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王家からの書状
マルゲリーターは、相変わらず荒れていた。
口を開けばアルフレッド殿下が手を出して来ないのは、ドレスや装身具が気に入らない所為だと文句を言う。
成績が悪い事や行儀が悪い事が原因だと、少しも考えていない娘を、公爵は早く手放したくて仕方が無かった。
そんな時、王家から一通の書状を持った使者が、公爵家を訪れた。
これは国王からの呼び出しがある、アルフレッド殿下とマルゲリーターとの婚約を白紙にする旨を伝える書状ではないかと胸が高鳴っていた。
王立学園に落ちた時点で婚約を白紙に戻されても文句は言えない立場であったが、学園に入ってからふた月も経ったと言うのに、恐ろしくなる程王家からは沙汰が無かったのだ。
使者を客間へと案内し、公爵は彼が座った向いのソファーに腰を下ろした。
「シルベス・オルターナ公爵。国王陛下から、お預かりした書状にございます。お読みになりましたら、返事を受け取って来る様にと仰せつかっております」
「分かった」
シルベスは書状を受け取り、目を通すと愕然とした。
そこには、期待していた言葉が綴られてはいなかったのである。
書状には、こう記されていた。
一、本日を以ってアルフレッド第一王子は、マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢に対し、婚約者としての務めを全て放棄する。
尚、議会では婚約を破棄する方向で進め、時期については追って通達する。
二、オルターナ公爵夫妻の離縁及び、国外への移住は認めない。
三、マルゲリーターの身柄は王家の承諾無に、動かす事を禁ずる。
四、ルーカスの卒業後、オルターナ公爵位を爵命する。
頭が真っ白になったが、受け入れるしか無かった。
言葉を無くし愕然としているシルベスに、使者は言葉を掛けて来た。
「オルターナ公爵。陛下は、この様に申しておりました。子息はとても優秀で、アルフレッド殿下の側近としても、次期公爵としての資質も充分にある。同じ両親を持つ娘だと言うのに、マルゲリータ一嬢は、一体誰に似てしまったのだろうな。残念で仕方がない…と」
使者の言葉を聞いたシルベスは、一瞬頭に血が上ったのだが、陛下のお言葉だと奥歯を噛みしめて堪えていた。
そして冷静になると陛下には全て見透かされていると、マルゲリーターは嫡子ではなく庶子である事を、知られているのかもしれないと思うのだった。
使者はこうも告げた。
「オルターナ公爵は、ご存じでしょうか。学園ではご子息と、とあるご令嬢との噂で持ち切りだと言う事を」
「ルーカスが、好いた令嬢でも見つけたと言うのか」
「いいえ。知らなかったのでしたら、余計なお世話でしたね」
シルベスは、ルーカスがアマンダとマルゲリーターの社交を絶ってしまったので、外からの情報を受け取る事が出来なくなってしまったのである。
社交界に出ていたとしても、エレインの事が耳に入るとは限らないが、ここまで噂になっている事を知らずにいるのもおかしな話であった。
ルーカスが三学年に上がった時点で、既に公爵家の実権は息子に握られてしまっていたのだ。
これ以上マルゲリーターとアマンダに好き勝手されていては、公爵家を立て直す事が難しくなると判断したルーカスが、シルベスを問答無用で黙らせたのである。
情けない話だがこのまま実権を握っていても、マルゲリーターとアマンダに強く出れない事を知っていたので、不満はあったのだが了承するしかなかった。
最早お飾りの公爵でしかないのである。
その為不必要な情報は、意図してシルベスの耳に入らぬ様に、操作されていたのだった。
止めを刺す様に使者はもう一通、国王からの密書をシルベスへと手渡したのだった。
「決定事項ですので、一切の抗議は認めないと、陛下は仰っております」
シルベスは使者を見送ってから、ルーカスを執務室に呼びつけた。
