死にたがりの神様へ。

ヤヤ

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第七章 地下世界

104.幸せを孕む

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「――は? 地上へ戻れ?」

 呼び出されてすぐ、事情を説明された睦月は訝し気に片眉をひそめてみせた。

 あれから慌てた様子で洞窟内に飛び込んだリレイヌに案内され、アガラの元までやって来た睦月、リック、アジェラの三人。彼らはそこにいる魔導生物を不思議そうに見ながらこの場に呼ばれた説明を施される。

「地上では今争いが起きている。しかも、それはとてつもなく大規模な争いだ。戦争――言ってしまえばそう呼称される戦いにより、現在地上は大きな混乱に包まれている」

「だから地上へって? 冗談だろ。俺らに死にに行けって言いたいのかよ」

「いや、そうじゃない。この戦争を終わらせろ。私はキミたちにそう言いたいんだ」

 キョトンと目を瞬く皆。少し考え、アガラの言葉を脳内で咀嚼し飲み込んだ彼ら・彼女らは、少しして困ったような顔で「むり」を口にする。

「戦争だろ? それを俺らで終わらせろ? いやムリだろ。どう考えても無謀だろ」

「そ、そうですよ……睦月の言う通り、僕達だけではその……どうにもできませんよ……」

「なら、地上にいる友人家族をキミたちは見捨てるのかい?」

「そうは言っても……」

 ほとほと困り顔のアジェラが、怖々と手を擦る。そうして少し思案した彼は、「や、やっぱり無理ですっ」を口にした。アガラがそれに笑い、魔導生物がフンと鼻を鳴らしている。

「弱虫の餓鬼どもめ。なぜぼくがこんな奴らのお迎えをしなくちゃならないんだ……」

「はは、まあそう言うな。こう見えて、この子たちはとても強い。それこそ、キミが敵わない程にね」

「撤回してもらおう。こんな弱虫どもにぼくが負けるわけがない。ぼくはこれでもれっきとした兵器なんだ。そんじょそこらの輩には負けない」

「はいはい」

 魔導生物の発言を軽く流したアガラは、不満そうな顔をするソレを背に四人の前へ。移動し、微笑み、そのひとりひとりを励ますように肩を叩く。

「キミらなら大丈夫。私がそれを保証する」

「しかし、師匠……」

「……それに、キミたちのお友達は地上でキミたちを待っている。絶対に来てくれると、そう確信してね」

「お友達って……」

 顔を見合わせる皆。不安そうな色を浮かべるその表情を見回し、アガラはそっと近場にいたアジェラを抱きしめた。抱きしめられたアジェラは「ほひょ!?」と謎の声をあげながら硬直している。

「アジェラ。キミは素晴らしい才を持っている。キミにないのは自分を奮い立たせることができる勇気と自信だ。大丈夫。それを培えば、キミはきっとうまくやれる」

「……アガラ師匠」

 そっとアジェラを離したアガラは、隣にいたリックの前へ。ポンとその肩を叩き、柔く微笑むとアジェラと同様に彼のことを抱きしめる。

「ちょっ、ししょ……!」

「リックは努力家だ。その努力もひとつの才能。キミはきっと、誰よりも強くなれる力を秘めている。だからどうか諦めないでほしい。キミの未来は明るいものになると、私は信じているからね」

「…………」

 黙ったリック。眉尻を下げ上を向いた彼を離し、アガラは睦月の前へ。「俺はパス」と断る彼を問答無用で抱きしめると、わしわしとその頭を撫でつける。

「睦月はまずその口の悪さを直すべきだな。力はあるんだ。能力もある。あとはそれをいかに他者を助けるために使うか、それを考えるといい。教えることは教えた。後のことはキミ次第だ」

「……へい」

「うん。――さて、最後にリレイヌ」

 ピクリと震えた小さな少女に、アガラは眉を下げると、たった一言「ごめんね」を告げた。皆が自然とふたりを見やる中、彼ら・彼女らの師であるアガラはそっと少女の前へ。不安そうに手を握り合わせる彼女を抱きしめ、再度「ごめんね」を口にした。

「これから先の未来、キミにとっては酷なことがきっと多くある。けれど、どうかそれらを乗り越え、生きてくれ。生き続けてくれ。キミは誰よりも幸せになる。その権利をもった子だ。今が辛くとも、きっと未来は明るいから……きっと、明るいから、だから――」

 そこで言葉を止めたアガラは、戸惑うリレイヌを離すと数歩後退。鞘から刀を引き抜くと、そっと、静かにそれを構える。

「さあ、みんな。最後の修行だ」

 武器を持て。

「そして、私を乗り越えろ」

 言ったアガラに動揺が走る。「なぜですか」と、思わず問うた皆に、アガラは一つ息を吐き、遠くを見つめる。その瞳は、多くの幸せを孕み、揺れていた……。
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