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邂逅
Expedition
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「まず、ここが〈第一階層〉。居住区だよ。ほとんどの人がここで暮らしているんだ。一番広いからね」
「そうなんだ」
ソーニャが天井まで吹き抜けになっている〈ハウス〉を珍しげに見ながら言う。〈第一階層〉を除く他の階層は、〈ハウス〉の壁に掴まるようにして、天井まで建築されている。アスターにはもう見慣れたドーナツ型の階層も、初めて見る人には驚きだろう。
「とっても広いね。何人くらいが住んでるの?」
「えっと、二十八万五千八百九十一人くらいだよ。あ、ダリアさんが一人産む予定だって言ってたから、九十二人になるかも。女の子なんだって」
「全員覚えてるの?」
驚いたようにソーニャが言う。アスターははにかみながら頷いた。記憶力は割と良いほうだと思う。話を戻す。
「あと、ここの階層の朝市はたくさんのものが並ぶんだよ。あと、お菓子屋さんとかパン屋さんもいっぱいあるんだ。特にね、〈ナゴミ〉っていうお菓子屋さんはおいしいからおすすめだよ」
「なるほど。〈ハウス〉にはどのくらいの〈階層〉があるの?今日で全部回れるかな」
アスターはにっこりと頷いた。近道やゴンドラを使えばいけないことはないだろう。
十二個の階層には、いろいろな特色がある。
〈第一階層〉は、さっきソーニャに説明した通り居住区だ。商店街や市場が充実している、活気のある階層だ。
〈第二階層〉は、娯楽などを中心として造られている。備え付けの録音機器で音楽を聴いたり、映画館で映画を見たりできる場所だ。アスターの好きな歌手、タレイアもそこにある事務所に属しているらしい。実際に会ったことはないが、ファンブックの写真で見たことがある。艶のある黒髪が印象的な、とても綺麗な人だった。
〈第三階層〉も娯楽中心の階層だが、〈第二階層〉とは異なり、スポーツや大道芸などが多い。テニスや野球のクラブチームも、もちろんある。大会もさかんだ。ボールが下の階層に飛んでいくことが大嫌いな人を除けば、ほとんどの人が好む階層だ。
〈第四階層〉には、緑が多い。公園が多く、花もたくさん咲いている。蜂を飼っているエリアも良い。そこのはちみつは甘くて美味しいのだ。また、銭湯やカフェテリアも数多く立ち並んでいる。
〈第五階層〉には、教育施設が多い。図書館や、読み書きそろばんを習う学堂がある。より高度な勉強をしたいと願う人は、アカデミアスクールという場所に通って、知見を深めることもできる。アスターも入りたかったのだが、数学の問題が難しすぎるため、断念せざるを得なかった。
〈第六階層〉には、医療や化学系の施設が立ち並んでいる。〈ハウス〉で病気になったり、怪我をしたりした人が皆行く場所だ。また、石鹸や塩が作られている場所でもある。
〈第七階層〉には、職人が多い。一瞬で鉄を溶接したり、ゴンドラリフトを手早く治したりする彼らの手腕には驚かされるばかりだ。
〈第八階層〉は、上記と似て、職人が多い。金属加工などを得意とする〈第七階層〉の職人たちとは違い、こちらの職人たちは縫い物や食肉加工をするのに秀でている。
〈第九階層〉は、農業を主とする階層だ。品種改良を重ね作られた野菜や果物、穀物や工芸作物は、最低限の日光と水で、何日かで種から豊かな恵みとなる。ありがたい階層だ。
〈第十階層〉も、第一次産業を主とする階層だ。畜産業や漁業などがさかんな階層で、農場やいけすが多い。ちなみに、アスターのおすすめは一番西の農場だ。直売所で売られるソフトクリームが絶品なのだ。
〈第十一階層〉は、林業がさかんな階層で、見渡す限り、樹木で埋め尽くされているのが特徴だ。〈創始者〉たちが研究を重ね成長の早い品種を作り出したため、木たちの入れ替わりは早い。余談だが、朽木で栽培されるきのこで作られるシチューは絶妙だ。
〈第十二階層〉は、〈管理組合〉の会館がある階層だ。いろいろな部門があるため、会館の広さは階層の四分の一ほどある。小さい頃は、会館を探検するのも楽しみの一つだった。