父親との対面だと言うのに無表情で、要件があるのなら簡潔に済ませて欲しいと言う態度を隠そうともしていない。
ルーカスは学生の身でありながら、第一王子の側近としても王宮に出向いており、公爵としての執務もこなしている為多忙なのである。
「お呼びでしょうか」
そんな息子の冷たい声音と、侮蔑の眼差しを受けて、シルベスは思うのだった。
何時からだろうか、素直だったルーカスが、父を軽蔑する様になったのは…
何時からだろうか、父上と呼ばなくなったのは…
思い返せば、アマンダの事を、母と呼んでいるところを聞いた事が無かった。
「ルーカス。学園で孤児院出身の男爵令嬢を妹と公言し、兄と呼ばせ傍に置くだけではなく、送り迎えまでしていると言うのは本当か」
「はい。真実です」
悪びれも、いい訳もせずに即答をする息子に、シルベスは苛立ちを隠さずに問いかけた。
「何故その様な事をしている!お前の妹は、マルゲリーターだけだ!おかしな遊びは止めて、明日からはマルゲリーターと一緒に登園しなさい」
「お断りします」
「何だと!マルゲリーターは、アルフレッド殿下から、婚約者としての義務を一切放棄されたのだ。迎えに来てくれる者がいないのだから、兄であるお前が付き添うのは道理であろう」
「これ以上、公爵家の家紋に傷を付けるのは、お止め下さい。今朝マルゲリーターが醜態を晒し、アルフレッド殿下の顔に泥を塗りました。王家が見限ったのも、当然でしょう。あんな盛りの付いた雌猿等、よく今まで平気で殿下に押し付けていられましたね」
「口を慎めルーカス!実の妹を雌猿呼ばわりする等、兄として恥ずべき行為だぞ」
「貴方に言われたくはありません」
「どう言う意味だ」
「僕が何も知らないと、本気で思っているのですか」
「何が言いたい」
ルーカスは、心底面倒くさいと言う態度で、聞き返して来た。
「言わなければ分からないと仰るならば話ますが、人払いをしなくても宜しいのですか。聞かれて困るのは、貴方だけでは無いと言う事を、理解しているのですか」
シルベスは、ルーカスが真実に気付いている事を悟り、人払いをして真摯に向き合う事にした。
「知っている事を全て、包み隠さずに話しなさい」
ルーカスは、聞き耳を立てている者がいない事を確認して、捲し立てる様に話し始めた。
「何時までも、隠し通せる事ではないのです。貴方はアルフレッド殿下とマルゲリーターの婚約が無くなれば、どこぞの国の貴族にでも嫁がせようと考えているのかもしれませんが、それで済む話では無くなっているのです。悪い事をすると、必ず何処かで制裁を受ける事になる。王家は既に真実を掴んでおります。沙汰が下されないのは、アルフレッド殿下が僕を必要として下さっているからで、何時でも公爵家を取り潰す事が出来るところまで来てしまっているのです。知らないのは貴方たちだけで、学園に子供を通わせている下位貴族までが、真相が明らかにされる事を望んでいるのです。遅かれ早かれ王家から何らかの通達が来るでしょうが、どの様な結果になったとしても、貴方たちはもう終わりなのです」
「ふざけるな!」
シルベスは執務机を思い切り握りこぶしで叩いたが、ルーカスは涼しい顔をして、言いたい事だけ言うと出て行った。
「ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!」
折角息子と会話をしようと心積もりをしたと言うのに、ルーカスは密書の内容を知らない筈なのだが、全て見透かす様な目で見下された事に苛立ちを抑えきれずにいた。
「何故だ!完璧な計画なのだぞ。それなのに、今になってからキャサリンが口を出して来たと言うのか…そんな馬鹿な話があってたまるか!何が双子だ、そんな戯言を、誰が信じると言うのだ。余計な事をしおって、それで誰が納得をすると言うのだ!マルゲリーターが庶子である事を、認めるだけではないか」
