白夜のからくりハウス

夕凪

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祝祭と影の商人

Hello shadow

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 〈ハウス〉の壁に沿って、アスターは歩いていった。足を進めながら、考える。
 結局、どうするのが最も良いのだろう。〈ハウス〉にずっと暮らすのが、やはり最善策なのかもしれない。 〈ハウス〉内での犯罪に関しては、耳に挟んだことも見たこともない。食べ物も福利厚生も、娯楽に至るまでしっかりと用意されている。永遠の安定などないとさっきオルロに言ったばかりだが、それにほとんど近いのが、〈創始者〉たちの叡智を結集して造られた〈ハウス〉のシステムなのかもしれない。〈管理人〉としての責任も考えれば、オルロの言葉が一番良い案のように考えられる。
 それならば、それに賛成できないのはなぜだろう。単なる反抗心?違う気がする。好奇心だろうか。いや、そんな陳腐な言葉では言い表せない。好奇心に似ているけれど、もっと突き上げるような衝動が心の中で渦巻いている気がする。
 このまま大地を蹴って駆けていきたい。真実を知り、世界を探検したい。それがどんなに過酷なものであったとしても、何を失ったとしても、その渇望が満たされるのなら、それで良い。上手くは説明できないが、そんな気持ちだった。
 アスターはため息をついた。ここまで考えたらそんなに賢くなくてもわかる。本当は〈管理人〉に自分は向いていないのだ。心の影に隠れていた感情が外に出たことによって、あらわになったような気がする。わかったからといって、どうすればよいのかすぐさま思いつくというわけではないが。
「ついたぞ」
 オルロの言葉に、アスターはふっと我に返った。
「あのテントが?」
 アスターは若草の大地に散らばっている、黒いテントを指さした。オルロが頷く。
「まずはリーダーにはじめましてだ」

「はじめまして」
 アスターは中央のテントで、オルロが「リーダー」と呼んだ男に、軽く会釈をした。屈強そうな、上背のある男だ。そんなに若くはないように見えるが、さして年増に見えるわけでもない。
「〈管理人〉か」
 男は本に載っていた「銃」のようなものの手入れをしながら、ぼそりとつぶやいた。
「はい。アスターといいます。もうすぐ、〈管理人〉になる予定です」
 アスターは頷いた。
「俺はこの、〈影の商人〉たちをまとめるリーダーのような者だ。よろしくな」
「名前を聞いてもいいですか?偽名でも大丈夫です」
 アスターの問いに、男はふっと笑った。少し戸惑う。そんなに奇妙な質問だっただろうか。
「好きに呼べばいい。横にいるそいつは単にリーダーと呼んでいる」
「じゃあ、リーダーと」
「それで、荷物は?」
 隣にいるオルロがたずねる。リーダーは左のテントを首でしゃくった。
「あっちにある。さっさと持っていって構わんと言いたいところだが、今回はたくさんの情報が手に入った。聞きたいか?」
「もったいぶるな」
 オルロがため息をついて、ポケットに手を入れた。たくさんの金の粒が手の隙間から垣間見える。どこでもすぐに換金できる黄金は、〈影の商人〉たちにとって便利なのかもしれない。リーダーは満足げにそれを受け取った。
「次期〈管理人〉の嬢ちゃんもいることだし、最初から話すか。この世界には、何人くらいが生きていると思う?」
 アスターは、祖母から教わった歴史を思い出した。確か、記録されている最後の人類の数は、8億人くらいだった気がする。それよりも、もっと減っていると考えられるから…。
「5億?」
「正解。だいたいそのくらいだ。よく勉強しているようで何よりだ」
 リーダーが肩をすくめる。アスターはたずねた。
「その人たちはどこにいるんですか?」
「この惑星に残された、数少ない豊かな場所でささやかに暮らしている。もっとも、最近は自然も復活してきているし、決してささやかとはいえない連中もいるけどな」
 興味がなさそうにリーダーが言った。アスターは無言で頷いた。ぜひ行ってみたい。〈影の商人〉たちは自分を連れって行ってはくれないだろうか。叶えられそうもない願いだということに気づくのには一秒もいらなかったが。
「で、そのうちの一つが海上都市、〈アクアティリス〉だ。この前訪問したら、他の場所にいる人間と連絡を取り始めようとしていた。生き残った人類同士、協力していこうってな。〈影の商人〉も当然利用手段の一つだ」
「伝言を任されて来たと?」
「それもある。だが、この大金にそれだけじゃ釣り合わない。だろう?」
 オルロが軽く頷く。アスターは荒く削られた木の椅子から少し身を乗り出しながら、長くなりそうな話に耳を傾ける用意をした。
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