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第八章 世界大戦
120.隊の帰還
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「――先日報告を受けたように、魔法使いの軍は敵国であるはずのべパイス帝国に進軍。バルキア共和国は降伏宣言をしたにも関わらず、まるで敵国を支援するように動きました。バルキア共和国に派遣された柊隊と、今回この戦争に初参加したリピトさんと睦月さんはその間に人質を解放。無事に本部へ送還しております」
「問題は帝国側ですね。デルヘム隊長より報告が飛ばされておりますが、捕えらえた人質にはかなり特殊な術がかかっているようで、コレの解析に手を焼いているそうです。戦況もかなり悪いと思われますが、今のところの新たな報告はありません。デルヘム隊長に幾度か通信を試していますが、応答はなし。最悪の事態も視野に入れておかねばならないかと」
「新たに軍を進軍させるにしても、バルキア共和国とべパイス帝国が手を組んだ様子が伺える今、そちらに兵力を割くのは早計かと。あまり兵力を偏らせると本部がやられかねません。それに、進軍させていた三軍すべてが敵国側に回っています。警戒するに越したことはないでしょう」
「ただ、今回デルヘム隊に同行しておりますアジェラとリレイヌを失うのは痛手かと思います。彼・彼女らは地下世界からこの地上に帰ってきた特殊な人間。聞いた話によればふたりは先に帰還したリック、睦月の二人よりも力も知恵もあるそうで、今後の戦況においては必要不可欠になりつつある存在です」
「現在戦いが起きている戦場の様子がわからない今、動くのは得策ではありませんが、それでも二つの特殊な力を失うデメリットは大きいかと」
「リオル様。総司令。どうなさいますか?」
伺うように問われる疑問。それを受けたリオルは難しい顔で手を組み合わせ、沈黙を貫いていた。その顔にいつもの陽気な笑みはない。ただ、戦場に赴かせた友人たちの心配を彼はしているのだ。つまり、投げ交わされる会話はあまり耳に入っていないということなのだが、それはまあ置いておこう。
幼い頃に出会い、それから共に過ごした時間。今でも記憶の中で大切に保管されいるそれらを思い返し、リオルの眉間には深い皺が刻まれる。
何事もなければそれでいい。
無事に帰ってきてくれれば、それで……。
グッと眉間の皺を増やしたリオルを横、この戦争で軍の総司令を勤めるウェロは静かに口元に手を当てた。何かを思案するようにじっとする彼に、会議室内がざわりざわりとざわめきだす。
「……ちなみにだが、デルヘム隊長が最後の報告でなんと言っていたか、わかる者はこの中にいないのか?」
白衣を着た、ひとりの男が片手をあげてざわめく空間に音を落とした。それに答えるように、資料を手にした困り顔の小さな女性が口を開く。
「はい。確か『ちょっと時間かかるかも~』と、言っていたような……」
「ふむ。なら案ずることはないな。アイツはバカだが頭は回る。余程のことがない限り、死に絶えることなどないだろう」
「しかし、連絡が通じないのですよ? さすがに何かあったと思うべきでは……」
「それこそ早計だな。リン・デルヘムという男は、銃火器を持たせれば最強。ヤツの右に出る者はそうそういないはずだ。それは諸君らもよく知っているだろう? それに加えて近接戦闘もあれの十八番だ。つまるところ、オレはヤツの死に顔など想像できない。最悪なことにな」
「で、でも……」
オロオロとする困り顔の女性。ふわっとした、短い銀色の髪をクルクルと指先に巻きながら、彼女は右往左往と目線をあちこちへ泳がせた。
心配。
ありありと浮かぶその不安の色に、女性の隣に立っていた柊が腰に手を当て笑みを零す。
「ほんと、杏はリンが好きね」
「ひょわ!? すすす、好きだなんてそんなそんな!! わたしはただ、リンちゃんの……しじみくんの心配をしているだけで!!」
「それは言わなくてもわかるわ」
苦笑した柊に、杏と呼ばれた女性は真っ赤な顔で下を向く。それを尻目、余裕が出てきたのだろう。リオルは顔をあげると、そっとその顔に笑みを浮かべた。