シルベスは王家からの密書で、漸く捨てた娘が下位の貴族家に引き取られて学園に通い出した事を知ったのだった。
口を開けばアルフレッド殿下が手を出して来ないのは、ドレスや装身具が気に入らない所為だと文句を言う。
成績が悪い事や行儀が悪い事が原因だと、少しも考えていない娘を、公爵は早く手放したくて仕方が無かった。
そんな時、王家から一通の書状を持った使者が、公爵家を訪れた。
これは国王からの呼び出しがある、アルフレッド殿下とマルゲリーターとの婚約を白紙にする旨を伝える書状ではないかと胸が高鳴っていた。
王立学園に落ちた時点で婚約を白紙に戻されても文句は言えない立場であったが、学園に入ってからふた月も経ったと言うのに、恐ろしくなる程王家からは沙汰が無かったのだ。
使者を客間へと案内し、公爵は彼が座った向いのソファーに腰を下ろした。
「シルベス・オルターナ公爵。国王陛下から、お預かりした書状にございます。お読みになりましたら、返事を受け取って来る様にと仰せつかっております」
「分かった」
シルベスは書状を受け取り、目を通すと愕然とした。
そこには、期待していた言葉が綴られてはいなかったのである。
書状には、こう記されていた。
一、本日を以ってアルフレッド第一王子は、マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢に対し、婚約者としての務めを全て放棄する。
尚、議会では婚約を破棄する方向で進め、時期については追って通達する。
二、オルターナ公爵夫妻の離縁及び、国外への移住は認めない。
三、マルゲリーターの身柄は王家の承諾無に、動かす事を禁ずる。
四、ルーカスの卒業後、オルターナ公爵位を爵命する。
頭が真っ白になったが、受け入れるしか無かった。
言葉を無くし愕然としているシルベスに、使者は言葉を掛けて来た。
「オルターナ公爵。陛下は、この様に申しておりました。子息はとても優秀で、アルフレッド殿下の側近としても、次期公爵としての資質も充分にある。同じ両親を持つ娘だと言うのに、マルゲリータ一嬢は、一体誰に似てしまったのだろうな。残念で仕方がない…と」
使者の言葉を聞いたシルベスは、一瞬頭に血が上ったのだが、陛下のお言葉だと奥歯を噛みしめて堪えていた。
そして冷静になると陛下には全て見透かされていると、マルゲリーターは嫡子ではなく庶子である事を、知られているのかもしれないと思うのだった。
使者はこうも告げた。
「オルターナ公爵は、ご存じでしょうか。学園ではご子息と、とあるご令嬢との噂で持ち切りだと言う事を」
「ルーカスが、好いた令嬢でも見つけたと言うのか」
「いいえ。知らなかったのでしたら、余計なお世話でしたね」
シルベスは、ルーカスがアマンダとマルゲリーターの社交を絶ってしまったので、外からの情報を受け取る事が出来なくなってしまったのである。
社交界に出ていたとしても、エレインの事が耳に入るとは限らないが、ここまで噂になっている事を知らずにいるのもおかしな話であった。
ルーカスが三学年に上がった時点で、既に公爵家の実権は息子に握られてしまっていたのだ。
これ以上マルゲリーターとアマンダに好き勝手されていては、公爵家を立て直す事が難しくなると判断したルーカスが、シルベスを問答無用で黙らせたのである。
情けない話だがこのまま実権を握っていても、マルゲリーターとアマンダに強く出れない事を知っていたので、不満はあったのだが了承するしかなかった。
最早お飾りの公爵でしかないのである。
その為不必要な情報は、意図してシルベスの耳に入らぬ様に、操作されていたのだった。
止めを刺す様に使者はもう一通、国王からの密書をシルベスへと手渡したのだった。
「決定事項ですので、一切の抗議は認めないと、陛下は仰っております」
シルベスは使者を見送ってから、ルーカスを執務室に呼びつけた。
父親との対面だと言うのに無表情で、要件があるのなら簡潔に済ませて欲しいと言う態度を隠そうともしていない。
