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膝枕
帝都の中心街まで戻ってきたマリーたちは、既に空腹だった為、レストランを探す事にした。
「マリーは、何か食べたいものはある?」
「チキン」
「え?チキンが好きなの?」
「うん、好き」
さっきまで可愛らしいアヒルと戯れていたというのに、チキンが食べたいとは、リッキーは思わず苦笑いを浮かべていた。
「俺の、行きつけの店があるんだけれど、あまり綺麗なところではないんだ。でも、美味しいチキン料理を出してくれる」
「じゃあ、そこでいいよ」
マリーは、機嫌よく了承したので、リッキーは店へと案内をした。
確かに店の外観は古びてはいるが、気にする程汚いとは思わなかったのだ。
マリーは帝国へ来てから、イザベラと一緒によく食事をしているので、平民の暮らしが新鮮に感じているのである。
店の中に入ると、木の板を張り合わせただけのテーブルと椅子が、無造作に並べられていた。
上品な言葉使いで案内するウエイターも、優雅な音楽を奏でている音楽家もいない。
殺風景な店内には、雑音の様に騒がしく会話が聞こえているだけだった。
「いらっしゃい、リッキー。女連れなんて、珍しいじゃないか。いよいよ独り身が、寂しくなったのか?」
店の店主らしき人物が、親し気に話しかけてきた。
「揶揄わないでくれ。マリーとは、今日初めてデートをしている友達なんだ」
「なんだ、友達かよ」
ガハハハッっと、店主は下品な笑い方をしている。
リッキーは、開いている席の椅子を引くと、ここへどうぞとマリーを手招きした。
そして向かいの席に腰をおろすと、メニュー表をマリーへ手渡したのである。
「好きな物を頼むといい。ここの料理は、どれも美味しいんだ」
リッキーが言う様に、料理はとても美味しく、マリーは一人前をぺろりとたいらげたのだった。
二人の間には、色気も何もないなと、店主は少し残念な気持ちで見ている事に気付いてはいなかった。
リッキーは、マリーを誉めそやしてくれる訳でもないのだが、穏やかな話し方がとても居心地良く感じられた。
店を出ると、今度は腹ごしらえに、少し歩くと言い出したのだ。
約束通り、昼寝のお勧めスポットに行くらしい。
路地裏は表通りよりも道幅が狭く、貴族の馬車が通り抜ける事もない。
井戸端で、水を汲みながら楽し気に会話をしている主婦たち。
屋台の野菜や、果物の品定めをしている客たち。
道端で、小石を蹴り飛ばして遊んでいる子供たちの笑い声が、聞こえてくる。
王都にいる時は知らなかった世界が、そこには沢山あったのだ。
暫く歩くと、木立が並ぶ公園が見えてきた。
貴族街にある整備された美しい公園とは全く違い、乱雑に刈り取られ短くなった雑草の上に寝転がり、昼寝をしている若者が多い。
リッキーは、何処から取り出したのか分からないが、大きな敷物を広げたのだ。
「マリーは、ここに座って」
そう言うと、隣にリッキーが腰かけた。
ちょうど木陰になっており、芽吹いたばかりの木の葉の隙間から日の光が零れている。
小春日和の温かい気温は、昼寝をするのにうってつけだったのだ。
マリーは、言われたとおりに、敷物の上に腰かけた。
敷物があるとはいえ、地面に直接座るのは、初めての経験だったのである。
野宿をしていた時でさえ、小さな折り畳み式の椅子に座っていたのだった。
若葉の優しい匂いがして、気持ちが安らぐ思いがした。
「気持ちいいね」
「気に入って貰えて良かったよ」
リッキーは、物心がついた時には、既に孤児院に預けられていたという。
小さな領地を持つ子爵家の三男坊だったらしいが、家が没落して、両親は行方不明になった。
置き去りにされた幼い兄弟は、親戚に預けられる事もなく、孤児院へといれられた。
一番上の兄は、読み書きが出来ていたので、直ぐに商人の家に引き取られた。
その数年後、二番目の兄と二人で、侯爵家に引き取られたと話している。
兄弟仲は悪くはなく、今でも三人で集まってお酒を飲んでいるらしいが、両親は何処で何をしているのかも分からないと言っていた。
