死にたがりの神様へ。

ヤヤ

文字の大きさ
122 / 129
第八章 世界大戦

121.重なる影

しおりを挟む
  「なー、リレイヌ。お前、地上に戻れたら何したい?」

 地下世界の、その隅っこ。ぼんやりと空に浮かぶ目を見つめていると、ふと問いかけられた疑問。
 疑問を口にした張本人である睦月を見れば、その場に寝転がった状態の彼はリレイヌと同じように上空を見つめていた。

「何したい、って……」

「やりたいことあんだろ? 例えばほら、あー……美味いもん食いたいとか」

「まあ、それは確かにあるかもだけど……」

 そう言う睦月は?、と問いかけるリレイヌに、彼はチラリと視線を向けて言った。

「お前と結婚したい」

「エッ」

「ドレス似合うと思うんだよなぁ~、ウエディングのやつ。あ、でも和装も似合うかもな。でもドレスもやっぱ捨てがたいよなぁ……うーん……どっちがいい?」

 真剣に訊ねてくる睦月をポカンと見つめ、リレイヌは暫く停止。していたかと思えば、ジワジワと顔を赤くしながら「な、何言ってるの!?」と声を荒らげる。
 睦月は「にしし」と笑った。そして、「本音だから」と、そう告げる。

「前言ったろ? リレイヌのことが好きだ、って。だから、地上に戻れる日が来たら、リオルのやつ働かせてデッケェ結婚式挙げたいなって思ってるわけ」

「そ、それは、でも……」

「俺の事嫌い?」

「そ! んなことはないけども……っ」

「んじゃ好き?」

「すっ!!??」

 真っ赤になって狼狽えるリレイヌに、睦月は優しく笑って「俺はリレイヌのことすんごい好き」と無邪気に言った。その明るい笑みに魅せられるように、リレイヌは大きく見開いた瞳をゆっくりと下げていく。

「……わ、私は、でも……」

「……ゆっくりで良い。俺、待つの得意だし」

「……」

 口を閉ざして手を握る。そうして俯く彼女の髪を、衣服を、どこからともなく吹いてきた風が静かに揺らした。それはまるで彼女の背を後押しするようで、勇気づけるようで、彼女はゆっくりと口を開き、そして──……


 ◇◇◇


「……おっと、目が覚めたか?」

 うすらと開いた視界の中、ぼやけたそれに写り込んだ茶色と金色。うまく焦点が合わず思わず目元を細めれば、「なにその顔」と誰かは言った。心底おかしいと言いたげなその声は、よく耳に馴染んだ友人の声だ。

「リック……?」

 リレイヌは静かに友人を呼ぶ。それに、友人・リックは「うん」と頷くと、寝ぼけ眼のリレイヌの長い髪を、一房そっと手に取った。

「聞いたよ。三日三晩寝ずに魔法を使い続けたんだって? キミは全く、無理をするな……」

「……まほう……?」

「おっと、まだ寝惚けてるのか?」

 ふわふわと夢見心地の彼女。リックはそっと彼女の髪から手を離すと、ぼんやりしている彼女の頬にそっと触れ、柔く微笑む。

「リレイヌ」

「……うん……?」

「……キミはまだ、死にたいと思ってる?」

「……」

 リレイヌはぼんやりとしながら、「うん……」とひとつ、リックの言葉を肯定した。リックはそれに「そうか」と頷くと、彼女の頬から手を離し、掛けたままのベッド縁にて前を見据える。

「……リンちゃん隊長と、アジェラから聞いた。キミが、死にに行こうとしていたと。敵にわざと隙を見せていたと」

「……そう、だね」

「……褒められることではないのは、わかってるな?」

「……」

 無言のリレイヌが口を開けて、すぐにそれを閉ざした。そうして目を逸らすように横を向いた彼女に、リックは目を細めて言う。「まるで、死にたがりの神様だな」、と。

「……死にたがりの?」

「死にたがりの神様。昔、子供の頃に読んだ本の中にそんなタイトルの話があった。主人公は小さな神で、神であるが故に死ねないその身が朽ちることを望んでいた、と……」

「……子供が読む内容の本ではないね」

「それは俺も思う」

 くすりと笑って、リックは天井を見上げた。懐かしむように瞳を細める彼を、リレイヌはじっと見つめる。

「……好きだったんだ。その話。死ねない神様と、そんな神様に恋をしたヒトの話。……ヒトは輪廻転生を繰り返しながらも絶対に神様に出会い、そして神様と恋をするんだ。そしてやがて、転生を繰り返していたヒトは神へと昇格。神様と共に、永遠を生きることになる」

「……壮大な話だね」

「まあ確かに」

 頷くリックは、上体を起こすリレイヌに手を貸してから、そっと彼女の唇に触れた。顔を上げた彼女の、透き通るように美しい青色の瞳が、そんなリックの姿を不思議そうに映している。

「……リック? どうし──」

 紡がれる言葉を閉じ込めるように、塞がれる唇。重なる影と影が、少ししてゆっくりと離れていくのを、知る者は誰もいない。

 リレイヌが驚いたように目を見開くのを視界、リックは悲しげに笑った。そして、そっと、名残惜しそうに彼女から手を離して立ち上がる。

「好きなんだろ?」

「え……?」

「睦月のこと。地下世界にいた頃から、ずっと目で追ってたの知ってる。あと寝言で三回くらい呼んでた」

「エッ!?」

「お、図星だな?」

 カラカラと笑うリックに、リレイヌは赤くなる顔をそのままに「べ、別にそんなんじゃ……!」と言い訳をひとつ。リックはそれにそっと目を伏せると、すぐに顔を上げて綺麗に微笑む。

「応援してる」

「な! なに言って……」

「……皆を呼んで来るよ」

 言って、逃げるように部屋を出たリック。そんな彼の背を見送り、リレイヌは困ったように眉尻を下げ、下を向く。

「応援する、って……」

 全然そんな顔には見えなかったけど、とリレイヌは指先を口元へ。唇に触れたあたたかさを惜しむように、触れたそこをそっと撫でる。

「……変なの」

 ぽつりと一言。
 紡いだリレイヌはゆっくりと息を吐き出し視線を窓の外へ。広がる青い空を見つめながら、小さく瞼を伏せていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...