16 / 21
理想の彼は王子様
もう誰が見ても、付き合っていると思われていたリッキーとマリーだったが、実は友達から抜け出せずにいたのである。
初夏が近付く頃には、手を繋いで歩く程、親睦が深まっていたのにである。
職場でも、マリーはリッキーの話しばかりをイザベラに聞かせており、この頃にはマリーに声をかけようとしてくる年頃の男性も遠慮するようになっていた。
それでも、期待を持って話しかけてくる同僚が、いない訳ではなかった。
「ねえ。マリーの、好きな男のタイプを、教えてくれよ」
何故そんな事を聞いてくるのか、不思議に思いながらも、マリーは正直に答えた。
「王子様」
同僚は、一瞬面食らったが、冗談なのだと受け流した。
「ははっ。可愛い事を、言うんだな。王子様とはいかないが、俺なんてどお?大事にするぜ」
「あんたが作ってくれる賄は、とっても美味しいよ」
「そうか。それじゃあ、旨い飯を毎日作ってやるからさ、俺の嫁さんになれよ」
「それは嫌。あんたは、王子様じゃないもん」
「こりゃ手厳しいや」
駄目だと分かっていても声を掛けてくる猛者は何処にでもいるのだが、マリーのいう王子様とは、言わずもがなアルフレッドの事である。
アルフレッドを理想としているのならば、最早マリーの目に敵う男はいない事になるのだが…
いつまでも過去の恋愛に囚われている訳でもなく、好きな気持ちに蓋をした訳でもない。
大好きな気持ちを持ったまま、エレインとアルフレッドの幸せを、願っているのである。
辛い失恋を思い出してはいたが、以前の様に涙は溢れてこなくなっていた。
何故なら、リッキーの優しい笑顔が、悲しい思いをかき消してくれるからだった。
アルフレッドを思い出し、寂しいと感じない訳ではないが、もう一度婚約者としてやり直したいとも思わなくなっていたのである。
後悔していた気持ちは薄れてしまい、王妃などという立場には不向きだとさえ思えるようになっていた。
『アル様は、今でも大好きだけれど、私に王妃なんて務まらないもの。婚約が破棄されて、良かったんだわ。きっと、エレインなら、立派な王妃様になれるもの。アル様も、その方が幸せになれるよね』
そんな思いを胸に抱く様になったマリーは、大人の女性へと成長をしたのかもしれない。
休日にしか会っていなかったリッキーとは、仕事が早く終わった後も会う約束をする様になっている。
まだ彼の部屋には行った事はないが、いつか手料理を振舞いたいと考えていた。
マリーには料理の才能があった様で、料理人からも平民向けのレシピを教えて貰っていたのだが、自分で考えた料理も作る様になっていたのだ。
マリーは、度々メイド長からの呼び出しも受けていた。
本来ならばあまり関わる事のない相手だが、キャサリンから事情を聴いており、マリーの素性を理解している人物の一人でもある。
公爵令嬢だったのだから、侍女として受け入れられても不思議ではなかったのだが、マリーに教養はない。
従って、比較的簡単な雑務しかないメイドとして雇われているのであった。
素性をしっかりと調べられる侍女よりも、あまり厳しくはない使用人にする方が、都合がよかったのもあった。
そんなマリーは、ルーカスから多額の生活費を受け取っていたので、長く働かずともよかったのである。
王国からの目はとうに誤魔化せているのだから、何にも縛られる事もなく自由に生きてもよいのだが、何故か真面目に仕事を覚えていったのだった。
「マリー。貴方がここへ来て、半年以上が経ちました。平民として生きてみて、どうですか?そろそろ、自立を考えてもよい頃合いかと思って声をかけたのだけれど、貴方の気持ちを聞かせてくれないかしら」
メイド長は、働かずに遊んで暮らしてもよいのだと、マリーに伝えたのである。
しかしマリーは、不安な表情を見せたのだった。
「私は、ここを出ていかないといけないのですか」
「そんな事はないのよ。貴方の好きな選択を、妃殿下は望んでいらっしゃるわ」
「それなら…私は、ここで働いていたいです。もっといろんなことを覚えて、メイド長のような立派な人になりたいです」
真っ直ぐとメイド長の瞳を見て、ハッキリと答えたマリーの言葉に、嘘偽りはないのである。
「そう、分かったわ。貴方の気持ちは、きちんと妃殿下にも伝えておくわね。でも、気が変ったのなら、いつでも相談にきてね」
「はい、ありがとうございます」
メイド長は、深く頭を下げてから部屋を出て行くマリーの後姿を、成長した自身の娘を見る様な穏やかな表情で見送っていた。
「一日も持たずに、根を上げると思っていたのに、素直でとても良い子だわ。最近仲良くしている彼とも、問題なさそうですし…妃殿下も、お喜びになるわね」
メイド長は、マリーの仕事の様子を、隈無くキャサリンへと報告していたのである。
当然だが、リッキーの事も調査済みであり、ルーカスにも漏らす事なく報告されていた。
初夏が近付く頃には、手を繋いで歩く程、親睦が深まっていたのにである。
職場でも、マリーはリッキーの話しばかりをイザベラに聞かせており、この頃にはマリーに声をかけようとしてくる年頃の男性も遠慮するようになっていた。
それでも、期待を持って話しかけてくる同僚が、いない訳ではなかった。
「ねえ。マリーの、好きな男のタイプを、教えてくれよ」
何故そんな事を聞いてくるのか、不思議に思いながらも、マリーは正直に答えた。
「王子様」
同僚は、一瞬面食らったが、冗談なのだと受け流した。
「ははっ。可愛い事を、言うんだな。王子様とはいかないが、俺なんてどお?大事にするぜ」
「あんたが作ってくれる賄は、とっても美味しいよ」
「そうか。それじゃあ、旨い飯を毎日作ってやるからさ、俺の嫁さんになれよ」
「それは嫌。あんたは、王子様じゃないもん」
「こりゃ手厳しいや」
駄目だと分かっていても声を掛けてくる猛者は何処にでもいるのだが、マリーのいう王子様とは、言わずもがなアルフレッドの事である。
アルフレッドを理想としているのならば、最早マリーの目に敵う男はいない事になるのだが…
いつまでも過去の恋愛に囚われている訳でもなく、好きな気持ちに蓋をした訳でもない。
