死にたがりの神様へ。

ヤヤ

文字の大きさ
14 / 129
第一章 名家の子

13.老人の優しい語り

しおりを挟む
 


「いやぁ~、すまんすまん。ちょっと趣味の方に興奮してしまってのう~」

 そう言い笑った白ひげの老人に、リオルも睦月もシラッとした目を向けた。そんな二人の真ん中で、リレイヌはパチパチと不思議そうに目を瞬いている。

 あの後、部屋の外で待っていたリレイヌと睦月のふたりの耳に、劈くような悲鳴が聞こえた、なんだ!?、と思ったのもつかの間。そろりと扉を開けようとした睦月を嘲笑うように開かれたそこから、笑顔のリオルが現れる。彼は「いいよ、ふたりとも」と告げるとそのまま中へ。ふたりは顔を見合せてからそっとその後を追い、部屋に入室。今に至る。

 改めて向き合うことかなった老人は、確かに95にしてはまだまだパワフルそうだ。さっきの件も含め、だいぶ、実年齢より若い気がする。見た目も、そしてやっていることも。
 じいっと己を見つめる小さな少女に、老人は「そげんに見つめられたら恥ずかしいのう~」と照れくさそうに身をくねらせた。どうやってそんな動きをしているのか、波打つように揺れる彼の腰元に、リレイヌはキョトンとしている。

「しっかしほんっとにかわいらしいおにゃのこじゃ。ほれ、飴ちゃんあげようかの。何がいいかね。サイダー、コーラ、メロンジュース、レモンスカッシュ……」

「どうして炭酸オンリー???」

「わしが好きじゃから」

 しれっと告げた老人の手から、リレイヌはレモンスカッシュの飴を受け取った。透明な包みの中で黄色く輝く丸いそれは、まるで小さな宝石のよう。

「おお」、と飴を見て感動するリレイヌに笑い、老人は「よっこらせ」と椅子へ。腰掛けたそれに背中を預けると、「しかしよう似とる」と口にする。

「ほんに、この子はシアナちゃんソックリじゃ」

「「!!!」」

 驚く睦月とリオル。老人はそんなふたりを前、「昔の話じゃ」と、記憶を辿るように上を向く。

「あれはまだ、シェレイザ家が栄え始める前のことかの。その時の代の龍神……つまりワシのじっ様が助けたお方が、シアナちゃんの母にあたる方じゃった。シアナちゃんはそれはもうえらいべっぴんさんな女の子でな。わしは思わず、初対面で彼女に魅入ってしまったよ。それはきっと、彼女を選び、選ばれたヘリートも同様じゃろう」

「……」

「ふたりの婚約を反対するもんはおらなんだ。じゃからわしらはあの子らを助けるため、森の奥に家を建てたんじゃ。家族で暮らせる小さな家を。幸せが溢れるはずだったそこを、な」

「……どうして?」

「誰よりもあの子たちの幸せを願ったからじゃよ」

 優しい声色で答えた老人に、リレイヌはそっと目を伏せた。手の中の飴をキュッと握った彼女に、「良いかい、お嬢ちゃん」と老人は告げる。

「誰しも幸せになる権利がある。シアナちゃんにも、ヘリートにも、わしらにも、それからお嬢ちゃんにも。ヒトの幸せを奪うことは決してしてはならんのじゃ」

「……でも私は」

「お主のようなかわいらしいお嬢さんが、危ないと、危険であると、わしは思わん。それに、お主は賢そうじゃ。きっと、良い方向に、世界の流れを持っていけるはず」

 なによりも恐れなければいけないのは、己が危ういと信じ込むその心。

「その心に打ち勝つには、まず多くの知識が必要じゃ。そして仲間もな。幸いにも、この屋敷にはたくさんの書籍が溢れておる」

 学びなさい。そして、それを糧としなさい。

「大丈夫。お主は決して、危うくなどありはせん」

 にこりと微笑んだ老人に、小さいながらも、彼女は頷く。恐る恐るの動作のそれに笑う老人は、「しかしほんにかわいいのう~」と上から下まで、舐めるように彼女を見る。

「今夜のオカズは決まりじゃな」

「おいヤメレ」

 つっこむ睦月に、「老いぼれのささやかな楽しみを奪うでない」と告げた老人。睨み合うふたりに、リオルは嘆息してから、隣の少女を一瞥。何かを決意するようなその横顔に、安心したように微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...