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紺碧の幻想
Once upon a time
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「さっきは、踏み込んだことを聞いてごめん。でも、知りたいんだ。ここのことや、君のことについて」
「なぜ、お主はそんなに知りたがりなんじゃ?」
自分の心を確かめながら、ぼくは答えた。本心で語り合いたかったからだ。
「わからない。でも、君は何かに思い詰めているように見える。だから、話してほしいんだ。話してくれたら、少しは楽になるかもしれない」
「ブーメランだな」
デルフィが眠そうに言う。ぼくは少しどきりとした。
「お前も同じように見えるぞ。おれの気のせいじゃなけりゃな」
「じゃあ、こうしようではないか」
アンクルが穏やかな口調で提案する。
「わらわが自分のことを、研究所のことを話す。その代わり、お主もお主のことについて話す。デルフィの勘はだいたい当てになるからな」
だいたい五百年ほど前の話じゃ。わらわは、〈トリトン機構〉の実験で生み出された。いわゆる人造人間、アンドロイドじゃな。初めは、実験される者とされる側だったのが、日々を過ごすうちに大切な仲間じゃと思えるようになった。そして何年か過ぎた日から、〈トリトン機構〉の最終計画、深海都市計画が始まった。もともとそのために産まれた研究集団じゃったからな。
結論から言うと、上手くいかなかった。というのも、最後の段階で地上と連絡がとれなくなってしまったんじゃ。天災か戦争に巻き込まれたのか、はたまた原生生物に食われたのか。確かめる手段はなかった。ちょうどそのときに限って、アムピトリテ号を動かすための特殊なエネルギー、〈夜桜〉が不足していたからな。
お主をどうやって助けたか?簡単な話じゃ。五百年の歳月と、この研究所を使えば、〈夜桜〉を増やす手段くらい見つけられる。浅い方へ潜水艇を向けていたら、たまたまお主とかちあった、それだけじゃ。
「なぜ、君はここから出ようとしなかったんだ?彼らと同じ場所で死ぬためか?」
真っ先にぼくはたずねてしまった。人造人間に死という概念はあるのかわからない。しかし、エネルギーを供給するものが風化で壊れてしまえば、人造人間にとっての「死」は訪れるだろう。それを待ち続けているのだろうか。
「そうじゃ。わらわはここで死ぬ」
穏やかに、しかしきっぱりとアンクルは答えた。一番聞きたくなかった答えだ。ぼくは思わず口を開いた。
「何でなんだ?彼らは君のことを愛していたんだろ?君が死ぬことを望んではいなかったはずだ」
「死んだ人間の気持ちなんぞ、わからぬ。わらわはここで、機構の仲間たちと同じ地で、逝きたい。それだけじゃ」
アンクルは微かに笑った。その笑い方で悟る。自分には、彼女の決意は変えられない。どんなに懇願しても、叶わない願いなのだと。
「さぁ、次はお主の話をしてくれ」
「…わかった」
彼女の、強く輝いていた赤紫色の瞳と、あのほがらかな声を思い出しながら、ぼくは口を開いた。ここに来てからむりやり蓋をしていた記憶を、解放する。
ぼくは、浮船王国〈ヘルメセント〉という国の第二王女の遊び相手だった。生まれはただの路上の物乞いだ。だけど外見が王女の好みだったみたいで、彼女の目にとまったんだ。それからは、王城で王女の相手をすることになった。カードゲームをしたり、勉強をしたり、いろいろ。高い給料の代わりに、毎日昼も夜もこき使われた。
そんな生活を助けてくれたのは、リリーっていう女の子だった。同じ屋根の下で暮らすうちに、自然と仲良くなった。でもある日、原生生物との戦いで、ぼくらの暮らしていた船はまるごと沈没した。
