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真珠の塔と仮面の怪盗
Disguise detection team
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「おい、なぜそんなところで油を売っているんだ?」
苛立ち混じりの声が表通りの方から聞こえてきて、おれは振り返った。ガタイが良くて、高身長の男が仁王立ちしている。誰だ、あの強そうなおっさん?リンドウさんの知り合いかな。
「油を売っているわけではない。捜査に協力してくれるという子供たちの話を聞いていたんだ」
リンドウさんが不満げに答えた。でも、おっさんの苛立ちは増したようだ。
「子供?捜査に一般人を巻き込むつもりか?」
「別にいいだろ。快く協力してくれるというんだ。ありがたく受け取るのが筋だろう」
リンドウさんが顔をしかめた。
「それに、マスカレードは特別だ。マスカレードは殺しをしない。いつも、催涙ガスや変装を使って、華麗に獲物を盗んでいく。私たちに余計な被害を残していくことはない。あいつにとっては、〈プラナリア計画〉の方が重要なようだからな。とにかく、彼らに危険が及ぶ可能性は低い」
「それとこれとは別だ。捜査に、守る対象の市民を巻き込むのは間違っている」
おれたちは顔を見合わせた。確かに、リンドウさんが言ってることも間違いじゃないんだけど、あのおっさんの言ってることにも筋が通っている。それだけに、バチバチの喧嘩になりそうだ。
おれは素早くこっちの戦力を計算した。詩乃は、本を読んだり音楽を聴いたりするのが好きなインドアタイプ。どちらかといえば頭脳派だ。
壮もそうだ。スイミングはやってるけど、腕っぷしが強いわけじゃない。万能型な感じだし。
紫苑は微妙だ。合気道をやってるって聞いたことがあるけど、喧嘩に強いのかは知らない。おれと同じ猪突猛進タイプなのに、妙に頭が回るから、おれと違って口八丁でものを解決していくことが多い。
おれはどうだろう?野球をやってるから、体は鍛えているつもりだ。喧嘩にも強いと思う。中学生にも勝ったことあるしな。でも、大の大人を止められるほど強くはないだろう。
「何やってるんですか?」
そこまで考えたとき、急に別のおっさんの声が乱入してきた。リンドウさんとおっさんが素早く振り返った。路地の前には、ひょろりと痩せたおっさんが立っていた。一見頼りなさげに見えるけど、おれにはわかる。この人は、逆らっちゃいけない部類の人だ。
「えっと…」
リンドウさんが初めて言い淀んだ。やっぱり。おれは自分の直感が正しかったことを確信した。
「休憩時間は五分前に終わったはずですよね?リンドウ、ウルツァイト」
穏やかな微笑みを浮かべながら、おっさんは言った。ウルツァイトって名前らしいおっさんも、居心地悪そうにしている。さっきまでリンドウさんと言い争ってたのが嘘みたいだ。
「すみません」
リンドウさんとウルツァイトさんが同時に謝った。
「それで、リンドウ、この子たちは誰ですか?誘拐してきたんじゃないでしょうね」
不思議そうにおっさんがたずねた。リンドウさんが慌てて首を振る。
「まさか、そんなことしませんよ。捜査に協力すると申し出てくれたので、ちょっと話をしていただけです。そうしたら、そこのウルツァイトと口論になってしまって」
「俺は、正論を言っただけです!一般人を巻き込むなんて間違ってます」
「落ち着きなさい、二人とも。見苦しいですよ」
柔和な声色のまま、おっさんは割って入った。途端に二人が黙り込む。おれは改めておっさんを見直した。風に吹き飛ばされてしまいそうな風体をしてるけど、その実はすごく強いんじゃないだろうか。
「あの、あなたは誰ですか?」
おずおずと紫苑がたずねた。おっさんがにこりと笑う。
「私は、彼らの上司のノグリです。あなたたちは?」
おれたちは手短にもう一度自己紹介をした。あと、おれたちが考えた、変装見破り作戦のことも。もちろん、異世界人ってのは省いて。でも、このノグリさんって人にかかれば、そのことも見透かされそうな気がする。狸みたいな人だと、おれはふと思った。
