白夜のからくりハウス

夕凪

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祝祭と影の商人

A price from nothing

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「この世界には、人が密集して暮らしている場所がある。ちょうどお前たちの〈ハウス〉みたいにな」
 リーダーが銃を横に置いて話し出す。
「特に、海上都市〈アクアティリス〉や、天空国家〈セレスティオン〉、電脳都市〈ノーティティア〉なんかが有名だな。あとは、ここのように各地に散らばっているシェルターやちっぽけな国、自然の恵みをありがたく享受して生きてる民族、個人で細々と生きてる奴らとかを合わせて全人類、五億人だ。ここまでは理解したか?」
 アスターはこくりと頷いた。いろいろな方法で生き残っている人々がいるというのは理解した。
「そんなふうに、ずっとそれぞれが距離を取って暮らしていたわけだ。どこも、それぞれの存在は俺達のような者から聞いて知っていたが、わざわざ干渉しに行くほど資源も暇もなかったからな」
「じゃあ、なぜ今になって連絡を取り合おうと?」
「酔狂としか言えない理由で、海上都市の市長が動き出したからだ」
 肩をすくめてリーダーが言った。皮肉げな言葉とは裏腹に、少し興奮しているような色が漆黒の瞳に浮かんでいた。
「どんな理由なんだ?」
 オルロが興味深げな様子でたずねる。
「世界を復活させる、と言ったらどうだ?」
 リーダーがにやりと笑った。
「すごい!本当にできるんですか?」
 それが実現できたのなら、〈ハウス〉は必要なくなる。〈管理人〉もお役御免になるだろう。そうしたら、世界を自由気ままに冒険して、いろいろな物や人に出会えるかもしれない。アスターはその計画に強く心惹かれた。
「簡単にそれができたなら、世界はとっくの昔に復活している」
 リーダーは苦笑した。テントの入口から入ってきたそよ風が、落胆するアスターをそっと撫でていく。
「〈ハウス〉にずっとこもってたお前たちは知らないだろうが、世界がだんだんと終末から後ずさっていったときから、もう一度やり直そうという声はあったんだ。もちろん、実現しようとしたところもある。だが、上手く行かなかった。新世界に入ったら増加するであろう人類を支えるためのエネルギーの少なさや、変異した自然環境、何より、人間同士のいざこざがあったからな。誰が主導権を握るのか揉めているうちに、自然とその話は消えていった」
「じゃあ、何で今さら?さっきもたずねましたけど」
 アスターは少し戸惑いながら、もう一度聞いた。オルロも隣で軽く同意の声を上げる。
「同感だ。なぜ今頃になって、難しいとわかった話を蒸し返したんだ?」
「何個か理由がある。まず、さっき言った通り、自然が長い年月を経た中で、じわじわと復活してきたからだ。人の住めそうな土地が増えてきた。もう一つは、海上都市の市長の気まぐれだ。聞いたところでは、不思議な少年少女に出会って、世界を復興させる気が起きたらしい。あいつはもともと気分屋だからな」
「それで、各地と連絡を?でも、エネルギーとか発電の問題はどうするんですか?」
 唯一解決されていなさそうな課題に、アスターは首を捻った。
 アスターが知っている発電方法は、太陽光などの再生可能エネルギーや、ウランを使った原子力発電、火力発電などだ。しかし、資源の枯渇で化石燃料を使った発電はできなくなったと聞いている。再生可能エネルギーは天候や時間などに左右されすぎて、なかなか使い物にならないと聞く。〈ハウス〉では全てを太陽光エネルギーでまかなっているが、それは〈創始者〉たちが隅々まで工夫を凝らしたからだという。
「それが問題だ」
 渋い顔になったリーダーが頷く。
「〈アクアティリス〉は、気候変動で強力になった潮風を利用する、風力発電で人口をまかなっている。海水からウランを取り出す発電方法、つまりは原子力発電だな。それも試しているらしいが、まだ試作段階だ。世界の人間全てが豊かに暮らしていくのを補えるほどの、強大なエネルギーはまだ発見されていない」
「それもあって、散らばった人類と連絡を取り合おうと?額を突き合わせて考えようということか」
 オルロが納得したというふうに頷いた。
「何かエネルギーの目処はついたんですか?」
 アスターはたずねた。新しいエネルギーの開発を行っている場所に、〈影の商人〉たちが訪れてきた可能性は充分にある。
「いや、どこも既存の方法を技術で補っているだけだ。新しいエネルギーはまだ見つかっていないようでな」
 リーダーが肩をすくめる。オルロが隣で少し乾いた笑いを漏らした。
「言いぶりからすると、心当たりはあるんだろう?ほんの少ししかお前とは話したことはないが、それくらいはわかる」
「そうかい。たずねたいのは俺の方なんだがな」
 リーダーがふっと笑った。どういうことだろうか。アスターはまたまた首を傾げた。
「ずっと、お前らの〈ハウス〉が気になっていた。ただのシェルターにしては、違和感が多すぎたからな。だから、電脳都市〈ノーティティア〉でちょいと調べさせてもらったんだ」
「何をだ?」
 オルロがたずねた。いつもと比べると、微妙に表情が固くなっている気がする。アスターはさらに話の続きが気になった。
「〈ハウス〉の天井にくっついているソーラーパネル、あるだろう?壁の大きさなんかから、だいたいのソーラーパネルの大きさを計算してみた。それを電脳都市で、いろいろな配置や性能、考えられる幾多の組み合せでシュミレーションしたんだ」
「どうだったんですか?」
 アスターは相手が語り終えるのも待たずにたずねた。リーダーは、ひょうひょうとした口調のまま話し続けた。
「合わなかったんだよ、計算が。前の〈管理人〉が以前、会話の中で言っていた住人の数と考えるとな。最高効率の組合せでも、一万人は補えない計算になっていた。それが、十年、百年と積み重なると、膨大な量のエネルギーが無から産まれていることになる」
「〈創始者〉たちが頑張ったからだというのは?」
 アスターは答えを求めた。
「ありうるかもしれないが、可能性は低い。現代の最高技術に千年前の技術が追いつけると思うか?」
 言葉に詰まって、アスターはオルロを見た。オルロは軽くため息をついて、リーダーを見据えた。
「それで、結論は?」
「何からエネルギーを産み出している?教えてくれ」
「知らないに決まっているだろう。〈ハウス〉ができたときから、私がいたと思うのか」
 呆れたようにオルロが答えたが、リーダーは首を振った。
「いいや、お前は何か知っている。そこの嬢ちゃんは本当に知らないようだがな。
 もう一度言う。教えろ」
 いつの間にか銃をオルロに向けていたリーダーが言う。もともとわずかにあった暖かさは、ひとかけらも残っていなかった。
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