落ち着いた話し方に、優しく耳障りの良い声を聞いていると、寝不足もあってかうつらうつらとまどろんでいく。
話を聞いていたつもりだったが、気が付くとマリーは、リッキーの膝枕で熟睡していたようだ。
小鳥の囀りで目を覚まし、慌てて上半身を起こす。
「ごめんなさい、寝ちゃったわ」
「もう少し、寝ていても良かったんだよ。昨夜は、眠れなかったんでしょう」
「ありがとう。でも、ぐっすり眠れたし、凄く気分がいいよ」
真上にあった太陽は、随分と傾いており、昼寝をしていた若者たちの姿も見当たらなくなっていた。
昼休みが終わって、皆仕事に戻ったのかもしれないと、マリーは思うのだった。
この静かな空間は、リッキーのお気に入りの場所だと言っていたが、マリーにとってもお気に入りの場所になっていた。
季節が冬から春に変ってはいたが、まだまだ日が陰ると、空気が冷たく感じる季節ではある。
二人はゆっくりと立ち上がり、商店街の方へと歩きだした。
「喉が渇いたから、お茶でも飲みに行こうか」
「うん。そうだね」
手を繋いでいる訳ではないが、仲良く並んで歩く姿は、まるで恋人同士のようだった。
その頃、マリーが心配で後を付けていたイザベラは、馬車の中で爆睡していた近衛騎士を叩き起して公園の片隅で様子を伺っていた。
「ねえ。あの男、悪そうには見えないんだけれど…善人に見える悪って、可能性もあるよね」
「さっきも言ったけれど、彼はキャサリン様のご実家で雇われている護衛騎士だから、悪者ではないと思うぞ」
「どうして言い切れるのよ?あんな無防備に、寝ている姿を晒していたのよ。下心が出たって、おかしくはないでしょう」
「確かに…男としては、期待してしまうだろうけれど…」
「ほらみなさい」
イザベラは、世間知らずなマリーが弄ばれるのではないかと、不安で仕方がないのである。
アルフレッドに失恋をして泣いている姿が、可哀想で忘れられないのだ。
まだ傷口が完全に癒えてはいないこの時期に、塩を塗られては困るのである。
イザベラは、マリーに幸せになって貰いたいと、心の底から思っているのだ。
「マリーは、何か食べたいものはある?」
「チキン」
「え?チキンが好きなの?」
「うん、好き」
さっきまで可愛らしいアヒルと戯れていたというのに、チキンが食べたいとは、リッキーは思わず苦笑いを浮かべていた。
「俺の、行きつけの店があるんだけれど、あまり綺麗なところではないんだ。でも、美味しいチキン料理を出してくれる」
「じゃあ、そこでいいよ」
マリーは、機嫌よく了承したので、リッキーは店へと案内をした。
確かに店の外観は古びてはいるが、気にする程汚いとは思わなかったのだ。
マリーは帝国へ来てから、イザベラと一緒によく食事をしているので、平民の暮らしが新鮮に感じているのである。
店の中に入ると、木の板を張り合わせただけのテーブルと椅子が、無造作に並べられていた。
上品な言葉使いで案内するウエイターも、優雅な音楽を奏でている音楽家もいない。
殺風景な店内には、雑音の様に騒がしく会話が聞こえているだけだった。
「いらっしゃい、リッキー。女連れなんて、珍しいじゃないか。いよいよ独り身が、寂しくなったのか?」
店の店主らしき人物が、親し気に話しかけてきた。
「揶揄わないでくれ。マリーとは、今日初めてデートをしている友達なんだ」
「なんだ、友達かよ」
ガハハハッっと、店主は下品な笑い方をしている。
リッキーは、開いている席の椅子を引くと、ここへどうぞとマリーを手招きした。
そして向かいの席に腰をおろすと、メニュー表をマリーへ手渡したのである。
「好きな物を頼むといい。ここの料理は、どれも美味しいんだ」
リッキーが言う様に、料理はとても美味しく、マリーは一人前をぺろりとたいらげたのだった。
二人の間には、色気も何もないなと、店主は少し残念な気持ちで見ている事に気付いてはいなかった。
リッキーは、マリーを誉めそやしてくれる訳でもないのだが、穏やかな話し方がとても居心地良く感じられた。
店を出ると、今度は腹ごしらえに、少し歩くと言い出したのだ。