ぼくが助かったのは、全てリリーのおかげだ。沈みゆく城の中、彼女は蔵から酸素パックを運んでいたんだ。王たちの命を長引かせるために。でも、落石のせいで意識を失っていたぼくにつけてくれたんだ。なんとなく覚えてる。でも、ぼくだけ生き残っても、何の意味もないのに。どうせなら、リリーの方に生き残ってほしかった。
思い出すと、悔しくて、悲しくて、やりきれなくなった。これまで抑えつけていた感情が溢れそうになって、必死でこらえる。この感情の嵐の源は、自分への憐れみだ。彼女のために純粋に落涙できる日まで、泣きたくはなかった。
「それで、お主はどうするつもりじゃ?地上に戻るのか?」
ぼくはうなずいた。
「うん。地上に戻って、いろいろ考えたいんだ。本当は一緒に行きたいけど、君は残りたいんだろ?」
「そうじゃの。そうじゃ、戻るならデルフィを連れて行ってはくれないか?」
「デルフィを?」
ぼくはデルフィを見た。気だるげな目と目が合う。デルフィはあくびをして、首を振った。
「おれは嫌だ。ここにいた方がましだよ」
「そういえば、君は何で落ちてきたの?」
聞き忘れていた。教えてくれるかどうかわからなかったが、デルフィは眠そうな目のまま、話し出してくれた。
おれは、天空国家〈セレスティオン〉ってとこの神託猫だったんだ。大層なネーミングだよな。まぁ、簡単に言えば、王に何人か子どもが生まれた場合、その中から最も王の素質を持っている奴を選び出す仕事をしてたんだ。そんな仕事だから恨まれることも少なくない。でも、行動を起こす奴は今までいなかった。王直下の近衛兵たちは強いからな。下手に手を出したら返り討ちにあっちまう。建前でも、本音でも、神託は絶対だったんだ。
その暗黙のルールを覆した奴が五年前、現れたんだよ。ソフォクレスっつう、双子のかたわれさ。そいつは何年も前から選ばれなかったときのために、自分の息がかかった兵たちを近衛兵に送り込んでたみたいなんだ。バレないように、地道にな。まぁ、そんなことをする奴だから選ばれなくてもしょうがない。勘でこいつはダメだと思ったから、おれはもう一方のハイヌウェレってのを選んだんだ。静かだが、聡明そうだったからな。
ここまで説明すればなんとなくわかるだろ?彼女が王になって数ヶ月後、反乱が起こったんだ。もちろん筆頭は、ソフォクレスだよ。
頼りの近衛兵も敵の味方だから、どうしようもない。てなわけで、抵抗する王族は皆殺し、ハイヌウェレは行方不明。おれはといえば、王城のある浮島から落とされちまった。死ぬかと思ったが、頑丈なボディのおかげで生き残った。で、ここにいるってわけだよ。
ぼくは唖然としてしまった。まさか、そんな過去があったとは思わなかった。やさぐれてしまうのも当然だ。
「おれの心情がわかったら、放っておいてくれ」
一通り語り終えたデルフィが伸びをした。アンクルがやれやれと首を振る。
「前にも言ったじゃろ、お主には天空国家の民を助ける義務があるんじゃ。帰らなければならんじゃろ」
「いいんだよ。どうせおれを待ってる奴なんかいないよ」
やぶれかぶれにデルフィが言う。ぼくは我慢できなくなって口を開いた。
「違う!きっと誰かが君を待ってる。そうだ、ハイヌウェレさんも死んだわけじゃないんだろ?」
「そうかもな」
デルフィがつぶやく。もう一押しだ。ぼくは言葉を続けた。
「ぼくが一緒にハイヌウェレさんを探す。きっとどこかで生きてるかもしれない。本当の女王様を見つけて、天空国家を建て直そうよ」
「たいした夢物語だな。一国の王を倒すんだぞ、そんな簡単にできるわけがない」
そんな言葉とは裏腹に、少し青と金の瞳が輝いていた。アンクルが苦笑する。
「おや、あれだけいろいろ言っていた割にはチョロいではないか」
「何の話だよ。行くとはいってないだろ」
ふてくされたようにデルフィがそっぽを向いた。ぼくは身をのりだした。
「一緒に行こうよ」
「何でそんなに食いつくんだ?別にお前には関係もないだろ」
確かにそうかもしれない。ぼくは、心を探った。なぜぼくは、足を踏み入れたこともない他国のことがこんなにきになるんだ?
