【完結】柔道の先生 R_18

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第五章 柔道の先生

1.再熱

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リビングの時計がカチカチ鳴ってる。

夕陽がカーテンの隙間から漏れて、テーブルの上に細い光の線を引く。
この光景、何度も見た。
また一日、何もなく、過ぎていく。

ゾウのクッションを膝に抱いて、ぼんやり窓の外を見る。
遠くで子供の笑い声が聞こえるけど、なんか…遠い世界の話みたいだ。
この1週間、花杉先生に「男同士で好きになるの、ダメじゃない」って言われた日から、胸のモヤモヤが少し軽くなった気がした。


昨日、手首の傷跡を見た。
包帯はいらなくなったけど、ギザギザの赤い線がまだそこにある。
お医者さんの「大切にしてあげて」って言葉、頭ではわかるけど、心が言うこと聞かない。
こんな傷、誰が大切にするんだよ。
僕だって、見るたび胸がズキズキするのに。

前に踏み出しては、また一歩下がる。
そんな日々が続く。

「裕斗、お茶入れる?」
お母さんの声に、はっとする。
キッチンでマグカップを手に持ってるお母さんが、こっちを覗いてる。

「…うん、いいよ」
「じゃあ、すぐ持ってくるね」
お母さんの笑顔が優しくて、でも、なんか申し訳ない気持ちになる。僕のせいで、こんな心配かけてるのに。

クッションをぎゅっと握りしめて、窓の外の夕陽に目をやる。
学校、行けるかな。
花杉先生が「少しずつでいい」って言ってたけど、行ったらまた…笑われるかな。

家のチャイムの音が響いて、びくっと体が跳ねる。
お母さんが「はーい」ってドアに向かう声が聞こえる。
花杉先生だ。今日が2回目のカウンセリング。
山谷先生も一緒らしい。

「裕斗、先生たちが来たよ」
お母さんの声に、クッションを置いてリビングのソファに座り直す。花杉先生がいつもの名札をつけて、落ち着いた笑顔で入ってくる。

後ろに、山谷先生。
黒いジャケットの袖が少しずり上がって、腕時計がチラッと見える。目が合うと、先生が「よ、裕斗」って小さく笑う。

「裕斗君、1週間ぶりね。元気だった?」
花杉先生がソファに座って、ノートを開く。
ペンの先がカチッと鳴る音が、なんか落ち着く。

「…ぼちぼち」
本当はぼちぼちじゃない。
昨夜、布団の中でまた泣いた。
玉井先生のタオルを握りながら、なんでこんな気持ちになるんだろって。


「そう、今日は、ちょっと学校の話、してみたい?」
花杉先生の声は優しいけど、目がじっとこっちを見てる。
学校。行きたい、でも怖い。

「…行きたい、けど…みんな、僕のこと、どう思うかなって」
声が震える。花杉先生がうなずいて、ペンをノートに走らせる。

「うん、怖いって思うのは自然なことだよ。裕斗君がどう感じてるか、話してみてくれる?」
話したいけど、言葉が喉に詰まる。
山谷先生が隣のソファで、じっとこっちを見てる。


花杉先生が「ゆっくりでいいよ」って言うから、深呼吸する。

「…玉井先生のタオル、持ってるだけで、なんか安心するんです。でも、みんなが変な目で見るから…。それに、僕、男なのに、男の人を…」
言葉が途切れる。顔が熱くなって、うつむく。
花杉先生が小さくうなずく。

「裕斗君、…そのタオル、裕斗君にとってどんな存在?」
タオル。玉井先生の匂い、笑顔。あの優しい声。
でも、加賀山の嘲笑が頭に響く。

「…わかんない。安心するけど、持つと胸が苦しくて」
花杉先生が微笑む。

「うん、ありがとう、話してくれて。その気持ち、ゆっくり整理していこうね。玉井先生とのことも、裕斗君のペースでいいよ」

山谷先生が、ちょっと体を動かす。
目が合うと、先生が「裕斗、よく話せたな」って小さく言う。

お母さんがお茶を淹れにキッチンに行って、花杉先生が「ちょっとトイレ借りるね」って席を立つ。
リビングに、僕と山谷先生、二人きり。
静かすぎて、時計のカチカチがやたら大きく聞こえる。

「裕斗、…大丈夫か?」
山谷先生がソファに近づいて、隣に座る。
ジャケットの袖が僕の腕に少し触れて、ドキッとする。
先生の匂い、なんか…汗と石鹸が混ざった、懐かしい感じ。

「…うん、なんとか」
本当はなんとかじゃない。
先生の目、近すぎて、心臓がバクバクする。
山谷先生が、そっと僕の肩に手を置く。
温かい。

「話すの、辛かったろ。…でも、裕斗、すげえ頑張ってる」
先生の声が低くて、耳に響く。
顔が熱くなって、うつむく。
先生の手が、肩から首筋に滑って、軽く髪をくしゃっと撫でる。…2年前のあの頃みたい。

「先生…僕、こんな気持ち、持っちゃダメかな」
ポロッと口から出た。
先生の手が一瞬止まる。
心臓がドクドク鳴って、怖くて顔を上げられない。

「裕斗、気持ちにダメも何もない。…お前が感じるまま、そりゃお前の心だ」
顔を上げると、先生の目が真っ直ぐこっちを見てて、息が止まりそうになる。
先生の指が、僕の頬に触れる。

「いや、やばいな、これ...裕斗、多分、これは俺が、悪い。」
先生が囁いて、額にそっと唇を寄せる。
キス、じゃないけど、なんかそれ以上に胸が熱くなる。
顔が真っ赤になって、ゾウのクッションを思いっきり握りたくなった。


ドアの音がして、花杉先生が戻ってくる。
先生が慌てて体を離して、ソファの端に座り直す。
僕も、膝の上で手をぎゅっと握って、顔の熱さを隠そうとする。


花杉先生がなんか笑った気がしたけど、すぐいつもの落ち着いた顔に戻る。

「さて、裕斗君。柔道の試合、見に行きたくない?」

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