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地下水路探検隊
Watcher
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「オレの昔話に興味があるんなら、本でも読んでるんだな。そんなに面白くもおかしくもない」
興味がないというふうにソーニャが手を振った。諦めきれずに、アスターは食い下がった。
「じゃ、名前はどうなのさ?ソーニャっていうの、本名じゃないだろ?」
「かもな。でも、同じ偽名だとしても少年くんよりはましだろ?」
「少年くんのどこが悪いのさ」
アスターは頬を膨らませた。少年くんと呼んだことは確かにあった。しかし、そんなに悪くはないと思うのだが。
「ネーミングセンスのなさは自覚したほうが良いと思うぞ」
本気で心配しているような口ぶりでソーニャが言う。ますますアスターはすねた。そして決心する。ソーニャの弱点を必ず見つけてやると。
「ソーニャ、お化け嫌い?」
さりげなくたずねた。お化けは、全人類の九割が恐れるものなのだと本に書いてあった。どこか憐れむような目つきでアスターを見ながら、ソーニャは首を振った。
「残念ながら見たことがないな。でも、ネズミはそんなに好きじゃないかも」
「ネズミ?」
アスターは周りを見た。そして発見した。前方の淡い闇にちろちろと輝いている、小さな赤い目たちを。
「同じ目の色でも、あんたの方が好みかな」
「褒めてくれてありがとう」
アスターは逆方向にソーニャとともに走り出しながら、後ろをちらりと振り返った。ついてきている。
「わたしたちを食べるつもりかな?」
「気になるなら聞いてみたらどうだ?あいつらに」
水路を曲がったりまっすぐ走ったりしながら、ソーニャが顎をしゃくった。アスターは少し考えてやめた。ぜひ聞いてみたいところだが、食べるという答えの場合、命を犠牲にしなければいけないのは気が進まない。
「君、ナイフ使えるだろ?倒せないのかい?」
「ネズミが媒介するウイルスの危険性について、実例と詳しく教えてやろうか?」
「結構です」
アスターは何か使えそうなものはないかと、走りながら辺りを見回した。何かないだろうか。
「ソーニャ、こっち!」
アスターは左に曲がりかけたソーニャの袖を引っ張って、まっすぐ進んだ。正面の水路の脇に、粉袋が見える。きっと、水路を補修するためのものだろう。
「火を起こせそうなの持ってる?」
「指先火種用のやつなら」
「指先火だね?」
意味のわからない返答だったが、アスターはとりあえず頷いた。要は火を起こせれば良いのだ。
「ナイフ貸して」
近づいてくるネズミの足音を聞きながら、アスターはソーニャからナイフを受け取った。粉袋の上を切り裂く。ようやく、ソーニャの顔に納得したような色が浮かんだ。
「あぁ、なるほど」
「わかったら、わたしのいう通りにしてくれるかい?」
宙に舞う粉。それに引火した炎が爆発を呼び覚ます。一瞬の間に、ネズミは逃げるか、死ぬかどちらかの末路を辿ることになった。
「よくひらめいたな」
倒れたネズミたちの群れを眺めながら、ソーニャが感心したように言う。
「粉塵爆発は漫画の定番だからね。初めてやったけど、成功して良かった。ごめんね、ネズミさん」
アスターは軽く黙祷した。生き延びるためとは言え、むやみに命を傷つけてしまったのは心苦しい。
「あんたのことだから、〈ハウス〉にいるときにやってそうだと思ったけど」
不思議そうにソーニャが言う。アスターはその頃のことをしみじみと思い出した。
「やろうとしたけど、おばあちゃんに最上階層から落とされそうになったんだよね。階層のすみっこだったから良いと思ったんだけど」
「あんたに倫理観ってものを植え付けてくれたばあさんは偉大だな」
ソーニャがやれやれと首を振った。
「ところで、どこから来たか覚えてるか?急いでたから忘れちまった」
「あっち。グワってまっすぐ来て、サッて右に行って、ダダって左に来た」
