【完結】私だって、幸せになりたい

鈴蘭

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友達デート 

 リッキーは、約束の時間よりもかなり早めに、マリーを迎えに寮の前まで来た。
 マリーを待たせるつもりはなかったので、出てくるまで何をして暇を潰そうかと考えていたのだが、門の前に一人の少女が佇んでいるのが見えた。
 慌てて駆け寄ると、リッキーを見つけたマリーが、嬉しそうに微笑んだ。

 「おはよう、マリー。ごめんね、待たせてしまった」
 「気にしなくていいよ。私が早く出て来ちゃっただけだから」
 「そうか。昨夜は、ちゃんと眠れたのかな?」
 マリーの目の下には、うっすらとクマが出来ている。

 「え~。なんか楽しみで眠れなかったんだけど、どうして分かっちゃうの?リッキーって、凄いね。もしかして、魔法使い?」
 別に凄くはないし、魔法が使える訳でもないが、護衛騎士として観察力には長けていた。

 「魔法が使えたら、マリーを待たせたりはしていないね」
 「それも、そうだね」
 リッキーは、真面目な顔で冗談を言ってくるマリーが、本気で魔法使いの存在を信じていそうだと微笑ましく思うのだった。
 
 「小動物を見に行ったあとは、昼寝スポットに連れて行くよ。俺のお勧め場所があるんだ」
 「凄いね。お昼寝をさせてくれるお店なんて、聞いた事がないわ」
 「そうか…ははっ」
 店ではなく、公園だという事は、敢えて口には出さなかった。

 ほんの数か月前までは、マリーは公爵令嬢として生きていたのだ。
 世間知らずなところや、他人を簡単に信じてしまうところが、リッキーの目には危うく映ったのである。
 そんなマリーが一人で帝国へ来て、必死に生きようと努力をしている姿を見て、感動すら覚えたのだった。

 マルゲリーターとして生きていた時の姿とは、まるで別人の様に瘦せ細ってしまい、今では面影すらなくなっている。
 名前も変わっているので、かつての知り合いに会ったとしても、マルゲリーターだとは気付かれないだろうとも思うのだった。
 リッキーは、マリーの以前の姿から今の姿になるまでの過程を見ていた、数少ない人物の一人である。

 性格の変化も大きく、我儘で傲慢だった頃と同一人物だといわれても、信じる者はいないだろう。
 今のマリーに、特別な感情を持ち始めていることに、リッキーはまだ気付いてはいなかった。
 ただ親切心で、マリーの事を放っておけないのだと、単純な思考しか持ち合わせていなかったのである。

 マリーは帝国へ来てから、イザベラに女の子が好むカフェや洋品店、雑貨屋などには連れて行ってもらっていた。
 侍女ではないただの使用人ではあるが、皇弟妃付なので、平民女性にしては賃金を多く貰っている方だ。

 だが、公爵令嬢時代の小遣いに比べたら、雀の涙の方がましなレベルである。
 それでも初めて自分の手で稼いだ賃金で、イザベラと一緒に選んで買ったワンピースは、マリーの一番のお気に入りになった。

 当然だが、胸元には、ピンクダイヤモンドのネックレスが光り輝いている。
 しかし、平民にとって身分不相応なそのネックレスが、本物だとは誰も気付いてはいなかった。
 綺麗だが、ガラスのまがい物だと思われていたのである。

 肩からぶら下げているポーチには、可愛らしい刺繍が施されており、平民女性の間で人気の高いデザインになっている。
 ポーチとお揃いのリボンでハーフアップにした茶色い髪の毛は、少しだけウェーブがかかっていた。

 リッキーとのデートだと知ったイザベラが、朝早くから張り切って、マリーの髪をセットしてくれたのである。
 口元にはピンク色の可愛らしい口紅をうっすらと付けており、まるで恋人とのデートを楽しみにしていた乙女の様にも見えるのだった。

 お洒落をして来てくれた事で嬉しく思ったリッキーは、優しい笑顔で腕をマリーに差し出すと、遠慮がちに手を添えてきた。
 ゆっくりと歩き出した二人の姿を、陰からこっそりとイザベラが見ていたのは、門番だけが知る秘密である。

 イザベラは、純粋なマリーが変な男に騙されているのではないかと心配で、当直明けで眠そうにしていた友人の近衛騎士に護衛を頼み、こっそりと二人の後ろを付いて行く事にしたのである。
 リッキーは、この追跡者に直ぐ気付いたが、知らぬ振りをしていた。

 自分が逆の立場だったら、間違いなくマリーに変な男が付いたのではないかと、警戒して尾行すると思ったからだ。
 リッキーは、マリーに頼れる仲間が出来た事を、嬉しく思ったのである。

 マリーと最近の出来事などを話しながら歩き、馬車止まりまでくると、小動物園を往復している一台の馬車に乗り込んだ。
 馬車の中には、既に親子連れも座っており、小さな子供がはしゃいでいる。

 当然イザベラも馬車に乗り込んできたが、変装しているのでマリーは気付いていなかった。
 護衛の近衛騎士は、馬車の椅子に座ると、両腕を組んで爆睡状態に入ったのである。
 出発の時間になると、馬車は小動物園へ向かって動き出した。
 途中で下りる者や、乗ってくる者もおり、公爵家の馬車と違って辻馬車はいつも騒々しかった。

 だがマリーは、そんな辻馬車の雰囲気も嫌いではなかったのである。
 目の前で、瞳を輝かせながら小動物の話しを母親に語っている子供を、優しい眼差しで見つめていた。

 『私も、いつかお母さんになれる時が、くるのかな?』
 愛する人から婚約を破棄され、両親を亡くし兄妹とも生き別れになってしまったマリーは、心細い気持ちを抱えているのであった。
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