ルーカスは学生の身でありながら、第一王子の側近としても王宮に出向いており、公爵としての執務もこなしている為多忙なのである。
「お呼びでしょうか」
そんな息子の冷たい声音と、侮蔑の眼差しを受けて、シルベスは思うのだった。
何時からだろうか、素直だったルーカスが、父を軽蔑する様になったのは…
何時からだろうか、父上と呼ばなくなったのは…
思い返せば、アマンダの事を、母と呼んでいるところを聞いた事が無かった。
「ルーカス。学園で孤児院出身の男爵令嬢を妹と公言し、兄と呼ばせ傍に置くだけではなく、送り迎えまでしていると言うのは本当か」
「はい。真実です」
悪びれも、いい訳もせずに即答をする息子に、シルベスは苛立ちを隠さずに問いかけた。
「何故その様な事をしている!お前の妹は、マルゲリーターだけだ!おかしな遊びは止めて、明日からはマルゲリーターと一緒に登園しなさい」
「お断りします」
「何だと!マルゲリーターは、アルフレッド殿下から、婚約者としての義務を一切放棄されたのだ。迎えに来てくれる者がいないのだから、兄であるお前が付き添うのは道理であろう」
「これ以上、公爵家の家紋に傷を付けるのは、お止め下さい。今朝マルゲリーターが醜態を晒し、アルフレッド殿下の顔に泥を塗りました。王家が見限ったのも、当然でしょう。あんな盛りの付いた雌猿等、よく今まで平気で殿下に押し付けていられましたね」
「口を慎めルーカス!実の妹を雌猿呼ばわりする等、兄として恥ずべき行為だぞ」
「貴方に言われたくはありません」
「どう言う意味だ」
「僕が何も知らないと、本気で思っているのですか」
「何が言いたい」
ルーカスは、心底面倒くさいと言う態度で、聞き返して来た。
「言わなければ分からないと仰るならば話ますが、人払いをしなくても宜しいのですか。聞かれて困るのは、貴方だけでは無いと言う事を、理解しているのですか」
シルベスは、ルーカスが真実に気付いている事を悟り、人払いをして真摯に向き合う事にした。
「知っている事を全て、包み隠さずに話しなさい」
ルーカスは、聞き耳を立てている者がいない事を確認して、捲し立てる様に話し始めた。
「何時までも、隠し通せる事ではないのです。貴方はアルフレッド殿下とマルゲリーターの婚約が無くなれば、どこぞの国の貴族にでも嫁がせようと考えているのかもしれませんが、それで済む話では無くなっているのです。悪い事をすると、必ず何処かで制裁を受ける事になる。王家は既に真実を掴んでおります。沙汰が下されないのは、アルフレッド殿下が僕を必要として下さっているからで、何時でも公爵家を取り潰す事が出来るところまで来てしまっているのです。知らないのは貴方たちだけで、学園に子供を通わせている下位貴族までが、真相が明らかにされる事を望んでいるのです。遅かれ早かれ王家から何らかの通達が来るでしょうが、どの様な結果になったとしても、貴方たちはもう終わりなのです」
「ふざけるな!」
シルベスは執務机を思い切り握りこぶしで叩いたが、ルーカスは涼しい顔をして、言いたい事だけ言うと出て行った。
「ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!」
折角息子と会話をしようと心積もりをしたと言うのに、ルーカスは密書の内容を知らない筈なのだが、全て見透かす様な目で見下された事に苛立ちを抑えきれずにいた。
「何故だ!完璧な計画なのだぞ。それなのに、今になってからキャサリンが口を出して来たと言うのか…そんな馬鹿な話があってたまるか!何が双子だ、そんな戯言を、誰が信じると言うのだ。余計な事をしおって、それで誰が納得をすると言うのだ!マルゲリーターが庶子である事を、認めるだけではないか」
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