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ペベンシーのクローゼット
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早速だけど、おれは困惑していた。パジャマから服に着替えようとしてクローゼットを開けたら、変なものが出現していたからだ。ものというか、ひび割れみたいな感じ。そこの空間だけ割れているんだ。割れ目からは、黄金色の光が漏れている。
おれは深呼吸して自分を落ち着かせた後に、まず着替えた。そして、机の上のスマホに手を伸ばした。とりあえず、友達を呼んで、この奇妙な現象を見てもらおう。詩乃ならこういうことが起きたときの対処法を知っているかもしれないし、壮ならいつもみたいになんとかしてくれるかもしれない。紫苑は…、わからない。ひとまず、おれはぽちぽちとメッセージを送信した。
〔起きてるか?〕
まだ朝の七時だし、今は春休みだ。寝ている奴もいるかもしれない。そんなおれの予想に反して、すぐにメッセージは既読された。
〔起きてるよ〕
〔何かあったの?〕
〔どうした?〕
返信の早さに内心舌を巻きながら、おれはメッセージを送った。ここまで悩んで文面を考えたことは、これまでになかったと思う。
〔クローゼットがなんかおかしいんだ。中にひび割れができてて、そこから光が漏れてる。暇なら来て見てくれないか?〕
〔面白い嘘だね〕
壮からの返信に、おれは頭を抱えた。
〔違う、嘘じゃなくてマジなんだ〕
〔旭、今日の日付ちゃんと見た?〕
今日の日付?詩乃の言葉に首を傾げながら、おれは机の脇のカレンダーを見た。
四月一日だった。おれは深いため息をついた。これじゃあ信じてもらえなくとも当然だ。
〔じゃ、写真送るから見てくれよ〕
必死の思いで、急いで写真を撮って送る。こうすれば真実だとわかるだろう。
〔散らかってんね〕
紫苑から、呆れた顔の絵文字と共に返信が来た。続いてメッセージが来る。
〔これ、何なの?〕
〔わかんないから連絡したんだよ。とりあえず来てくれないか?〕
〔了解〕
みんなから同じ文面のメッセージが同時に来た。
朝っぱらから友達を部屋に招くことに、最初母さんと父さんは良い顔をしなかった。でも、詩乃が「みんなで勉強をするんです。もうすぐ中学ですから、小学生の間の勉強の復習をしておこうと思って」と言った途端、笑顔になった。大人ってのは不思議だ。子供より偉いみたいな顔をしてながら、子供以上にころころと手の平を翻す。でも、それが大人って生き物なんだろう。
いいや、今考えるべきなのはクローゼットの異変であって、大人の奇妙な生態ではない。おれは、誰かに覗き見されないようドアとカーテンを閉めた後、クローゼットの中を見せた。
「やっぱり散らかってるね」
しみじみと紫苑が言う。
「こういうのってよく起きるのか?というか、見たことあるか?」
おれはみんなにたずねた。予想通り、詩乃と紫苑は首を振る。だよなぁ。あれ、一人足りない。おれは壮を見た。
「心当たりあるのか?」
「いや、なかったんだけどね。来る前に、ネットで君の写真を使って画像検索をしてみたんだ。そうしたら、何件かだけどヒットしたんだ」
壮が素早くスマホを操作して、こっちに見せてくれた。おれらはその小さな画面に覗き込んだ。短い動画がこれまた短い文と共に投稿されている。
〔こんなの見つけた!都市伝説の一種かな?〕
そんな文と一緒に、どこかの路地の画像が投稿されていた。一見、何もなさそうに見える。いや、違う。写真の中央にある水たまりにひび割れが入っている。おれのと同じように、金色の光が漏れている。そこまで考えた瞬間、それは陽炎のようにシュッと消えた。残されたのは、平凡な街の景色だけ。
「こういうのが少しあったんだ。たぶん、旭のと一緒」
