名な巨匠が丹精込めて作り上げた芸術品が並んでいるのだが、マリーはそれらを眺めている余裕すらなくしていた。
長い廊下を、どれ程歩いたのだろうか?
いい加減疲れたと思う頃、漸く目の前に一際目立つ大きな扉が見えてきた。
この扉一枚で、どれだけの平民が遊んで暮らせるのかと思う程に、美しい彫刻と装飾が施されている。
思わず喉がゴクンと音を鳴らしてしまい、慌てて手で口を覆ったが、しっかりと聞かれてしまった様だ。
執事はこほんとひとつ咳払いをすると、マリーをじっと見つめている。
「宜しいですかな?」
この執事は、キャサリンに仕える執事の中でも中堅の一人に過ぎないのに、威圧感がとても凄かった。
まるで、蛇に睨まれたネズミの様に委縮してしまい、頭の中が真っ白になる。
国王陛下と面会した時でさえ、この様に緊張した事はなかったのだ。
あの頃のマリーが、常識外れだったといえばそれまでなのだが…
最低限の常識を身に着けた今のマリーには、一人の執事の前でも、嫌という程身分差を感じてしまうのであった。
「大丈夫よ、マリー。ずっとお勉強してきたじゃない。練習の通りにやればいいの、落ち着いてね」
「ありがとうございます、イザベラさん。私、頑張ります」
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