「すごいね。たくさんの階層によって維持されてるんだ」
〈第四階層〉のふちに立つ、見晴らしの良いカフェテリアでチーズケーキを楽しみながら、ソーニャが感慨深げにつぶやいた。
「こんなに豊かな暮らしができるのに、何でアスターは出ていきたいの?」
「うーん、何だろう」
アスターは難しい問いを投げかけられてうなった。いつも感じる、全てを知りたいという衝動は身近なものでありながら、どうにも説明しづらい。口の中でほろほろと崩れるチーズケーキを味わいながら、ゆっくりと答える。
「強いて言うなら好奇心みたいなものかも。いろいろ知れるなら、何を失ってもいいみたいな、そんな感じかな。でも、〈ハウス〉が嫌いってわけじゃないよ」
「そうなんだ。なんだかわかるかも」
同じくチーズケーキを切って口に含みながら、ソーニャが言う。
「あ、〈蒼鳥〉だ」
アスターは自分に向かって飛んできた、蒼い羽を持つ鳥に気がついて、チーズケーキを脇に置いた。フェンスにつかまってじっと動かない。なかなか優秀な〈蒼鳥〉だ。丁寧に鳥の足に結びつけられたこよりを解いていく。
「その子が、〈ハウス〉内での連絡手段なの?」
興味津々といった様子でソーニャがたずねる。アスターは頷いた。
「この階層のすみっこにある鳥小屋で育てられるんだ。専門のトレーナーさんが郵便配達の方法とかを教えるんだって」
説明しながら、手紙を読む。
アスターへ
病院の予約を取り付けられた。明日、彼と一緒に〈第六階層〉の南病院へ行こう。私もつきそう。
オルロージュより
「病院の予約ができたって!よかったね、記憶の内容がわかるかも」
アスターは嬉しく思いながらソーニャに話しかけた。ぱっと彼の表情が明るくなるのがわかる。
「本当?嬉しいな、ありがとう。怪しいはずのぼくのために、いろいろやってくれるなんて優しいね」
「そんなことないよ。君がどんな人だったのかわたしも知りたいな」
チーズケーキを腹に収めながら、アスターは想いを馳せた。ソーニャはどんな少年だったのだろうか。外の景色を見ながら考える。あることに気がついて、思わず声を上げてしまった。
「そうだ、祠を紹介するのを忘れてた」
「祠?見たい、行こう」
動き出す二人を、天井から降ってくる黄金色の光が見送った。
「そうなんだ」
ソーニャが天井まで吹き抜けになっている〈ハウス〉を珍しげに見ながら言う。〈第一階層〉を除く他の階層は、〈ハウス〉の壁に掴まるようにして、天井まで建築されている。アスターにはもう見慣れたドーナツ型の階層も、初めて見る人には驚きだろう。
「とっても広いね。何人くらいが住んでるの?」
「えっと、二十八万五千八百九十一人くらいだよ。あ、ダリアさんが一人産む予定だって言ってたから、九十二人になるかも。女の子なんだって」
「全員覚えてるの?」
驚いたようにソーニャが言う。アスターははにかみながら頷いた。記憶力は割と良いほうだと思う。話を戻す。
「あと、ここの階層の朝市はたくさんのものが並ぶんだよ。あと、お菓子屋さんとかパン屋さんもいっぱいあるんだ。特にね、〈ナゴミ〉っていうお菓子屋さんはおいしいからおすすめだよ」
「なるほど。〈ハウス〉にはどのくらいの〈階層〉があるの?今日で全部回れるかな」
アスターはにっこりと頷いた。近道やゴンドラを使えばいけないことはないだろう。
十二個の階層には、いろいろな特色がある。
〈第一階層〉は、さっきソーニャに説明した通り居住区だ。商店街や市場が充実している、活気のある階層だ。
〈第二階層〉は、娯楽などを中心として造られている。備え付けの録音機器で音楽を聴いたり、映画館で映画を見たりできる場所だ。アスターの好きな歌手、タレイアもそこにある事務所に属しているらしい。実際に会ったことはないが、ファンブックの写真で見たことがある。艶のある黒髪が印象的な、とても綺麗な人だった。
〈第三階層〉も娯楽中心の階層だが、〈第二階層〉とは異なり、スポーツや大道芸などが多い。テニスや野球のクラブチームも、もちろんある。大会もさかんだ。ボールが下の階層に飛んでいくことが大嫌いな人を除けば、ほとんどの人が好む階層だ。