「確かに、ミャオセンセーの言う通り、リンちゃん隊長の実力は確かだ。加えてあちらにはアジェラもリレイヌもいる。呆気なく敗北、なんてことはしないだろう」
「むう、しかしだな……しじみくんは兎も角、あのひょろっとした青年とちんまいプリチーなかわい子ちゃんの実力は確かなのか? 両者、決して強そうには見えないが……」
筋肉でパツパツになった隊服をそのままに、少し色黒の、屈強で大柄な男は言った。かすかに血管の浮かぶムキムキの腕を組み合わせながら意見する彼に、杏が「そうですそうです!」と同意する。
「しじみくんだけでは少々荷が重いと思います!! リオル様!! 総司令!! 我々にデルヘム隊への増援の許可を出してください!!」
「いや、必要ないだろう」
「ええ!?」
ハッキリと告げたウェロに、「なぜですか!!」と杏は叫ぶ。今すぐにでも隊を動かしたいと思っている、そんな彼女に、彼は静かにこう告げた。
「あのチビがいるなら、問題ない」
「チビって……」
「リレイヌのこと? 総司令、彼女と面識が?」
「…………」
無言のウェロを、リオルは横目で見つめた。まるでおかしいと言いたげな彼の様子に気付いたのだろう。ウェロは即座に「ただの勘だ」と、そう告げた。各隊長がつい無言になる。
「おおよそ三軍。こっちは知らないうちに失ってんだ。これ以上の損失は正直痛い」
「ででで、でもぉ……」
「……話は終わりだ。お前らはとりあえず、内部に存在しているはずの裏切者探しに尽力をつくせ。後のことはなんとかなると信じてな」
「ぐぐぐぅ~……!」
杏が唸る。悔しそうに。
そんな彼女に、「残念だったな」とミャオと呼ばれた男は笑った。彼は軽く結った黒髪をそのままに、かけたメガネの奥でいじける杏をせせら笑っている。
「大丈夫よ、杏。リンは……しじみくんは軍内トップの実力者よ。負けて帰ってくることなんてあり得ないわ。だから、彼を信じて、私たちは総司令の指示通り裏切者を探しましょう」
「……うん……」
しょもんと頷く杏。
と、そこへ伝達係がノックもなしに飛び込んできた。「何事だ」と、問いかけるリオルに、伝達係は敬礼をひとつ。大きな声で報告を口にする。
「今し方、デルヘム隊が帰還いたしました! 人質たちも一緒です! 隊員に欠員はなく、人質も数名が怪我をした程度とのこと!」
「!」
リオルは立ち上がり、即座に会議室を飛び出した。そんな彼を追うように、他の隊長たちも慌てた様子で部屋を出ていく。
長い通路を走り、時折歩いている者にぶつかりながら、本部の出入り口まで駆けつけたリオル。彼は明るく笑うリンを視認すると、その背に抱えられた意識のない様子のリレイヌを見てサッと顔から血の気を引かせた。駆けつけてきた各隊長たちが卒倒しかけた彼を慌てて支える。
「ど、どど、なな、なにがあった!?」
「お~、珍しく旦那が狼狽えてる……アジェラくん、説明」
「あ、はい!」と前に出たアジェラ。怪我もなく元気そうな彼は、震えるリオルに苦笑しつつ現状を報告する。
「帰還が遅くなり申し訳ございません。少しその……催眠の解除に時間がかかりまして……」
「さ、催眠の解除……?」
「はい。人質たちにかけられていた術は催眠でした。しかも、とても古い時代の古代魔法を利用したモノだったようです。その魔法を分析・解除するのに時間がかかってしまいました。リレイヌは三日三晩、寝ずに魔法を扱っていたものですから、終わった途端倒れるように眠っちゃいまして……」
「……眠ってるのか」
「はい。寝てます」
頷くアジェラ。リオルはそっとリンに近づくと、恐る恐るとその背に抱えられた友人の顔を覗き込む。
友人は……リレイヌは、確かに眠っているだけのようだった。微かに聞こえる小さな寝息に、リオルは思わずと深い息を吐き出し安堵した。リンがそれを笑い、アジェラが困ったような顔をする。
「……生きて、いるんだな?」
一応の問いかけ。
「皆ね」
答えたリンに、リオルはくしゃりと顔を歪めた。そして、「よく戻った」と一言、震える声を紡ぎだす。
「アジェラも無事で、なによりだ」
「はい。ありがとうございます。……ところで睦月たちは?」
「ああ、アイツらなら呑気に飯食ってると思う。会いに行くか?」