「なるほど。確かに子供を使うというのは良い案かもしれませんね」
しげしげとノグリさんが言う。この様子じゃ採用してくれそうだ。でも、ウルツァイトさんが不満げに反応した。
「捜査に子供を巻き込むっていうんですか?身の安全はどう保証するんですか?それに、足手まといになられたら困ります」
なんだよ、足手まといって。なんかいけすかない奴だ。でも、間違っちゃいないのが余計腹立つ。おれはノグリさんの様子を覗った。どうだろう?この意見を聞いた上でも賛成してくれるだろうか。
「それもそうですね。あなたの言うことも確かに正しい」
考え込んだ様子でノグリさんはつぶやいた。
「では、こうしましょう。彼らは宝石のある場所の前に置く。予告状に書かれた時刻になったら、彼らには外に出てもらう。そして、マスカレードが来るのを待つ。これなら最低限の身の安全は保証できるでしょう。それに、マスカレードはあまり手荒なことはしないですし。どうですか、ウルツァイト?」
「まぁ、それならいいですけど」
見るからに不承不承といった様子で、ウルツァイトさんがうなずいた。それを見届けたノグリさんは、こっちにまた向き直った。
「それで、なぜあなたたちはマスカレードの逮捕に協力したいんですか?マスカレードの手先だからという回答は、やめてくださいね」
「確かに、そういう考え方もあったんですね」
詩乃が驚いたようにつぶやいた。その様子を見て、ノグリさんはにこりと笑った。
「まぁ、マスカレードはいつも単独犯ですから、そういう心配はあまりないんですけどね。それで、目的は?」
え?じゃあ、こっちがどんな反応をするか気になって、かまをかけてきたのか。おちおち油断できない。おれは気をひきしめた。
「そんなたいしたものじゃないですよ。僕たち、マスカレードと警察、じゃなくって、〈海上特務隊〉の様子を近くで見たいだけです。変装見破り隊として」
壮が慌てて答えた。なるほどと、ノグリさんがうなずく。
「ありがとうございます。それでは変装見破り隊の皆さん、今日からよろしくお願いします。存分に働いてくださいね」
にこやかな笑顔のままノグリさんは、ネーミングセンスのいまいちな壮と握手した。
苛立ち混じりの声が表通りの方から聞こえてきて、おれは振り返った。ガタイが良くて、高身長の男が仁王立ちしている。誰だ、あの強そうなおっさん?リンドウさんの知り合いかな。
「油を売っているわけではない。捜査に協力してくれるという子供たちの話を聞いていたんだ」
リンドウさんが不満げに答えた。でも、おっさんの苛立ちは増したようだ。
「子供?捜査に一般人を巻き込むつもりか?」
「別にいいだろ。快く協力してくれるというんだ。ありがたく受け取るのが筋だろう」
リンドウさんが顔をしかめた。
「それに、マスカレードは特別だ。マスカレードは殺しをしない。いつも、催涙ガスや変装を使って、華麗に獲物を盗んでいく。私たちに余計な被害を残していくことはない。あいつにとっては、〈プラナリア計画〉の方が重要なようだからな。とにかく、彼らに危険が及ぶ可能性は低い」
「それとこれとは別だ。捜査に、守る対象の市民を巻き込むのは間違っている」
おれたちは顔を見合わせた。確かに、リンドウさんが言ってることも間違いじゃないんだけど、あのおっさんの言ってることにも筋が通っている。それだけに、バチバチの喧嘩になりそうだ。
おれは素早くこっちの戦力を計算した。詩乃は、本を読んだり音楽を聴いたりするのが好きなインドアタイプ。どちらかといえば頭脳派だ。
壮もそうだ。スイミングはやってるけど、腕っぷしが強いわけじゃない。万能型な感じだし。
紫苑は微妙だ。合気道をやってるって聞いたことがあるけど、喧嘩に強いのかは知らない。おれと同じ猪突猛進タイプなのに、妙に頭が回るから、おれと違って口八丁でものを解決していくことが多い。
おれはどうだろう?野球をやってるから、体は鍛えているつもりだ。喧嘩にも強いと思う。中学生にも勝ったことあるしな。でも、大の大人を止められるほど強くはないだろう。
