星紡ぎのファンタジア

夕凪

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闇路の星

Your second battle

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 馬車が傾いた。つむぎは一瞬平衡感覚を失って、よろけかけた。倒れる馬車から急いで外に脱出し、辺りを見回す。いた。熊のような姿形をした、魔物が馬車の前で護衛の男たちと戦っていた。どちらも善戦している。まだ戦闘は怖い。でも、加勢しなければ隊商が壊滅してしまう可能性もある。恐怖をこらえて、つむぎはそっちへ向きを変えた。
〔あれは〈巨爪熊〉。共闘は初めてだよね〕
 つむぎは魔物の方に向かって走りながらうなずいた。邪魔にならないように、魔法を使わなければいけないということだろうか。
〔そういうこと。君、戦闘になると頭が急に冴えるの面白いね。やっぱ向いてるよ〕
 余計なお世話だ。つむぎは魔物から少し離れた、でも魔法が届く、遠すぎない場所に位置取りをした。そして、少し観察をした。皮膚は、あの〈毒眼蛇〉と同じように硬そうだ。さっきから護衛の人たちが斬りつけているが、あまり出血していない。鋭い爪も厄介そうだ。無力化するか、接近戦を避けるかしなければ。
「私、加勢します!」
 つむぎは護衛の男たちに叫んだ。彼らは一瞬こっちを向いてから、うなずいた。
「邪魔すんなよ!」
 気をつけます。つむぎは心の中で答えた。そして、糸を呼び出した。初めての時と違って、あまり意識しなくともできるようになってきた。つむぎは少しの間考えてから、〈巨爪熊〉のきらりと光る爪が少しも露出しないよう、分厚く糸を巻き付けた。丈夫な糸のイメージをしたから、しばらくはほどけないはずだ。これで、爪の脅威を減らすことができた。
 〈巨爪熊〉は少し驚いた様子で、爪を見た。その隙に護衛たちが攻撃する。よし、できた。ほっとしながらつむぎは次の手に移った。〈巨爪熊〉に深い一撃を加えられていないのは、皮膚が硬いのもあるが、巨大な身にそぐわない素早さで斬撃を避けて動き回っているからだ。ならば、拘束すれば良い。つむぎはまた太く丈夫な糸を呼び出し、周りを見回した。良さそうなものはないだろうか。
 あった。つむぎは〈巨爪熊〉の後ろに巨岩を見つけた。ちょうどいい場所にある。助かった。つむぎは糸をぎりぎりまで伸ばしてから、岩に素早く縛り付けた。すぐには解けないように、なかなかほどけない結び方で結ぶ。護衛の人たちは嬉しそうに、止まった的に斬りつけた。正確にはまだ暴れているが、戦士にとってはこれくらいは許容範囲らしい。しばらく時が経ったのち、〈巨爪熊〉は苦悶の声と共に息絶えた。
「終わったぞ!」
 もう一人の護衛が叫んだ。途端に離れた場所で見守っていた商人たちから歓声が上がった。良かった、終わったのか。つむぎはほっとした。体の力が抜けていくのを感じる。
〔よくサポートしたね。あと、ちょっと魔力切れ気味かも。休んだら〕
 ありがたくリルの言葉に従って、つむぎは近くの木に寄りかかった。疲れた。もう動きたくない。そんなことを思っていると、目の前にさっきの護衛の男たちが現れたのを感じて、つむぎは顔を上げた。そうだ、お礼を言わなければ。
「あの、倒してくれてありがとうございました」
 つむぎは頭を下げた。男たちも軽くうなずく。
「さっきはありがとな」
「また頼むぜ」
 そう言い残し、彼らは倒れた馬車の方に向かって、歩いていった。ぶっきらぼうだったが、認められたのを感じてつむぎは胸がどきどきするのを感じた。優しさや好意に触れたときと似ているようで違う心の動きだ。
〔良かったじゃん。さ、魔力も戻ってきただろ?馬車を戻す手伝いをしないと。あとたぶん、今日は肉鍋だよ〕
 リルが軽やかに言った。つむぎはうなずいて、ゆっくりと動き出した。肉鍋か、楽しみだ。

「じゃあ、そろそろ動こうか」
「了解しました。どこから行くのですか?」
「とりあえず、アルクスの〈虹白石〉からかな。予言も気になることだし。願わくば、ご対面してみたいな」
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