〈第四階層〉には、緑が多い。公園が多く、花もたくさん咲いている。蜂を飼っているエリアも良い。そこのはちみつは甘くて美味しいのだ。また、銭湯やカフェテリアも数多く立ち並んでいる。
〈第五階層〉には、教育施設が多い。図書館や、読み書きそろばんを習う学堂がある。より高度な勉強をしたいと願う人は、アカデミアスクールという場所に通って、知見を深めることもできる。アスターも入りたかったのだが、数学の問題が難しすぎるため、断念せざるを得なかった。
〈第六階層〉には、医療や化学系の施設が立ち並んでいる。〈ハウス〉で病気になったり、怪我をしたりした人が皆行く場所だ。また、石鹸や塩が作られている場所でもある。
〈第七階層〉には、職人が多い。一瞬で鉄を溶接したり、ゴンドラリフトを手早く治したりする彼らの手腕には驚かされるばかりだ。
〈第八階層〉は、上記と似て、職人が多い。金属加工などを得意とする〈第七階層〉の職人たちとは違い、こちらの職人たちは縫い物や食肉加工をするのに秀でている。
〈第九階層〉は、農業を主とする階層だ。品種改良を重ね作られた野菜や果物、穀物や工芸作物は、最低限の日光と水で、何日かで種から豊かな恵みとなる。ありがたい階層だ。
〈第十階層〉も、第一次産業を主とする階層だ。畜産業や漁業などがさかんな階層で、農場やいけすが多い。ちなみに、アスターのおすすめは一番西の農場だ。直売所で売られるソフトクリームが絶品なのだ。
〈第十一階層〉は、林業がさかんな階層で、見渡す限り、樹木で埋め尽くされているのが特徴だ。〈創始者〉たちが研究を重ね成長の早い品種を作り出したため、木たちの入れ替わりは早い。余談だが、朽木で栽培されるきのこで作られるシチューは絶妙だ。
〈第十二階層〉は、〈管理組合〉の会館がある階層だ。いろいろな部門があるため、会館の広さは階層の四分の一ほどある。小さい頃は、会館を探検するのも楽しみの一つだった。
「すごいね。たくさんの階層によって維持されてるんだ」
〈第四階層〉のふちに立つ、見晴らしの良いカフェテリアでチーズケーキを楽しみながら、ソーニャが感慨深げにつぶやいた。
「こんなに豊かな暮らしができるのに、何でアスターは出ていきたいの?」
「うーん、何だろう」
アスターは難しい問いを投げかけられてうなった。いつも感じる、全てを知りたいという衝動は身近なものでありながら、どうにも説明しづらい。口の中でほろほろと崩れるチーズケーキを味わいながら、ゆっくりと答える。
「強いて言うなら好奇心みたいなものかも。いろいろ知れるなら、何を失ってもいいみたいな、そんな感じかな。でも、〈ハウス〉が嫌いってわけじゃないよ」
「そうなんだ。なんだかわかるかも」
同じくチーズケーキを切って口に含みながら、ソーニャが言う。
「あ、〈蒼鳥〉だ」
アスターは自分に向かって飛んできた、蒼い羽を持つ鳥に気がついて、チーズケーキを脇に置いた。フェンスにつかまってじっと動かない。なかなか優秀な〈蒼鳥〉だ。丁寧に鳥の足に結びつけられたこよりを解いていく。
「その子が、〈ハウス〉内での連絡手段なの?」
興味津々といった様子でソーニャがたずねる。アスターは頷いた。
「この階層のすみっこにある鳥小屋で育てられるんだ。専門のトレーナーさんが郵便配達の方法とかを教えるんだって」
説明しながら、手紙を読む。
アスターへ
病院の予約を取り付けられた。明日、彼と一緒に〈第六階層〉の南病院へ行こう。私もつきそう。
オルロージュより
「病院の予約ができたって!よかったね、記憶の内容がわかるかも」
アスターは嬉しく思いながらソーニャに話しかけた。ぱっと彼の表情が明るくなるのがわかる。
「本当?嬉しいな、ありがとう。怪しいはずのぼくのために、いろいろやってくれるなんて優しいね」
「そんなことないよ。君がどんな人だったのかわたしも知りたいな」
チーズケーキを腹に収めながら、アスターは想いを馳せた。ソーニャはどんな少年だったのだろうか。外の景色を見ながら考える。あることに気がついて、思わず声を上げてしまった。
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