「生きる理由が欲しいからかもしれない」
ぼくは答えのようなものに辿り着いて、つぶやいた。
「なぜ、お主はそんなに知りたがりなんじゃ?」
自分の心を確かめながら、ぼくは答えた。本心で語り合いたかったからだ。
「わからない。でも、君は何かに思い詰めているように見える。だから、話してほしいんだ。話してくれたら、少しは楽になるかもしれない」
「ブーメランだな」
デルフィが眠そうに言う。ぼくは少しどきりとした。
「お前も同じように見えるぞ。おれの気のせいじゃなけりゃな」
「じゃあ、こうしようではないか」
アンクルが穏やかな口調で提案する。
「わらわが自分のことを、研究所のことを話す。その代わり、お主もお主のことについて話す。デルフィの勘はだいたい当てになるからな」
だいたい五百年ほど前の話じゃ。わらわは、〈トリトン機構〉の実験で生み出された。いわゆる人造人間、アンドロイドじゃな。初めは、実験される者とされる側だったのが、日々を過ごすうちに大切な仲間じゃと思えるようになった。そして何年か過ぎた日から、〈トリトン機構〉の最終計画、深海都市計画が始まった。もともとそのために産まれた研究集団じゃったからな。
結論から言うと、上手くいかなかった。というのも、最後の段階で地上と連絡がとれなくなってしまったんじゃ。天災か戦争に巻き込まれたのか、はたまた原生生物に食われたのか。確かめる手段はなかった。ちょうどそのときに限って、アムピトリテ号を動かすための特殊なエネルギー、〈夜桜〉が不足していたからな。
お主をどうやって助けたか?簡単な話じゃ。五百年の歳月と、この研究所を使えば、〈夜桜〉を増やす手段くらい見つけられる。浅い方へ潜水艇を向けていたら、たまたまお主とかちあった、それだけじゃ。
「なぜ、君はここから出ようとしなかったんだ?彼らと同じ場所で死ぬためか?」
真っ先にぼくはたずねてしまった。人造人間に死という概念はあるのかわからない。しかし、エネルギーを供給するものが風化で壊れてしまえば、人造人間にとっての「死」は訪れるだろう。それを待ち続けているのだろうか。
「そうじゃ。わらわはここで死ぬ」
穏やかに、しかしきっぱりとアンクルは答えた。一番聞きたくなかった答えだ。ぼくは思わず口を開いた。
「何でなんだ?彼らは君のことを愛していたんだろ?君が死ぬことを望んではいなかったはずだ」
「死んだ人間の気持ちなんぞ、わからぬ。わらわはここで、機構の仲間たちと同じ地で、逝きたい。それだけじゃ」
アンクルは微かに笑った。その笑い方で悟る。自分には、彼女の決意は変えられない。どんなに懇願しても、叶わない願いなのだと。
「さぁ、次はお主の話をしてくれ」
「…わかった」
彼女の、強く輝いていた赤紫色の瞳と、あのほがらかな声を思い出しながら、ぼくは口を開いた。ここに来てからむりやり蓋をしていた記憶を、解放する。
ぼくは、浮船王国〈ヘルメセント〉という国の第二王女の遊び相手だった。生まれはただの路上の物乞いだ。だけど外見が王女の好みだったみたいで、彼女の目にとまったんだ。それからは、王城で王女の相手をすることになった。カードゲームをしたり、勉強をしたり、いろいろ。高い給料の代わりに、毎日昼も夜もこき使われた。
そんな生活を助けてくれたのは、リリーっていう女の子だった。同じ屋根の下で暮らすうちに、自然と仲良くなった。でもある日、原生生物との戦いで、ぼくらの暮らしていた船はまるごと沈没した。
ぼくが助かったのは、全てリリーのおかげだ。沈みゆく城の中、彼女は蔵から酸素パックを運んでいたんだ。王たちの命を長引かせるために。でも、落石のせいで意識を失っていたぼくにつけてくれたんだ。なんとなく覚えてる。でも、ぼくだけ生き残っても、何の意味もないのに。どうせなら、リリーの方に生き残ってほしかった。
