白夜のからくりハウス

夕凪

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邂逅

Shrine

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「祠はってのは、もともと神様を祀るやしろらしいんだけど、〈ハウス〉ではちょっと違うんだ」
「どんな場所なの?」
 ゴンドラリフトで四階層分を降りながら、アスターはソーニャと会話を交わした。
「えっと、〈常磐ノ樹〉っていう木の洞に作られていて、〈幻香草〉って白い花に周りが覆われているんだ」
 祠の場所まで歩きながら、アスターは舌を滑らかに動かした。外の世界についてはまだまだ知らないことは多いが、〈ハウス〉のことならかなり知っているという自負がある。入り組んだ近道を使いながら、アスターは祠のある〈ハウス〉の端へとソーニャを案内した。
 祠の周りには、何人かの住人が集っていた。静かに祈っている人もいる。アスターとソーニャは、〈幻香草〉の中に作られた短い小道を辿って、祠の前へと向かった。
「〈創始者〉たちを祀っているところで、これからも末永く〈ハウス〉で暮らしていけるようにって願いを込めて、よく捧げ物がされてるんだ。綺麗な花とか、りんごの一切れとか、ささやかだけど」
 アスターはソーニャにささやいた。ソーニャは頷いて、祠を覗いた。
「へぇ、これが…」
 祠をまじまじと見ながら、ソーニャがため息を漏らした。アスターも改めて祠を眺めた。木の洞の中にある、白くすべすべとしていそうな石は、いつ見ても美しい。幾何学模様のように石に走っている、翠緑の線もいつも通り輝いている。
「とっても綺麗だね。触ってみてもいいのかな?」
「あっ、だめなんだ。よくわからないけど、神聖な場所だからって理由で石に触るのは禁止されてるんだ」
 急いでアスターは首を振った。
「そうなんだ。ごめんね」
 申し訳なさそうにソーニャが謝った。なんだかこちらまで悪いような気持ちになってきて、アスターは慌てて首を振った。
「ううん。本当はわたしも触ってみたいんだけどね。じゃ、そろそろ夕方だし、オルロのところまで送っていくよ。そうだ、わたしの家も教えるね。明日、家の前の広場で集合しようよ」
「いろいろとありがとう」
 ほがらかにソーニャが礼を言った。

 月の光が差し込んできて、アスターは窓を見上げた。もうこんな時刻なのか。アスターは電気のランプを消して、読んでいた本を小机に置くと、ベッドに寝転がった。静かだ。祖母はまだ会館から帰ってきていない。いたら会って話がしたかったのに。〈ハウス〉のエネルギーやオルロ、ソーニャについて。
 突然、ひっそりとした小さな世界の中に物音が侵入してきて、アスターはまどろみからはっと目が覚めた。普段ならそんな音なんか気にせずに寝入っているところだ。しかし、なんとなく意思をともなった音のような気がして、アスターはその在り処に近づいた。窓の外だ。
「ソーニャ?」
 こちらに手を振っている。薄闇の中だからわからないが、おそらくいつも通りの晴れやかな笑顔だろう。アスターは急いで着替えて、外に出た。広場に一人立っているソーニャに、疑問をぶつける。
「どうしたのさ、こんな夜に?オルロは?」
「オルロージュさんはぐっすり寝てたよ。昨日徹夜してたのが祟ったみたい」
 苦笑しながらソーニャが言う。
「それで、どうしたんだい?何で夜中に来たの?」
「実はぼく、祠の石から何か思い出しそうな気がするんだ。近くに行ったとき、少しだけどはっとした。でも、触っちゃいけないんだろ?だから、夜に行こうと思ったんだ。でも、場所を覚えていなくて。良かったらだけど、ついてきてくれないかな」
 申し訳なさそうに話すソーニャに、アスターは快く頷いた。ソーニャの記憶が戻るのならば、少しくらいルールを破っても別に良いだろう。
「いいよ、行こう」
 そう言いかけて、ふと噴水の向こうの人影に気がついた。基本的に、〈ハウス〉の住人は夜に出歩かない。電気の灯りがあるとはいえ、ところどころにしかないので暗いからだ。そして、ただでさえ迷いやすい〈ハウス〉に、夜出ていこうという人は限りなく少ない。誰だろうか。アスターは気になってそちらに目を向けた。特徴的な長身に気がついて、アスターは軽く目を見張った。
「オルロ?寝てるんじゃなかったのかい」
 聞こえたのかどうかはわからなかったが、こっちに急いで走ってきたのはわかった。何か言っているが、噴水の水音で聞こえない。アスターはソーニャの方に振り返った。問い詰める。
「どういうこと?」
 ソーニャは口元にかすかな微笑を浮かべたまま、それに答えた。
「ごめんね、アスター」
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