98 / 129
第七章 地下世界
97.泣いてもいいから
しおりを挟む「なぁるほど、あの子の魔法で作られたトランプ兵か」
アガラはそう言い、腕を組んだ。そんな彼女を前、トランプ兵は「お初にお目にかかりますぅー!!」と必死に頭を下げている。
そりゃあ己を生み出した者の母親が登場したらこうなるのは仕方がないのかもしれない。
大変そうだ。
思いながら、リレイヌはトランプ兵を手に乗せたまま、「師匠」とアガラを呼んだ。アガラは「ん?」と口元に笑みを浮かべたまま小さな彼女を振り返る。
「……トランプたちは、もう元には戻らないですよね」
「ん? んー、そうだね。例え新たなトランプに新たな命を与えたとしても、ソレはもうキミの知る子達ではないと思うよ」
「そう、ですか……」
しょもんと、心做しか落ち込んだリレイヌに、アガラは微笑んだ。微笑んで、彼女は語るように言葉を紡ぐ。
「リレイヌ。命あるものはやがてその命尽きる運命がある。ソレはきっと、変えてはいけない事柄だ」
「……でも師匠」
「……その子も随分と無理をしているからね。そろそろ、解放してあげないと可哀想だと思うよ」
「……」
リレイヌはトランプ兵を見て、そっとアガラを見て、またトランプ兵へと目を向ける。
トランプ兵はそんなリレイヌをじっと振り返っており、それがどうしようもなく悲しくなって、彼女は静かに目を伏せた。事の成り行きを見守る面々が、不思議そうに顔を見合せ小首を傾げる。
「……わかりました」
暫くの沈黙の後、リレイヌが一言。
「うん。いい子だ」
笑うアガラが片手を振ると同時、トランプ兵はリレイヌの手の中でボッ!!、と音をたてて燃えだした。突然のソレに慌てて彼女の名を呼ぼうとした皆は、そこで、はたと動きを止める。
泣いていた。
小さな彼女が、静かに涙を零していた。
その涙を拭い取るように、トランプ兵は燃える炎の中から手を伸ばし、そっと彼女の涙を掬い取る。そして、トランプ兵は言うのだ。「笑ってください」と。
「お嬢様が笑っているところを見るのが、私は、私たちは大好きなのです。だから、笑ってください。これから先も、ずっと、ずっと……幸せに生きてください。私たちの大好きな、リレイヌお嬢様」
「……うん、ありがとう」
へにゃりと、下手くそな笑みを零した彼女は、されど耐えられなかったようだ。震える口元を引き結び、深く下を向いて燃え盛る炎から目を背ける。
トランプ兵はそんなリレイヌの手の上で、困ったように手を合わせながら、その視線を戸惑うリックたちへ。「お嬢様のことを頼みます」と告げるトランプ兵に、彼らは自ずと頷いてみせる。
「……ありがとう。お嬢様の大切な──大切に思われている皆様」
あの時駆け付けてくれて、あの部屋からお嬢様を連れ出してくれて、本当に、本当にありがとう。
告げるトランプ兵は、にこりとジョーカーの絵柄を笑顔にすると、そのままゴオッと燃え尽きた。小さな灰すらなく消え失せたトランプ兵の姿に、アガラはそっと目を伏せ、それから「睦月。アジェラ」とふたりの少年の名を口にする。
「薪を取りに行くから手伝ってくれ。あと水の補充もしないとだからそれも。リックはリレイヌとお留守番をお願いするね」
「え、あ……はい……」
「よし、じゃあ行くぞ二人とも」
そう言いズルズルと連れて行かれる睦月とアジェラ。
三人が消え去ったそこで、リックはそっと、俯くリレイヌに目を向けた。
泣いているのだろう。ポタポタと透明な雫が彼女の衣服を握る手に落ちているのが見え、リックは即座に視線を他所へ。向けてから、あーだこーだ悩んだ末に、そっと、小さく震える彼女に近づいた。
「あ、の……リレイヌ……?」
「大丈夫?」、と問うたそれ。慌てて口を塞ぎ、大丈夫なわけないだろ!!、と内心で吠えた彼を知ってか知らずか、リレイヌはそっと顔を上げてリックを見やる。そして、未だ多量の涙を溢れさせながら、彼女はひどく綺麗に笑って見せた。
「……だいじょうぶ」
「私はだいじょうぶだよ」、と告げられた言葉に、リックは思わず目を見開いた。そして、震えながら、彼はそのだいじょうぶを否定する。
「……だいじょうぶなわけないだろ……嘘つくなよ……」
「うそじゃないよ。私はほんとにだいじょうぶだから……」
「……だいじょうぶな奴は、そんなに泣かない」
「これは……なんでだろうね。なんか、止まらなくて……」
グシグシと、目元を拭う彼女の手を、リックは無言で捕まえた。それに不思議そうに顔を上げた彼女に手を伸ばし、彼は涙する彼女を抱き締める。
「……無理はしないでいい。ここに居るのは僕とキミだけだ。だから──」
「……だから、泣いてもいい」。告げたリックの言葉により、堰を切ったように溢れ出す涙。それを止めるすべを知らない彼女は、縋るように彼の胸元に顔を寄せ、口を噤む。
「リック……」
「うん」
「りっく……っ」
「……うん」
「こわい」と一言。そんな彼女を抱きしめるリックは、「そうだね」を一言。泣きじゃくるリレイヌの頭を、そっと、優しく撫でやった。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる