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第三章 強さを求めて
45.試される力
しおりを挟む「さぁて、いっちょやってやりますか!」
そう言い腰に手を当てたウンディーネ。その周り、柱のように地中から吹き出す水に、アジェラが「し、しぬ!」と嘆きを発す。青ざめ震える彼を横、現状打破を考えるリックが冷や汗をかきながら頭を回した。しかし、いい案はひとつも浮かんでこない。
当然だ。相手は精霊。こっちはただの人間の子供。字面だけでも負けは見えているし自分だって勝てる自信は百パーない。けれど、ここまで来たからには、どうにかしないといけないだろう。
リックは軽く息を吐き、懐にそっと手を触れた。万が一の時の為にと持たされた拳銃が一丁。重くそこに存在している。
「(使わないと決めていたが……仕方ないか)」
思考し、意を決してソレを抜こうとした時だ。
まるで散歩でもするように、リックたちより前に歩み出たリレイヌ。彼女は撫でるように片手を上げると、握ったそれをゆっくりと開いていく。
「あら? 何かする気? かわい子ちゃん」
ウンディーネが笑った。余裕のそれに、目を瞬いたリレイヌは、にこりと微笑み、そして──……
「避けることをオススメします」
告げた、小さくも幼い彼女。なにを、と問い返そうとした瞬間、凄まじい量の魔力が彼女の突き出した手のひらに収束していくのを、ウンディーネは目にしてしまう。
空気が揺れた。地面が震えた。耳鳴りがし始め。そして、時が止まったように動けなくなる自分自身。
あまりにも、そう……それは、あまりにも巨大な力だった……。
収束した力が、膨大な出力と共に放出される。咄嗟に水の護りを展開したウンディーネであるが、その護りも容易く破壊され、彼女は巨大な力に為す術なく吹き飛ばさる。
悲鳴すらあげる間もなく、力に飲み込まれたウンディーネが目を回して倒れるのを前、リレイヌはそっと手を下ろした。そして、不思議そうに目を瞬く。
「あれ? 倒れてる? おかしいな……加減したのに……」
にぎにぎと、力を放出したばかりの手を握り首を傾げるリレイヌ。そんな強かった?、と不思議がいっぱいの彼女に、老人──フェルシスは耐え切れないと言いたげに肩を震わせ、そして笑った。腹の底から声を上げる彼に、突然の事態に硬直していた者たちはビクリと肩を跳ねさせ意識を現実に引き戻す。
「くっ、くくっ……いや、素晴らしい。実に見事だ」
笑って、息を吐き、そうして安堵したフェルシス。彼はキョトンとするリレイヌにゆっくりとした足取りで近づくと、そっと彼女の前で膝を折る。
「我らが愛しきセラフィーユ」
紡がれたそれに、倣うように他の精霊たちも頭を垂れた。
「我らは我らの力を持ってしてあなた様に仕えます。どうぞこの身、この力、余すことなくお使いください。我らの全てはあなた様のもの。あなた様の行く先に、我らも着いていく所存」
パチン、パチンと音がして、精霊たちが光となる。色とりどりのそれらはぐるりとその場を回ると、やがてひとつに収束し、ソレは音もなく驚くリレイヌの中へと入っていく。
バチン!
なにかが切れるような音がした。
それと同時に、ふらりとリレイヌが倒れ込む。
「リレ、……っ!?」
アジェラが声を上げたのと、咄嗟に駆け出したリックが彼女を支えたのはほぼ同時だった。
すんでのところで抱きとめた小さな彼女を見下ろし、リックは慌てたようにその名を呼ぶ。呼ばれた彼女は苦しげに眉を寄せ、小さな呻きを発してみせた。どこか痛むのか、ひどく辛そうなその姿に、リックは急ぎシアナを呼ぶ。
「シアナ様! リレイヌがっ!」
「ええ、そうね」
「そうねって……心配ではないのですかっ!? こんなにも、辛そうなのにっ!」
「……そうね」
ゆっくりと歩んだシアナが、睨むリックに支えられるリレイヌに近づき、その頬をそっと撫でる。愛おしそうに、悲しそうに、それでいて、祝福するように。
「……リレイヌ」
どうか、諦めないで。
告げたシアナに、リレイヌは反応するように僅かに目を開く。だが、耐え切れなかったらしい。彼女は少しだけ己の母の姿を見たあと、そっと、眠るように瞼を閉ざしたのだった……。
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