白夜のからくりハウス

夕凪

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祝祭と影の商人

Preparation for festival

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 アスターはもやもやとしながらはしごを上って居住区へと戻っていった。結局、オルロは何を考えていたのだろう。明後日来るようにと言ったきりで、何も教えてくれなかった。布袋も新しく買わなくてはいけないし。はぎれで直そうか。アスターはうーむとうなった。自分が不器用だということは、学堂時代の実技学習で嫌と言うほど知っている。カリンに頼もうか。しかし、〈祝祭〉の準備に追われているだろう。アスターは首を振った。
 布袋のことは〈祝祭〉が終わってから考えようと思い直し、アスターはにぎやかな〈ハウス〉へと繰り出した。オルロのところで長居をしてしまったから、もうお昼時だ。何か買って掲示板のある階層へ行こうとアスターは思った。雑用の募集があればありがたい。
 いつもやせ細っている財布を睨みながら、安そうな食べ物をアスターは探しに行った。

 同じ頃、ヴィオローゼは少しわくわくしながらコンピュータと向かい合っていた。居住区に一台しかないこのコンピュータとのつきあいは長い。しかし、日々同じ業務に使うだけなのは退屈だった。治安の維持や金の流通の監視、様々な物資の需要と供給のバランス、考えるべきことはたくさんあるが、どれも似たりよったりだ。
 今日は違う。ヴィオローゼは〈ハウス〉内で使われている連絡手段、〈蒼鳥〉に乗って届いてきた手紙のことを考える。盗み見されるような〈蒼鳥〉の手紙に用件を書かない慎重さは、昔から変わっていない。
「久方ぶりだね、オルロージュ」
 画面の向こうの相手は苦笑交じりにうなずいた。
「久しぶりですね。〈管理人〉代理はどうです?」
「毎日忙しいけど退屈だよ。〈管理組合〉の連中はうるさいしね。で、用件はなんだい?雑談かい?」
「違いますよ。そんなにせっつかないでください」
 オルロージュはため息をついて青く光る画面から少し離れた。
「〈影の商人〉たちが明後日に来ます」
「あぁ、もうそんな時期か。〈祝祭〉の滞りにならないようにしてくれ」
 ヴィオローゼはうなずいた。オルロージュが話を続ける。
「それで、アスターを対面させたいのです」
 ヴィオローゼはにやりと笑った。
「昔で言う仮免許というわけかい。いいね、賛成だよ。あの子もまだまだとはいえ、いろいろわかってきたみたいだしね」
「それに伴って、〈管理人〉の役目も正式に引き渡してほしいのです。〈祝祭〉の前ならいつでもどうぞ」
 ヴィオローゼの口元の笑みが深くなる。
「おや。情が移ったかい?」
「何のことですか」
「まぁいいさ。私も〈管理人〉代理はつまらなくなってきたところだったしね。〈祝祭〉一日前に、前夜祭と称して引き継ぎするよ。少し早めでもいろいろ言えばごまかせる」
「ありがとうございます」

「うーん」
 〈ハウス〉の〈第二階層〉。主に娯楽を扱っている階層の事務所の奥で、歌姫タレイアは空中に手を伸ばしながら考え込んでいた。さっき傍受した電波からの情報も考えながら、進めなければ。
 もうすぐ〈祝祭〉。妙な動きはなし。〈管理人〉の引き継ぎは〈祝祭〉の前日に行われる予定。〈影の商人〉も訪れる予定。例年通りに行けば、裏で円滑に進むだろう。〈集計〉には今のところ問題はないと思われる。
 おおまかな内容を架空のキーボードに打ち込みながら、記憶に保存する。あとで送ろう。一仕事終わって、タレイアは微笑んだ。
「タレイアさん、そろそろリハーサルの時間ですよ。録音も進めましょう」
「はーい」 
 外から聞こえてきたマネージャーの声に従って、タレイアはソファから立ち上がった。

 荒れ地を進む一行がいた。〈逞馬〉と彼らの言葉で呼ばれる、どんな場所でもある程度は生きていける頑丈な馬と共に歩いている。一番前を歩いている男に、隣を歩いている少年がたずねる。
「こっちなのか?なんにも見えないけど」
「こっちだ。改めて聞くが、本気なんだな?」
 少年は軽く頷いた。
「まぁね。大丈夫、あんたらの迷惑にならないようにするからさ」
「なぜなんだ?」
 男の短い問いに、少年はうっすらと笑って答えた。
「いろいろあってね」
 読めない。どこか軽薄なところもありながら、常に冷静なこの少年に男は笑みを浮かべた。何日か寝食を共に過ごしたが、気に入った。
「おまえも〈影の商人〉に入らないか。向いていると思うぞ」
「気が向いたら入るよ。オレはまず一仕事終わらせないと」
 少年は肩をすくめた。
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