思い出すと、悔しくて、悲しくて、やりきれなくなった。これまで抑えつけていた感情が溢れそうになって、必死でこらえる。この感情の嵐の源は、自分への憐れみだ。彼女のために純粋に落涙できる日まで、泣きたくはなかった。
「それで、お主はどうするつもりじゃ?地上に戻るのか?」
ぼくはうなずいた。
「うん。地上に戻って、いろいろ考えたいんだ。本当は一緒に行きたいけど、君は残りたいんだろ?」
「そうじゃの。そうじゃ、戻るならデルフィを連れて行ってはくれないか?」
「デルフィを?」
ぼくはデルフィを見た。気だるげな目と目が合う。デルフィはあくびをして、首を振った。
「おれは嫌だ。ここにいた方がましだよ」
「そういえば、君は何で落ちてきたの?」
聞き忘れていた。教えてくれるかどうかわからなかったが、デルフィは眠そうな目のまま、話し出してくれた。
おれは、天空国家〈セレスティオン〉ってとこの神託猫だったんだ。大層なネーミングだよな。まぁ、簡単に言えば、王に何人か子どもが生まれた場合、その中から最も王の素質を持っている奴を選び出す仕事をしてたんだ。そんな仕事だから恨まれることも少なくない。でも、行動を起こす奴は今までいなかった。王直下の近衛兵たちは強いからな。下手に手を出したら返り討ちにあっちまう。建前でも、本音でも、神託は絶対だったんだ。
その暗黙のルールを覆した奴が五年前、現れたんだよ。ソフォクレスっつう、双子のかたわれさ。そいつは何年も前から選ばれなかったときのために、自分の息がかかった兵たちを近衛兵に送り込んでたみたいなんだ。バレないように、地道にな。まぁ、そんなことをする奴だから選ばれなくてもしょうがない。勘でこいつはダメだと思ったから、おれはもう一方のハイヌウェレってのを選んだんだ。静かだが、聡明そうだったからな。
ここまで説明すればなんとなくわかるだろ?彼女が王になって数ヶ月後、反乱が起こったんだ。もちろん筆頭は、ソフォクレスだよ。
頼りの近衛兵も敵の味方だから、どうしようもない。てなわけで、抵抗する王族は皆殺し、ハイヌウェレは行方不明。おれはといえば、王城のある浮島から落とされちまった。死ぬかと思ったが、頑丈なボディのおかげで生き残った。で、ここにいるってわけだよ。
ぼくは唖然としてしまった。まさか、そんな過去があったとは思わなかった。やさぐれてしまうのも当然だ。
「おれの心情がわかったら、放っておいてくれ」
一通り語り終えたデルフィが伸びをした。アンクルがやれやれと首を振る。
「前にも言ったじゃろ、お主には天空国家の民を助ける義務があるんじゃ。帰らなければならんじゃろ」
「いいんだよ。どうせおれを待ってる奴なんかいないよ」
やぶれかぶれにデルフィが言う。ぼくは我慢できなくなって口を開いた。
「違う!きっと誰かが君を待ってる。そうだ、ハイヌウェレさんも死んだわけじゃないんだろ?」
「そうかもな」
デルフィがつぶやく。もう一押しだ。ぼくは言葉を続けた。
「ぼくが一緒にハイヌウェレさんを探す。きっとどこかで生きてるかもしれない。本当の女王様を見つけて、天空国家を建て直そうよ」
「たいした夢物語だな。一国の王を倒すんだぞ、そんな簡単にできるわけがない」
そんな言葉とは裏腹に、少し青と金の瞳が輝いていた。アンクルが苦笑する。
「おや、あれだけいろいろ言っていた割にはチョロいではないか」
「何の話だよ。行くとはいってないだろ」
ふてくされたようにデルフィがそっぽを向いた。ぼくは身をのりだした。
「一緒に行こうよ」
「何でそんなに食いつくんだ?別にお前には関係もないだろ」
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