ナルニアの海上都市

夕凪

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真珠の塔と仮面の怪盗

Hello aquatilis

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〔おーい、我が愛しの空夜君、ちょっと来てくれないかい?〕
 頭の中に響いた声に、空夜はため息をついた。今は忙しいのに、いったい何の用だろうか。しかし、主の言うことには従わなければ。空夜は時空を歪ませて、黄金郷へと戻った。
「何の用ですか?新手のいたずらですか?それとも、新しくいじめたい子でもできたんですか?」
「君はボクを何だと思ってるんだい」
    は呆れたように頭を掻いた。
「いやさ、今〈呼吸〉のときだから、異変がたくさん発生してるよね?そのせいでヒラサカもたくさん生まれてるから、祓ってるよね?」
「何を今さら」
「まぁまぁ。で、本題なんだけど、そいつを通り抜けて、例の荒廃世界に行っちゃった子たちがいるんだよね。それで、」
「わかりました。連れ戻してきますね」
 空夜はその世界を呼び出した。しかし、時間と場所を指定して自分を転送させようとしたとき、  に止められた。ぐいっと顔を近づけてくる  に、空夜は嫌な予感を感じた。
「早とちりはやめてくれ。ボクが命じたいのは、そんなことじゃない」
「まさか、またはた迷惑な揉め事を起こすつもりですか?やめてください」
 空夜は    を睨んだ。しかし、それでへこたれる彼ではない。こりた様子もなく、しゃあしゃあと続けた。
「前にも言ったけど、それがボクの仕事なんだって。とにかく、期限は三日。言語翻訳機能つき。時間は気にしなくても良い。あとは、その世界の簡単な説明とかかな?その辺り伝えてね。よろしく」
 空夜はため息をついた。駄目で元々の気持ちで聞いてみる。
「命令ですか?」
「もちろん」

「まぁ、三日でひびは閉じる、言語の心配はない、時間を気にする必要もない、その他諸々。そんな感じです。頑張ってください」
 ぼくたちはあっけにとられながら、突然どこからか現れた男の人の話を聞いていた。ちなみに彼は、なぜ妙にやつれた表情をしているのかは教えてくれなかった。
「はい、質問」
 紫苑が手を挙げた。
「あなたは、何なんですか?神様ですか?」
「違います。主にこき使われる、ただの眷属ですよ」
 やけに重たいため息をついてから、その男の人は来たときと同じように、空気中に消えてしまった。
「神様の使いって、うちの父さんみたいなんだな」
 旭がしみじみと言った。ぼくたちは旭のお父さん、言い換えるなら、疲れたサラリーマンの姿を思い出して、うなずいた。確かに、よく似ている。
「あの人のこともそうだけど、彼の主さん?は私達に何をしてほしいのかしら」
 不思議そうに詩乃が言う。ぼくは、ふと思いついて手を挙げた。
「あれじゃない?何か面白いことをしてほしいとか?」
「よくわからんな」
 旭が困ったように頭を掻いた。
「ま、とにかく三日は滞在できるんでしょ?ちょっとした観光くらいなら普通にできそうじゃない?」
 紫苑がわくわくしたように言った。確かに。見知らぬ世界を歩くのは少し怖いけれど、新しいことを体験できるということは楽しそうだ。
「じゃ、行ってみるか」
 ぼくは提案した。あの人の言うことが仮に本当だとしたらだけど、この海上都市〈アクアティリス〉?を三日の間探検できるということには、とても興味をひかれる。みんなもぼくと同じ考えだったみたいで、うなずいた。
 ぼくは、ひびのある高台(展望台だと思う)をみんなと降りながら、ふと元の世界のことを考えた。いつもならこのあと、九時から塾があったんだっけ。そのあとは、英会話とスイミング。別に、こういう習い事が嫌いってわけじゃない。親友とまではいかなくとも、よく話す友達だっている。でも、もうしなくていいよって両親から言われたら、すぐにやめてしまうような気がする。事実、ぼくは今、潮風みたいにさわやかな解放感を感じている。変な感じだ。
「何ぼうっとしてるんだ?」
 旭から不思議そうに話しかけられて、ぼくは我に返った。
「ごめん。ちょっと元の世界のことを考えてて」
 そういえば、旭はいいよな。ぼくみたいに週に何個も習い事をやっているわけじゃないけど、野球っていう、自分の好きなことに毎日打ち込めているんだから。ぼくはそんなもの、ない。
 そこまで考えて、自分が嫌になった。旭は好きなことに打ち込んでいるけど、それがずっと楽しかったとは限らないはずだ。表面だけ見て羨ましがっている自分は、ただの馬鹿だ。
「ちょっと変なこと考えちゃって」
「ふーん。なんかおれもわかるかも」
 急な階段を降りながら旭がゆっくりとうなずいた。そのとき、紫苑がうきうきした様子で言った。
「みんな、なんかあるよ!あそこ、都市の真ん中」
 ぼくは紫苑が指差した方を反射的に見た。そこには、高くそびえ立つ真珠色の塔があった。白い流線型の装飾が、なんとなく潮流を思わせる美しい建物だ。
「行ってみましょ。市役所みたいな場所かも」
 詩乃の言葉に、ぼくは最後の段を軽く飛び降りながらうなずいた。紫苑じゃないけど、なんだかわくわくしてくる。例えるなら、小さい頃、公園の裏手にみんなと秘密基地を作っていたころの気分と似ている気がする。
 ぼくたちは、人気のない歩道をその塔に向かって歩き出した。ここからじゃかなり遠そうだけど、頑張れば行けそうな距離だ。そんなことを思っていると、おしゃべりや人々の織りなす物音が混じった喧騒が前方から聞こえてきた。紫苑が先頭を切って、そっちへ向かった。ぼくも慌ててついていく。
 また、新しい景色が眼前に広がった。
「なんか、年末のショッピングモールみたい」
 ぼくのつぶやきに、みんなが大きくうなずいてくれた。自画自賛するわけじゃないけど、本当にそのくらい人がごった返してたんだ。あちこちに店や屋台が並んだこの場所に。こういうの、バザールって言うんだっけ?名称はともかく、ぼくはそのにぎわいに圧倒されてしまった。
「とにかく、塔はあそこだろ?とりあえず、あっちに向かってみようぜ」
 旭の単純明快な言葉に、ぼくたちは喜んで従った。満員電車の中みたいな人混みをかきわけかきわけ、道を進んでいく。そんな動作を繰り返していたとき、ふいに横の店から大声が聞こえた。
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