大好きな気持ちを持ったまま、エレインとアルフレッドの幸せを、願っているのである。
辛い失恋を思い出してはいたが、以前の様に涙は溢れてこなくなっていた。
何故なら、リッキーの優しい笑顔が、悲しい思いをかき消してくれるからだった。
アルフレッドを思い出し、寂しいと感じない訳ではないが、もう一度婚約者としてやり直したいとも思わなくなっていたのである。
後悔していた気持ちは薄れてしまい、王妃などという立場には不向きだとさえ思えるようになっていた。
『アル様は、今でも大好きだけれど、私に王妃なんて務まらないもの。婚約が破棄されて、良かったんだわ。きっと、エレインなら、立派な王妃様になれるもの。アル様も、その方が幸せになれるよね』
そんな思いを胸に抱く様になったマリーは、大人の女性へと成長をしたのかもしれない。
休日にしか会っていなかったリッキーとは、仕事が早く終わった後も会う約束をする様になっている。
まだ彼の部屋には行った事はないが、いつか手料理を振舞いたいと考えていた。
マリーには料理の才能があった様で、料理人からも平民向けのレシピを教えて貰っていたのだが、自分で考えた料理も作る様になっていたのだ。
マリーは、度々メイド長からの呼び出しも受けていた。
本来ならばあまり関わる事のない相手だが、キャサリンから事情を聴いており、マリーの素性を理解している人物の一人でもある。
公爵令嬢だったのだから、侍女として受け入れられても不思議ではなかったのだが、マリーに教養はない。
従って、比較的簡単な雑務しかないメイドとして雇われているのであった。
素性をしっかりと調べられる侍女よりも、あまり厳しくはない使用人にする方が、都合がよかったのもあった。
そんなマリーは、ルーカスから多額の生活費を受け取っていたので、長く働かずともよかったのである。
王国からの目はとうに誤魔化せているのだから、何にも縛られる事もなく自由に生きてもよいのだが、何故か真面目に仕事を覚えていったのだった。
「マリー。貴方がここへ来て、半年以上が経ちました。平民として生きてみて、どうですか?そろそろ、自立を考えてもよい頃合いかと思って声をかけたのだけれど、貴方の気持ちを聞かせてくれないかしら」
メイド長は、働かずに遊んで暮らしてもよいのだと、マリーに伝えたのである。
しかしマリーは、不安な表情を見せたのだった。
「私は、ここを出ていかないといけないのですか」
「そんな事はないのよ。貴方の好きな選択を、妃殿下は望んでいらっしゃるわ」
「それなら…私は、ここで働いていたいです。もっといろんなことを覚えて、メイド長のような立派な人になりたいです」
真っ直ぐとメイド長の瞳を見て、ハッキリと答えたマリーの言葉に、嘘偽りはないのである。
「そう、分かったわ。貴方の気持ちは、きちんと妃殿下にも伝えておくわね。でも、気が変ったのなら、いつでも相談にきてね」
「はい、ありがとうございます」
メイド長は、深く頭を下げてから部屋を出て行くマリーの後姿を、成長した自身の娘を見る様な穏やかな表情で見送っていた。
「一日も持たずに、根を上げると思っていたのに、素直でとても良い子だわ。最近仲良くしている彼とも、問題なさそうですし…妃殿下も、お喜びになるわね」
メイド長は、マリーの仕事の様子を、隈無くキャサリンへと報告していたのである。
当然だが、リッキーの事も調査済みであり、ルーカスにも漏らす事なく報告されていた。
あなたにおすすめの小説
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
必要とされなくても、私はここにいます
あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。
口出ししない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
ただ静かに、そこにいるだけ。
そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。
張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。
何かを勝ち取る物語ではない。
誰かを打ち負かす物語でもない。
それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。
これは、
声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、
何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
【完結】帳簿係の地味令嬢、商会の不正を見抜いて王宮に見出されました。
夏灯みかん
恋愛
王都の商工会議所で働く、地味な帳簿係エミリー。
真面目に記録をつけることだけが取り柄の彼女は、同僚から軽く扱われ、雑用を押しつけられる日々を送っていた。
そんなある日――エミリーは、孤児院への配給物資の記録に、わずかな“ズレ”があることに気づく。
数量は合っている。
だが、なぜか中身の重量だけが減っている。
違和感を覚えたエミリーは、自ら倉庫へ足を運び、現物を確認する。
そこで見つけたのは、帳簿では見えない“静かな不正”だった。
しかしその矢先――不正の責任を押しつけられ、職場から追い出されそうになってしまう。
それでもエミリーは諦めない。ただ一つ、自分が積み上げてきた“記録”を信じて。
「では、正式な監査をお願いいたします」
やがてその記録は、王宮の政務監査官リオンの目に留まり――
隠されていた不正はすべて暴かれる。
そして、彼女を軽んじていた者たちは、その代償を支払うことになる。
これは、地味で目立たなかった一人の帳簿係が、
“正しく記録した”ことで不正を暴き、王宮に見出されるまでの物語。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。