「何やってるんですか?」
そこまで考えたとき、急に別のおっさんの声が乱入してきた。リンドウさんとおっさんが素早く振り返った。路地の前には、ひょろりと痩せたおっさんが立っていた。一見頼りなさげに見えるけど、おれにはわかる。この人は、逆らっちゃいけない部類の人だ。
「えっと…」
リンドウさんが初めて言い淀んだ。やっぱり。おれは自分の直感が正しかったことを確信した。
「休憩時間は五分前に終わったはずですよね?リンドウ、ウルツァイト」
穏やかな微笑みを浮かべながら、おっさんは言った。ウルツァイトって名前らしいおっさんも、居心地悪そうにしている。さっきまでリンドウさんと言い争ってたのが嘘みたいだ。
「すみません」
リンドウさんとウルツァイトさんが同時に謝った。
「それで、リンドウ、この子たちは誰ですか?誘拐してきたんじゃないでしょうね」
不思議そうにおっさんがたずねた。リンドウさんが慌てて首を振る。
「まさか、そんなことしませんよ。捜査に協力すると申し出てくれたので、ちょっと話をしていただけです。そうしたら、そこのウルツァイトと口論になってしまって」
「俺は、正論を言っただけです!一般人を巻き込むなんて間違ってます」
「落ち着きなさい、二人とも。見苦しいですよ」
柔和な声色のまま、おっさんは割って入った。途端に二人が黙り込む。おれは改めておっさんを見直した。風に吹き飛ばされてしまいそうな風体をしてるけど、その実はすごく強いんじゃないだろうか。
「あの、あなたは誰ですか?」
おずおずと紫苑がたずねた。おっさんがにこりと笑う。
「私は、彼らの上司のノグリです。あなたたちは?」
おれたちは手短にもう一度自己紹介をした。あと、おれたちが考えた、変装見破り作戦のことも。もちろん、異世界人ってのは省いて。でも、このノグリさんって人にかかれば、そのことも見透かされそうな気がする。狸みたいな人だと、おれはふと思った。
「なるほど。確かに子供を使うというのは良い案かもしれませんね」
しげしげとノグリさんが言う。この様子じゃ採用してくれそうだ。でも、ウルツァイトさんが不満げに反応した。
「捜査に子供を巻き込むっていうんですか?身の安全はどう保証するんですか?それに、足手まといになられたら困ります」
なんだよ、足手まといって。なんかいけすかない奴だ。でも、間違っちゃいないのが余計腹立つ。おれはノグリさんの様子を覗った。どうだろう?この意見を聞いた上でも賛成してくれるだろうか。
「それもそうですね。あなたの言うことも確かに正しい」
考え込んだ様子でノグリさんはつぶやいた。
「では、こうしましょう。彼らは宝石のある場所の前に置く。予告状に書かれた時刻になったら、彼らには外に出てもらう。そして、マスカレードが来るのを待つ。これなら最低限の身の安全は保証できるでしょう。それに、マスカレードはあまり手荒なことはしないですし。どうですか、ウルツァイト?」
「まぁ、それならいいですけど」
見るからに不承不承といった様子で、ウルツァイトさんがうなずいた。それを見届けたノグリさんは、こっちにまた向き直った。
「それで、なぜあなたたちはマスカレードの逮捕に協力したいんですか?マスカレードの手先だからという回答は、やめてくださいね」
「確かに、そういう考え方もあったんですね」
詩乃が驚いたようにつぶやいた。その様子を見て、ノグリさんはにこりと笑った。
「まぁ、マスカレードはいつも単独犯ですから、そういう心配はあまりないんですけどね。それで、目的は?」
え?じゃあ、こっちがどんな反応をするか気になって、かまをかけてきたのか。おちおち油断できない。おれは気をひきしめた。
「そんなたいしたものじゃないですよ。僕たち、マスカレードと警察、じゃなくって、〈海上特務隊〉の様子を近くで見たいだけです。変装見破り隊として」
壮が慌てて答えた。なるほどと、ノグリさんがうなずく。
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