「そうですね。挨拶だけはしておきます」
へへ、と笑ったアジェラにリオルは笑んだ。心底安心したような彼を遠くから見つめながら、皆の背後、ウェロは小さく目を伏せる。
「……創造主、か」
ぽつりと零し、踵を返す。そのまま歩き去って行くウェロを、振り返った柊だけが、不思議そうに見つめていた。
「問題は帝国側ですね。デルヘム隊長より報告が飛ばされておりますが、捕えらえた人質にはかなり特殊な術がかかっているようで、コレの解析に手を焼いているそうです。戦況もかなり悪いと思われますが、今のところの新たな報告はありません。デルヘム隊長に幾度か通信を試していますが、応答はなし。最悪の事態も視野に入れておかねばならないかと」
「新たに軍を進軍させるにしても、バルキア共和国とべパイス帝国が手を組んだ様子が伺える今、そちらに兵力を割くのは早計かと。あまり兵力を偏らせると本部がやられかねません。それに、進軍させていた三軍すべてが敵国側に回っています。警戒するに越したことはないでしょう」
「ただ、今回デルヘム隊に同行しておりますアジェラとリレイヌを失うのは痛手かと思います。彼・彼女らは地下世界からこの地上に帰ってきた特殊な人間。聞いた話によればふたりは先に帰還したリック、睦月の二人よりも力も知恵もあるそうで、今後の戦況においては必要不可欠になりつつある存在です」
「現在戦いが起きている戦場の様子がわからない今、動くのは得策ではありませんが、それでも二つの特殊な力を失うデメリットは大きいかと」
「リオル様。総司令。どうなさいますか?」
伺うように問われる疑問。それを受けたリオルは難しい顔で手を組み合わせ、沈黙を貫いていた。その顔にいつもの陽気な笑みはない。ただ、戦場に赴かせた友人たちの心配を彼はしているのだ。つまり、投げ交わされる会話はあまり耳に入っていないということなのだが、それはまあ置いておこう。
幼い頃に出会い、それから共に過ごした時間。今でも記憶の中で大切に保管されいるそれらを思い返し、リオルの眉間には深い皺が刻まれる。
何事もなければそれでいい。
無事に帰ってきてくれれば、それで……。
グッと眉間の皺を増やしたリオルを横、この戦争で軍の総司令を勤めるウェロは静かに口元に手を当てた。何かを思案するようにじっとする彼に、会議室内がざわりざわりとざわめきだす。
「……ちなみにだが、デルヘム隊長が最後の報告でなんと言っていたか、わかる者はこの中にいないのか?」
白衣を着た、ひとりの男が片手をあげてざわめく空間に音を落とした。それに答えるように、資料を手にした困り顔の小さな女性が口を開く。
「はい。確か『ちょっと時間かかるかも~』と、言っていたような……」
「ふむ。なら案ずることはないな。アイツはバカだが頭は回る。余程のことがない限り、死に絶えることなどないだろう」
「しかし、連絡が通じないのですよ? さすがに何かあったと思うべきでは……」
「それこそ早計だな。リン・デルヘムという男は、銃火器を持たせれば最強。ヤツの右に出る者はそうそういないはずだ。それは諸君らもよく知っているだろう? それに加えて近接戦闘もあれの十八番だ。つまるところ、オレはヤツの死に顔など想像できない。最悪なことにな」
「で、でも……」
オロオロとする困り顔の女性。ふわっとした、短い銀色の髪をクルクルと指先に巻きながら、彼女は右往左往と目線をあちこちへ泳がせた。
心配。
ありありと浮かぶその不安の色に、女性の隣に立っていた柊が腰に手を当て笑みを零す。
「ほんと、杏はリンが好きね」
「ひょわ!? すすす、好きだなんてそんなそんな!! わたしはただ、リンちゃんの……しじみくんの心配をしているだけで!!」
「それは言わなくてもわかるわ」
苦笑した柊に、杏と呼ばれた女性は真っ赤な顔で下を向く。それを尻目、余裕が出てきたのだろう。リオルは顔をあげると、そっとその顔に笑みを浮かべた。
「確かに、ミャオセンセーの言う通り、リンちゃん隊長の実力は確かだ。加えてあちらにはアジェラもリレイヌもいる。呆気なく敗北、なんてことはしないだろう」
「むう、しかしだな……しじみくんは兎も角、あのひょろっとした青年とちんまいプリチーなかわい子ちゃんの実力は確かなのか? 両者、決して強そうには見えないが……」
