白夜のからくりハウス

夕凪

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邂逅

Light and shadow

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「何も答えなかったら、私をどうするんだ?」
 アスターは軽い硬直状態からはっと覚めた。そうだ、銃を向けられたのだ。アスターはオルロの様子を窺った。いつも通り、平然としている。そのことに少し安堵した。
「殺すと言ったら、エネルギーの原点を吐くのか?」
「どうだろうな。そもそも、お前は私を殺せない。痛みつけることもできない」
 オルロが余裕の色を見せながら答える。これまた意味がわからない。契約でも交わしていたのだろうか。いや、そんな約束があったのなら、銃を向けたりはしないはずだ。アスターは〈影の商人〉について見聞きしたことを、急いで脳内でひっくり返した。一つの答えを探り出す。
「貴重な取引先だから?」
「またまた正解だ。〈影の商人〉はいろいろな場所を巡って商売をしているとはいえ、裕福というわけではない。貴重な客に危害を加えて、一つでも取引先を逃がしたらどうなるかな?」
 もてあそぶような目つきでリーダーを見ながら、オルロが頷く。長嘆息を漏らしてから、リーダーは銃を脇に戻した。図星だったのだろう。
「それにしても珍しいな。お前は幼い頃からあまり感情を表に出さなかったと記憶しているが」
 奇妙な面持ちで、オルロが言う。リーダーが苦笑いする。
「一応、俺にも家族や隊商の仲間がいる。国家や都市に属すことができなくとも、文明の影で良いからそいつらに無事に、幸せに生ききって欲しいだけだ。そのためなら、どんな手段を使っても良い」
 彼の冷たいようで暖かい奇妙な雰囲気は、ひとえにこの想いから来ていたのだろうかと、妙にアスターは納得した。冷酷という言葉とは違うような気がするし、ひたむきという言葉よりももっと強い。言葉では表現しきれない感情というのは、おそらく数え切れないほどあるのだろう。
「だが、結局俺がどんな手段を使おうとも、お前は俺達への脅迫を盾にして吐かないだろう?やり口の汚いお前なら やりかねないとは思っていたがな」
「そうかもな」
「なら、時間の無駄だ。今回は諦めることにする」
 リーダーはあっさりと引き下がった。少し意外に思いながら、アスターは成り行きを伺った。
「それが賢明だな」
「じゃ、せっかく大金ももらったことだし、選りすぐりの情報をやるよ」
 リーダーが何事もなかったかのように話を戻した。
「ありがたい」
「おや、初めて感謝の言葉か。現金なことだな」
 張り詰めていた空気がやっと和んでいくのを感じて、アスターはほっとした。
 そのあとからの話は長かった。荒れ地に出現するようになった奇妙な生物の生態や、主要文明の情勢の変化、天空国家〈セレスティオン〉の天文台で観測された、オゾン層の状態について。〈ハウス〉で過ごした十二年分にも匹敵する大量の新しい情報群はアスターの頭の中に、次々と蓄積されていった。
 一段落ついた頃、そろそろ帰ろうかという話になった。初めて見る夕焼け空の色合いに感動しながら、アスターは荷物が置いてあるテントに入った。見慣れない物資がたくさん入っている。贈り物を開封するときのような気分を覚えながら、アスターはたずねた。
「どうやって荷物を持ち込むんですか?」
「あそこに荷車がある。俺の〈商人〉たちも使って良い。お前も手伝ってくれ」
 喜び勇んでアスターは頷いた。外の荷物に触ることができるのには、心が弾む。アスターは柔らかい風の吹く外へと駆けていった。

「やっと終わったね」
 さきほど感動したばかりの落陽の空の下を歩いていく、〈影の商人〉たちを見送りながら、アスターはふーっと息を吐いた。なんだか疲れた。気苦労も多かったことだし、家でゆっくりと休みたい。
「あぁ。戻ろうか」
 荷物が詰め込まれた研究室を横目にしながら、アスターはオルロとともに部屋に繋がる螺旋階段を上り始めた。荷物の運搬で疲労した体にはきつい。同じ労働をしたのに、足をきびきびと動かしているオルロはやはりすごいとアスターは思う。そういえば、腹も減った。昼食を食べていないからだろう。何かがっつりと食べたいなぁ。
 そんなことを考えていると、前を歩いていたオルロに突然声をかけられた。
「アスター、すまないが戻るぞ」
「え、何で?」
 アスターはびっくりしてたずねた。何かあったのかと、なけなしの体力を使って、急いでオルロのところまで駆け上る。
 そこにあったのは、いや、いるのはと言ったほうが正しいだろうか。倒れている少年だった。
「知り合いか?」
 オルロに問われて、アスターは記憶を探った。〈ハウス〉の住人の顔は全員覚えているが、この少年に心当たりはない。最も有力な説は、考えるまでもなくわかる。
「ううん。たぶん、外から来たんだと思う」
「本気で言っているのか?」
 懐疑的なオルロの言葉に、アスターは頷いた。
「うん。この子、〈ハウス〉の住人じゃない。全員覚えてるけど、どの顔とも一致しないよ」
「ならば、〈影の商人〉たちの差し金か?全く難儀なことをする」
 オルロが短く吐息を漏らしてから、少年を軽々と持ち上げた。思わずアスターは心のなかで拍手を送った。実は力持ちだったのか。少し驚きだ。
「研究室につれていく。介抱をしよう」
「意識が戻ったら?」
 アスターはわずかに嫌な予感を覚えながらたずねた。悪そうな笑みを浮かべながら、オルロが答える。
「何が目的か聞き出す。あいつに倣うなら、どんな手段を使ってもだ」
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