アスターはとても理知的な文章で説明した。
「…もう道案内はあんたに任せる」
少しの休憩をとりながら歩き続け、そして時間の感覚がなくなってきた頃、ようやく先が見えてきた。アスターの読み通り、〈ハウス〉の中央に位置するだろう場所は、広場のようになっていた。真ん中の石碑から十字となる形で水が伸びている。
「なんて書いてあるのかな」
アスターは石碑に近づいた。一見、何も書いていないように見える。
「接触型のホログラムかもな」
またもや意味のわからない言葉を発しながら、ソーニャが石碑に近づいた。しばらく考える素振りを見せてから、石の上を十字の形になぞる。途端に虚空に光が浮かび上がった。歯車の回るような音とともに、横に縦穴も現れる。どうやらはしごのようだ。
「おぉ、SFっぽいね」
アスターはそのからくり仕掛けに感心した。ソーニャが軽く肩をすくめる。
「よくあるものだよ。オレからしたら、〈ハウス〉のほうがよっぽどファンタジーだけどな」
そうなのか。現代技術のすごさに感嘆しながら、アスターは光、ホログラムに記された文字を読んだ。
「序章とはいえ、よくここまで来たね。おめでとう。君たちは変化を起こせるかな、って、何だこれ?神様みたい」
「あれだろ?つまり、オレたちをリアルタイムで監視してる誰かがいるってことなんじゃないかな」
ひんやりとした悪寒が背中を伝うのを感じる。誰とも知れない誰かが、自分たちを観察していると気づくのは、あまり良い気分ではなかった。
「心当たりは?」
「わからない。とりあえず、こっちに害をなそうとはしてないみたいだし、放っておいていいだろ。少なくとも、今はまだ」
まだというのが心配だ。アスターはホログラムを眺めなおした。
気になる。監視者が誰なのか、何のために自分たちを監視しているのか。よく知っていると思っていた〈ハウス〉なのに、最近はわからないことがいっぱいだ。そのことに、不思議と不安は覚えなかった。むしろ、好奇心が疼く。〈ハウス〉の未知の部分について、もっと知りたい。
アスターは自分の気持ちを改めて確認してから、縦穴のほうに向かった。
「行こう」
興味がないというふうにソーニャが手を振った。諦めきれずに、アスターは食い下がった。
「じゃ、名前はどうなのさ?ソーニャっていうの、本名じゃないだろ?」
「かもな。でも、同じ偽名だとしても少年くんよりはましだろ?」
「少年くんのどこが悪いのさ」
アスターは頬を膨らませた。少年くんと呼んだことは確かにあった。しかし、そんなに悪くはないと思うのだが。
「ネーミングセンスのなさは自覚したほうが良いと思うぞ」
本気で心配しているような口ぶりでソーニャが言う。ますますアスターはすねた。そして決心する。ソーニャの弱点を必ず見つけてやると。
「ソーニャ、お化け嫌い?」
さりげなくたずねた。お化けは、全人類の九割が恐れるものなのだと本に書いてあった。どこか憐れむような目つきでアスターを見ながら、ソーニャは首を振った。
「残念ながら見たことがないな。でも、ネズミはそんなに好きじゃないかも」
「ネズミ?」
アスターは周りを見た。そして発見した。前方の淡い闇にちろちろと輝いている、小さな赤い目たちを。
「同じ目の色でも、あんたの方が好みかな」
「褒めてくれてありがとう」
アスターは逆方向にソーニャとともに走り出しながら、後ろをちらりと振り返った。ついてきている。
「わたしたちを食べるつもりかな?」
「気になるなら聞いてみたらどうだ?あいつらに」
水路を曲がったりまっすぐ走ったりしながら、ソーニャが顎をしゃくった。アスターは少し考えてやめた。ぜひ聞いてみたいところだが、食べるという答えの場合、命を犠牲にしなければいけないのは気が進まない。
「君、ナイフ使えるだろ?倒せないのかい?」
「ネズミが媒介するウイルスの危険性について、実例と詳しく教えてやろうか?」
「結構です」
アスターは何か使えそうなものはないかと、走りながら辺りを見回した。何かないだろうか。