筋肉でパツパツになった隊服をそのままに、少し色黒の、屈強で大柄な男は言った。かすかに血管の浮かぶムキムキの腕を組み合わせながら意見する彼に、杏が「そうですそうです!」と同意する。
「しじみくんだけでは少々荷が重いと思います!! リオル様!! 総司令!! 我々にデルヘム隊への増援の許可を出してください!!」
「いや、必要ないだろう」
「ええ!?」
ハッキリと告げたウェロに、「なぜですか!!」と杏は叫ぶ。今すぐにでも隊を動かしたいと思っている、そんな彼女に、彼は静かにこう告げた。
「あのチビがいるなら、問題ない」
「チビって……」
「リレイヌのこと? 総司令、彼女と面識が?」
「…………」
無言のウェロを、リオルは横目で見つめた。まるでおかしいと言いたげな彼の様子に気付いたのだろう。ウェロは即座に「ただの勘だ」と、そう告げた。各隊長がつい無言になる。
「おおよそ三軍。こっちは知らないうちに失ってんだ。これ以上の損失は正直痛い」
「ででで、でもぉ……」
「……話は終わりだ。お前らはとりあえず、内部に存在しているはずの裏切者探しに尽力をつくせ。後のことはなんとかなると信じてな」
「ぐぐぐぅ~……!」
杏が唸る。悔しそうに。
そんな彼女に、「残念だったな」とミャオと呼ばれた男は笑った。彼は軽く結った黒髪をそのままに、かけたメガネの奥でいじける杏をせせら笑っている。
「大丈夫よ、杏。リンは……しじみくんは軍内トップの実力者よ。負けて帰ってくることなんてあり得ないわ。だから、彼を信じて、私たちは総司令の指示通り裏切者を探しましょう」
「……うん……」
しょもんと頷く杏。
と、そこへ伝達係がノックもなしに飛び込んできた。「何事だ」と、問いかけるリオルに、伝達係は敬礼をひとつ。大きな声で報告を口にする。
「今し方、デルヘム隊が帰還いたしました! 人質たちも一緒です! 隊員に欠員はなく、人質も数名が怪我をした程度とのこと!」
「!」
リオルは立ち上がり、即座に会議室を飛び出した。そんな彼を追うように、他の隊長たちも慌てた様子で部屋を出ていく。
長い通路を走り、時折歩いている者にぶつかりながら、本部の出入り口まで駆けつけたリオル。彼は明るく笑うリンを視認すると、その背に抱えられた意識のない様子のリレイヌを見てサッと顔から血の気を引かせた。駆けつけてきた各隊長たちが卒倒しかけた彼を慌てて支える。
「ど、どど、なな、なにがあった!?」
「お~、珍しく旦那が狼狽えてる……アジェラくん、説明」
「あ、はい!」と前に出たアジェラ。怪我もなく元気そうな彼は、震えるリオルに苦笑しつつ現状を報告する。
「帰還が遅くなり申し訳ございません。少しその……催眠の解除に時間がかかりまして……」
「さ、催眠の解除……?」
「はい。人質たちにかけられていた術は催眠でした。しかも、とても古い時代の古代魔法を利用したモノだったようです。その魔法を分析・解除するのに時間がかかってしまいました。リレイヌは三日三晩、寝ずに魔法を扱っていたものですから、終わった途端倒れるように眠っちゃいまして……」
「……眠ってるのか」
「はい。寝てます」
頷くアジェラ。リオルはそっとリンに近づくと、恐る恐るとその背に抱えられた友人の顔を覗き込む。
友人は……リレイヌは、確かに眠っているだけのようだった。微かに聞こえる小さな寝息に、リオルは思わずと深い息を吐き出し安堵した。リンがそれを笑い、アジェラが困ったような顔をする。
「……生きて、いるんだな?」
一応の問いかけ。
「皆ね」
答えたリンに、リオルはくしゃりと顔を歪めた。そして、「よく戻った」と一言、震える声を紡ぎだす。
「アジェラも無事で、なによりだ」
「はい。ありがとうございます。……ところで睦月たちは?」
「ああ、アイツらなら呑気に飯食ってると思う。会いに行くか?」
「そうですね。挨拶だけはしておきます」
へへ、と笑ったアジェラにリオルは笑んだ。心底安心したような彼を遠くから見つめながら、皆の背後、ウェロは小さく目を伏せる。
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