「へぇ、すごいじゃん。時空が歪んでるみたいだね」
紫苑がひび割れに目を向けた。こころなしか、目がキラキラと輝いている。
「ひび割れの先の様子は確認したの?」
詩乃の言葉に、おれは首を横に振った。確認してみたい気持ちもあったけど、それ以上に何があるのか、何が起こるのかわからないのが怖かった。それもあって、みんなを呼んだんだ。赤信号、みんなで渡れば怖くないって言うだろ?もっとも、赤信号は渡っちゃダメだけど。
「じゃ、確認してみようよ」
紫苑が躊躇なく前に進み出た。壮が、その袖を掴んでそれを引き止める。
「やめた方がいい。何が起こるかわからないんだ、危険だよ」
おれもうなずいた。どちらかといえば、壮の意見に賛成だ。こういうのは放って置くに限る。さっきの動画みたいに、放置しておいたらいつかは消えるかもしれないし。
「それならなおさら気になるね」
紫苑は壮を振り払って、素早くひび割れに手を突っ込んだ。手の先がふっと消える。
「大丈夫なの?」
心配そうに詩乃がたずねた。紫苑が大きくうなずく。
「うん、空間があるみたい。この様子じゃ中に入れそうだね」
「それはちょっと、やめといた方がいいんじゃないか?」
おれの言うことも聞かずに、紫苑はひび割れを広げて中に入ってしまった。さっきの手のように消えてしまう。本当に大丈夫なのか?
「生きてるか?」
おれはおずおずとたずねた。これで何の返答も返ってこなかったらと考えると背筋が寒くなってしまう。でも、そんな想像が現実になることはなかった。
「生きてるよ、大丈夫。それより、すごいのがあるよ!こっち来て」
おれたちは顔を見合わせた。怖いけれど、あっち側に紫苑を残すわけにもいかない。おれたちはおっかなびっくりひび割れに入った。
一瞬だけ、見たこともない、聞いたこともない、全く知らない黄金の都市がなぜか脳裏にありありと浮かんだ。浮かんだことを自覚した瞬間、おれはみんなと共に、どこかの高台にいた。
紫苑がすごいと言った理由がわかった。おれも思わず感嘆のため息を漏らしてしまった。
眼前には、海上に広がる巨大な都市が現れてたんだ。
おれは深呼吸して自分を落ち着かせた後に、まず着替えた。そして、机の上のスマホに手を伸ばした。とりあえず、友達を呼んで、この奇妙な現象を見てもらおう。詩乃ならこういうことが起きたときの対処法を知っているかもしれないし、壮ならいつもみたいになんとかしてくれるかもしれない。紫苑は…、わからない。ひとまず、おれはぽちぽちとメッセージを送信した。
〔起きてるか?〕
まだ朝の七時だし、今は春休みだ。寝ている奴もいるかもしれない。そんなおれの予想に反して、すぐにメッセージは既読された。
〔起きてるよ〕
〔何かあったの?〕
〔どうした?〕
返信の早さに内心舌を巻きながら、おれはメッセージを送った。ここまで悩んで文面を考えたことは、これまでになかったと思う。
〔クローゼットがなんかおかしいんだ。中にひび割れができてて、そこから光が漏れてる。暇なら来て見てくれないか?〕
〔面白い嘘だね〕
壮からの返信に、おれは頭を抱えた。
〔違う、嘘じゃなくてマジなんだ〕
〔旭、今日の日付ちゃんと見た?〕
今日の日付?詩乃の言葉に首を傾げながら、おれは机の脇のカレンダーを見た。
四月一日だった。おれは深いため息をついた。これじゃあ信じてもらえなくとも当然だ。
〔じゃ、写真送るから見てくれよ〕
必死の思いで、急いで写真を撮って送る。こうすれば真実だとわかるだろう。
〔散らかってんね〕
紫苑から、呆れた顔の絵文字と共に返信が来た。続いてメッセージが来る。
〔これ、何なの?〕
〔わかんないから連絡したんだよ。とりあえず来てくれないか?〕
〔了解〕
みんなから同じ文面のメッセージが同時に来た。