約束通り、昼寝のお勧めスポットに行くらしい。
路地裏は表通りよりも道幅が狭く、貴族の馬車が通り抜ける事もない。
井戸端で、水を汲みながら楽し気に会話をしている主婦たち。
屋台の野菜や、果物の品定めをしている客たち。
道端で、小石を蹴り飛ばして遊んでいる子供たちの笑い声が、聞こえてくる。
王都にいる時は知らなかった世界が、そこには沢山あったのだ。
暫く歩くと、木立が並ぶ公園が見えてきた。
貴族街にある整備された美しい公園とは全く違い、乱雑に刈り取られ短くなった雑草の上に寝転がり、昼寝をしている若者が多い。
リッキーは、何処から取り出したのか分からないが、大きな敷物を広げたのだ。
「マリーは、ここに座って」
そう言うと、隣にリッキーが腰かけた。
ちょうど木陰になっており、芽吹いたばかりの木の葉の隙間から日の光が零れている。
小春日和の温かい気温は、昼寝をするのにうってつけだったのだ。
マリーは、言われたとおりに、敷物の上に腰かけた。
敷物があるとはいえ、地面に直接座るのは、初めての経験だったのである。
野宿をしていた時でさえ、小さな折り畳み式の椅子に座っていたのだった。
若葉の優しい匂いがして、気持ちが安らぐ思いがした。
「気持ちいいね」
「気に入って貰えて良かったよ」
リッキーは、物心がついた時には、既に孤児院に預けられていたという。
小さな領地を持つ子爵家の三男坊だったらしいが、家が没落して、両親は行方不明になった。
置き去りにされた幼い兄弟は、親戚に預けられる事もなく、孤児院へといれられた。
一番上の兄は、読み書きが出来ていたので、直ぐに商人の家に引き取られた。
その数年後、二番目の兄と二人で、侯爵家に引き取られたと話している。
兄弟仲は悪くはなく、今でも三人で集まってお酒を飲んでいるらしいが、両親は何処で何をしているのかも分からないと言っていた。
落ち着いた話し方に、優しく耳障りの良い声を聞いていると、寝不足もあってかうつらうつらとまどろんでいく。
話を聞いていたつもりだったが、気が付くとマリーは、リッキーの膝枕で熟睡していたようだ。
小鳥の囀りで目を覚まし、慌てて上半身を起こす。
「ごめんなさい、寝ちゃったわ」
「もう少し、寝ていても良かったんだよ。昨夜は、眠れなかったんでしょう」
「ありがとう。でも、ぐっすり眠れたし、凄く気分がいいよ」
真上にあった太陽は、随分と傾いており、昼寝をしていた若者たちの姿も見当たらなくなっていた。
昼休みが終わって、皆仕事に戻ったのかもしれないと、マリーは思うのだった。
この静かな空間は、リッキーのお気に入りの場所だと言っていたが、マリーにとってもお気に入りの場所になっていた。
季節が冬から春に変ってはいたが、まだまだ日が陰ると、空気が冷たく感じる季節ではある。
二人はゆっくりと立ち上がり、商店街の方へと歩きだした。
「喉が渇いたから、お茶でも飲みに行こうか」
「うん。そうだね」
手を繋いでいる訳ではないが、仲良く並んで歩く姿は、まるで恋人同士のようだった。
その頃、マリーが心配で後を付けていたイザベラは、馬車の中で爆睡していた近衛騎士を叩き起して公園の片隅で様子を伺っていた。
「ねえ。あの男、悪そうには見えないんだけれど…善人に見える悪って、可能性もあるよね」
「さっきも言ったけれど、彼はキャサリン様のご実家で雇われている護衛騎士だから、悪者ではないと思うぞ」
「どうして言い切れるのよ?あんな無防備に、寝ている姿を晒していたのよ。下心が出たって、おかしくはないでしょう」
「確かに…男としては、期待してしまうだろうけれど…」
「ほらみなさい」
イザベラは、世間知らずなマリーが弄ばれるのではないかと、不安で仕方がないのである。
アルフレッドに失恋をして泣いている姿が、可哀想で忘れられないのだ。
まだ傷口が完全に癒えてはいないこの時期に、塩を塗られては困るのである。
イザベラは、マリーに幸せになって貰いたいと、心の底から思っているのだ。
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