「ソーニャ、こっち!」
アスターは左に曲がりかけたソーニャの袖を引っ張って、まっすぐ進んだ。正面の水路の脇に、粉袋が見える。きっと、水路を補修するためのものだろう。
「火を起こせそうなの持ってる?」
「指先火種用のやつなら」
「指先火だね?」
意味のわからない返答だったが、アスターはとりあえず頷いた。要は火を起こせれば良いのだ。
「ナイフ貸して」
近づいてくるネズミの足音を聞きながら、アスターはソーニャからナイフを受け取った。粉袋の上を切り裂く。ようやく、ソーニャの顔に納得したような色が浮かんだ。
「あぁ、なるほど」
「わかったら、わたしのいう通りにしてくれるかい?」
宙に舞う粉。それに引火した炎が爆発を呼び覚ます。一瞬の間に、ネズミは逃げるか、死ぬかどちらかの末路を辿ることになった。
「よくひらめいたな」
倒れたネズミたちの群れを眺めながら、ソーニャが感心したように言う。
「粉塵爆発は漫画の定番だからね。初めてやったけど、成功して良かった。ごめんね、ネズミさん」
アスターは軽く黙祷した。生き延びるためとは言え、むやみに命を傷つけてしまったのは心苦しい。
「あんたのことだから、〈ハウス〉にいるときにやってそうだと思ったけど」
不思議そうにソーニャが言う。アスターはその頃のことをしみじみと思い出した。
「やろうとしたけど、おばあちゃんに最上階層から落とされそうになったんだよね。階層のすみっこだったから良いと思ったんだけど」
「あんたに倫理観ってものを植え付けてくれたばあさんは偉大だな」
ソーニャがやれやれと首を振った。
「ところで、どこから来たか覚えてるか?急いでたから忘れちまった」
「あっち。グワってまっすぐ来て、サッて右に行って、ダダって左に来た」
アスターはとても理知的な文章で説明した。
「…もう道案内はあんたに任せる」
少しの休憩をとりながら歩き続け、そして時間の感覚がなくなってきた頃、ようやく先が見えてきた。アスターの読み通り、〈ハウス〉の中央に位置するだろう場所は、広場のようになっていた。真ん中の石碑から十字となる形で水が伸びている。
「なんて書いてあるのかな」
アスターは石碑に近づいた。一見、何も書いていないように見える。
「接触型のホログラムかもな」
またもや意味のわからない言葉を発しながら、ソーニャが石碑に近づいた。しばらく考える素振りを見せてから、石の上を十字の形になぞる。途端に虚空に光が浮かび上がった。歯車の回るような音とともに、横に縦穴も現れる。どうやらはしごのようだ。
「おぉ、SFっぽいね」
アスターはそのからくり仕掛けに感心した。ソーニャが軽く肩をすくめる。
「よくあるものだよ。オレからしたら、〈ハウス〉のほうがよっぽどファンタジーだけどな」
そうなのか。現代技術のすごさに感嘆しながら、アスターは光、ホログラムに記された文字を読んだ。
「序章とはいえ、よくここまで来たね。おめでとう。君たちは変化を起こせるかな、って、何だこれ?神様みたい」
「あれだろ?つまり、オレたちをリアルタイムで監視してる誰かがいるってことなんじゃないかな」
ひんやりとした悪寒が背中を伝うのを感じる。誰とも知れない誰かが、自分たちを観察していると気づくのは、あまり良い気分ではなかった。
「心当たりは?」
「わからない。とりあえず、こっちに害をなそうとはしてないみたいだし、放っておいていいだろ。少なくとも、今はまだ」
まだというのが心配だ。アスターはホログラムを眺めなおした。
気になる。監視者が誰なのか、何のために自分たちを監視しているのか。よく知っていると思っていた〈ハウス〉なのに、最近はわからないことがいっぱいだ。そのことに、不思議と不安は覚えなかった。むしろ、好奇心が疼く。〈ハウス〉の未知の部分について、もっと知りたい。
アスターは自分の気持ちを改めて確認してから、縦穴のほうに向かった。
「行こう」
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