朝っぱらから友達を部屋に招くことに、最初母さんと父さんは良い顔をしなかった。でも、詩乃が「みんなで勉強をするんです。もうすぐ中学ですから、小学生の間の勉強の復習をしておこうと思って」と言った途端、笑顔になった。大人ってのは不思議だ。子供より偉いみたいな顔をしてながら、子供以上にころころと手の平を翻す。でも、それが大人って生き物なんだろう。
いいや、今考えるべきなのはクローゼットの異変であって、大人の奇妙な生態ではない。おれは、誰かに覗き見されないようドアとカーテンを閉めた後、クローゼットの中を見せた。
「やっぱり散らかってるね」
しみじみと紫苑が言う。
「こういうのってよく起きるのか?というか、見たことあるか?」
おれはみんなにたずねた。予想通り、詩乃と紫苑は首を振る。だよなぁ。あれ、一人足りない。おれは壮を見た。
「心当たりあるのか?」
「いや、なかったんだけどね。来る前に、ネットで君の写真を使って画像検索をしてみたんだ。そうしたら、何件かだけどヒットしたんだ」
壮が素早くスマホを操作して、こっちに見せてくれた。おれらはその小さな画面に覗き込んだ。短い動画がこれまた短い文と共に投稿されている。
〔こんなの見つけた!都市伝説の一種かな?〕
そんな文と一緒に、どこかの路地の画像が投稿されていた。一見、何もなさそうに見える。いや、違う。写真の中央にある水たまりにひび割れが入っている。おれのと同じように、金色の光が漏れている。そこまで考えた瞬間、それは陽炎のようにシュッと消えた。残されたのは、平凡な街の景色だけ。
「こういうのが少しあったんだ。たぶん、旭のと一緒」
「へぇ、すごいじゃん。時空が歪んでるみたいだね」
紫苑がひび割れに目を向けた。こころなしか、目がキラキラと輝いている。
「ひび割れの先の様子は確認したの?」
詩乃の言葉に、おれは首を横に振った。確認してみたい気持ちもあったけど、それ以上に何があるのか、何が起こるのかわからないのが怖かった。それもあって、みんなを呼んだんだ。赤信号、みんなで渡れば怖くないって言うだろ?もっとも、赤信号は渡っちゃダメだけど。
「じゃ、確認してみようよ」
紫苑が躊躇なく前に進み出た。壮が、その袖を掴んでそれを引き止める。
「やめた方がいい。何が起こるかわからないんだ、危険だよ」
おれもうなずいた。どちらかといえば、壮の意見に賛成だ。こういうのは放って置くに限る。さっきの動画みたいに、放置しておいたらいつかは消えるかもしれないし。
「それならなおさら気になるね」
紫苑は壮を振り払って、素早くひび割れに手を突っ込んだ。手の先がふっと消える。
「大丈夫なの?」
心配そうに詩乃がたずねた。紫苑が大きくうなずく。
「うん、空間があるみたい。この様子じゃ中に入れそうだね」
「それはちょっと、やめといた方がいいんじゃないか?」
おれの言うことも聞かずに、紫苑はひび割れを広げて中に入ってしまった。さっきの手のように消えてしまう。本当に大丈夫なのか?
「生きてるか?」
おれはおずおずとたずねた。これで何の返答も返ってこなかったらと考えると背筋が寒くなってしまう。でも、そんな想像が現実になることはなかった。
「生きてるよ、大丈夫。それより、すごいのがあるよ!こっち来て」
おれたちは顔を見合わせた。怖いけれど、あっち側に紫苑を残すわけにもいかない。おれたちはおっかなびっくりひび割れに入った。
一瞬だけ、見たこともない、聞いたこともない、全く知らない黄金の都市がなぜか脳裏にありありと浮かんだ。浮かんだことを自覚した瞬間、おれはみんなと共に、どこかの高台にいた。
紫苑がすごいと言った理由がわかった。おれも思わず感嘆のため息を漏らしてしまった。
眼前には、海上に広がる巨大な都市が現れてたんだ。
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